第33話 旅の終着点
「いやー焦ったっすよ」
「本当ね。まさか向こうから接触してくるなんて…」
額の汗を拭うような仕草で言うクヴァルダさんとミナスさん。
確かに、ベッド作製の為に必要な材料が向こうからやってくるなんて俺も思わなかったよ。
「リュデルさん達、ユルとも戦った事あったんだね」
「実はのぅ、2人旅してた時に最後に戦った相手が奴なんじゃよ」
「そうなの!?」
ユルとの戦いが旅の終着点だったとは!
いや、最強の魔物との戦いだから完璧かもしれない!
「どれ、可愛いひ孫に昔話をしてやるかのぅ」
俺の頭を撫でながら思い返し始めるリュデルさん。
「ユルは戦う事に誇りを持ち、強さを求め続ける魔物じゃ。そんなユルは冒険者らを見つける度に有無を言わさず戦いを挑んでおったのじゃよ。戦わずに逃げようとする者にも容赦なくな。おかげで犠牲になる者が相次いでの…それを止めようとワシとばあさんは奴に立ち向かう事にしたんじゃ」
世界最強の魔物に突然戦いを挑まれた人達は悲惨だな…。
見つかったら最後、断る事も出来ないとか怖すぎる。
「そしてな…そんなユルと戦う事を決めた時、ワシはもう一つ決意を固めたんじゃ」
「決意?」
「うむ、ユルとの戦いが終わったら…ジーゼにプロポーズするとな!」
ぷ、プロポーズ!?
おぉお…最強の魔物と最終決戦して結婚申し込むとかマジで勇者っぽい!
普通ならフラグ立って死んでるとこだよ!
ジーゼさんも思い出したのか「ふふふ…」と嬉しそうに笑う。
求婚の時の話を、リュデルさんは詳細に語ってくれた。
********
「これで…終わりだ!!」
――ズバァァン!
ユルとの死闘の末、リュデルは最後の一撃を喰らわせた。
《グ…アァァ…》
渾身の一撃によって、ついに地面に落ち動かなくなるユル。
それは勝敗が決した瞬間だった。
リュデルは戦いが終わったと分かり、息を切らせて片膝をつく。
「はぁ…はぁ…」
そんな傷だらけのリュデルに、ジーゼは慌てて駆け寄った。
「リュデルさん!大丈夫!?」
「あ、あぁ。平気だよ。ありがとう。ジーゼの強化で勝てたようなものだ」
「そんな、私なんて大した事してないわ。リュデルさんの力よ」
謙遜するジーゼを前に、リュデルは一度唇を引き結んだ。
言うなら、今しかない。
そして何とか足に力を込めて立ち上がった。
「…ジーゼ。コイツを倒したら、あなたに言おうと決めていたことがあるんです」
改まった言い方に、ジーゼも察して顔を紅潮させる。
それでも逃げ出したりせず、真っ直ぐリュデルを見つめ返した。
「君がおやすみって言う度に、それに返事をするのがずっと俺だったら良いのにって思っていました。この先もずっと…おじいさんおばあさんになってもずっとそうでありたい。だから…」
頬を染めたままジーゼの手を両手で握るリュデル。
「俺と…結婚してください!!」
と、その瞬間だった。
《グキョァア!》
「「!?」」
いきなり聞こえた声に慌てて2人で目を向ける。
そこには、倒した筈のユルが瀕死の状態でバッサバッサと逃げ去る姿があった。
フラフラとしながらも飛んでいき小さくなっていくユルに呆然とする2人。
ユルを倒した完璧な状況で告げようと心に決めていたリュデルからすれば、一世一代のプロポーズを台無しにされたようなものである。
「い、生きて…しかも逃げ…」
衝撃のあまり、口をパクパクさせながら言葉をこぼすリュデル。
すると、ジーゼが可笑しそうに笑い出した。
「ふ…ふふ…」
そのジーゼの反応にリュデルは慌てふためいて何とか取り繕うとする。
「あ、あの、ジーゼ!いい今のは…」
「本当、あなたと居たら飽きないわね」
「え?」
笑って浮かべた涙を指で拭いながら、ジーゼはリュデルに幸せそうに微笑んだ。
「これから先も…ずっとよろしくお願いします」
それは、ジーゼからリュデルへのプロポーズの返事だった。
一気に喜びが膨らみ、ジーゼを抱き締めるリュデル。
こうして2人の旅は、結婚というゴールで幕を閉じる事になったのだった。
********
「あの時は喜びのあまりユルの事なんぞ忘れてそのまま逃してしもうたからのぅ」
「ふふ、そうねぇ。まさか今になって再戦することになるなんて思わなかったわ」
幸せそうにほほ笑み合いながら言うリュデルさんとジーゼさん。
わぁ、なんか良いなぁこの2人。
こう理想的な2人って感じがする。
ミナスさんとノヴァも「「素敵…」」と呟きながら目をキラキラさせてるよ。
因みにシュルツさんとクヴァルダさんは若干距離を取っている。
耳タコなのか自分の時と比べているのかは俺にはわからない。
「おぉ、つい長話してしもうたの」
「あら本当ね。ユー君達が待ちくたびれてるかもしれないから行きましょうか」
そういえば城にまた行かなきゃいけないんだった。
すっかり忘れてたよ。
そんな感じで、俺達は再び王都イシュピールへと引き返したのだった。
「やぁ君達!待っていたよ!」
城門前でそう声を掛けてきたのは、銀の髪や瞳にやたらと煌…レイナードさんじゃん!
「レイナードさんが何で俺達の出迎えに?」
「今回の事件の調査の為に、騎士団の代表として聞き取りに立ち会うことになってね」
「なるほど」
レイナードさんとも何かと縁があるな。
でも顔馴染みの人だと安心感があるから良かったかも。
と、不意にレイナードさんがノヴァへと目を向けた。
「おや、随分と可憐な子が増えてるね。よろしくねお嬢さん」
そう言ってノヴァに向かって綺麗にウインクするレイナードさん。
前言撤回だ!
俺のノヴァに粉をかけようとするとは何事か!
「リ、リオルくん…っ」
しかし、ウインクされたノヴァは怯えてササっと俺の後ろに隠れた。
怖がられてレイナードさんも「おや?」と汗を垂らしている。
ふふん、ざまぁみろ。
「レイナードさん、ノヴァに手を出したら許しませんよ」
「いやいや、心外だな!流石に少女に手を出すような事はしないよ!」
慌てて両手をブンブン振りながら否定し、ミナスさんの方に手を向ける。
「もし本気で口説くならあちらのような美しい大人のレディにするさ!」
指し示されたミナスさんは「ま♡」と言いながら満更でもなさそうに頬に手を添えた。
その隣でクヴァルダさんが怒りだす。
「オレの嫁に手を出したら生きては帰さないっすよ!」
「い、いや例えの話だよ!?勇者達を敵に回す気なんて無いさ!そ、それより国王様方が待っておられるから早く行こう!!」
これ以上話が拗れる前にと慌てて案内を始めるレイナードさん。
俺とクヴァルダさんが若干の警戒をする中、全員でその後を付いていった。
「いやー本当なんて言うか…リュー君たちは国の危機を救うのが趣味なんか?」
案内された貴賓室で頭を押さえながら言ったのは先王様だ。
毎回思うけど、玉座の間とかへの呼び出しじゃなく豪華な部屋でもてなされるのって変な感じ。
あと招かれる度に部屋がグレードアップしてるのは気のせいかな?
「まぁ今回はワシらがヴェクサシオンを追い詰めたせいであぁなった訳じゃし、変に讃えんでええぞ」
「しかし、それもシルク族の村を滅ぼしたヴェクサシオンを倒す過程での話であろう?王家としても、討伐してくれた事にはやはり感謝せねばねらん」
リュデルさんの言葉にそう答えたのは国王様。
シルク族に何かあれば王家が手を貸す約束をしていたからってのもあるのかな。
「あ…あの…」
するとここで、おずおずとしながらもノヴァが手を挙げた。
自ら挙げたものの、みんなの視線を受けるとビクッとして俺にしがみ付く。
「君はシルク族唯一の生き残りの子だね?大丈夫だよ、何でも言ってごらん」
怯えるノヴァを見て出来るだけ優しく問い掛ける国王様。
ノヴァはビクビクしながらも何とか言葉を口にした。
「その…村を、滅ぼしたの…正確に言うと、ヴェクサシオンじゃありません…」
「「「「!!」」」」
その場の全員が目を見開く。
村の状況はどう見てもヴェクサシオンが破壊した形跡だった。
それなのに違うって一体…。
「どういう…事かな?」
続けてされた先王様の質問に、辿々しくも答えるノヴァ。
「早朝に…金色の模様が刺繍された黒いローブを着た男の人が、ヴェクサシオンを連れて村へやって来て…」
「黒いローブの男だって!?」
驚いて声を上げたのはレイナードさん。
その声にノヴァがまたビクリとして「ひゃうっ」と俺の肩に顔を埋めた。
キッと睨む俺に「す、すまない」と謝る。
「確か…騎士団が追っているのも黒いローブの男であったな?」
「はい。同一人物の可能性が高いかと思い…失礼致しました」
国王様に問われてレイナードさんは謝罪しながら答えた。
確かに前回会った時にそんな話をしていたな。
みんな話の続きを聞きたそうだが、怯えるノヴァに無理強いできず困った顔をする。
そんな中でシュルツさんが俺に目を向けた。
「リオル」
小声で俺の名を呼びながら目で促す。
意図を読み取って、俺からノヴァに話しかけた。
「ノヴァ、続き話せる?」
「う…うん」
俺が問うとノヴァはすぐに顔を肩から離す。
そしてまた続きを話し始めた。
「その人…シルク族が作り出す、魔物を捕縛できる頑強な糸を要求してきたんです。もし断れば、ヴェクサシオンにこの村を襲わせると脅してきて…。それで、村を守る為に要求通り糸を渡したんですが…」
ノヴァは涙を浮かべてカタカタと震えだす。
その様子に、勘付いてまさかと思った。
「渡したのに、ヴェクサシオンを放ったの?」
俺が聞くと、ノヴァは涙を溢しながらコクンと頷く。
酷い内容に全員の顔が険しくなった。
要求に従ったのに結局皆殺しにしようとしただなんて惨すぎる。
「もしかしたら…うちのギルドの子を殺したのもそいつかも…」
そう呟いたのはミナスさん。
「電話で言ってた子の事っすか?」
「ええ、同じ手口だと思うのよ。脅してシルク族の村の場所を吐かせて、その上で口封じに殺した…。本来ギルド員なら命の危機であっても絶対情報を漏らしたりはしないんだけど、新人の子だったし有り得るわ」
確かに、その流れなら納得できる。
情報ギルドの人から場所を聞き出して、それからシルク族の村へと向かった。
そんな男の行動が俺でも想像できた。
それにしても…あのヴェクサシオンを従えていたなんて、一体そいつは何者なんだろう。
もうちょっとその男について聞いた方が良いかもしれない。
と、みんな同じように思ったようでメチャクチャ俺の事を見てきた。
わかったよ聞くからそんな見ないで!
「ノヴァ、その男がどんな奴だったか思い出せる?」
「え…と…、フードを被ってたから顔はよくわからなくて…。あ、でも変わった杖を持ってたよ」
「杖?」
「うん。すごく嫌な感じがする石が付いてて、それとは反対に綺麗な…蛍みたいな光がこぼれる真っ白いシッポみたいなのも付いてたの」
ノヴァがそう言った瞬間、ミナスさんが「ぇ…」と声を溢しながら顔色を変えた。
明らかに様子がおかしい。
ミナスさんはノヴァの近くに寄り、しゃがんで自ら聞いた。
「ノヴァちゃん、他には何か特徴とかあったかな?」
低い位置からの優しい声掛けで、ノヴァも怖がる事なくミナスさんに視線を向ける。
「えと…他…」
懸命に思い出そうとするけれど思いつかない様子のノヴァ。
ミナスさんは追い込まないように微笑む。
「何でも良いのよ。こんな髪色だったとか、何か変わった模様があったとか」
「あ!」
ミナスさんの言葉で何か思い当たったらしい。
「そういえばローブの胸元に…蛇と三日月の模様がありました」
「!」
それを聞いて、ミナスさんは目を見開いた。
どうやら何か分かったらしい。
他のみんなも首を傾げてるから、わかったのミナスさんだけっぽいな。
さすが情報屋。
「間違いないわ…アーウィンの、家紋」
アーウィン?誰だろう?
そう思ったけれど、国王様と先王様も驚いたようにミナスさんへ顔を向けた。




