第8話 闇コロシアム
[さぁ!皆様お待ちかね、コロシアムの開催だぁー!!]
司会者の言葉に、会場中の人がワァァ!と歓声を上げる。
お偉い様方御用達のホテル、インペリアルガルドの地下から入ったこの会場。
広々とした楕円形のアリーナがあり、それを高くなった観客席が囲っている。
まさか地下にここまで広い空間が作られていたなんて。
ビックリだ。
「見やすい席に座れて良かったっすねー」
「ここならおじいさんもよく見えるわ」
俺達は広場を見やすい最前列に座っている。
着飾った女性達が「ここどうぞー」と譲ってくれたのだ。
これがイケメンパワーってやつか。
後ろの席から目をキラキラさせて見てるの怖いから俺は絶対シュルツさんから離れないぞ。
[さあさあ、それでは選手達に入場していただきましょう!開門!!]
司会の人の言葉に合わせて、アリーナ横の大きな扉が開かれる。
そこから、強そうな人達が次々と現れた。
「見ろ!『鎖鎌のザキ』だ!」
「俺はアイツに賭けたぜ!アイツの殺し方はエグいからなぁ〜。今回も楽しみだ」
そう観客が言っているらしき人物は、モヒカンでヒョロガリで大きな肩パッドを着けた男だ。
舌舐めずりして、いかにもってくらい悪そうな顔してる。
キャラ立ってるなー。
「今回は『砂漠姫ロクサーヌ』が居るから最高だよな!」
「いっつもむさ苦しいからラッキーだぜ!」
「あの色気…唆られますなぁ。いくら貢いでも後悔は無い」
こちらもわかりやすい。
そもそも女性があの人しかいない。
褐色の肌で口元はベールで覆っていて、上半身は胸元だけ布で隠し下半身はダボっとしたズボンを履いている。
武器は…フランベルジュの二刀か。
コロシアムのお色気担当なのかな?
露出多いと怪我しそうで怖い。
「今回は彼が勝つんじゃないかい?『骨砕きのドラン』」
「私も彼に賭けましたぞ!みんなが武器を持ってる中、拳一つで戦う漢の中の漢!」
武器を持ってないっていうと…あれか!
あのおかっぱデブか!!
拳より髪型と体型の方が気になる!!
道着を着てて格闘家なんだろうけど…やっぱおかっぱデブが強い。
と、入り口から大きな影が見えた途端に会場が今まで以上に沸いた。
男女共に大きな歓声を上げる。
「きたきたきたー!!1番人気!!!」
「キャー!『断頭台のガル』様よ!!」
「あの大きな刀を振り回せるって素敵!!きっと兜の下も格好いいわよ!!」
「今3連覇中だろ?今回も優勝間違いなしだな!!」
「オレもアイツに全財産賭けたぜ!」
「くぅー!あのデカい体に全身鎧が痺れるぜぇ!!」
おおお!
盛り上がり方が頭一つ抜けてる!
どうやらあの人が優勝候補っぽいな。
3メートルくらいある巨体に、全身を覆う甲冑。
その本人をも超える長さの野太刀を抱え、肩にはハゲた爺さんを乗せている。
?
「?」
「?」
「?」
会場中の全員が、瞬間的に思考回路停止した。
なんか居る。
因みに気付いた断頭台のガルもフリーズしていた。
そりゃそうだよね。
「な、なんだこのジジイ!いつの間に俺の肩に!!」
我に帰ったガルが巨大な野太刀をブン!と振るうが、それを躱すように肩から飛び降りるリュデルさん。
「いやぁ、歳を取ると移動が大変でのう。良い座り心地じゃったぞ」
「人を乗り物代わりにするんじゃねぇ!!」
いやリュデルさん、いきなり1番人気に喧嘩売るってどういう了見ですか。
観客達も訳のわからない爺さんの登場にポカーンとしてるじゃん。
「舐めた真似を…!おい、爺さん。ありがたく思え?普段は雑魚共の相手なんてしないんだが…お前は俺が直々に殺してやろう」
奇しくも彼のポリシーは守られている。
一度はポカンとしたものの、観客達も状況を飲み込んだようだ。
「あーあ。あの爺さん死んだな」
「遊ばれて追い回される所も見たかったけど…瞬殺でしょうな」
「ガル様にふざけた事した罰よ!やっちゃえやっちゃえ!!」
そうして観客達から「こーろーせ!こーろーせ!」という胸糞悪いコールが響き始める。
俺この大会嫌い。
[どうやら盛り上がって参りましたね!それでは試合を始めます!生き残り殺戮コロシアム、スタート!!]
会場のボルテージが上がったのを見計らって試合開始を宣言する司会者。
それと同時に、断頭台のガルがリュデルさんを斬りにかかった。
「さぁジジイ、俺にちょっかい出した事を後悔して死ね!!」
叫びながら大きな野太刀を振り上げ力を溜める。
あんな刀の攻撃を食らったら真っ二つになってもおかしくない。
まぁ、リュデルさんが食らうわけないけど。
「さて、先に掃除するかのぅ」
ん?
断頭台のガルを視界にすら入れてないぞ。
何する気だろう?
俺は分からずに首を傾げたが、横の3人は直ぐに理解した様子を見せる。
「成る程、懸命な判断だな」
「流石じいちゃんっすね」
「おじいさん素敵だわ」
え!?
分かってないの俺だけ!?
「え、どういう事ですか?」
「この乱戦で盛り上げ役は殺されるからね。死人が出ないように先にその人達をリタイヤさせるんだろう」
なるほど!
それで掃除!
納得して再び視線を戻す。
断頭台のガルが野太刀を振り下ろしたと同時に、リュデルさんは剣を鞘から抜く事なく石の床を蹴った。
そしてアリーナ上に居るヤラレ役と思しき人達を全員ペシペシ叩いて元の場所に戻る。
――ドゴォ!!
次の瞬間、ヤラレ役の人達は全員観客席下の壁にめり込んだ。
え、生きてる?
因みに傍目に見ると、断頭台のガルの刀が地面を叩いた瞬間に全員吹っ飛んだように見えた。
「??」
「??」
「??」
あまりの衝撃的な光景に、理解が追いつかずキョトンする観客。
すると、VIP席に座っている主催者っぽい感じのオジさんが声を張り上げた。
「おいガル!やり過ぎだ!!一気にふっ飛ばしてどうする!!」
「??」
ガルもキョトンとしてる。
「あ、アイツ…いつの間にあんな力を…!?」
「き、聞いてないわよ…!」
残っているメイン選手達は動揺を見せた。
そしてとんでもない技を披露したと思った観客達が沸き始める。
「す、スゲェぞガルー!!」
「キャー!!ガル様ぁぁあ!!」
会場中から歓声が上がり、「ガール!ガール!」とガルコールまで始まった。
そんな自分への歓声に囲まれ、顔を上げるガル。
「どうやら…真の力に目覚めちまったようだな」
とんだ勘違いだよ。
「チィ!今回オレ様は優勝狙ってるんだよ!!真の力だか何だか知らねぇが、武器を失っちまえば無力だろう!」
そう叫び、鎖鎌のザキが飛び上がった。
「武器狩りぃ!!」
と鎖鎌をガルの野太刀目掛けて投げる。
だが、ガルはそれを狙われた野太刀で簡単に弾いた。
「そんなモノ今の俺に効くかぁ!!」
なんてこった。
目覚めたと勘違いしてるガルは実力120%の力が出てる。
「マズいわね…!こうなったら奥の手よ!これを武器に塗って…」
と、今度は砂漠姫ロクサーヌが小さな袋を取り出した。
今の言葉から推測するに、もしかして毒?
あ、リュデルさんが音速で盗んだ!
「え!?あれ!?ちょっとザキ!アンタ私の毒盗んだわね!?」
「はぁ!?知らねーよ!!」
突然目の前から消えたが故にあらぬ疑いが掛けられてる。
――にゅっ
「シュルツや」
うわぁビックリした!!
リュデルさん目の前に顔だけ出さないで!!
「こいつは危ない毒かの?」
「ちょっと待ってください。蘇生術式 アナリュシス」
すごい、シュルツさん全く動じてない。
「これは神経毒ですね。大丈夫です、一時的に動けなくなるだけですよ」
「そうかそうか。さすが頼りになるのぅ」
そう言いながら、再びアリーナに戻っていく。
規格外の動き過ぎて、俺達以外リュデルさんがここに来たの気付いてないよ。
「ガハハハ!今回の優勝も俺が貰ったぜぇ!!」
そんなやり取りをしている間に、アリーナはガルの独壇場になっていた。
ガルに賭けているであろう観客達も大喜びで歓声を上げている。
他の選手3人は防戦一方だ。
「くう、近づく事も出来ぬ…!」
悔しそうに言うおかっぱデ…骨砕きのドラン。
素手で近付くのは確かに自殺行為だ。
その横で、再び鎖鎌のザキが動いた。
「こうなりゃもう一度だ!武器狩りぃ!!」
諦めずにもう一度鎖鎌を野太刀に向かって投げる。
「効かんと言ってるだろう!」
とアッサリ弾くガル。
ん!?
リュデルさんがさり気なく鎖鎌の軌道を変えた!
そのままガルの兜に引っ掛けてる!
――スポン!
「あ!!」
次の瞬間、兜が脱げてガルの顔が露わになった。
そこから現れたのは…
イケメンでもなく、強面でもなく、ブサイクでもない、なんかすごい…のっぺりした顔。
途端に、シンと静まりかえる会場。
そして震える女性達が一斉に叫び出した。
「いやぁぁあ!嘘でしょぅ!?」
「イケメンだと思ってたのに!テメェ金返せ!!」
「最悪!!あんな薄い顔してたの!?消えろお前!!」
えぇ…このお姉様方こわすぎる。
幻想を壊されるとこうなるの?
そして会場中からの罵声に囲まれたガルは…体育座りで動かなくなった。
かわいそうに。
「おいガル何やってんだ!?さっさと立て!!」
と、再び主催者らしきオジさんが怒声を響かせるが、完全に戦意喪失している。
「き…キヒャヒャヒャヒャ!こりゃあラッキーだぜ!!今回の勝ちは貰ったなぁ!」
「そうじゃの〜」
「キヒャヒャ…って何でまだこの爺さん居るんだ!?」
あ、ようやく皆んながリュデルさんを認識した。
「ちょっと、ヤラレ役がまだ居るなんてマズいわよ!?」
「チィ!一体どこに隠れてやがった!」
実質賭けの対象外の人間が残りの4人に含まれているというのは主催側としては確かにまずいだろう。
全員がリュデルさんへと狙いを定めた。
「任せろ。おいどんが潰してやる」
まず動き出したのはおかっぱデ…ドランだ。
拳を握り締め、リュデルさんへ駆けていく。
「おいどんの拳は掠っただけで骨を粉砕するぞ!さぁ砕け散れ!」
衝撃波のようなものを拳に纏わせながらビュンビュンとパンチを放つ。
確かにあれは食らったら骨も砕けそうだ。
「よっしゃやれドランー!!」
「グッチャグチャにしちまえー!!」
と、飢えていた観客達も熱が入る。
今回は誰も死んでないからか期待感がすごい。
とはいえ、リュデルさんは当たる気配も無くヒョイヒョイと避けながら後ろにバックしている。
「この!小癪なジジイだ!こうなりゃおいどんのフルパワーで…ハァァァア!!」
そうして放たれた全力パンチは、リュデルさんの後ろにいたガルの鎧を掠った。
――パァン!!
ガルの鎧が砕け散り下着姿になる。
もうやめて!
とっくにガルのライフはゼロよ!!
いよいよ、観客達もリュデルさんの異常さに気付き始めた。
「何なんだあのジジイ!?」
「あんな爺さんがどうしてドランの攻撃を避けれるんだ!?」
「一体どの選手だ!?名前は!?」
「おい、アレじゃないか!?1番下の!誰も賭けてない奴!」
観客の1人が、モニターに表示されている名前を指差す。
そこに記されていた名前。
【勇者リュデル(90)】
まんまやんけ。
「はぁ!?あんなふざけた名前に誰が賭けるんだよ!」
「頭沸いてんのか!?」
だがしかし誰も信じない。
因みにリュデルさんに賭けたらぶっちゃけ勝ち確なのだが、こんな悪趣味な賭け事に参加などしたくないので誰もお金は賭けてない。
いや、正確にはこっそりクヴァルダさんがリュデルさんに賭けようとしてシュルツさんに怒られ土下座してた。
「キヒ!この攻撃なら避けれねぇぞ!俺が今まで狩りまくった武器の雨だぁ!!」
と、次の作戦に移る鎖鎌のザキ。
叫びながら上方にマジックバッグを投げた。
そこから、大量の様々な武器が撒き散らされる。
「ほぅ、本当に色々あるのう」
それを1つ1つ鑑賞しながら避けるリュデルさん。
当然の事ながら当たる筈もない。
が、リュデルさんではなくバウンドしたナイフの1つが砂漠姫ロクサーヌの腕に命中した。
「痛った!何やってんのよザキ!私に当たったじゃない!」
幸い、軽い切り傷程度だ。
そんなロクサーヌにそっと近づくリュデルさん。
「大丈夫かのぅ?ほれ、これを塗ってやろう」
薬でも塗ってあげるかの如く、見覚えのある小袋の中身の軟膏を塗る。
なんかさっき見た。
「アラありがとう。ってコレ!私の…しび…」
即効性があるらしく、直ぐに痺れて動けなくなるロクサーヌ。
それを見て、ついに主催者のオジさんは激昂した。
「お前ら何だその体たらくは!!ジジイの1人も殺れんのか!?さっさと始末しないと、代わりにお前らを始末するぞ!?」
そんな風にけしかけられ、鎖鎌のザキとおかっぱデブは焦りを見せる。
自分達の作戦を、ほぼ同時に行動に移した。
「こうなったら先ずは目を潰してやるぜ!オレ様特製激辛パウダーを味わえ…!」
「おいどんの足は地震も起こせる!立っていられなくしてやるぞ!!」
あれ?
やっちゃいけないコンボな気がする。
そうして鎖鎌のザキがパウダーを投げようとした瞬間、おかっぱデブが四股を踏んでアリーナに地震を起こした。
バランスを崩して真上に投げるザキ。
「「ギャァァァアアア!!」」
2人が同時に目を押さえて転がった。
「何をしてんだ馬鹿共がぁー!!!」
本当それな。
「え…おい待てよ」
「立ってんの…あの爺さんだけ?」
「ま…まさか…」
観客達が青褪めながら気付く。
このコロシアムで、生き残った1人が誰なのかを。
「ほれほれ司会者やい、さっさと優勝宣言せんか」
[え!?え…あ…えーと…。ゆ、優勝は、『勇者リュデル』!!です…]
リュデルさんに急かされ、歯切れ悪くも言う司会者。
そうなるよ。
こんな酷い試合見た事ないもん。
案の定、会場中から悲鳴や怒声が上がった。
「ふ…ふざけんなぁあ!!」
「認めないわこんなの!!」
「おい責任者!どうなってんだ!!」
「金返せー!!!」
ブーイングの嵐がすごい。
主催者のオジさんも慌てふためき、薄くなった頭を汗でビショビショにしている。
リュデルさん「早よぅ賞品よこさんかい」って迫らないで。
オジさんそれどころじゃないんだから。
と、薄毛のオジさんは急に表情を変えた。
何か思いついたっぽい。
「じ、実は皆様!今回は特別ルールとなっておりまして!!」
その言葉に、野次を飛ばす声が収まる。
主催者のオジさんは続けた。
「実はこれで優勝とはなりません!私共が用意した最後の敵を倒して初めて優勝となるのです!!」
会場の怒りが徐々に静まっていく。
オジさんは部下らしき人に「おい、アイツを出せ!」と伝え、部下の人は驚き戸惑いつつも従い走った。
きな臭い。
「そしてそして、用意した最後の敵とは…こちらです!!」
その言葉に合わせ、選手達が入場した場所とは違う鉄の扉が開かれる。
そこから姿を現した、大きな大きな影。
トカゲに似た形で赤い鱗に覆われ、背中には翼のある大きな魔物。
あれは…
「ド、ドラゴン!?」
これには会場中の人が驚いた。
ドラゴンは最強種の1つと言われる程に強い魔物だ。
まさかそんな魔物が出てくるなんて誰も予想だにしない。
悲鳴をあげて逃げようとする人も居る。
「皆様ご安心を!このドラゴンは私共がしっかりと躾け言う事を聞くようにしてあります!」
正直ドラゴンが言う事聞くなんて思えないんだけど…本当だ。
何故か指示に従ってる。
「どうです?最終戦に相応しいでしょう?もちろん、これでドラゴンが勝てば、彼の優勝とはなりません!そうなれば、今回の賭けは無効です!」
ニヤリとしながらいう主催者。
その言葉を聞き、観客達も再び盛り上がった。
「うおぉ良いぞー!!」
「はは!まさかドラゴンを間近で見れるとは!!」
「スゲェぞ主催者ー!!」
現金なもので、さっきまで野次を飛ばしていた観客達はまた歓声を上げ始める。
そんな中で、ある事に俺は目を疑った。
今までずっとふざけ倒してきたリュデルさんが、初めて真剣な表情を作ったからだ。
真っ直ぐにドラゴンを見るリュデルさん。
こうしてコロシアムは延長戦となり、ドラゴン戦が開始された。
毎日0時に1話ずつ更新してます!
よろしくお願いします




