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第47話 未完成の聖剣



「すまないなぁ、大の男が泣いちまったりして…」


「い、いえいえ」


あの後ドワーフのオジサンが泣き止むのを待った俺達は、のぼせそうだからと一旦湯から上がってみんなで休憩スペースに来ていた。

オジサンが気の毒で、初めての浴衣にウキウキする気分にもなれなかったよ。


「今頃だが、わしはドワーフのオータムだ。よろしくな!」


「あ、よろしくお願いします。俺はリ…」


「それでな!さっきの話だが聞いてくれ!」


俺の自己紹介も聞いてほしかった。


「聖剣を作ろうと思ったのには理由があってな…。実は70年前、わしは勇者様の戦う姿を見て感銘を受けたんだ…!」


え、当時の事知ってるんだ!

そういえばドワーフも結構寿命長いんだっけ?

確か250歳くらいまで生きるとか聞いた気がする。


「遠目ではあったんだがな、その動きや技の美しさ…誰の目から見ても分かる圧倒的な強者の姿は今も忘れられん…!そして、その姿を見た時に決めたんだ…わしが、勇者様の為に聖剣を作って贈るのだと!!」


てことは、リュデルさんの為に聖剣を作ろうとしてたのか!

そうなってくると余計に罪悪感が湧いてくる。


「そして、長年の試行錯誤の末に漸く完成間近というところまで来た。だが…完成させる為に絶対に必要な鉱物を…まさかの、勇者様方に…先に持ってかれちまったんだよぉお!」


またしても泣きだすオータムさん。

お酒入ってるし泣き上戸なのかもしれない。


「しかもそれで聖剣を作ったって話じゃないか!!わしが…わしが勇者様の為に作りたかったのに…まさか他の人間に先を越されるだなんてぇえ!!」


胸が…胸が痛い…!

なんかとても申し訳なくなって、思わずクヴァルダさんと一緒に謝ってしまった。


「その…なんかすみません…」


「知らなかったとはいえ、申し訳ないっす…」


俺達が謝罪すると、オータムさんはキョトンとする。


「え?何でアンタらが謝るんだ?」


そう聞かれ、みんなで目を合わせた。

今なら他に人も居ないし、隠す必要は無いと判断して言葉を続ける。


「オータムさんが手に入れたかった鉱物って…ニャルハルコンですよね?」


確認すると、オータムさんは驚いて目を見開いた。


「なっ、なぜそれを!?知ってる人間なんてそうそう………ま、まさか…」


震えながら俺達を指差すオータムさん。


「アンタらが…勇者一行!?」


驚愕しながら聞くオータムさんに素直に頷く。

口をあんぐりと開けたオータムさんは、次の瞬間頬を紅潮させ顔を輝かせた。


「ま、まさか勇者御一行様に会えるだなんて…!わしは感激ですぞ!!」


さっきまでの嘆きはどこへやら。

オータムさんは大興奮しながら俺達3人と握手を交わした。


「いやはや驚いた!ここには何の為に!?」


「えと、氷の精の女王様に用があって…」


「あぁ成る程!刻印目当てですか!」


「ええ、まぁ…」


勢いがすごいオータムさんに、父さんと若干顔をひきつらせながら答える。

リュデルさんの為に聖剣作りをしてたくらいだし、きっと勇者の大ファンなんだろうな。


「そうでしたかそうでしたか!!あの!1つ図々しいお願いをしてよろしいですかね!?」


「な、なんでしょう?」


「わしも山里へ帰る予定でしてね!よろしければ、勇者様方を里まで案内させてもらえませんか!?是非!!」


その程度のお願いであれば特に問題は無いだろう。

一応父さんとクヴァルダさんに確認するように目を向けるが、2人ともアイコンタクトで了承する。

リュデルさん達に許可を貰うまでも無さそうだ。


「はい、じゃあ…よろしくお願いします」


「お任せを!!!」


明日の朝に旅館の前で待ち合わせる約束をすると、オータムさんはあんなに泣いてたのが嘘のようにルンルンとまた温泉に浸かりに行った。

一升瓶を手から離さないけど、今度はヤケ酒じゃなくて祝い酒でもするのかな。

まぁ憧れの勇者達に会えるんだから、そりゃあご機嫌にもなるか。


と、そんなオータムさんを見送る俺達に背後から聞き慣れた声が掛かった。


「今のってドワーフよね?仲良くなったの?」


「お、ミナス達も上がったんすね」


振り返ったところに居たのは、浴衣に身を包んだミナスさんとノヴァだ。

温泉に一緒に入った事で打ち解けたのか、ノヴァはコンキュルンを抱っこしている。


「ノヴァ、コンキュルンと仲良くなったの?」


「うん!洗いっこしたら抱っこも許してくれたの!」


「きもちよかったから!のゔぁ、やさしくて いいこだった!」


褒められたノヴァは嬉しそうに笑う。

可愛い子がかわいい仔と戯れてるとか最高か!写真に収めたい!!

あと見た瞬間から思ってたけど湯上がりで頬の赤いノヴァの浴衣姿可愛い!!


「よかったねノヴァ!あと、浴衣似合ってるね」


「ありがとう!リオルくんも似合ってるよ」


褒め合ってニコニコと笑い合ったが、ここでハッとして身構える。

この流れは大体新婚夫婦に狙われるやつだ!


「…って事があったんすよ」


「そうだったのね。最終的に喜んでくれたんなら良かったわ」


が、クヴァルダさんが先程のドワーフの事をミナスさんに説明していた為こちらを見てはいなかった。

ふぅ、良かった。


安心しながら改めてミナスさん達を見る。

髪を簡単に1つにまとめて浴衣を着ているミナスさんは、湯上がりもあってか何だかすごい色っぽい。

何だろう…頸とかかな?

大人の女性って感じがする。


てか、オータムさんに気を取られてちゃんと見てなかったけど、父さんとクヴァルダさんも大人の色気があるぞ…!

同じ浴衣なのに何故こうも違うのか。

俺もいつかああなりたい。


「取り敢えず、そろそろ昼だし一旦部屋に戻るか。リュデルさん達へ報告もしないといけないしな」


「うん、そうだね」


父さんの言葉に頷き、みんなで勇者の間へと戻った。





「おぉ来たか」


「皆んな楽しんで来た?」


浴衣姿でまったりと寛ぐリュデルさんとジーゼさん。


2人とも浴衣似合いすぎじゃない!?

なんかこう普通のお爺ちゃんお婆ちゃんって感じがすごい!

これは絶対誰も勇者達だなんて思わないよ!!


そんな2人とも合流し、昼食を食べに外に出る事にする。

オータムさんの事は食べながら報告すれば良いか。

因みに、夕飯は旅館が用意して部屋まで持ってきてくれるらしい。

それもそれで楽しみだ!


「リオルくん、お外浴衣で歩いてる人増えたね」


「ホントだ。みんな俺達みたいに泊まりに来たのかな?」


温泉郷の客は老若男女様々で、家族連れやカップルや明らかに勇者ファンなんだろうなって人達で賑わっている。

俺達は真っ直ぐ雪原を抜けてきたけど、ちゃんと整備された道もあって観光客も多いらしい。


そうした人達に溶け込むように歩いていると、浴衣が崩れないようリュデルさんに横抱きにされたジーゼさんが嬉しそうに呟いた。


「なんだか、家族みんなで温泉旅行に来た気分ね。楽しいわ」


「そうじゃな。こういうのもええのう」


笑顔でリュデルさんが答える中、俺とクヴァルダさんは顔面の筋肉をピクッと反応させて決してジーゼさんの方を振り向かないよう前を見続けた。

数日前までならのほほんと肯定していたけれど、今はジーゼさんのこういう言葉に泣きそうになってしまう。

笑みを絶やさないようにしながらクヴァルダさんと小声で話した。


「…クヴァルダさん、また一時行方不明にならないでね?」


「…努力はするっす。限界来たらミナスも連れ出してカモフラージュするから察してほしいっす」


あの日、俺は父さんの背に隠れて泣いたけど、泣くのをどうしても我慢できなかったクヴァルダさんはジーゼさんから決して見えないくらい遠くまで行って1人で泣いてたらしい。

気付いたら居なかったからビックリしたもんな。

一瞬で姿を消したのは普通にすごいと思う。


と、振り返れない俺達に代わって父さんが指差しながら話題を振った。


「リュデルさん達が言っていたの、あの店じゃないですか?」


「ん?おぉ、アレじゃアレじゃ」


「まだちゃんと残ってたのねぇ。懐かしいわ」


以前来た時に立ち寄ったというレストランが見えてくる。

今も潰れず残ってるって事は人気があるお店なんだろう。

空いてる席あるかな?


「いらっしゃいませー!何名様ですか?」


「7人です」


「かしこまりました!こちらへどうぞ!」


待つ事も覚悟していたけれどすぐに案内してくれる女性店員さん。

思ったより早くご飯にありつけそうで喜びながらついて行く。

案内しながらニコニコ話しだす店員さん。


「こちらは昔勇者様も立ち寄ってくださった店なんですよ!今は他のお客様が座ってますが、あちらに当時勇者様方が座った椅子もございます!」


ここでもやっぱり勇者を売りにしてる!

当時座った椅子とか残してたのか!!


そう思いながら、勇者ファンが座ってるであろうカウンター席へと目を向ける。

と、見覚えのあるお客さんの姿に思わず足が止まった。


「ん?」


背が低くてガタイが良くて黒い髭モジャのオジサン。

あれ…オータムさん!?


と、オータムさんもこちらに気付いた。


「やや!!アナタ方は勇…」

「「しーっ!」」


大声で勇者と言い掛けたオータムさんを慌てて俺とクヴァルダさんが口元に人差し指を立てて制する。

別に勇者一行だっていうのを隠してる訳じゃないけど、こんな勇者ゴリ押しの温泉郷でバラされたら絶対面倒な事になるよ。


意図を理解したオータムさんは両手で口を押さえてコクコクと頷いた。

ホッとしてテーブル席に着く。


「なんじゃ?知り合いか?」


「うん。ちょうどあの人の話をリュデルさん達にしようと思ってたんだよ」


そうして、リュデルさんとジーゼさんにも事の経緯を説明した。


「成る程のぅ。そういう事なら彼に聖剣を作ってもらえば良かったのう」


「そうなんすよね。まさかオレ以外にじいちゃんに聖剣作ろうとしてる人が居るとは思わなかったっす」


「孫の作る剣も捨て難いけれどね。でも悪い事しちゃったわねぇ」


なんて会話をしている間にも、カウンター席からソワソワチラチラと視線を寄越してくるオータムさん。

カレーの最後のひと口をずっと彷徨わせている。


「ねぇ、オータムさんこっち呼んであげない?椅子1つ空いてるし」


「そうね。あんなに見られてるとあたしも気になるわ」


俺の言葉にミナスさんが同意してくれ、他のみんなも頷く。

オータムさんに手招きをして椅子を指差すと、パアァっと顔を明るくしてカレーを完食し駆けてきた。

失礼かもしれないけどカワイイな。


「まさか呼んでいただけるとは!ありがとうございます!」


お礼を言いながら嬉しそうに俺の隣に腰掛けるオータムさん。

因みに普段ならノヴァが座ってる位置だけど、浴衣の袖に隠れてるコンキュルンと戯れたくてノヴァはミナスさんの隣に居る。

くそぅ。


「オータムさん、温泉入りに行ってませんでした?いつの間にここに?」


「いやぁ昼飯の時間だと気付きましてね!勇者様の椅子を取られる前にと温泉はやめて急いで走ってきたんですよ!」


なるほど、そういう事か。

きっといつもあそこで食べてるんだな。


「あぁ…それにしても勇者様方が揃っているのをこんなに間近で見られるとは僥倖です!」


ジーンという効果音が聞こえてきそうな程の喜びを見せる。

さっき会った時は勇者本人不在だったもんね。


リュデルさん達に直接話し掛けるのは畏れ多いのか、隣の俺にオータムさんは質問してくる。


「あそこの温泉に居たということは、あの旅館に泊まられるんですよね?ち、因みにお部屋はどちらに?」


なんという期待の眼差し。

応えてあげようではないか。


「勇者の間です」


「勇者様が…!勇者の間に…!!」


握った拳を上下に振りながら感動と興奮に打ち震えるオータムさんはオジサンだけどやっぱりカワイイ。


「流石は勇者様です!わしもその部屋に入ってみたいとは思ってたんですが、料金が高くてなかなか…!」


確かになぁ。

俺も単身なら絶対に泊まれないよ。


「それなら、夕食の時間にでも遊びに来たらどうじゃ?」


唐突に、リュデルさんがそう提案した。

目を見開いてガタリと立ち上がるオータムさん。


「え!?え!?良いんですか!?」


動揺しまくるオータムさんにジーゼさんも微笑む。


「ええ。是非いらして」


頬を染めて狼狽するオータムさんは、本当に良いのかと確認するように俺にも目を向けたのでコクコクと頷いてあげた。

憧れの勇者達に誘われたらそりゃあこうなるよね。


「あ、あ、あ、ありがとうございます!!じゃ、じゃあ、夕食の時間にお伺いします!!」


ペコペコと頭を下げながらお礼を言い、オータムさんは自分の勘定を済ませてあちこちにぶつかりながら外へと駆けて行った。

遠くから「今日は人生最高の日じゃぁあー!!」という声が聞こえてくる。

カワイイ。




そしてそして夕食の時間、約束通りオータムさんは自分の夕食と沢山の酒瓶を持って現れた。


「ご相伴にあずかります!!」


お酒もしっかり持ってくる辺りドワーフっぽいなぁ。

興奮状態のオータムさんを招き入れての夕食は、何だか宴状態になった。


「いやぁ、最近の勇者様方の活躍もよく耳にしてますよ!魔物の大群から王都を守ったのはもちろん、あの巨大な氷塊から国を守ったのは最早伝説です!!」


「伝説とは大袈裟じゃのぅ」


「大袈裟なものですか!!こちとら大真面目ですぞ!!」


リュデルさんの言葉にオータムさんはクワッとすごい勢いで返す。

おぉ…酒が入れば入るほどテンションもハイだな。


「そういえば、オータムさんはどんな聖剣作ったんですか?」


ちょっと気になって聞いてみる。

聞かれた瞬間に急激にモジモジしだすオータムさん。


「やぁーその…未完成品を見せるのは気が引けるんですが…見ます?」


「良いんですか!?是非!」


ワクワクして身を乗り出すと、オータムさんは照れながらマジックバッグから一本の片手剣を取り出した。


「こちら、聖剣ラビュラです!」


「「おぉー!!」」


その剣を見て、俺とクヴァルダさんで歓声を上げる。

刀身は中心に行くほど白に近付く銀色で、繋がるように鍔の部分も白銀だ。

鍔はウサギをイメージしたような形をしていて、ピンクの模様が刀身の方まで入っているけれど決して可愛い感じではなくとても格好いい。

握りの部分に暗い赤色の布が巻かれていて、それが垂れてるのもまた良い!


「え!?これ本当に完成じゃないんですか!?」


「ええ、この鍔んとこに凹みが有るでしょう?ここにニャルハルコンを嵌め込めば鉱物の力が刀身に行き渡るよう設計してるんです」


「成る程、そういう手もあったっすね!」


クヴァルダさんが感心したように言う。

逆に、オータムさんは首を傾げた。


「え?勇者様の持ってる聖剣は違う仕組みなんですか?」


「オレは鉱物を打ち伸ばして刀身全体に纏わせたんすよ」


「あの加工が難しいニャルハルコンを打ち伸ばした!?冗談でしょう!?」


驚愕してこれでもかってほど目を見開くオータムさん。

余程信じられないのか、ワナワナしながら懇願する。


「ちょ、え、馬鹿な…!そ、その聖剣、見せてくださいませんか!?」


リュデルさんはすぐ近くに置いてた両手剣をオータムさんの隣に座る俺にパスした。

それをキャッチし、鞘から抜いてオータムさんへ見せてあげる。


「ほ、ほ、ほ、本当に纏わせてる…!!こ…こんな…事…が…っ!」


――バタッ


「うわぁあ!オータムさん!?」


「し、しっかりするっす!!」


ええ!?

泡吹いて倒れちゃった!!

そんなにショックだったの!?


一体クヴァルダさんはあの時どんだけ高度な事をしていたのか。

クヴァルダさん程の人が倒れかけるなんておかしいとは思ってたよ。



そんなこんなで倒れたオータムさんを介抱しつつ、騒がしくて楽しい夜を過ごす。


そしてこの日、1つの勘違いが生まれていたという事に俺達が気づく事は無かったのだった。





多分こんな感じ。

皆様の脳内ではもっと格好いいデザインでお願いしますw

挿絵(By みてみん)

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