最終話 おやすみ
「羽根、が…」
花吹雪のように、大量の羽根がヒラヒラと舞い落ちて地面へ降り積もっていく。
金色の羽根が降り注ぐその光景は幻想的で、思わず魅入ってしまったくらいだ。
そしてその羽根は…ベッドで横になるジーゼさんの上にも降り積もっていた。
「ジーゼ!」
全身傷だらけで、少し足を引き摺りながらもジーゼさんのもとへ駆け寄るリュデルさん。
手の風圧で、顔の辺りの羽根だけを払い除ける。
ジーゼさんは微笑みながら口を開いた。
「あったかい…とっても綺麗な羽毛布団ね」
その言葉を聞いて、リュデルさんが必死に訴えるように言う。
「なっ、何言っとるんじゃ!こんなもんまだ布団なんかじゃないぞ!ちゃんとこの羽根で最高の布団を作るから!じゃからっ、まだ…!」
ジーゼさんとの別れの時を察して、目に涙を浮かべるリュデルさん。
そんな姿を見て、ジーゼさんはまた微笑んだ。
「わかってないわね、おじいさん。最高級の素材を使って、完璧に仕立てあげたベッドが良いんじゃないわ。例え形が歪だったとしても…おじいさんの愛や皆んなの思いがいっぱい詰まったこのベッドこそ、私にとって世界一のベッドなのよ」
「…っ」
ジーゼさんの言葉に、リュデルさんは何も言えなくなる。
それから、ジーゼさんは俺達の方へも目を向けた。
「皆んなも…ありがとう。もっとこっちへ来てくれる…?」
そのお願いを聞いて、クヴァルダさんはミナスさんに支えられ俺も父さんとノヴァに支えられながら近付く。
ジーゼさんは涙を堪える俺達を一人一人見つめて言葉を紡いだ。
「…クヴァルダ、こんなに凄いベッドを作ってくれてありがとう。孫に手ずから作ってもらえるなんて思わなかったわ。長く離れちゃってたし、あなたとまた一緒に過ごせて…本当に良かった」
そう言われ、クヴァルダさんはボロボロと涙をこぼした。
「オレも…ばあちゃんにベッド作ってあげられて、良かったっす…!いっぱい心配かけて…ごめん…。ばあちゃん、オレ…ばあちゃん大好きっす…!!」
「ええ。ワタシも大好きよ」
嬉しそうに笑って応えるジーゼさん。
そのままクヴァルダさんを支えるミナスさんに目を向けた。
「ミナスさん…クヴァルダを選んでくれて、結婚してくれてありがとう。あなたもワタシ達の孫になってくれて、とっても嬉しかったわ。2人の晴れ姿を生きてるうちに見られて…すごく嬉しかった」
「ジーゼ…さん」
ミナスさんもぽろりと涙を零す。
「あたし…こそ、ありがとうございます…。あたし、本当の家族に冷たくされたから…温かく迎えてくださって、あんな素敵なサプライズまでしてもらえて…すごく幸せでした」
「ふふ、良かったわ。コンキュルンとも…会えて良かったわね」
ニコリとしながらジーゼさんがそう言うと、ミナスさんの肩の上でコンキュルンも目を潤ませた。
「みなすと あわせてくれてありがとう…!ぼく、ほんとうにうれしかった!」
コンキュルンの言葉に楽しそうに笑うジーゼさん。
大粒の涙を流し続けるクヴァルダさんを見て言葉を続ける。
「ミナスさん、コンキュルン…どうか、クヴァルダをお願いね」
「はい…!」
その返事に満足そうな顔をしたジーゼさんは、今度はノヴァに目を向けた。
「ノヴァちゃんも、こんな素敵なベッドにしてくれてありがとう。今も夢心地よ?こんなのまで作れちゃうなんて、ノヴァちゃんは凄いわ」
ノヴァは涙を浮かべながら首を振る。
「いいえ、いいえ!ジーゼさんの方が、ずっとずっとすごいです…!ジーゼさんに指導してもらったら、わたし…あっという間に技も上達できて…だから…っ」
言葉を上手くまとめられなくて、必死に何とか伝えようとするノヴァ。
そんなノヴァをジーゼさんは温かな目で見た。
「それだって、ノヴァちゃんが努力家だからよ。きっと…まだまだ成長できるわ。頑張ってね。リオルくんとも…ずっと仲良くしてね」
「は…い…、はい…!」
涙を溢れさせ頷くノヴァに、ジーゼさんも頷いて応える。
一度苦しげに息を吐いてから、父さんへ声を掛けた。
「シュルツ…さん。あなたには、たくさん迷惑掛けちゃったわね。アリアがいなくなってからも…変わらず孫のままでいてくれて、ずっとワタシの治療までしてくれて…本当にありがとう」
父さんはその言葉を聞いて、ギュッと目を閉じる。
それからゆっくりと口を開いた。
「いえ、寧ろ…血も繋がらないのに、孫として接してくださって…ありがとうございました。あの時、私は生きる気力すら失いそうだった…。そんな潰れそうだった私を支えてくださったのは、間違いなくジーゼさん達です。おかげで、こうして息子にも会えました」
俺を支える手に少し力を込める父さん。
ジーゼさんは俺達2人を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、あなたとアリアの子が生きてて…こうして巡り会えて良かったわ。こんな奇跡が起こるなんて…もしかしたら、アリアが手を貸してくれたのかもしれないわね」
「そうかも…しれませんね」
ジーゼさんの言葉に、父さんも涙と共に笑みを浮かべた。
同じように笑みを返してから、俺を見るジーゼさん。
反射的に、喉の奥が引きつった。
「リオルくん…あなたと出会った事が、この旅で1番のサプライズだったわ。まさか、偶然出会った子が、ひ孫だったなんて思わなかったもの」
和やかに笑い、ジーゼさんは目を細める。
「生きててくれて…一緒に旅をしてくれて…ありがとう。おかげで、とっても素敵な旅になったわ」
それを聞いて、俺も涙が溢れ出た。
今までの思い出が頭に浮かび、涙をどうしても止められない中なんとか返事を返す。
「俺、だって…。もし、ジーゼさん達が旅に出てなかったら…、みんなに一生会えてなかったかもしれない…。こうやって家族と笑い合って過ごす事も無かったかもしれない…。ジーゼさん達のおかげで、こうして居られるんだよ」
あの日知り合ってなかったら、こんな楽しい日々なんて過ごせなかった。
出会ったばかりで見ず知らずの俺を、直ぐに受け入れてくれるようなジーゼさん達だったからこそ今がある。
本当は、まだまだお別れなんてしたくない。
でも、そんな我儘より感謝を伝えたい。
そう思って、涙に邪魔されながらも必死に言葉にした。
「みんなで冒険できて…すごく、楽しかった…。本当に、ありがとう…ジーゼさん…っ」
もっともっと色々伝えたいけれど、涙に詰まってそれ以上は言えなかった。
それでも、まるでみんなの思いが全部届いているかのように微笑むジーゼさん。
それから…最愛の人であるリュデルさんと再び目を合わせた。
「リュデルさん…ワタシの願いを叶えてくれて、ありがとう」
ほんの僅かに声を震わせ、でも絶えず笑みを浮かべて伝える。
「あなたと出逢って、あなたと沢山の冒険をして、あなたと一緒に生きられて…ワタシは本当に幸せだったわ。こんなに素敵な人生にしてくれてありがとう」
この言葉に、リュデルさんも微笑みを作った。
優しくジーゼさんの手を握る。
「ワシもじゃよ。ジーゼと出逢って、一緒になれて…どれだけ幸せだったか。お前がおらんかったら、こんなに最高の人生を送れんかったわい」
「ふふ、リュデルさんったら」
まるでいつものように笑い合う2人。
そんな2人を、俺達も泣きながら見守った。
ジーゼさんの為に始まったこの冒険。
それ程長い期間じゃなかったけれど、それでも本当に色んな事があった。
もし想い合い行動するこの2人がいなければ、今の俺達はなかっただろう。
そしてそんな旅も、ついに終わりの時を迎えようとしている。
改まった感じで「リュデルさん」とジーゼさんが名を呼んだ。
微笑みながら首を傾げるリュデルさん。
「もし、もう一つ願いを言っても良いなら…」
そこで言葉を切り、心を込めてジーゼさんは続きを口にする。
「来世でも、ワタシと結婚してください」
この言葉にリュデルさんは目を見開く。
そしてほろりと涙をこぼした。
「は…はは…。今度はお前の方からプロポーズされるとはのぅ」
ジーゼさんと繋いでいる手が震える。
涙をいっぱいに浮かべて、それでも真っ直ぐにジーゼさんを見つめた。
「もちろんじゃ。その願いも絶対に叶えてみせるぞ。来世もその次も、必ずお前を見つけて幸せにしてみせる。約束じゃ」
力強く言ったリュデルさんの言葉を聞き、ジーゼさんは幸せそうに笑った。
「ふふ…また楽しみができちゃったわ。あなたが言うんなら、間違い無いわね」
リュデルさんが約束を違える筈がないと心から信じている様子のジーゼさんは、希望に満ちた表情だ。
一度目を閉じ、力の入らない手でリュデルさんの手を握り返した。
「きっとまた逢いましょう。愛してるわリュデルさん」
リュデルさんもまた、握る手に力を込める。
「ワシも愛してるぞ。ジーゼ」
微笑みながら、愛しげに見つめ合う2人。
静かに流れる時間の中、ゆっくり少しずつ…ジーゼさんの瞼が下りていく。
そしてこの2人らしい、最後の言葉が交わされた。
「リュデルさん…おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
その挨拶を最後に、瞼が閉じられる。
そうしてジーゼさんは、みんなで作り上げたベッドの上で幸せそうに眠りながら…天国へと旅立っていった―――――。
みんなの冒険を最後まで見守ってくださってありがとうございました。
最後にもう1話だけ、エピローグ入ります。




