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第3話 寝台職人クヴァルダ



「おぉー、ここが職人の村『トヴァリーチェ』か!」


様々な職人達が集まるという村トヴァリーチェ。

小さい山1つが村となっているので、入り口からずっと坂道になっていてあちこちの建物から何かを加工するような音が聴こえる。


どうでもいいけど上の方の家の人大変じゃない?

お年寄りとか登るの大変そう。


因みに、普通なら1週間は掛かる道のりを2日で来ている。

俺の怪我もシュルツさんのお陰でたった1日で治り、病み上がりの朝稽古でみっちり扱かれ

ウッ!頭が…!


「さて、それじゃあ早速ベッドを作ってくれる職人を探さんとのぅ」


「誰かに聞いてみましょうか」


リュデルさんの言葉にシュルツさんが応え、取り敢えずあちこちの建物を覗きながら歩く。


皆んな真剣に作業してるな…これは話しかけづらい。


「ふぃー」


お、丁度いいところに休憩に出てきたオジサンが!

筋肉ゴリゴリでメチャクチャ厳ついからこれはこれで話しかけづらいけど。


「あの、すみません」


「あぁ?」


アカン。

もう喧嘩腰だ。


「じ、実は…」


こっちのバックには勇者が付いてんだぞと自分を奮い立たせ事情を説明する。

1分後、強面のゴリオジは涙を流していた。


「なるほどなぁ…愛する婆さんの為に最高のベッドを作ってやりたいどあはぁーあ!!」


すごい泣くじゃん。

見兼ねてシュルツさんも口を開く。


「取り敢えず落ち着いて。それで、この村に適任の職人はおりますか?」


「うぐっ、あっ、あぁ…。それだったら、最高の職人が居るぜ!」


「なぬ!?本当か!?」


「歳はまだ30と若いんだがな、既に生きる伝説と言われる程に腕のいい奴がいるんだ!何でも作れるが、特に好きだからと今は寝台職人をしている」


「へぇ、そんなに凄いんですか」


「あれは職人の域を超えてるぜ。自分の作りたい物の為には鍛治から錬金まで何でもこなすわ強い魔物の群れも狩ってくるわ命綱無しで崖登るわ深い海にも素潜りするわでな」


待って何その超人。

多分俺より強いよその人。


「それは凄いわねぇ。それで、その方はどちらに?」


「この山の頂上の小屋だ。気のいい奴だからきっと手を貸してくれるだろう」


気のいい人なら良かった!

これで気難しかったらどうしようかと思った。


「因みにその人のお名前は?」


「クヴァルダだ。緑の髪をしてるから、皆んな翠髪(すいはつ)のクヴァルダと呼んでるぞ」


――ピキッ


ん?

俺以外の3人が急に固まった。

「それじゃあ俺は仕事に戻るな」と言いながらゴリオジが去っていく間も戸惑った雰囲気を隠せない様子だ。


え、この3人がこんな反応するって何者なの?


「…これは、私が居たらマズいかもしれませんね」


「…いんや、寧ろ良い機会かもしれんぞ」


「ええ。もしかしたら和解できるかもしれないわ」


神妙な面持ちで話す3人。

会話の内容的に、多分知っている人物なんだろう。


「あの、もしかして知り合いですか?」


俺の質問にリュデルさんがコクリと頷き答える。


「恐らくじゃが…そのクヴァルダはワシらの孫じゃ」


「え…えぇぇええ!?」


伝説の超人職人が!?

本当に勇者一族ってどうなってんの!?


「ち、因みに血は?」


「繋がっておる」


本物だ!

今度こそ本物の勇者の子孫だ!


でも、それならどうしてこんなに気まずい雰囲気なんだろう。


「その…お孫さんと何かあったんですか?」


「彼らとは問題無いよ。悪いのは私だ」


俺の質問に答えたのはシュルツさんだ。

「アナタだって悪くないわ!」と言うジーゼさんの言葉にも首を振る。


「クヴァルダは私の妻、アリアの弟に当たるんだが…姉の事が大好きな子でね」


「え。もしかして、大好きな姉を取られたからって怒っちゃったとか?」


「いや、それこそ最初は姉と結婚したければオレを倒せって状態だったけれど、勝ったら懐いてくれてね。寧ろ友好的な関係だった」


待って本物の勇者の子孫倒したの?

このお医者さん強すぎて怖い。


「でも、それならどうして?」


「…14年前、アリアは魔物に襲われて食い殺されたんだ」


「…!!」


突然の悲惨な話に、思わず息を呑んだ。

まさか奥さんが魔物に殺されていたなんて。


「私は急患で家を離れていてね…その間に。クヴァルダは泣きながら私を責めた。『妻を守るのが夫の役目だろ!一体何をしてたんだ!』ってね」


「そんな…」


シュルツさんを悪いとは思えない。

一番悪いのは襲った魔物だ。

でもきっと、そのクヴァルダさんも誰かを責めずにはいられなかったんだろう。


「それが切っ掛けでクヴァルダは家を出て行ってしまってね…以来、行方不明になってたんだ」


事件があったのが14年前だから…わぁ、俺の人生まるまる分の家出じゃん。

それは壮大だなぁ…。


「恐らく…クヴァルダは今でも私を恨んでるだろう。私が一緒に行けば、協力してくれないかもしれない」


ぐぅ…重い…。

大丈夫とも言えないし、どうしたら良いんだろう。


「四の五の言わずにホレ行くぞ」


「そうよそうよ。足が重いなら強化してあげるわ」


「いや、強化で軽くなるものじゃないですからね?」


なんて俺が悩んでいる間に、さっさとシュルツさんも連れて行くのを即決するリュデルさんとジーゼさん。

色々な意味で頼もしい。


ジーゼさんを背負いながらシュルツさんの背をグイグイ押すという器用な事をするリュデルさんに付いて坂を登り続けると、他の建物とは離れた頂上に確かに小屋が見えた。


あそこにそのクヴァルダさんが居るのか…なんか自分の事じゃないのにドキドキするな。

シュルツさんの表情も固いし…うわぁドキドキする。


そして到着と同時に、リュデルさんの背から手を伸ばし迷わずジーゼさんがノックした。


「どうぞ〜」


と、中から軽い感じで返事が返ってくる。

因みに人が中に居る事を確認した俺のドキドキは最高潮だ。


――ガチャ


リュデルさんの代わりにジーゼさんが取っ手を掴み扉を大きく押し開いた。

部屋の中央辺りで何かを作製していた、作業着姿で少し長めの髪を1つに括った翠髪の男性。


「んー?どちらさ…ま…」


その男性はこちらに顔を向けると共にダークグリーンの目を見開いて動きを止めた。

全員を見てから、何も言えずにいるシュルツさんだけに焦点を合わせる。


「に…」


そして、目を留めたままゆっくりと立ち上がった。

手に持っていた道具を取り落として床を蹴る。


義兄(にい)さぁぁぁああん!!!!」


叫びながら滂沱の涙を流しいきなりシュルツさんに抱き着いた。

胸元で顔をスリスリスリスリしながらわんわん泣き続ける。


「ごべん…ごべんよぉぉお!ずっと…ずっと義兄さんに謝りたかったっすーぅう!!」


…あれ。

思ってた反応とすごい違う。


これには俺たち全員キョトンとしてしまった。

自分の胸元で泣かれているシュルツさんは特にだろう。


「うああ…!あの時、義兄さんだって姉ちゃんを失って辛かったのに…それなのにオレはあんな酷い事言って…申し訳なかったっすぅう!!後悔したけど、義兄さんに合わせる顔が無ぐっで…!!」


「い、いや、クヴァルダ…」


「しかも…っ、姉ちゃんだけじゃなく義兄さんの」

「クヴァルダ」


被せるように、強く名を呼ぶシュルツさん。

そこで漸く叫ぶのをやめてクヴァルダさんはシュルツさんを見た。


「もういい…。もういいから」


「…ぅ…ひぐ…」


微笑んで言うシュルツさんを見て、また涙を流すクヴァルダさん。

リュデルさんとジーゼさんはニコニコしながら頷いていた。


「良かったのぅ。秒で解決して」


「えぇ。私も安心しましゴバッハ!」


「ばあちゃん!!?」


いきなり吐血した祖母を見て驚愕するクヴァルダさん。

慌ててシュルツさんも治療に走り、バタバタとした再会劇が目の前で繰り広げられる。


ところで薄々感じてたけど、俺だけ場違いじゃない?

感動の再会に立ち合っちゃってすみません。





そんなこんなでバタバタ劇から落ち着いた後、クヴァルダさんに経緯を話した。


「うぅ…じいちゃんが背負ってる時点でおかしいなとは思ってたけど…まさかばあちゃんが瀕死になってるなんて思わなかったっす…」


今度はジーゼさんの事で涙ぐむクヴァルダさん。

忙しい人だなぁ。


それにしても、さっきまで酷い顔してたから気付かなかったけどクヴァルダさんもなかなかイケメンだ。

リュデルさんを見て目を休めよう。


「そういえば、その子は誰っすか?」


おっと、目を逸らした途端に気に留められた。


「先日出会ってのぅ、一緒に旅しとるんじゃ。なかなか見込みのある子じゃから、シュルツが稽古をつけてやっとるぞ」


それを聞いた途端、ギッと睨みつけてくるクヴァルダさん。

もの凄く小さい声で「羨ましい…」と呟いてる。

いやシュルツさん大好きか。


「えと、リオルです。よろしくお願いします」


「クヴァルダっす。よろしくっす」


そう言って握手しながら小さく「義兄さんの弟の座は渡さないっす…」と呟かれた。

メッチャ大好きじゃん。


「で、話を戻すっすけど、ばあちゃんの為に世界一のベッドを作りたいんっすよね?」


「その通りじゃ」


「それなら、勿論協力するっす!一緒に最高のベッドを作ろうっす!」


立ち上がって拳を上に突き上げるクヴァルダさん。

「頼りにしてるぞ」とシュルツさんに言われて「任せてくださいっす!!」とテンション高々に答えている。



こうして、本物の勇者の孫であり寝台職人のクヴァルダさんもパーティー入りとなったのだった。




挿絵(By みてみん)

当時まだ16歳で、姉の死を受け入れられなかったクヴァルダさん。


因みに行方不明とは書きましたが、凄腕職人としてクヴァルダさんの名前自体は聞こえてきてました。

生存確認してホッとしつつも捜したり連れ戻したりせず好きにさせていたリュデルさん達なのです。


挿絵(By みてみん)

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