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第4話 伝説のベッド



変質加工(へんしつかこう) 金槌 プレス!!」


「おーっ!さすが勇者の孫!」


金槌を巨大化させて魔物を一撃で叩き潰したクヴァルダさんに思わず歓声を上げる。

俺に褒められ「へへ」と満更でもない様子のクヴァルダさん。


まぁ潰してるからかなりグロい事になってるけどね!

その技は控えて欲しいかな!


因みに、クヴァルダさんに導かれるまま今はまた森の中にいる。

ベッドに使う材料を集めたいそうだ。


「そういえば、クヴァルダはなんで職人になったんじゃ?」


「前はお姉ちゃんを護れるような騎士になるんだって言ってたものねぇ」


リュデルさんの質問にジーゼさんが続ける。

地味に切なくなってしまうのだが。


「あぁほら、姉ちゃん魔道具作るのが趣味だったじゃないっすか」


「そうだったな」


懐かしむように頷くシュルツさん。


「それで、オレも何か作れるようになりたいなって思って…そんで始めてみたら、それが性に合ってたんす」


なるほど、お姉さんが切っ掛けか。

納得しかない。


「てか魔道具作るの趣味とか、お姉さんすごいですね?詳しい事は分からないけど、魔道具作るのって凄い難しいんですよね?」


「そうなんすよ!姉ちゃんマジですごいんす!あ、オレが付けてるこのチョーカーも、実は姉ちゃんの作った魔道具なんすよ!」


「え、それが!?」


パッと見、黒いレザーに銀の丸い飾りが吊り下げられただけのただのアクセサリーだ。

とても魔道具には見えない。


「これ、ロケットペンダントになってて中に写真が入ってるんすよ。オレは姉ちゃんの写真入れてるんすけど、ここに魔力を流すと…」


クヴァルダさんがチョーカーに手を触れて魔力を流す。

すると、首元から光が放たれその光が当たった所に綺麗な女の人の写真が映写された。

クヴァルダさんと同じダークグリーンの瞳で、長い金髪が輝いている。


すご!

開けなくてもいつでもどこでも見れるんだ!


あ…

シュルツさんが静かに目頭押さえてる。

てかクヴァルダさん、自分でやっといて泣かないで。


「お、お姉さんすごい綺麗な人なんですね!」


このシンミリした空気をどうにかしようと話を振る。

案の定クヴァルダさんは直ぐに食いついた。


「そうなんす!メチャクチャ美人なんすよ!まぁじいちゃんばあちゃんの孫だし、当然ちゃ当然かもっすけど」


「え?と言うと?」


「あれ?勇者達が美男美女って結構有名な話じゃないすか?」


「いや…聞いた事はあるけど、てっきり脚色されてるのかと…」


だって今のハゲ爺と白髪婆からは想像つかない。


「えー!?事実っすよ!マジで美男美女なんすから!あっ、写真見るっすか!?」


「持ってるの!?」


「ばあちゃんの若い頃が姉ちゃんと似てるから取っておいたんす!」


あー…なるほど。


クヴァルダさんはゴソゴソと鞄を漁り、手帳のような物を取り出すとその中から1枚の写真を抜き取った。


「ほらコレっす」


そしてそれを覗き込むと…

挿絵(By みてみん)

なんということでしょう。

そこにはとんでもなく美しい男女の姿が…!


そして、現在の2人(主にリュデルさんの頭)を見る。


なんということでしょう。

現実とはここまで残酷なのか。


「そんな事よりクヴァルダ、ここへは何を取りに来たんだ?」


「あぁそうっすね!つい脱線しちゃったっす!」


シュルツさんの言葉に慌てて写真を仕舞うクヴァルダさん。

俺は世界の残酷さに打ちひしがれながらも何とか顔を上げた。


「まずベッドについてなんすけど、実は前々から考えてた職人達の間で作り上げてみたい伝説のベッドがあるんす!材料入手が困難すぎて、未だに実現してないベッドなんすけどね」


お?

なんかジーゼさんの目が輝きだした。


「まず寝台の基礎となる木材は、丈夫でありながらしなりもあり、しかもお日様の香りがして安眠効果もあるんす!」


「まぁ!」


「で、枕はまるでマシュマロのような柔らかさで頭を包み込んでくれて、寝る人の頭の形に勝手に形状変化してくれる優れ物!」


「まぁまぁ!」


「マットレスはまるで雲のようなフワフワ感で、身体が宙に浮いているようにすら感じる程の完全ストレスフリー!」


「まぁまぁまぁ!」


「寝やすい温度をずっと保ってくれる羽毛がたっぷり入った年中使える最高の羽毛布団!」


「まぁまぁまぁまぁ!」


「そして!それらを包み込む通気性も肌触りも良くてお肌への刺激がゼロの奇跡のシルク生地!」


「まぁぁあ!!」


通販番組かな?


「おじいさん!ワタシそのベッドで眠りたいわ!!お願い作っガファ!」


ヤバい、興奮しすぎてジーゼさん吐血しとる。

寝るのが好きって本当なんだな。


「本当にそんなベッドが作れるのか?」


「一応、それを作るのに必要な材料も分かってるんす。けど、さっきも言ったように入手があまりに困難で…。まず、木材すらゲット出来ないんすよね」


腕を組んで難しい顔をするクヴァルダさん。


「その木材、『エルダーエント』っていうエントの中でも超レアな特殊個体なんすよ。長い年月高い山の上で陽の光を浴び続ける事で変異するんすけど…遭遇確率は10000分の1。今回入手出来ればとは思ってるんすけど、オレも10年探して未だに見つけられてなくて」


「もしかしてコレかの?」


「そうそうコレっす!他と全然違う頑丈さで良い香り……って何で持ってるんすかじいちゃん!!?」


リュデルさんがマジックバッグから取り出した木材を見て、クヴァルダさんが驚愕しながらノリツッコミする。


「3日前にリオルと共にたまたま遭遇しての」


あぁ、あの時のか。


「オレの10年…!!!」


クヴァルダさんは膝から崩れ落ちた。

かわいそうに。


「ま…まさか既に持ってるなんて…。じゃあここまで来たのも無駄足だったっすよ…」


「ところでここって?」


「エントの巣窟っす」


まるでその言葉を待っていたかのように、周りの木々が蠢きだす。


いやなんて所に連れてきてるのこの人!!

いつの間にかスゲー数に囲まれてんじゃん!!


しかし、さすがは勇者一族。

俺以外の誰も慌てた様子は無い。


「まったく…先に確認くらいするべきだろう」


「うぅ、ごめなさいっす義兄さん」


至って冷静にメスを剣へと変化させるシュルツさん。

謝りながらクヴァルダさんも立ち上がる。


「そんじゃあワシらは休憩しとるから、若いもんで頑張ってくれ」


「よろしくねぇ」


勇者達2人に至っては敵に囲まれてる中で岩に腰掛けまったり休み始めた。

肝座りすぎじゃない?


「よぅし、こうなったらさっさと片付けるっすよ〜!」


腰のマジックバッグを漁り、斧を取り出すクヴァルダさん。


「変質加工 斧 スラッシュ!」


普通サイズだった斧が巨大化し、次々とエントを切っていく。

あんなに大きな物を軽々振り回すとか、勇者の孫マジですごい。


そして、シュルツさんも動き出した。


絶息術式(ぜっそくじゅつしき)…」


待ってすごい怖い単語聞こえた。


「インフリクト トゥラヴマ」


目にも止まらぬ速さで次々とエントがバラバラになっていく。

勇者の孫より動きが機敏ってドウユウコトナノ?


「義兄さんスゲーっす!格好良すぎて涙出るっす!!」


と、クヴァルダさんは大興奮だ。


は!

つい傍観してしまったけど、俺も戦わなきゃ!

2人には遠く及ばないけれど、普通のエントなら俺でも倒せる。


「天流剣技 焦熱(しょうねつ)


剣に炎を纏わせ袈裟斬りにする技。


「エリュトロン!」


《ギキャァァァア!》


うん、やっぱり木には炎が効く効く!

一体ずつしか倒せないけど、何とかなりそうだ!


ん?

なんかクヴァルダさんとシュルツさんがポカンとしながら俺を見てる。


「え、リオルくん凄いっすね?」


「まさか、天流剣を使えるとは…」


「あっ、いや、我流ですよ?多分本物とは違うかなと」


そう俺が言っても、2人はガッカリすることなく続ける。


「いや、前に『おれは天流剣を使えるんだ!』ってほざいてるアホを見た事あるっすけど、全然形になってなかったっすよ?」


「あぁ。君のはきちんと形になっている」


褒めてくれてるんだろうけど、ほざいてるアホに共感して胸が痛い。


と、戦いつつも余裕を持ってそんな会話をしていた時だ。


《ギギャァア!》


一体のエントが、座っているジーゼさん目掛けて攻撃をした。


――シュバッ!


もちろんそんな攻撃などリュデルさんが防ぎ、細切れになったエントが地面に撒き散らされる。

だが、そこで空気が変わった。


「ワシのジーゼに攻撃を仕掛けるとは…ええ度胸しとるのぅ?」


ユラリと立ち上がるリュデルさん。

瞬間、クヴァルダさんとシュルツさんが青褪めた。


「あ、これヤバいやつっすね!」


「ああ、離脱するぞ」


「うわっ」


2人が意思疎通したかと思った直後、シュルツさんに小脇に抱えられる。

俺を抱えたままシュルツさんはクヴァルダさんと共に高く跳び上がった。


うわ高っか!!

前回の比じゃない!!

あ、下でニコニコしながらジーゼさんが手を振ってる!

一体いつの間に強化したの!?


「天流剣技」


そんな風に混乱している内に、リュデルさんが魔力を練りあげる。

刃を下に向けたまま両手剣を持ち上げた。


烈震(れっしん)


そしてそれを勢いよく地面に突き刺す。


「ラース」


――ゴオォォォォオオッ!!


一瞬、何が起こったのかわからなかった。

剣を中心に円形状に衝撃波が走り、目に見える範囲全てのエントが粉微塵になって消えていく。

あまりに規格外すぎて完全に絶句するしかなかった。


「愛するばあさんに手を出した報いじゃ」


「まぁ、おじいさんったら」


やってる事のえげつなさと仲良しラブラブ夫婦の対比がすごい。

無事に地面に着地した後も、エントが消え去った光景に俺はただただ呆然としていた。



やっぱり、勇者が一番ヤバい。

そう実感した瞬間だった。




挿絵(By みてみん)

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