第49話 侵食
「さあ!着きましたぞ!!」
「「……」」
ワープが完了してテンション高々に言うオータムさんと裏腹に、俺とノヴァは言葉を失っていた。
何をどうしてこうなってしまったのか。
里の中は氷に覆われているだけあって吹雪の影響も無く一帯が綺麗に見渡せる。
その為、俺達の存在に気付いたドワーフや氷の精達がこちらへ駆けてきた。
「おぉ!オータムじゃないか!」
《良かったー!オータムさんが来てくれた!》
オータムさんが聖剣を作っていたというのは周知の事実のようで、みんな安堵した顔をしている。
これはマズい。
「聞いたぞ!女王様が瘴気にやられたそうじゃないか!御魂を聖剣で浄化しないといけないんだろう!?」
「そうなんだ!瘴気のせいで暴走して天気は荒れるは里を氷で覆ってしまうはで…!里に閉じ込められて助けも呼びにも行けずどうしようかと思っていたが…」
《オータムさんが戻ってきてくれて良かったよ!聖剣出来てる!?》
「いや、聖剣は完成していないんだ。だが問題無い!」
自信満々に俺達の方へ手を向けるオータムさん。
「あの伝説の勇者様2人をお連れしたからな!彼らが既に所持してる聖剣で浄化してくれるから大丈夫だ!!」
「なんと!あの勇者様!?」
《えー!すごーい!》
やめて!盛り上がらないで!
とんだ誤解だから!
「ど…どうしようリオルくん」
「え…と、ちゃんと言うしかない…かな」
「だよ…ね」
冷や汗をかきながら小声でノヴァと相談し、心苦しいが誤解を解く事にする。
繋ぐ手に力を込めて勇気を振り絞った。
「オ…オータムさん。大変言い辛いんですが…」
「どうしました!?勇者様!」
「俺達、勇者じゃないです」
そう告げた途端、シンと静まり返る空気。
出来る事ならこのままノヴァと共に逃げ出したい。
「え?え?貴方達が…リュデルとジーゼですよね??」
「いえ、リオルとノヴァです」
あ、やっと自己紹介できた。
なんて現実逃避のように思う俺に対し、オータムさんはワナワナとしだす。
「そ…そんな…だって、勇者一行だって…」
「や、それは本当です。あの…俺は勇者のひ孫で、一緒にいたお爺さんお婆さんが勇者達です」
まるで石のように固まりながら必死に思考を回すオータムさん。
暫く間を空けてから、ようやく該当者に辿り着いて驚愕の表情を作った。
「え!?あのハゲが!?」
直球で言ったなこの人。
「ばっ、馬鹿な!わしが昔見た勇者様は確かに金髪碧眼でしたぞ!?」
「いや、もしかしたらドワーフはあんまり変わらないかもしれないですけど…人間は70年も経てばああなるというか」
髪の有無はともかく。
「そ…そんな…!!」
色々な事にショックを受けたようで、オータムさんは膝から崩れ落ちた。
周りのドワーフや氷の精も、何やら誤解があって良くない事態だというのはわかったけれど、この世の終わりのようなオータムさんに何と言えば良いかわからない感じだ。
どうしようもないこの空気が辛過ぎる。
や、ホント辛い。
誰か助けて…!
その時、まるでその雰囲気を壊すかのような音が鳴り響いた。
――ティンティロティロティロティン♪
ん?何これ着信音?
…は!!俺か!!
今まで一度も鳴った事が無いので反応が遅れつつ、慌てて魔導フォンを手に取った。
「はっ、はい!」
[リオル!大丈夫か!?]
電話の相手は父さんだ。
何だかやたらとジーンとくる。
「…」
[リオル?どうした?もしかして何か…]
「いや、ごめん…。あまりに居た堪れない状況だったからホッとしたというか…」
[…そうか…]
大体の状況を察したのか、同情を含んだ声が返ってくる。
あぁ何だろうこの安心感。
魔導フォン買っておいて本当に良かった。
「父さん、俺どうしたら良いかな?」
[まず状況を正確に把握した方が良い。もしかしたらこちら側からもどうにか出来るかもしれないから、確認して教えてくれ]
「うん、わかった」
なんか急にやれそうな気がしてきた!
今はとにかく俺に出来ることをしよう!
「あの、この壁の外にさっきオータムさんが言った勇者がいます。もしかしたら外からでも浄化できるかもしれないですし、女王様の御魂へ案内してもらえますか?」
俺がそう聞くと、みんなもちょっとだけホッとしたような顔をする。
オータムさんも「確かに、勇者様なら可能かもしれん!!」と一瞬で復活した。
《こっちだよ!付いてきて!》
近くにいた氷の精が早速案内してくれる。
「リオルくん、魔導フォン持ってるなんてすごいね」
「ちょっと前に魔物倒した報酬で大金入ったからさ。まさかこんな形で役立つとは思わなかったけど」
「いいなぁ、わたしも欲しい。そしたらいつでもリオルくんと連絡取れるもん」
なんて可愛いことを言うんだ俺のノヴァは。
そんな会話をしつつ氷の精に付いていくと、何やら段々と嫌な感じがしてきた。
もうこの気配が何なのかはわかっている。
《ほら、アレが女王様の御魂だよ!》
氷の精が指差した先には、黒や紫が混ざった色合いの水晶のような球体が浮いていた。
氷の壁に沿うように位置している。
よく見るとその球体の中に大きな雪の結晶があり、中心部は白く光っているけれど外側は黒く染まってしまっていた。
「あれが…御魂?」
《うん!女王様の本体って言えば良いのかな?》
《御魂を瘴気で穢されちゃったせいで、人の形も保てなくなったの》
という事は、普段は女王様も人型なんだろう。
あの御魂だって本来は全部中心部のように綺麗だった筈だ。
どうやらこの御魂から氷の壁が展開されたようで、氷の形が球体から広がったようになっていた。
「壁沿いだから、もしかしたら外からでも斬れるかも?」
「でも、御魂って女王様本体って言ってたよね?斬ったら死んじゃったりしないのかな?」
「あ、確かに!」
ノヴァの言葉を聞いて慌てて氷の精を見る。
氷の精達は首を横に振って答えた。
《ううん、大丈夫だよ!》
《御魂に物理攻撃は効かないから、聖剣で斬ったら瘴気だけが浄化される筈だよ!》
それを聞いて安心する。
なら、どうにか出来るかもしれない。
「父さん、聞こえる?」
[ああ。どうだった?]
「里の北の方に女王様の御魂があるんだ。壁から近いから、試しに外側から聖剣で斬ってみてくれないかな?」
[わかった。直ぐに移動する]
魔導フォンで報告すると、父さんもすぐに了承してくれる。
と、なんだか騒がしくなる電話の向こう。
[ちょっ、義兄さんそろそろスピーカーに切り替えてほしいっす!!]
[そうじゃぞ!お前ばかりリオルと話して狡いぞ!]
[分かりました分かりました。切り替えますから里の北側へ早く移動しましょう]
嗜める父さんの声以外も聞こえるって事はかなり詰め寄ってるんだな。
賑やかで良いな。俺も混ざりたい。
と思っていた直後、耳に派手な雑音が走った。
――ボボボボゴォォォオッ
うわビックリした!風の音!?
そういえば外ひどい吹雪だった!
多分スピーカーに切り替えたんだろうけど、雑音がうるさすぎる。
「あのさ、風の音すごくて皆んなの声聞こえないかも」
[あ!そ……今…風……つ………っす…]
ダメだ。
風の音に掻き消されてクヴァルダさんが何言ってるかわかんない。
「どうしたのリオルくん?」
「いや、今この状態でさ」
ノヴァにも聞かせようと俺もスピーカーに切り替えた。
――ボッボボボボゴォーッッ
「…風、すごいね」
「うん。どうしよ」
顔を見合わせて苦笑いする。
が、急にピタリと雑音が抑えられた。
スピーカーやめたのかなと思いながら耳を澄ませる。
[今風除け作ってみたっすけどどうっすか?]
そんな秒で作ったの!?
しかも吹雪の中を走りながら!?
「うん、これなら大丈夫そう」
「クヴァルダさん、すごいですね」
[へへ、ノヴァちゃんに負けてられないっすからね!]
職人に対抗意識燃やされるノヴァもすごいや。
ヒュゥゥという風の音自体は聞こえるけど、全く問題ない。
オータムさんも「やはり彼は只者ではない…!流石勇者様のお仲間!!」と感激してる。
ところが、後は到着を待つばかりだなと油断した時だった。
《うっ》
《あ…あぁ…っ》
「!?」
突然、周りにいた氷の精達が苦しみだして呻き声を上げた。
急な事に里のドワーフ達も驚いて駆け寄る。
「おっ、おいどうしたんだ!?」
「しっかりしろ!」
そう声を掛けるが、次々と地面へポトポト落ちる氷の精達。
こちらもスピーカーに切り替えていたので異常が電話越しでも伝わったらしく、父さんが問い掛けてくる。
[リオル、何かあったのか!?]
「そ、それが、急に氷の精達が一斉に苦しみだして…」
[それ、マズいかもしれないわ!リオルくん、女王様の御魂どうなってる!?]
原因に気付いたらしきミナスさんに問われ、慌てて御魂を確認した。
さっきと特に変わらない気がするけど…
いや、違う!
「御魂の氷の結晶、さっき見た時より黒くなってる…!」
外側の黒いのが、徐々に光り輝く中心部に近付いているのだ。
[やっぱり…!瘴気の侵食が今も進んでるんだわ!氷の精達は女王様の派生のような存在だから、影響を受けてるんだと思う!]
侵食が?
すごく嫌な予感がする。
[よく聞いて!氷の精は、人間と魔物の間くらいの存在なの!もしそのまま完全に侵食されれば…恐らく女王様は魔物と化してしまうわ!そうなったら、もう聖剣で浄化しても元には戻れない…氷の精達も含め、倒すしかなくなってしまうの!]
「「「!!」」」
あまりの内容に、その場の全員が青褪めた。
事態を避ける為には、完全に侵食される前になんとしても浄化しなければならない。
「リュデルさん!急いで!」
[わかっておる!さっきまでは氷の壁でわからんかったが、漸く気配を感じられたから場所も特定出来そうじゃ!]
壁の外からでも瘴気の気配を感じ取れるリュデルさんは流石だ。
けれど待つ事しか出来ないのがもどかしい。
「く…っ、この聖剣が完成していれば直ぐ様対応できたのに…!!」
俺と同じように思ったらしきオータムさんが未完成の聖剣を取り出して握り締めた。
苦しむ氷の精達が目に映る度に焦りが募る。
その時、待っていた言葉が響いた。
[到着したぞ!コンキュルン、ばあさんを頼む!]
[まかせてー]
[よろしくねぇ]
壁のせいで見えないけれど、目の前まで来たらしい。
聖剣を使う為にコンキュルンの背にジーゼさんを乗せた姿が目に浮かぶ。
「みんな!一応壁から距離取ってください!リュデルさん、思いっきりお願い!」
[うむ!]
返事をしたリュデルさんの闘気を壁の奥から僅かに感じる。
…くる!
[天流剣技 暁 アナラビ]
次の瞬間、氷の壁に光の線が走った。
それが見えたという事は、壁をこちら側まで斬ったという事だ。
けど…
「あぁ!届いてない…!!」
御魂まで届かなかった斬撃に周囲から悲鳴が上がる。
[ちぃっ、しかも再生が早い…!]
リュデルさんが厄介そうに言ったのも納得で、氷の壁も斬った先から再生し壊れそうな気配が無い。
あ…ダメだ。
そう、悟ってしまった。
リュデルさんは最初から全力で行った。
でも届かなかったんだ。
多分何回やっても届かない。
ジーゼさんに強化してもらえば届くだろうけど、支援魔法を使ったらきっとジーゼさんの身体が持たないだろう。
代わりに強化を担当してるノヴァもこちら側に来てしまっている。
これではもう打つ手など無い。
でも、何だろう。
何か…視界の端で何かを感じた。
なんだ…?
「勇者様!どうかもう一度お願いします!!」
「氷の精達はワシらの友達なんです!」
「助けてください!!」
考えている間に、ドワーフ達が必死にリュデルさんに懇願した。
その声にハッとする。
目の前で苦しむ精達をみんな救いたいんだ。
[せめて、この壁を壊せれば…]
[3人で同時攻撃してみないっすか?]
[そうじゃな、やれるだけやってみるぞ]
どうやら父さん・クヴァルダさん・リュデルさんの3人で攻撃してみるらしい。
みんな固唾を飲んで祈るように壁に目を向ける。
それと同時に、俺も神経を研ぎ澄ませた。
決して、見落とす事の無いように。
[絶息術式 インフリクト カタストロフィ!]
[変質加工 ピッケル パーフォレイト!]
[天流剣技 焦熱 エリュトロン!]
――キィン!ガキッ!ジュゥゥウウ
内側にも響く激しい音と眩い光。
3人の同時攻撃により氷の壁に穴が空く。
しかしそれは拳くらいのほんの小さな穴で、しかも刹那で再生し塞がってしまった。
ドワーフ達も絶望して顔を覆う。
けれど俺は、先程掴み損ねた何かをやっと掴めた。
「なんとか…出来るかも」
「「「!!」」」
呟いた言葉にみんなが驚いて振り返る。
確証がある訳じゃない。
失敗する可能性だってある。
でも、やってみるしかない!
覚悟を決め、俺は口を開いた。
リオルくん魔導フォン初使用!
14歳のリオルくんは使いこなすのも早いですw




