第6話 プリンスコンテスト
完全ファンタジー世界ですが、魔道具が発達してるので結構技術は進んでたりします。
[それでは、第8回プリンスコンテストを開催します!]
沢山の建物が建ち並ぶ大都会ディアマンタール。
その中心にある広場に特設ステージが作られ、溢れんばかりの観客が押し寄せていた。
遠くの観客でも見えるようにステージにはバックスクリーンまである。
因みにNo. 1イケメンを決めるコンテストだけあって、殆どが女性客だ。
「うわぁ、想像以上に大規模っすね…」
「き、緊張してきた…」
ステージ裏の控えゾーンで、俺とクヴァルダさんは緊張感を和らげるように「ハァア〜」っと息を吐いた。
因みに、「お前達2人が出れば充分だろう」と言ってシュルツさんは出場を断固拒否してステージ外に居る。
解せぬ。
イベント参加者は20人くらい居て、控えのこの場所には様々なイケメンが集まっていた。
中には勘違いイケメンも居るが…まぁ参加は自由だよね。
「次の方どうぞ〜」
「よし、おれ行きます!」
と、自己申告で次々ステージへと出て行っている。
事前申請の必要も無く、飛び入り参加OKだ。
おかげで俺とクヴァルダさんもすんなり入れた。
[おーっ、見事なジャグリングです!]
そんな司会者のマイクを通した言葉と共に観客の歓声が聞こえてくる。
参加者はステージ上でパフォーマンスも見せないといけないそうだ。
まぁでなきゃ盛り上がらないもんね。
「うーっ、緊張するけど俺も行こう!」
「お、リオルくん勇気あるっすね!じゃあオレはその後に行くっす!」
ここでいつまでもジッとしている訳にもいかない。
殆どの人がステージ行っちゃったし、覚悟決めて行こう!
[さぁ、次のイケメンはこちら!]
そんな司会者の言葉に合わせてステージに上がる。
すると、観客達から黄色い歓声が響いた。
「キャー!!美少年よ美少年!!」
「可愛い!ペットにしたい!!」
ペットはやめて。
[皆様ご覧ください!まるで勇者の再来のような金髪碧眼の美しい少年!こんな美少年、これまでに見た事があったでしょうか!?]
この司会の人すごい持ち上げてくれるじゃん!
気持ちいい!
[さて、お名前は?]
「あ、リ、リオルです」
[リオルくん!お歳は?]
「14です」
[14歳!皆様、聞きましたか!?こんなに仕上がった14歳が他におりますでしょうか!?]
俺もうこの人雇いたい!
[リオルくんは何か特技はありますか?]
あ、そういえばパフォーマンスもしなきゃいけないんだった!
「え…と、剣術です」
[剣術!それは凄いですね!では見せていただきましょう!]
すると、ステージ上にスススっと木人形が用意された。
事前申請してないのに用意が良いな。
そんな様子を見ながらチラリとステージ下の審査員席に目を向ける。
7人くらい座っているが、真ん中で目を爛々と輝かせているふくよかで派手な服装の女性が恐らくマダム キャロだろう。
そしてステージ下の横側の方にもチラリと目を向ける。
そこでは観客に混じってリュデルさんとジーゼさん、それからシュルツさんが椅子に座りながら見守っていた。
目を合わせ、コクリと意思疎通する。
出来るだけマダムの目に留まらねば!
「じゃあいきます」
剣を抜き魔力を纏わせる。
出来るだけ派手で観客に被害が出ない技を。
「天流剣技 吹雪」
剣に冷気を集め、全身を使っての回転斬り。
「フロストバイト!」
俺が技を放つと、斬られた木人形が一瞬で凍りつきパァンと砕け散った。
キラキラとした氷の粒子がステージから周囲へ広がっていく。
観客はあんぐりとしながら一瞬静かになり、そして沸いた。
――ワァァァア!!
[凄い!凄いぞリオルくん!なんて素晴らしい剣技だ!!]
よぉし!すごい好感触!
マダムも手を叩いて喜んでるぞ!
これは優勝しちゃうかもしれない!
[これはとんでもない逸材ですね!こうなると次の出場者は出づらいぞぉ!?続くイケメンは誰だ!?]
「どもーっす」
と、片手を上げながらクヴァルダさんが登場する。
すると、観客の女性達が再び黄色い声を上げた。
「きゃぁあー!素敵!!」
「作業着姿の男性って良いわよね!!」
「キュンキュンしちゃう!!」
くっ、俺の時より反応が良いぞ!
これが大人の魅力か!
[おぉっと、これまたスゴいイケメンが出てきましたね!お名前は!?]
「クヴァルダっす。30歳っすよ〜」
[んん!?もしや、腕利き職人『翠髪のクヴァルダ』!?ご本人!?]
「まぁそうっすね」
[おぉっ、あの翠髪のクヴァルダが参加だ!そしてこれは噂以上のイケメンだー!]
パフォーマンス前からメチャクチャ盛り上がってる!
知名度もあるってズルい!
「じゃあちょっとだけオレの技も見せちゃうっすよ〜」
と言いながら、マジックバッグから50センチくらいの長さの丸太を取り出した。
それをポイっと上に放り投げる。
「変質加工 彫刻刀 イリュージョン!」
クヴァルダさんが取り出した彫刻刀が、増えたり刃の形を変えたりしながら物凄いスピードで丸太を削っていく。
そして一瞬にして、丸太が繊細な花束の形へと変化した。
すご。
「そんでもってコレを」
木で作った花束を持ち、審査員席の前に降りるクヴァルダさん。
「どうぞ。マダムにプレゼントっす」
それを見た観客が「きゃあーー!!」「羨ましい!!」と叫んでいる。
マダムも完全に目がハートだ。
まさかクヴァルダさんがここまでやり手だったとは!
勝てる気がしない!
と、もうこれクヴァルダさん優勝だろうと思いながら項垂れていた時、ステージ裏からやたらとキラキラしたモノが現れた。
[あーっと!またしてもとんでもないイケメンの登場だぁ!!]
振り返ると、キラキラと光る銀色の髪に瞳、そして煌びやかな騎士服を着た美しい男性が颯爽と登場していた。
貴族のような気品ささえある。
[これは美しい!美しいぞぉ!!お名前は!?]
「レイナードだ。因みに、僕の父は騎士爵を賜っているぞ」
[騎士爵を!?それは凄い!通りで気品がある筈だぁ!]
いや父親が騎士爵持ってても息子関係ないじゃん。
他の貴族と違って一代限りで子供に爵位継承とか無いよね?
だがしかし、準貴族の息子の登場に会場は沸いている。
「きゃぁあ〜!レイナード様ぁ!!」
「今日も素敵ぃ!!」
ん!?
もしかしてこの街の有名人!?
だとしたら結構ヤバいかもしれない。
「よーしそれじゃ、美しいレディー達の声援に応えて剣舞を披露するよ」
言いながら、女性達に向かって綺麗にウインクを決める。
もちろん女性達は「キャー!!」と言いながら喜んでいた。
アイドルじゃん!
そして剣舞なのだが…これまた美しい。
戦ったら強いのかどうかは分からないが、とにかく魅せ方を分かった動きだ。
時折マダムに流し目を送っており、マダムの方もぽーっと頬を染めながら見入っている。
実にマズい。
「ちょ、これヤバくないっすか?」
「ですよね?完全に流れ持ってかれてますよ」
怪しくなってしまった雲行きに、クヴァルダさんとコソコソ話す。
マダムの意識は完全にあのキラキラ野郎に向いている。
「こうなったら最終兵器っす」
「やっぱりシュルツさんに出てもらいましょう」
そう話してバッと2人でシュルツさんを見た。
だが、何も気付かないフリで目を逸らすシュルツさん。
くうっ、分かってるくせに頑固な!
「こうなったらじいちゃんの手を借りようっす!」
「リュデルさんなら無理矢理シュルツさんを出場させるのも出来そうですもんね!」
そうして今度は2人でリュデルさんを見た。
『よしわかった、任せぃ』
とアイコンタクトを返しながら、手を振り悠々とステージに上がってくる。
突然のハゲた爺さんの登場に観客も目が点だ。
「「違うそうじゃない!!」」
思わず俺とクヴァルダさんは同時にツっこんだ。
リュデルさんが参加してどうする!
「ははは、冗談じゃ冗談。いっぺんやってみたかったんじゃ」
「もうじいちゃんそんな場合じゃないっすよ!」
「そうですよ!緊急なんですから!」
「わかっとるわかっとる」
言いながら、リュデルさんは姿を消した。
否、消したと錯覚するくらいのスピードで元の場所へ戻ったのだ。
「!」
そしてそのスピードを保ったまま、シュルツさんを掴んでステージの上空にぶん投げた。
多分観客達には速すぎて投げられたのも見えてないと思う。
手荒だなぁ。
「あれ?お爺さん出てこなかった?」「気のせい?」と騒ついている中、かなりの高さから落下しはじめるシュルツさん。
流石のシュルツさんも空中に居ては逃げようもない。
「…やってくれましたね、リュデルさん」
額を押さえながら恨み言を呟き、諦めた様子で体勢を整える。
普通の人間ならそのまま無様に落下しているところを、シュルツさんは白衣をはためかせながらステージ上に華麗に着地した。
――スタンッ
一瞬静かになる会場。
そして文字通り降って湧いた突然のイケメンに、地面が悲鳴で揺れた。
「っっキャァァァァァアアア!!」
「そ、空からイケメンが舞い降りてきたわ!!」
「イヤァァア!!格好良すぎる!!!」
――バタッ
うお!
シュルツさんの破壊力に失神者まで出とる!!
これ登場しただけでもう勝ってない?
[これはまさか天からの贈り物かぁ!?美しい顔!知的な眼鏡!そしてそして、白衣の下から滲み出る大人の色気!!こ、これは心臓に悪いぞ!!ぐぅ…っっ]
あっ、司会者も胸を打たれてる。
目的のマダムもキラキラ野郎を忘れたかのようにシュルツさんに釘付けだ。
因みにクヴァルダさんも「義兄さん格好良すぎっす…!!」と言いながら感涙してる。
「くっ、この僕より目立つなんて…」
そんな中で悔しげに呟いたのは、先程まで優勝間違いなしと思っていたであろうレイナードさん。
完璧なトリを飾ってた筈だしね。
「こうなったら、事故に見せかけて奴の前髪をパッツンにしてやる」
え、何を馬鹿なこと言ってるの?
死にたいの?
そう思ったが、マジで実行するらしくふらついたフリをしながらシュルツさんに近付いた。
「おっと眩暈が…」
なんて言いながら刃をシュルツさんの前髪目掛けて振る。
しかし、当然の如くヒラリと躱すシュルツさん。
やだ、躱し方まで様になってる。
「おっとと…!」
あまりに綺麗に避けられたせいで、レイナードさんは本当にバランスを崩した。
剣が床に当たって跳ね返り、自分自身の頬を掠める。
危っぶな!
刺さるかと思った。
「…!!ぼ、僕の美しい顔に傷がぁー!!」
あ、彼にとっては刺さんなくても一大事だったか。
ほんの少し切れただけなのに膝から崩れてこの世の終わりみたいになってる。
「待ちなさい。触っちゃダメだ」
と、素早くシュルツさんが片膝をつき彼の手を掴んだ。
その瞬間、会場から聴こえたゴクリという音。
期待に応えるかの如くシュルツさんの手が彼の頬に添えられた。
「蘇生術式 ヒール エモラギア」
唱えられた詠唱と共に、驚くレイナードさんの傷を優しい光を纏ったシュルツさんの魔力が治療していく。
あまりにも美しすぎる光景。
「これで大丈夫。痕が残ったらいけないから、あまり刺激しないように気をつけなさい」
「は…はい」
こ…これは目に毒だ。
「き…キャァァァァァアアア!!!」
「もっ、もうダメ!!!」
――バタッバタッバタッ
うわぁあ!
更に失神者が続出した!!
マダムまで失神しとる!!
そうして、圧倒的票数でシュルツさんは優勝をもぎ取ったのだった。