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第50話 共鳴



「オータムさん、聖剣ラビュラを貸してくれませんか?」


「え!?し、しかし、これは未完成で…」


戸惑うオータムさんは狼狽しながら自身の手の中の聖剣を見る。

コクリと頷いて、俺は言葉を続けた。


「はい、わかってます。けど…多分それで浄化出来ます」


「「「!?」」」


みんなが驚いて目を見開く。

魔導フォンからも、驚いたらしき父さんの声が聞こえた。


[どういう事だ?リオル]


壁の向こうのみんなにも伝えるべく、俺も魔導フォンに目を向ける。


「リュデルさんが技を使った時、少しだけどラビュラが光ったんだ。多分…キャトラフカに反応したんだと思う」


自身も聖剣を作ったクヴァルダさんがすぐにピンと来て言う。


[なるほど!そういえばオータムさんが作った聖剣は、嵌め込んだニャルハルコンの力を刀身に行き渡らせる設計だったっすね!そんでオレの作った聖剣はニャルハルコンを直接纏わせてるから…]


[鉱物そのものに近いから、それに反応した…って事か]


[だと思うっす]


クヴァルダさんと父さんの会話を聞いて、ミナスさんも納得したように続いた。


[技を使った時だけ光ったのは、鉱物の力が放出されたからでしょうね。それなら確かに、リュデルさんが技を使って聖剣が共鳴している間に御魂を斬れば浄化出来そうだわ]


リュデルさんも心得たように言う。


[要は、御魂に向かってワシとリオルで同時攻撃をすれば良いんじゃな?]


[はい、それで上手くいくと思います]


そんな電話の向こうの会話を聞いていたオータムさんが、震えながら俺に近付いた。


「わしの…わしの聖剣で氷の精達を助けられるんですか?」


泣きそうな顔で縋るように言うオータムさんに頷く。


「はい、きっと助けられる筈です」


オータムさんはグッと聖剣を握り締めると、俺に勢いよく差し出した。


「それならばどうか!どうかコレであの子達を救ってください!お願いします!!」


「…はい!」


願いと共に託された剣をしっかりと握る。

ノヴァと共に御魂の方へと歩いた。


さぁて、カッコつけたは良いけどこっからが難しいぞ。

魔導フォンを口元に近づけ、ドワーフ達に聞こえない程度の声でリュデルさんへ話しかける。


「リュデルさん。ラビュラが光ったのって、本当に一瞬だったんだ。だから少しでもタイミングがずれたら…浄化も上手くいかないと思う」


声を潜めた俺に合わせて、リュデルさんも小さく返す。


[つまり、息を合わせて完全に同じタイミングで攻撃せんといかんのじゃな?]


「うん。壁で姿も見えないし難しいと思うけど…俺、出来るかな?」


緊張しながらそう問い掛けた。

瘴気の侵食も進んでいるし、何度もやり直す時間は無い。

絶対に成功させないといけないけど、果たして俺は上手くやれるだろうか。


と、リュデルさんがフッと笑ったのが聞こえた。


[ワシのひ孫が何を弱気な事を言っとるんじゃ。よぅし、難易度を上げてやろう]


「え」


[カリニフタで行く。やれるな?]


カリニフタって、アナラビに並ぶ天流剣最強技だよね!?

アークデーモンの時に一度見たっきりだよ!?

この勇者、こんな時になんちゅースパルタな事を…!


あぁ、けど…


「…やる。絶対一回で決める!」


なんか逆にやる気出てきた!

何がなんでも決めてやる!!


「ノヴァ、魔導フォン持ってて。それと、強化お願い」


「うん!」


魔導フォンを受け取り、俺から少し距離を取って手を翳すノヴァ。


「戯糸召喚 纏身 白焔!」


ノヴァの周りに赤っぽい光が浮かび上がり、そこから飛び出した糸が俺の手足に巻き付いた。


あ、前回と違う。

ジーゼさんに教えてもらって、ノヴァもやっぱり成長したんだ。

尚更やる気が出てきた。

俺も、負けてられない!


「ありがとう、ノヴァ!」


「ううん、頑張って!」


そうノヴァが俺に声援を贈ると、続くようにドワーフ達も声を上げる。


「勇者様達頼みます!」


「女王様達を救えるのはあなた方だけです!」


「お願いします!」


そんな声を背中に受けながら、「ふぅー…」と息を吐き集中力を高めた。

リュデルさんの闘気の出し方は、何度も見ている。

俺も…少しでも、リュデルさんへ届くように…!


――ズオッ


初めて放った気に、リュデルさんが応えた。


[…準備出来たようじゃな。ゆくぞ?]


「はい!」


目を閉じてもわかる。

リュデルさんの闘気が、動きを伝えてくれてる。


あの日見た技を、魔力の練り方を、身体の動かし方を…思い出せ!


「天流剣技」


地面を蹴って、壁の向こうのリュデルさんと共に高く高く跳び上がった。

魔力を練り上げ、刃を黒く大きなものへと変化させる。


(とばり)


夜の帳を下ろすイメージで…真っ直ぐ、真下へ!


「カリニフタ!」


聖剣ラビュラがキャトラフカと共鳴して光を放つ。

それと共に、黒い一閃を御魂へと落とした。

刃によって真っ二つになる御魂。


バッと顔を上げ、ほとんど侵食されている御魂に視線を集中した。

どうか、頼む…!


――シュゥゥウウッ


次の瞬間、御魂は白い焔に包まれる。

そしてそれが消えた時、真っ白に輝く雪の結晶が入ったとても美しい球体へと姿を変えていた。

一拍置いて、氷の精達も次々と体を起こす。


《あ、あれ?》


《もう苦しくない…》


《た…助かったぁ》


無事に元気になった精達を見て、ドワーフ達も歓喜の声を上げた。


「や…やったぞー!!」


「浄化が成功したぁ!!」


「流石は勇者様方だぁー!!」


元々涙脆いのか、どのドワーフ達も涙を流しながら喜んで氷の精達に抱き着いている。

安心して力の抜ける俺にはノヴァが飛びついてきた。


「すごいリオルくん!かっこよかった!!」


「ありがと。ノヴァの強化もすごかったよ!」


心から褒め称えてくれるノヴァをギューっと抱きしめ返す。

はぁ〜癒される。もう離したくない。

ちょっとドキドキもしてるけど。


「うぉーん!!よくぞ!よくぞやってくれましたぁー!!ありがとうございますぅー!!」


と、そんな俺達にオータムさんも紛れてギャン泣きしながら抱きついてきた。

うぐ、苦しい離して。


さすがに苦しくてノヴァとジタバタもがく。

そうしていた時、御魂の浄化によって里を覆っていた氷の壁にも変化が起こった。


――パァン


「!」


本当に一瞬で、あんなに厄介だった壁が全て粉々に砕け散る。

同時に分断されていたみんなの姿が見えた。


「リオル!」


「父さん!みんな!」


オータムさんの拘束から抜け出せない俺達のもとにみんなが駆け寄ってくる。

傍に来るなり褒めてくれる面々。


「よくやったな、リオル」


「ノヴァちゃんの強化もとてもよく出来てるわぁ」


「2人とも凄かったっす!」


「ええ、本当に!」


「ちゃんと しんくろしてたー」


「うむ、流石はワシのひ孫じゃ!」


褒められながら撫でられ照れる俺とノヴァ。


「へへ、ありがとう」


「ありがとうございます」


それにしても、やっぱりみんながいると安心するなぁ。

うわ、てかみんな真っ白じゃん。

ずっと吹雪の中に居たもんね。

あ、そういえば吹雪やんでる!


そう思って周りを見回す。

すると、今さっき砕け散った氷の壁が御魂に集まっていっている事に気付いた。

集まった氷が徐々に人の形を作っていく。


「…!」


そしてそこに、本当に美しい女の人が現れた。

長い髪とスレンダーラインのドレスのような服を纏っていて、見た目は氷の彫刻そのものだ。


「女王様!」


《女王様が戻ったー!》


ワッとみんなが歓喜する。

氷の彫刻のような姿と裏腹に、しなやかにフワリと地面に降り立つ氷の女王様。


《わたしは…何を…?》


ぼーっと考えるようにしてから女王様はハッとする。


《皆んな、無事ですか…!?》


《大丈夫だよー!》


「勇者様方が助けてくださったのでな!」


元気そうに答える氷の精やドワーフ達の姿を見て女王様は安堵した。

それから、ドワーフの言った単語に反応する。


《勇者様?勇者様って、まさか…》


言いながら、今度は俺達の方へ目を向けた。


「久しぶりじゃな、ルル」


「70年振りねぇ」


リュデルさんとジーゼさんがそう挨拶する。

2人をジーっと見た女王様はコテンと首を傾げた。


《……誰?》


――ピシッ


さすがは氷の女王様。

場が凍ったよ。


「まぁだいぶ年老いたからのぅ。わからんのも当然じゃ」


「リュデルとジーゼよ。覚えてない?」


《…え?》


全く気にした様子も無く続けて言った2人をもう一度ジーっと見る女王様。


《…え?》


もっかい言った!

多分これ信じ切れてない!


失礼になりそうな発言に周りの人達の方がオロオロしてる中、女王様は俺達を一人一人見る。

そして、俺に目を止めた。


《…そちらの方は、ご血縁?》


「そうじゃ。ワシらのひ孫じゃよ」


頷きながらリュデルさんが答えると、氷の女王様はぽやっと笑みを作る。


《あぁ、本当にリュデルさんとジーゼさんなんですね。お久しぶりです。随分とお姿が変わったのでわかりませんでした》


やっと信じた!!

え、俺ってそんなにリュデルさんの若い頃に似てるの?

ていうか氷の女王様ってもしかして天然??


《もー!女王様ってばヒヤヒヤさせないでよ!》


「見てるこっちが肝を冷やしましたぞ!」


「彼らは恩人なのですから!」


《そうでしたわね。ごめんなさい》


里の人達に詰め寄られ、おっとりと謝る女王様はゆっくりとこちらを向いた。


《まさかまた勇者様達に助けていただく事になるとは思いませんでした。ありがとうございます。立ち話も難ですし、お屋敷の方へどうぞ。助けてくださったお礼もしたいですから》


言うや否や、こちらの返事を待たずに和かに氷のお屋敷へ歩き出す女王様。

なんとマイペースな人だろう。



周囲の人達が申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる中、俺達は女王様に付いて氷のお屋敷へと向かったのだった。





氷の女王様は天然氷。

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