第34話 パートナー
「アーウィンとは、まさか…!」
「はい、要石を作った男です」
え!?
要石って…先日壊した!?
千年前に作られたやつ!?
「その家紋が描かれたローブを着ていたなら、何かしら関係がある筈です。あくまで可能性ですが、もしかしたらアークデーモンに滅ぼされた小国…『ラズウェル』にヒントがあるかもしれません。彼の出身地ですから」
ミナスさんの言葉を聞き、国王様は「ふむ…」と顎に手を当てた。
「成る程、調べてみる価値はありそうだな。よし、遠征になってしまうが騎士団の方で今すぐ調査隊を組んでもらえるか」
「は!」
国王様の命にすぐに頭を下げて了承するレイナードさん。
けれど、そこにミナスさんが口を挟んだ。
「国王様。差し出がましいのですが…その男の調査、ギルド『黒兎』に任せていただけませんか?」
急な進言にパチクリする国王様。
「それは…こちらとしては願ったり叶ったりだが、良いのか?」
「はい。どうか協力させてください」
真剣なミナスさんの表情を見て、国王様は頷いた。
「そうか。では、こちらからギルドに正式に依頼しよう。騎士団の方でも引き続き調査を頼むぞ。情報共有等の協力もしてやってくれ」
「は!お任せください」
それから、これ以上ノヴァに負担を掛けないようにと国王様達は退室していく。
俺達だけになったところで、さっきまでレイナードさんとやり取りしていた為ドアの前に立っていたミナスさんがこちらを向いて笑みを作った。
「ごめんね皆んな。自分から同行させてって言ったけど…ここで一旦お別れだわ」
「「「!」」」
え!?お別れ!?
何で何で!?
「お、お別れってどういう事!?」
「どうしても…その男の調査、あたしがやりたいの」
ミナスさんの表情から、何か事情があるんだとわかった。
クヴァルダさんがミナスさんの傍に寄る。
「やっぱり杖のって…そうなんすか?」
聞かれて、グッと口を閉じてから少し泣きそうな顔で頷くミナスさん。
クヴァルダさんも苛立ったように歯を食いしばった。
どうやらクヴァルダさんも理由がわかったらしい。
「どうしてか、聞いても良いかしら?」
2人の様子を見てジーゼさんが口を開く。
ミナスさんはこちらに顔を向けて頷いた。
「…はい。少し長くなるので、座って話しますね」
その言葉を受けて、みんなで椅子に座り直す。
クヴァルダさんが気遣うようにミナスさんの隣に腰掛け、目を合わせて頷いてからミナスさんは話し始めた。
「これは、あたしが情報屋になった理由でもあるんですが…15年前に奪われた大事なパートナーを探してたんです」
パートナー?
それって一体…。
「実はあたしも…シルク族のように珍しい種族の1人なんです。アルフ族っていうんですけど、えと…先にアルフ族について説明しますね」
ミナスさんはわかりやすいように種族の事についての説明から始めてくれた。
「あたし達アルフ族は必ず1人に1体、獣型のパートナーがいるんです。捕まえるとかじゃなく、母親から生まれる時に卵を持って生まれる不思議な性質があって…。えっと、皆んな魔力を持ってますよね?それが本人と分離して形になったモノと思ってもらえれば分かりやすいかと」
確かにそう言われるとわかりやすい。
自分の魔力が卵として一緒に生まれるなんて不思議な種族だなぁ。
「魔力の化身である卵はやがて孵化し、獣の形となって主人と共に成長します。自分の分身のようなモノで、魔法等を使う時もその獣を通して使用する…本当の意味で、アルフ族にとってのパートナーは一心同体なんです」
その話を聞いて、一つ思い当たった。
「それじゃあ…ミナスさんが魔法使えないのって…」
「ええ…。パートナーである獣を、奪われたからよ」
俺の質問に頷いて答えるミナスさん。
辛そうな顔をしながらその時の事を話し始める。
「15年前…あたしがまだ10歳の時です。パートナーの獣は『コンキュルン』って名前なんですけど、あたしは『コンちゃん』って呼んでました。そのコンちゃんといつものように森で遊んでいたんです。そしたら、本来なら安全な筈の森に突然バジリスクが現れて…あたし達に襲いかかってきました。でも、それに慌てる事もありませんでした」
バジリスクって、結構強い蛇の魔物だよね?
10歳の子供が対応できるような相手じゃないのに慌てなかったの?
「実はアルフ族のパートナーは魔力の化身ってだけじゃなく、もうひとつ特別な能力があるんです。それが、魔物と共鳴して一時的に使役する能力です」
魔物を一時的に使役!?
なるほど、それで慌てなかったのか!
「勿論、魔物全てを使役できるって訳じゃありません。使役能力の高さは人それぞれで、弱い魔物しか使役できないアルフ族も多いです。でもあたしは特にその力が強くて…まだ成長途中の子供だったのに大人達より強く、村の中でも1番でした。なのでかなり強い魔物でも使役できたんです。両親も鼻高々に自慢してて…だからこそ、驕ってたし油断してたんだと思います」
不穏な言葉に俺達はより押し黙る。
「出現したバジリスクにも引き返すよう命令して直ぐに追い払いました。…その直後です」
手をギュッと握って俯くミナスさん。
その表情には僅かに恐怖も滲んでいる。
「真後ろから突然、『素晴らしい能力だな』と讃える男の声が聞こえました。でも、それを言ったのが誰か確認する事は叶わなかったんです。振り返る前に後頭部に衝撃が走り、意識を失ってしまいましたから…。そして目が覚めると…片時も離れず傍にいたコンちゃんが消えてしまってました。たった一瞬の出来事で、あたしは力の大半と大事なパートナーを失ってしまったんです」
つまりその男に殴られ、気を失っている間に攫われたという事だろう。
非力な子供相手に酷い…。
ミナスさんは油断と言ったけど、10歳の女の子が対応できるとも思えない。
「目覚めてから必死にコンちゃんを探しましたが…見つける事は出来ませんでした。そして、パートナーを失った者はアルフ族として認められません。可哀想にと同情する人もいる反面、冷ややかに見る人々が増えました。いつまでここに居座るつもりなのかと、そんな声もあちこちから聞こえ、あれ程自慢げだった両親や兄達からも疎まれ…あたしは村を出ざるをえませんでした」
「…!」
ただでさえ酷い目に遭ったのに、村の人や家族にまでそんな扱いを受けるなんて。
そんなのあんまりだ。
「でも、力の無い子供が1人で生きていける筈も無くて…空腹で力も出ない状態の中で魔物に襲われ、命を落としかけました。そこを、偶然通りかかった今のギルド長に保護されたんです」
ギルド長って、情報ギルド黒兎のか。
そういう切っ掛けだったとは。
「ギルド長も最初は一時的な保護のつもりだったんでしょうけど、コンちゃんを見つけ出したいあたしにとって情報ギルドは打ってつけの場所でした。なのでギルドに入れてもらおうと必死に頑張って知識や最低限の戦う力も身に付けて、自分を売り込んだんです。子供を入れる事を渋っていたギルドも最終的には折れてくれて、12歳で正式に加入しました」
12歳って、俺が孤児院を出て冒険者を始めた歳だよ。
その頃に情報ギルドの正規員として活動し始めたとか凄すぎる。
「それから情報屋として活動しつつも、ずっとコンちゃんの手掛かりを探してました。でも全く掴むことが出来ず…コンちゃんは既に殺されてるんじゃないかって何度も何度も思いました。それでも諦めきれなくて、ずっと探し続けてたんです」
苦しそうに語るミナスさんの手に、クヴァルダさんがそっと手を置く。
それをミナスさんも縋るようにギュッと握った。
「…コンちゃんは…真っ白で狐に似た姿をしています。そして、常に蛍のような光を纏ってました」
「! それって…」
「はい…。さっきノヴァちゃんが話してくれた男の杖に付いてた尻尾の特徴と、完全に一致するんです」
「…!!」
ジーゼさんの質問に答えたミナスさんの言葉に絶句する。
それはつまり、犯人が黒いローブの男である可能性が高い上に、ミナスさんのパートナーであるコンキュルンの尻尾を切断して持ち歩いているという事だ。
最悪の想定が頭を過ぎる。
でもその想定を、ミナスさんが否定した。
「もし…それがコンちゃんの尻尾で間違いないなら、コンちゃんは生きてます。アルフ族の獣は、死ねば消滅してしまうので死体が残る事もありません。必ず…どこかに居ます」
必死な表情で、ミナスさんはバッと顔を上げる。
「初めて…初めて掴んだ手掛かりなんです!コンちゃんを見つけ出せるかもしれない…救い出せるかもしれない…。だから、どうしてもあたしが行きたい…行かなきゃいけないんです!」
ミナスさんが別れを切り出した理由がようやくわかった。
きっとそのコンキュルンは、ミナスさんにとって俺達が想像するよりずっと大事なパートナーなんだろう。
他の人になんて、決して任せられない程に。
すると、クヴァルダさんがミナスさんの肩を掴んで自分の方に向かせた。
「ミナス、オレも一緒に行くっすよ」
「!」
ミナスさんは驚いて目を見開く。
「だっ、駄目よクヴァルダ!あなたはジーゼさんのベッドを作んなきゃいけないんだから…!」
「いーや、ここで妻を1人で行かせたら夫失格っすよ!」
そう笑って言ったクヴァルダさんにミナスさんの瞳が揺れた。
「クヴァルダ…でも…」
尚も戸惑うミナスさんに、今度はリュデルさんが口を開く。
「心配なんぞせんでええぞ!ワシらも一緒に行くからの」
「え?」
信じられないようにクヴァルダさんからリュデルさんの方へ目を向けるミナスさん。
リュデルさんに続くようにジーゼさんも言う。
「ミナスさん、クヴァルダと結婚したんだからあなたもワタシ達の大事な孫よ?」
「そうじゃぞ。孫は孫らしく頼ったらええ」
その言葉に、ミナスさんは涙を浮かべる。
「でも…ユルとの決闘が…」
「アイツなんぞ待たせとけばええんじゃ」
「そうよ。時間指定された訳でもないんだから」
平然としてそう言い放つ2人。
更に、シュルツさんも立ち上がって続く。
「そもそも、その男がヴェクサシオンを連れていたなら私達と無関係とは言えないからな。こちらとしても、放ってはおけない」
シュルツさんの言葉に、俺とノヴァも同意して頷いた。
ミナスさんが罪悪感を持つ必要なんて微塵も無い。
「お義兄さん…皆んな…」
もう断る理由なんて無くなったミナスさんは、ぽろりと涙を零した。
「ありが…とう…」
ついに素直に受け入れたミナスさんにみんな笑みを作る。
こうして俺達はミナスさんのパートナー、コンキュルンへの足掛かりを掴むべく滅ぼされた小国ラズウェルへ向かう事になったのだった。




