第41話 コンキュルン
「コンちゃん…!」
やっと再会したパートナーを失うかもしれない危機に、ミナスさんは必死に走る。
決して見失わないよう、俺達も全力で後を追った。
恐らく使用人用であろう小さな扉を潜り、更に地下へと駆け降りていく。
そしてさっきコンキュルンが落とされてしまったと思しき場所まで辿り着いた。
――ガチャガチャッ
「っ、鍵が…!」
重そうな鉄の扉をすぐに開けようとミナスさんが取っ手を掴んだけれど施錠されているらしい。
そこへクヴァルダさんが止まらず走った。
「ミナス!そこどくっす!」
クヴァルダさんの声を聞き、ハッとして扉の前から避けるミナスさん。
――ガァンッ!!
うわ、クヴァルダさんよもや道具も使わず蹴破った。
本気のクヴァルダさんヤバいな。
取り敢えず扉も開いたので、全員で中へと入った。
そして目の前の光景に思わず口元を押さえる。
「う…っ」
「何…これ…」
隣でノヴァも両手で口を覆った。
そこにあったのは部屋いっぱいの魔物の死体の山。
それも、普通の魔物ではない。
違う種類の魔物を無理矢理掛け合わせた歪な状態のモノだ。
キメラとも言い難い異常な姿の数々に恐怖さえ感じた。
いくら魔物といっても、これはひどい…。
一体何を考えてこんな事を…。
他のみんなも顔を顰めながら中を見回す。
いち早く、ジーゼさんが発見して指を差した。
「あそこだわ!」
死体の山に半分埋もれるような状態で見えた白い毛皮。
光も纏っているし間違いなくコンキュルンだ。
「コンちゃん!」
発見と同時に魔物の死体を踏み越えて向かおうとするミナスさん。
その瞬間、室内に『ビーーー!!』という激しい音が鳴り響いた。
「え!?何!?」
驚いて周りを見回す。
これって…警報音?
「クヴァルダ!ミナスを止めるんじゃ!」
何かに気付いたリュデルさんに言われ、すぐにクヴァルダさんはミナスさんの手を掴んだ。
その直後だった。
――ゴォオッ!
「「「!!」」」
左右の壁にあった小さい無数の穴から黒い炎が噴き出す。
この死体の山の焼却が始まってしまったのだ。
「戯糸召喚 護法球陣!!」
咄嗟に、ノヴァが技を発動してコンキュルンを半透明の繭で包み込む。
けれど黒や紫の燃え上がる炎は、みるみる内に広がって繭にまで燃え移った。
「!? そんな!どうして…!?」
ノヴァの反応を見るに、本来なら炎にも耐えられるモノなんだろう。
でもあの感じだと、コンキュルンに炎が到達するのは時間の問題だ。
「早く消火しないと!あっ、マジックバッグの水で…」
「ううん!あたしがやるわ!」
セラさんから貰ったマジックバッグから慌てて水を出そうとしたけれど、それよりも先にミナスさんが魔石を取り出した。
「水球魔法陣 ペースト アクティベーション!!」
ミナスさんが唱えた瞬間、大きな水の塊が魔石から出現してコンキュルンの真上に飛んだ。
魔物全てに掛かるくらいの大量の水が落とされる。
「すごい!」
「やった!」
思わず俺とノヴァで歓声を上げた。
あんなに大量の水を一瞬で出せるなんて!
これなら流石に火も消えたはず!
が、俺達の歓喜は早計だった。
――ボオッ
驚いた事に、あれだけの水が撒かれたのに鎮まる事なく燃え上がる炎。
壁からの炎の噴射だってもうされていないのに。
「どうして…!?水が足りなかったの!?もう一度…!」
ミナスさんが再びいくつかの魔石を取り出し構える。
「水流魔法陣 ペースト アクティベーション!!」
今度はさっきより大量の水が滝のように降り注がれた。
俺達のいる床にまで溜まるほどの量だ。
これで消えない筈がない。
…普通なら。
――ボォオッ
「う…そ…」
どうしてか、こんなに水浸しでも炎は消えずに次々と魔物を燃やしていく。
勢いが弱まる気配すら無いのだ。
理解できない光景に、呆然としてしまう。
「…みな…す…」
その時、繭の中から小さな声がした。
コンキュルンが目を覚ましたようだ。
「! コンちゃん!!こっちよ!こっちに来れる!?」
手を挙げて自分の位置を知らせながら叫ぶミナスさん。
けれど、コンキュルンは余程弱っているのか動けそうな感じじゃなかった。
「ごめん…みなす。せっかく みつけてくれたのに…ぼく…もう…」
「…っ、駄目よコンちゃん!諦めないで!今助けるから!!」
ミナスさんはそう言ってそのまま炎の中へ飛び込もうとする。
慌ててそれを止めるクヴァルダさん。
「ミナス!!」
「いや!離して…!!」
クヴァルダさんに掴まれてもミナスさんは尚も行こうとして必死に右手をコンキュルンの方に伸ばす。
炎に触れた訳でも無いのに、伸ばした右手が炙られて焼け爛れた。
「!! クヴァルダ!押さえろ!!」
「く…っ!」
父さんが顔色を変えて声を上げ、クヴァルダさんが無理矢理ミナスさんを炎から離す。
暴れるミナスさんを後ろから抱き締めるようにして押さえ腕を掴んで固定した。
「蘇生術式 ヒール エンガヴマ」
そうして治療している間も抵抗し続けるミナスさん。
「お願…い!離してぇ…っ」
あんなに酷い火傷を負っても助けに行こうとするミナスさんを、苦しげにクヴァルダさんは押さえ続ける。
もし手を離したら今度は火傷で済まないだろう。
離すわけにはいかなかった。
そんな必死なミナスさんを見て、コンキュルンがまた言葉をこぼす。
「みなす…もう いいよ…」
「…!」
ショックを受けたような顔をするミナスさんに、コンキュルンは小さく笑った。
「ぼく…つかれちゃった。らくに なりたいんだ…」
その言葉にミナスさんはポロポロと涙を溢す。
「嘘…嘘よ!あたしとコンちゃんは繋がってるんだから!わかるんだから!!」
泣き叫び否定するミナスさんにコンキュルンは力無く笑った。
「えへへ…そう、だよね」
炎はノヴァの作った繭をどんどんと焼き、厚みが減っていってるのが外から見てもわかる。
きっとコンキュルンも助からないと悟ってるんだ。
「じゃあ…わかるよね?ぼく…みなすが だいすきだよ」
「…っ」
言葉を詰まらせるミナスさん。
「みなすが…ぼくを わすれないでくれて…ずっと さがしててくれたのも…なんとなく わかってた。あえないの、つらかったけど…ぼく がんばれたんだ」
「コンちゃん…」
「また、みなすに あえて…うれしかったよ。みつけてくれて…ありがとう」
コンキュルンの言葉にミナスさんは力が抜け、ただただ涙を溢した。
「嫌よ…コンちゃん…。そんな、最期みたいな事言わないで…!」
泣きながら訴えるけれど、コンキュルンに今にも火が燃え移りそうな状態だ。
こんなに近くに居るのに救出できない状況に歯を食い縛る。
どうにも…どうにも出来ないんだろうか。
コンキュルンが燃やされるのを見ているだけなんて嫌だ。
この炎さえ消火できれば、助けられるのに。
黒や紫が揺れる禍々しい色合いの炎。
ただの炎とは違うそれは、嫌な感じもずっと漂わせている。
…あれ。
そういえば、この色合いどこかで…。
「! リュデルさん!!」
ハッとして、俺はリュデルさんへ顔を向けた。
「聖剣!聖剣でこの炎を斬って!!」
俺が言った内容に聞き返すような事もなく直ぐに動き出すリュデルさん。
ジーゼさんを座らせ、聖剣を鞘から素早く抜いた。
近付いただけでも大火傷を負う炎を迷わず斬りにいく。
「天流剣技 暁 アナラビ」
――シュパッ
正直、賭けだった。
これでどうにか出来るかは俺にも確信なんて無い。
でも、状況は一転した。
――ジュワァアッ
「「「!」」」
大量の水を掛けても消える事の無かった炎が、剣で斬られた事でまるで浄化されるように白くなって消える。
ほんの一瞬で、部屋中の炎は鎮火してしまったのだった。
「コン…ちゃん!」
火が消えた瞬間に走り出すミナスさん。
繭から出てきたコンキュルンも、手足を震わせながらミナスさんへ向かう。
「みなすぅ…!!」
「コンちゃん!良かった…良かったぁ!!」
ギュッと抱きしめ泣きながら喜び合っている。
その姿を見て、俺も力が抜けてへたり込んだ。
「よ…よかったぁ〜」
もしこれで鎮火しなかったら事態は悪化しちゃってたかもしれない。
今になって安心感と恐怖感が同時に来たよ。
「リオルくんすごい!」
「マジでお手柄っすよ!何でわかったんすか!?」
ノヴァとクヴァルダさんが興奮しながら俺を称賛する。
そんな力強く背中バシバシされたら痛いよクヴァルダさん。
「えっと…炎と要石の色合いがすごい似てたから、もしかしたらって思って」
「成る程、あの炎は瘴気の炎だったという事か…。よく気付いたな」
頭を撫でて褒めてくれる父さん。
ついでに背中も撫でて治してください。
「うん、でも、自信があった訳じゃないし…危険なのに迷わず斬ってくれたリュデルさんがすごいよ」
俺が言うと、リュデルさんはニッと笑った。
「何を言っとるんじゃ。ひ孫の言葉を信じるのは当然じゃろう!」
堂々と言い切るリュデルさんにくすぐったい気持ちになる。
ジーゼさんも「流石おじいさん、素敵だわぁ」と頬を染めて微笑んでいた。
と、そこへコンキュルンを抱きしめたミナスさんが歩いてくる。
「リオルくん、リュデルさん、みんな…本当にありがとう」
「ありがとお」
涙を溢し、心から嬉しそうにお礼を言うミナスさんとコンキュルン。
コンキュルンが無事で、こうして再会することができて、本当によかった。
「良かったっすねミナス」
「うん…!」
俺に対してと違って優しくミナスさんの背中をポンとするクヴァルダさん。
すると、素直に返事をするミナスさんの腕の中でコンキュルンがウトウトしだした。
「疲れたよね、コンちゃん。寝ても良いよ?」
「う…ん…」
元々弱っていた上に安心もしたんだろう。
コンキュルンはクテっと脱力して眠りだした。
おぉ…かわいい。
ノヴァやジーゼさんもその姿にメロメロになってるよ。
「取り敢えず、いつまでもここに居るのも良くないだろう」
「そっすね。さっさと出たいっす」
父さんとクヴァルダさんの言葉に俺達も同意する。
安全面も考え、俺達は直ぐにこの部屋を後にしたのだった。




