第38話 晴れ姿
「んーっ!美味しい!」
お腹も空いてたし豪華なご飯ばっかりだし天気も良いし最高のパーティーだ!
「それにしてもビックリしたわ。急にこんな事始めるなんて思わなかったもの」
ようやく少し余裕が出てきたのか、改めてミナスさんがそう言う。
「セラさんがミナスさんの為に何かしたいって言い出したんだよ」
「あら、そうなの?」
ミナスさんに目を向けられ、頬を染めるセラさん。
「その、先輩にはとてもお世話になりましたので…。ですが案を出してくださったのはジーゼさんですし、他の皆様のお力が大きいので恩を返せたと言えるかどうか…」
「何言ってるの!充分よ!ありがとうセラ!」
ギュウっと抱き締められ、セラさんは少しアワアワしてる。
2人のやり取りを隣で見ながら笑うクヴァルダさん。
「ミナスは良い後輩を持って良かったっすね!」
そんなクヴァルダさんに、ちょっとムッとした感じでセラさんが言葉を返す。
「自分を殺そうとした相手に、よくそんな事言えますね?」
「んー、まあそれはそれ。これはこれっすよ!ミナスを慕ってこんな事始めるんだから、やっぱり良い後輩っす!」
ニパッと全く気にした様子無く断言するクヴァルダさんに、セラさんは黙り込む。
そしてボソッと呟いた。
「…先輩の旦那さんも…良い旦那です」
おぉ!?ついにセラさんが認めた!
やったねクヴァルダさん!
ミナスさんも嬉しそうにまたギュウギュウ抱き締めてる。
と、ここでノヴァがおずおずとミナスさんにお願いしだした。
「あの、ミナスさん。わたしケーキ入刀するの見てみたいです…!今まで見た事なくて…!」
頬を染めて目をキラキラさせながら言うノヴァ。
そういえばノヴァは海底の結婚式の時いなかったもんな。
憧れもあるのかな?可愛い。
ミナスさんはクヴァルダさんと目を合わせる。
「あ、うん。ケーキがある時点でやるのかなぁとは思ってたけど…」
「これもまた小っ恥ずかしいイベントっすね…」
かなり照れ臭そうにしつつ、それでもノヴァの願いを叶える為立ち上がる2人。
「けど、ノヴァちゃんの頼みなら…!」
「うん、やるっすよ!!」
勇ましい。
ケーキの側に行く2人を見て、セラさんがサッとナイフとカメラを用意する。
撮る気満々だ。
何でカメラ持ってるんだろうと思ったけれど、情報屋さんとしては必須アイテムだった。
「…こないだ見たのと同じ感じで良いんすよね?」
「うん、それで良いと思うわ」
ぶっつけ本番状態の2人は姫様達と同じスタイルでやるようだ。
スッと寄り添い、ミナスさんは両手でナイフを握る。
クヴァルダさんは右手をナイフに、左手をミナスさんの腰に回した。
おぉ!それっぽいそれっぽい!!
ノヴァの目も光り輝いてるよ!!
入刀と共にセラさんもパシャパシャ撮りまくってる!
「先輩、目線こっちください」
「もうセラ、何枚撮る気よ」
「次行くっすよ?」
撮られまくって照れつつ、2人はスプーンを手に取った。
ケーキを掬い上げ互いに食べさせ合う。
そうしながら笑い合う2人は、本当に幸せそうだった。
そんなこんなで楽しい時間はあっという間に過ぎ、そろそろパーティーもお開きかなという頃合いになる。
お腹もいっぱいだ。
「あ、皆さん。終わる前に集合写真も撮りませんか?」
終了になりそうな空気を感じ取って、セラさんが提案する。
こんな機会なかなか無いし大賛成だ!
「うん、撮ろう撮ろう!」
「撮った写真貰えるかのぅ?」
「勿論です」
リュデルさんの言葉に頷くセラさんに更にテンションが上がった。
考えてみたら、これは初めての家族写真かも。
主役であるミナスさんとクヴァルダさんを中心に、みんなで集まる。
すぐにカメラを構えるセラさん。
「では、撮ります」
「お願いしまーす!」
そうして、何枚か写真を撮った。
もちろんセラさんが入ったものも撮る。
「写真にするのは後になりますが、先に確認しますか?」
セラさんは撮った後、まだ写真になる前のデータをタブレットで見せてくれた。
すご。
こんな機能まであるんだ。
それにしてもどれも良い写真な気がする!
後で貰えるの楽しみ!
すると、じっくりと見ていたジーゼさんが幸せそうに微笑んだ。
「フフ…やっぱり提案して正解だったわね。2人の晴れ姿が見られて…すごく嬉しいわ」
「あぁ、そうじゃな」
ジーゼさんの言葉に、リュデルさんも笑顔で頷く。
みんなも嬉しそうな2人を見て微笑んだ。
そんな中、父さんだけは僅かに視線を落とす。
どうしたんだろう?
「父さん?」
気になって、白衣をちょっと引きながら声をかけた。
父さんは何も言わず、ただ微笑んで俺の頭を撫でる。
よく分かんないけど大丈夫って事かな?
なんとなく、それ以上は聞くのをやめた。
「写真も撮ったし、そろそろお開きにしましょっか」
「そうっすねー」
写真鑑賞して満足したミナスさんとクヴァルダさんがそう告げる。
主役の2人が宣言したなら本当に終わりだろう。
終わるとなるとちょっと名残惜しいなぁ。
と、クヴァルダさんがハッとして言った。
「あ!結婚式の大事なこと1つやってなかったっす!」
「大事なこと?」
キョトンとしてみんなクヴァルダさんを見る。
クヴァルダさんはクルッとミナスさんの方を向いた。
そして躊躇いなく顔を寄せる。
――チュッ
「!」
わぁぁ!ちゅーした!!
ビックリした!!
「誓いのキスっすよ〜」
「ちょっ、確かにしてなかったけど…!今する!?もうっ、バカ…!」
進行関係無しの不意打ちに、顔を赤くしたミナスさんは逃げるように着替えに走っていった。
そんなミナスさんを楽しそうに笑いながら見てるクヴァルダさん。
もしかして酔ってる?
結果的にクヴァルダさんの行動で、最後まで騒がしいままお開きとなったのだった。
そして現在、俺達はパーティーの後片付けに勤しんでいる。
「クヴァルダさん達、主役だし手伝わなくても良いよ?」
「いや、流石に悪いっすよ」
「ええ。皆んなにやらせて休むとか、逆に落ち着かないわ」
着替えて普段通りの格好に戻った2人も一緒に片付けてくれていた。
食器類が特に多く、リュデルさんがジーゼさんと談笑しながら洗ってくれている。
一方で父さんはテーブルの食器を重ねてノヴァに手渡した。
「ノヴァ、これもリュデルさんに持っていってくれるか?」
「はい、わかりました」
「ん!?」
あれ!?
父さん今ノヴァのこと呼び捨てにした!?
実の息子の俺でさえ、最初は君付けだったのに!!
「やばい、俺クヴァルダさんの気持ちわかっちゃったかもしれない…!なんか悔しい」
「わかってくれるっすかリオルくん。けど、義兄さんから見たらノヴァちゃんは義理の娘(確定事項)っすからね…。文句は言えないっすよ」
「ぐ…確かに…!」
悔しいが何も言えずギリリと歯噛みしてクヴァルダさんと共に父さんを見る。
すると、俺達をチラッと見た父さんがミナスさんに声を掛けた。
「ミナス、こっちも頼めるか?」
「はーい♪」とミナスさんがニコニコ答え、逆に俺達は愕然として叫ぶ。
「あー!!それは無いっすよ義兄さん!!」
「わざとだ!!今のは絶対わざとだ!!」
義理の妹とはいえ、いきなりミナスさんまで呼び捨てにするなんて!
さては俺達の反応を見て楽しんでるな!?
父さんめぇえ!!
ムキーっとして睨みつけても笑う父さん。
が、突然ハッとして叫んだ。
「全員何かに掴まれ!」
「「「「!」」」」
――グラッ
声に反応して咄嗟に手摺りに掴まった瞬間、船が大きく揺れ動いた。
セラさんも慌てた様子で声を上げる。
「皆さん!気を付けて下さい!ラズウェルの海域に入ったようです!瘴気の影響で、ここからは魔物が多く出ます!」
そうセラさんが言った直後、船の近くの海面が大きく膨らんだ。
目の前に大型の魔物が姿を現す。
蛇のような、竜に似た姿をした魔物だ。
「あれは…リヴァイアサン!?よりによって…!」
強敵の出現に歯を喰い縛り、銃を取り出そうとするセラさん。
だが、それよりも早く父さんが床を蹴ってリヴァイアサンの上まで跳んだ。
「絶息術式 インフリクト テムノー」
空中でメスを剣に変化させ、リヴァイアサンの首を大きく切り裂く。
正直この時点で致命傷に見えるが、暴れて船を壊されたら困るので念の為クヴァルダさんと俺も後に続いた。
「変質加工 鉄槌 スマッシュ!」
「天流剣技 時雨 ネロ!」
クヴァルダさんが巨大なハンマーを振り下ろし、俺が水を纏った突き攻撃を雨のように降らせる。
容赦無い追撃と共に、リヴァイアサンは登場したのも束の間海の藻屑と化した。
沈む前にその体を足場にして跳び3人揃って船に戻る。
参戦する暇も無かったセラさんが、ポカンとして口を開いた。
「は、話には聞いていましたが…皆さん本当に強いのですね。リヴァイアサンを瞬殺する程とは思いませんでした…」
まぁヴェクサシオンとかに比べたらね。
離れた所でノヴァも「リオルくんすごい!かっこいい!」と絶賛してくれてる。
俺だけ見てるの?
嬉しい。
しかし喜びに浸る時間は短く、またしてもザバザバと海から色んな種類の魔物達が現れた。
その内のサハギン数体が、甲板へと跳んでくる。
うわ、この半魚人見た目キモ!
「そっちは任せたぞ」
と言い、父さんは海面の方の魔物を対処しに行った。
俺とクヴァルダさんが船上のサハギンへ目を向けると、距離の近いミナスさんとノヴァが先に動く。
「氷結魔法陣 ペースト アクティベーション!」
マジックバッグから魔石を取り出し、タブレットで映し出した魔法陣を貼り付け魔法を発動するミナスさん。
その攻撃によって、サハギンが凍りつく。
やっぱりその攻撃カッコいい!!
と、ノヴァも掌を向ける形で片手を前に出す。
「戯糸召喚 縛!」
ノヴァの周りに光が浮かび上がり、そこから勢いよく糸が飛び出して凍っていなかったサハギンを捕縛した。
余程強靭な糸なのか、微動だに出来ないサハギン。
うわノヴァもすごい!!
「今よ!」
「2人ともお願い!」
「「了解!」」
2人からの合図を受けて駆け出し、クヴァルダさんが凍ったサハギンをハンマーで砕いて俺は捕縛されたサハギンを切り裂いた。
これは楽だ!
「ノヴァすごいね!」
「そんな、リオルくんの方がすごいよ」
お互いに褒め合ってニコニコする。
ミナスさんとクヴァルダさんがジリ…とにじり寄ってきたけど、父さんが海から甲板へ戻ってきた事でサッと退いた。
「ふぅ…キリがないな」
海面まで出てきた魔物は殆ど片付けたようだけれど、確かにまだ近付いてきてる気配がする。
魔物達のせいで船も揺れっぱなしだ。
まさかラズウェルに近づいてこんなに魔物が出てくるとは思わなかった。
するとその時だ。
キッチンで片付けをしていたリュデルさんがユラリと姿を現した。
「「「…!!」」」
なんとなくその雰囲気に危険を感じて、全員がサッと道を空ける。
ゆっくりと船首の方まで歩いていったリュデルさんは、海が見渡せる所まで行くと手摺りを掴みながらピタリと足を止めた。
「ワシの愛するジーゼが……船酔いするじゃろうが!」
――ゴオッ!!
とんでもない闘気が、リュデルさんを中心に辺り一面に広がる。
ビリビリとした空気にノヴァやセラさんも倒れそうになったくらいだ。
その闘気が鎮まった頃には、海はまるで最初から何も無かったかのようにシィ…ンと静まり返っていた。
「フン、まったく…」と鼻息1つ吐きながらジーゼさんのもとへ戻っていくリュデルさん。
えぇ…
あの勇者、闘気だけで魔物達撃退しちゃったよ。
俺達の戦い何だったの?
因みにセラさんはあまりに規格外なリュデルさんの強さに、よもや真っ白になっていた。




