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第52話 星空



「くぅーっ、追いつけないっすね!」


「そうね…。まぁ向こうも魔物を操れるし仕方ないわ」


夕食を食べつつ悔しそうにするクヴァルダさんをミナスさんが宥める。

あの後出来るだけ急いで男の後を追ったものの、夜になってもその姿を捉える事は出来ずにいた。

夜通し追い掛けでもすれば追いつくかもしれないけれど、ジーゼさんの身体の事やミナスさんの魔力の事を考えれば休まない訳にもいかない。


そんな訳で、現在俺達は野営中である。

野営って言ってもこのパーティーだから村の宿屋くらいには快適だけど。


「気持ちは分かるが、今は焦らず体を休めた方が良い。幸い、洗脳にしても融合にしても多少時間が掛かるらしいしな」


「うぅ、そうっすね」


父さんに言われて頷くクヴァルダさん。

コンキュルン曰く、実験を見た限り融合させるのにも時間が掛かっていたそうだ。

薬をまず体に馴染ませないといけないらしい。

多少猶予が出来たのは有り難い。


「ミナスさん、霊峰バニンガにはいつ着きそう?」


「シルバス山からだとそこまで遠くないから、明日には着くと思うわ」


明日か。

何が起こるかわからないし、尚更今日の内に備えておかなきゃ。


「父さん、ご飯の後ちょっとだけ付き合ってもらって良い?剣を手に馴染ませておきたくて」


「あぁ、わかった。ただし、明日に響かない程度にな」


「うん」


オータムさんから預かったこの聖剣ラビュラ、既に手に馴染んでる感はあるけどより慣れておくに越した事はないだろう。

隣でノヴァも聖剣を覗き込む。


「リオルくん、その剣やっぱりカッコいいね」


「だよね。俺も気に入ってる」


へへ、と笑うとリュデルさんとジーゼさんも誇らしげに笑った。


「まさかリオルも聖剣を授けられるとはのぅ。流石ワシらのひ孫じゃ!」


「そもそも拘りの強いドワーフから剣を貰うこと自体すごい事だものねぇ」


おぉ、そう言われると余計に喜びがジワジワくるぞ。ニヤけそう。

クヴァルダさんも改めて見ながら言う。


「オータムさんが拘り抜いて作っただけあって、質も滅茶苦茶良いっすよ。オレが作ってやる必要も無くなったっすね」


クヴァルダさんのお墨付きまで貰った!

オータムさんすごい剣をありがとう!

あぁでも


「クヴァルダさん製の剣も、それはそれで欲しいけど」


「お、嬉しい事言ってくれるじゃないっすか!リオルくんってば欲張りっすね〜」


嬉しそうに俺の頭をワシャワシャするクヴァルダさん。

やめてやめてリュデる。


そんなやり取りをしていた時、不意にジーゼさんが空を見上げた。


「あら、今日は新月なのね。綺麗な星空だわ」


釣られるように俺達も空を見上げる。

そこには、雲にも月明かりにも隠される事ない星空が広がっていた。

隣でノヴァも目を輝かせる。


「わぁ、ホントだ。きれい…」


星を見るノヴァも可愛いなぁ。

と思いながら見ていたら、リュデルさんもニコニコしながらジーゼさんを見て言った。


「星空はジーゼが1番好きな景色じゃからな」


「ふふ、だっておじいさんから愛の告白を受けた時に見た景色だもの」


え!?愛の告白!?

ガタリと、ミナスさんとノヴァが立ち上がった。


「ジーゼさん!そのお話詳しく!!」


「ぜっ、是非聞きたいです!!」


スス…と静かに距離を取ったクヴァルダさん&父さんと入れ替わるように身を乗り出す2人。

俺は大人しくこの場で聞こう。


微笑みながら話し始めるジーゼさん。


「昔ね、シュガリッツェで暴れてたドラゴンをおじいさんと大人しくさせた事があるのよ」


「シュガリッツェって、標高が高くて崖ばっかりの危険な山ですよね?そんな所で戦ったんですか?」


驚きながらミナスさんが質問する。


「まぁ確かに、戦ってる最中何度か落ちそうにもなったのぅ」


「そうね。でも結果的にそこまで危なげなく倒せたわ。それで、そのドラゴンは寝起きで機嫌が悪くて暴れてただけだって分かってね。ワタシも寝るのが好きだから意気投合してお友達になったのよ」


あ、薄々そうかなと思ってたけどローザさんの話か!


「そこまでは良かったんだけどね。話が盛り上がり過ぎちゃって、いつの間にか日も暮れちゃってたのよ」


ちょっと困ったように笑いながら、ジーゼさんは話を続けた。





********




《それじゃあね〜!》


「ええ、またね」


ニッコニコと2人を見送ってくれるローザと、手を振りながら別れたジーゼとリュデル。

並んで歩きながら山を降り始める。


「ごめんなさい、リュデルさん。すっかり遅くなっちゃったわね」


「いや、俺は平気だよ。それより困るのはジーゼだろう?」


「う…」


野宿も平気なリュデルに対し、絶対にベッドでしか寝たくないという拘りがあるジーゼ。

しかしもう既に日が暮れており、人里から離れたこの山から宿へ向かうとなると恐らく朝になってしまうだろう。

このままでは徹夜コースである。


リュデルはフゥと息を一つ吐き言った。


「よし、俺がジーゼを背負って山を降りるよ。その方が速いからね。前みたいに、移動の間に寝ても良いし」


それを聞いて、両手をブンブン振りながら慌てて断るジーゼ。


「そっ、そんな!怪我もしてないのに背負ってもらうなんて悪いわ!私も頑張って走れば…」

「ジーゼ」


遮るように、リュデルがジーゼの名を呼んだ。

いつもと少し違う雰囲気にジーゼもピタリと止まる。


これまで2人は想い合いつつもそれを口にする事なく旅をしてきた。

しかしこの日、ついにリュデルが一歩を踏み出す。


「俺は、ジーゼに頼ってもらいたい。甘えてほしいし、遠慮もしてほしくないし、我儘を言われたって良い」


「え…?」


リュデルの言葉に戸惑いつつも顔が熱くなるジーゼ。

同じように顔を赤らめながらリュデルは続ける。


「そう思うのは、他の誰でもない…ジーゼにだけだ。俺は、ジーゼが頼れる唯一の男になりたいって思ってる。どういう意味か…わかる、よな?」


流石にここまで言われて分からない筈もなく、狼狽えながらもジーゼは小さく頷いた。

耳まで赤くしながら、リュデルはジーゼに背を向け膝をつく。


「もし、俺の気持ちを受け入れてくれるなら…この背に乗ってほしい」


自身の鼓動が耳に響くのを感じつつ、ジーゼをジッと待つリュデル。

ジーゼもまた胸の高鳴りを抑えきれずにいた。

断るなんて、そんな事出来るはずがない。

リュデルの想いに泣きそうになりながら、ジーゼは直ぐにその背に飛びついた。


「それじゃあ…お言葉に甘えて、頼らせていただきますっ」


赤面しながら精一杯にした返事。

2人が想いを通じ合わせた瞬間である。


今の関係が終わってしまう可能性も考えていたリュデルは、喜びを抑えきれないまま立ち上がった。


「…ジーゼ、身体強化してくれる?」


「え?あ、はい」


言われるがままジーゼは支援魔法を使う。

幸せそうに口元を緩ませるリュデル。


「今なら俺、何でも出来そうな気がする」


そう言った瞬間、真っ直ぐ崖の方へと走った。

そして迷いなく木々を抜けてジャンプする。


「ひゃ…っ」


驚いて思わず悲鳴を漏らすジーゼ。

しかし次の瞬間、目に飛び込んできた光景で恐怖は霧散した。


「…!」


先程まで木の葉で隠されていた空は、満天の星で埋め尽くされいた。

周囲に灯りも無い為、まるで星空の中を飛んでいるような感覚だ。

どこまでも広がる星空は今まで見たどんな景色よりも美しく映る。


そんな星々の中で幸福感に満たされたジーゼは、愛する人の背に身も心も預けたのだった。




********




「まるで星空に包み込まれてるような感覚の中でそのまま眠りについたの。本当に夢のような気分だったわ」


ほぅ…としながら語ったジーゼさんの言葉に、頬に手を当てながら「「きゃー!素敵っ」」と喜びの声を上げるミナスさんとノヴァ。

2人は歓喜してるけど、俺は崖から飛び降りるという命の危機に晒されてる最中に眠りにつけたジーゼさんにビックリしてるよ。

リュデルさんを心から信用してるからこそ成せる技か…。


「浮かれたまま走っとったら夜の内に街に着いたからのぅ」


「あの夜謎の豪風が吹いたってあちこちで話題になってたものね」


リュデルさんもパネェ。


当時の事を思い出した2人はラブラブニコニコしながら頬を染めて見つめ合っている。

本当にどこまで仲が良いのやら。

それから、ジーゼさんは改めて空を見上げた。


「あの日見た空もこんな感じだったのよ。ふふ、今夜はいい夢が見られそ…ゲホッ…ゴホッ」


「! ジーゼ!」


「ジーゼさん…!」


話している最中に吐血しながら咳き込んだジーゼさんにみんなが青褪める。

即座に駆け寄った父さんが魔力治療を施すと、幸いジーゼさんはすぐに呼吸を落ち着かせられた。


「ごめんなさい、大丈夫よ…」


それ程良くない顔色ながら微笑むジーゼさん。

リュデルさんに寄り添いながら笑って続ける。


「まだ…ユルの羽根を手に入れてないのに、倒れるわけにはいかないもの」


強い意志を感じて、俺はグッと言葉を詰まらせた。

ジーゼさんはずっとずっと、今も自身の身体と闘い続けているんだろう。

限界を超えて尚、夢を諦めてないんだ。


リュデルさんが優しくジーゼさんの手を握る。


「うむ。必ず手に入れるからな」


「ありがとう、おじいさん」


微笑み合う2人は一体どんな思いなんだろう。

まったく想像できない。


と、クヴァルダさんが静かにミナスさんに声を掛けた。


「ミナス、ちょっと散歩しないっすか?」


「え?あ、うん。いいわよ」


「ぼくもいくー」


名乗りを上げたコンキュルンも連れてこの場からそっと離れていくクヴァルダさん。

なるほど限界来たか。

気持ちはとてもよくわかる。


父さんも、少し気遣うように俺に声を掛けた。


「リオル。さっき言ってた手合わせ…するか?」


「…うん。お願い、しようかな」


体を動かしてた方が気も紛れそうだし有り難い。


治療に備えてこの場から離れる訳にはいかない父さんと、剣を構えて向かい合った。

リュデルさん・ジーゼさん・ノヴァの3人が見守る中、手合わせを始める。



みんなできっと、ジーゼさんの願いを叶えよう。


剣を交えながら、そう改めて決意したのだった。







ジーゼさんが好きな景色は、正確に言うとただの『星空』ではなく『リュデルさんが見せてくれた星空』になります。




今頃ではありますが皆様にお礼を!

読者様方を、勝手に神々と呼んで毎日崇め奉ってます。

読んでくださってる皆皆様、本当に本当にありがとうございます!!

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