第42話 男の目的
「重傷だな…。出来る限りの事はするが…痕が残るかもしれない」
城の外で屋根や椅子を広げ、父さんがミナスさんの右手を診察する。
すぐに治療してたのに痕が残りそうだなんて、本当に酷い火傷だったんだな…。
けれど、ミナスさんは悲観せず笑った。
「大丈夫です。コンちゃんが無事でしたから、それで充分ですよ」
膝の上で寝ているコンキュルンを嬉しそうに撫でる。
それからニコッと笑って冗談ぽく言った。
「それに、嫁入り前の体じゃなくて良かったです」
その言葉にクヴァルダさんが反応する。
「何言ってるんすか。火傷痕があったって、ちゃんと嫁に貰ってやるっすよ」
「結婚しようって言った時渋ってたクセに」
「あの時の自分を殴んないといけないっすね」
「フフ、調子良いんだから」
楽しそうに会話している姿にこっちもちょっとホッとした。
本当に気にしてないみたいだ。
でもどうせなら綺麗に治ると良いな。
すると、ミナスさんを大丈夫だと判断した父さんの空気が変わった。
「ところで…クヴァルダ」
父さんが怖い方の笑顔でクヴァルダさんの太腿を掴んだ。
クヴァルダさんもギクッとして汗をダラダラ流してる。
「足の傷口、開いてるな?」
ヴェクサシオン戦の時の傷か!
そういえば鉄の扉を蹴破ってたもんね。
「ほ、ほんのちょっとだけで…!」
「ん?」
「ごめんなさいっす」
「気を付けなさい」
「はい」
綺麗すぎる姿勢で座りながら謝るクヴァルダさんを治療する父さん。
なるほど、無茶するとああなるのか。
気を付けよう。それと
言い訳 ダメ 絶対。
と、ここで眠っていたコンキュルンが目を覚ました。
「ん…」
「あらコンちゃん、もう起きたの?」
「うん。みなすといるから、かいふくも はやいよ」
そう言って「くあ〜」っと欠伸をしてからミナスさんの膝でお座りするコンキュルン。
やばい、かわいい。
すっごい抱きしめたい。
揉みくちゃにされた時の目を回す気持ちわかるから控えるけど…ギューってしたくなる気持ちをここに来て理解する事になるとは。
「かわいい…」
あ!
ノヴァが誘惑に負けてフラフラと近付いていってる!
でもって「ぴゃっ」って言いながらコンキュルンがミナスさんの肩の後ろに逃げてってショック受けてる!
「リオルくぅん…」
「おーよしよし、おいで」
半泣きで戻ってきたノヴァを抱きしめて慰めてあげる。
コンキュルンに負けないくらいノヴァも可愛いから俺は満足。
「もうコンちゃん、ここにいる皆んなは警戒しなくても大丈夫よ?」
「うん…わかってるんだけどつい。ごめんね」
「…ううん。辛い思いいっぱいしたものね」
コンキュルンの今までの事を思いまつ毛を伏せるミナスさん。
それから、改めてコンキュルンと目を合わせた。
「ねえコンちゃん。あのローブの男がどこに行ったか分かる?」
その質問にフルフルと首を振るコンキュルン。
「ううん、どこにいったのかはわかんない…。でも、あとはさいごの ざいりょうをてにいれるだけだって、そういってたよ」
「最後の材料?」
「ごめん、なにかはわかんない」
落ち込むコンキュルンをミナスさんは優しく撫でる。
「いいのよ、謝らないで」
慰めつつ、また真剣な表情を作って聞いた。
「コンちゃん…思い出すの辛いかもしれないけど、あの男について分かる事全部教えてくれない?出来るだけ情報が欲しいの」
「うん!わかった!」
ミナスさんにお願いされて意気込みながら、コンキュルンは話しだした。
「あのひとね、しょうきをつかって くすりをつくってたの」
「薬?」
「うん。まものの『せんのう』と『ゆうごう』っていってたよ」
洗脳と融合…か。
そういえばローザさんも正気を失ってたっけ。
「せんのうは じぶんのいうことをきかせるんだけど、つよいまものには なかなかきかないらしくて…それで ぼくらのちからも つかったみたい」
コンキュルンは自分の尻尾に目を向けた。
2つの尻尾の間には不自然に少しだけ隙間がある。
本来は3つあった尻尾の内の1つを切断したんだろう。
こんなにかわいい小動物の尾を切るなんて、あまりに酷い。
「痛かったでしょう…それに、怖かったよね」
ミナスさんが泣きそうな顔で尻尾の付け根に触れる。
「だいじょうぶ。みなすにあえたから もうこわくないよ」
コンキュルンは嬉しそうに尻尾を左右に振った。
仕草が一々かわいらしい。
「つよいまものは ぼくらのちからで しえきして、たくさんくすりをつかって せんのうしてたんだ。しょうきがざいりょうだからか、にんげんには きかなかったみたい」
え、てことは人間にも試したって事!?
実験体にされた人の末路が容易に想像できてゾッとした。
「それでね、ゆうごうのくすりは つよいまものがなかなかにゅうしゅできなくて つくりはじめたの」
「! 後から作り始めたの?」
「うん。とくしゅこたいが ぜんぜんみつからないし じぶんでつくるしかないって、5ねんくらいまえから」
特殊個体…確かに、クヴァルダさんもエルダーエントに10年掛かっても出会えなかったって言ってたし、探したところで簡単には見つからないだろう。
それで、自ら作り出す方向に切り替えたのか。
「そんなに強い魔物で、何をするつもりだったのかしら…。目的は言ってた?」
ミナスさんに聞かれ、こくんと頷くコンキュルン。
ゴクリとしながら奴の目的を聞く。
「えっと、『じぶんがこのせかいをせいふくする』『えいよも めいせいも じぶんのものだ』っていってた」
まさかの世界征服!!
え、何その典型的な悪党宣言!?
そんな奴マジで居るのか!!
こっちはドン引き状態だけれど、割と目的に近付いているだけにタチが悪い。
言葉を失う俺達に、コンキュルンは続けて言った。
「あと、さいきんは『ぜったいにふくしゅうしてやる』っていってたよ」
復讐?
恨みのある相手もいるのか。
「でもね、ゆうごうはむずかしかったみたい。おなじ しゅるいのまものは うまくゆうごうして つよくできたけど、ちがうしゅるいだと しっぱいして しんじゃったりしてた」
さっきの焼却場で見た魔物の山が頭を過った。
あれはその実験で生み出された魔物だったんだろうな…。
父さんも顎に手を当てながら思い起こして言う。
「なら、王都を襲った魔物の大群は同種の融合で強化された魔物達だったんだろうな。だから中途半端に強くなってたんだろう」
なるほど!
薬物反応があるって言ってたもんね!
あれも実験で生まれた魔物達だったのか。
「でも、ついに ゆうごうのくすりも かんせいしたってよろこんでた。ほしかったものも てに はいったし、じゅんびはととのったって。それで…ぼくはもう ようずみだって…」
焼却場の事を思い出す。
15年も…利用するだけ利用して、用が無くなったらアッサリと処分しようとした。
非道すぎて許せない。
もし俺達がここに来ていなかったら、きっとコンキュルンは今頃死んでいただろう。
ミナスさんも労わるようにギュッとコンキュルンを抱きしめた。
「コンちゃんが生きてて…良かった。本当に…」
「うん。きてくれて ありがとお」
改めて無事の再会を喜んでいるミナスさんとコンキュルンの横で、クヴァルダさんが憤りを見せる。
「にしても、あの男許せないっすね。どこのどいつなんだか。名前とかはわかんないっすか?」
クヴァルダさんに聞かれて、考えるように眉根を寄せるコンキュルン。
「うーん…なまえはわかんない。あ、でも」
言いながらリュデルさんに前足を向ける。
「あのくらいの としの おじいさんだったよ。かみは あったけど」
コンキュルンさんや、髪の事は言わなくて良いんじゃないかい?
いやでも、大事な特徴か。
「そうなのね。それは結構手掛かりになるかも…。他には何かわかる?」
「んー、あとはもう…。このしろにきたときしか みなかったし…」
「そっか…。うん、充分よ。ありがとうコンちゃん」
褒められてコンキュルンも嬉しそうだ。
ピコピコ動く耳を見て「「かわいい…っ」」とノヴァとジーゼさんも呟く。
全面的に同意だ。
「取り敢えず、今の情報は全てギルドに報告するわね。発見したら連絡するよう伝えるから、男の捜索はギルドに任せてあたし達はベッド作りを再開しましょう」
そういやユルとの決闘後回しにしてたもんね。
首を長くして待ってそうだなぁ。
ローブの男は許せないけど、当てもなく捜し回るよりこっちの目的を進める方が時間も有意義だ。
「じゃあこの国ともオサラバっすね。また船呼ぶんすか?」
「そうね」
「いや、ちょっと待て」
と、ここで父さんがストップを掛けリュデルさんに話を振った。
「リュデルさん、あの男が逃げた部屋の壁…もしかしたら炎と同じで瘴気を利用して作り出したモノかもしれません。聖剣でなら壊せる可能性があるかと」
それを聞き、頷くリュデルさん。
「ふむ、確かにそうじゃな。試してみる価値はありそうじゃ」
言われてみれば!
あれも要石みたいなやつかもしれない!
しかも壊せたらあの転移装置使えるかも!
てな訳で、壊せるかどうか試すべくもう一度俺達は研究室へと向かった。
「そんじゃあ斬ってみるぞ」
「よっしゃ行けー!」
「キャトラフカの力を見せてやれっす!」
聖剣を構えるリュデルさんに、クヴァルダさんと一緒に声援を送る。
クヴァルダさんの斧を折った壁を壊せるのかドキドキだ。
リュデルさんは天流剣を使わず、直ぐ様壁に刃を当てた。
――ヒュンッ ガッシャァァアン!
まるで、本当にガラスだったかのように簡単に壁が破壊される。
これにはみんなで「おぉー!」と声を上げた。
「すご!簡単に壊れた!」
「こうも簡単に壊れるとちょっと悔しいっすね」
「あの時わかってれば取り逃さなかっただろうしな…」
うーん確かに。
まさか聖剣でしか壊せないなんて思わなかったもんなぁ。
「取り敢えず、転移装置使ってみましょうか。もう捕まえるのは無理でも、どこに転移したか分かればかなり大きな足掛かりになるわ」
ミナスさんの提案にみんなで賛同する。
ちゃんと動いている事を確認しつつ、全員で転移装置に乗った。
「それじゃ、起動するわね」
使い方を把握してるらしきミナスさんが操作すると、すぐに光に包まれた。
海底の王国に転移した時と違い、フワッと浮くような感覚だけで瞬間移動する。
光が収まった時には、薄暗いどこかの建物の中にいた。
「ここは廃墟かのう?」
「そうみたいねぇ」
リュデルさんとジーゼさんが言った通り、どう見ても廃墟だ。
壁や窓もヒビ割れていて、今にも崩れるんじゃないかと心配になる。
「ここ こわいー」
「そうね。取り敢えず外に出ましょうか」
「賛成っす」
足元に散乱する石や木片に気を付けつつ、俺達は急いで外へと出た。
ふぅ、出る前に崩れなくて良かった。
そう思いながら振り向いて廃墟を見る。
「…あれ?」
と、見覚えのあるその建物に思わずノヴァと顔を見合わせた。
周りの景色も確認して、間違いないと確信する。
「リオル、知ってる場所なのか?」
「うん」
俺達の様子に気付いた父さんに聞かれてすぐに頷く。
それからノヴァとも頷き合った。
「ごめんみんな、ちょっとだけ寄り道しても良い?」
急なお願いにキョトンとする一同。
けれど、目的地を聞くとすぐに全員了承してくれたのだった。
聖剣キャトラフカ大活躍




