第29話 遺されたモノ
「あれは…!?」
見上げた上空には、大量の氷の粒子が集まり出していた。
中心部分に、どんどんと大きな氷塊が形成されていく。
「アイスメテオじゃ!かなりデカいぞ…!」
リュデルさんがそう叫び、動揺が走った。
ドラゴンのフレイムブレスのように、ヴェクサシオンのアイスメテオは街一つを消せると言われている。
けれど、このメテオの大きさは街なんてもんじゃない。
王都も含めこの辺り一帯全てを消せそうな程の大きさになろうとしていた。
これが特殊個体の力だと言うのだろうか。
「あれが落とされたらマズいっすよ!」
「あぁ、大勢が死ぬ…!」
事態は深刻だ。
空が隠され辺りが暗くなり始めるほどに氷塊は大きくなり続けている。
下手をするとこの国の半数近くが死ぬかもしれない。
「絶対に技を使わせてはならん!アイスメテオが完成する前に倒すぞ!!」
突き付けられたタイムリミットに、全員が地面を蹴った。
このヴェクサシオンの頑丈さは異常なのだ。
時間さえ掛ければ確実に倒せるが、技が完成する前に倒さなければならないとなると大きく話が変わってくる。
「天流剣技 雷鳴 スリュムヘイム!」
「変質加工 金槌 プレス!」
「絶息術式 インフリクト エモラギア!」
《グァァアア…ッ!》
同時に技を発動しての一斉攻撃。
しかし、確実に効いてはいるがアイスメテオを練り上げる魔力は止まらない。
それだけでなく、ヴェクサシオンはメテオを形成しながらも違う魔法まで併用して使ってきた。
「!」
無数の氷柱がまた空中に出現し、俺達に向けて撃ち込まれる。
剣で防ぎつつ避けるが、腕や足に刺さってしまった。
激痛が走るけれど、今は止まってる時間も無い。
「リオル!」
「大丈夫!治療より先にコイツを!」
治療を施そうとしたシュルツさんを自ら止める。
戦う事を選択したのは自分だ。
絶対に足を引っ張りたくない。
それに何より、どうしてもこのヴェクサシオンが許せなかった。
リュデルさんとジーゼさんの孫でありクヴァルダさんの姉…そしてシュルツさんの奥さんであるアリアさんを殺した魔物。
ノヴァの住む村を壊滅させて、迎えてくれた家族を全員殺した魔物。
更には今、もっともっと沢山の人々を殺そうとしている。
一体どれ程にみんなの大事な人を奪い取れば気が済むのだろう。
どれだけの人を悲しませるつもりだろう。
絶対これ以上…犠牲を出しちゃダメだ!
「…わかった!行くぞ!」
俺の決意を受けたシュルツさんと頷きあった。
ヴェクサシオンを倒す事を最優先にする。
「はぁ!!」
痛む足に力を込めて、再び斬りかかった。
「ワシらも続くぞ!」
「もちろんっす!」
リュデルさんとクヴァルダさんも俺達と同じように攻撃を仕掛ける。
ヴェクサシオンは尚も抵抗して爪での攻撃や氷魔法での攻撃をしてくるが、それを一々避ける事もやめた。
全員が致命傷になるものだけを防ぎ、攻撃のみに集中する。
《グルァァアア…!》
傷だらけになりながらの捨て身の攻撃に、ヴェクサシオンは一気に消耗していった。
けれどメテオの形成は止まらず、空は氷塊で埋め尽くされてもう少しで完成というところまできている。
間に合え!
間に合え…!
ヴェクサシオンは最後の抵抗とばかりに、空中にこれまで以上の量の氷柱を作り上げた。
だが俺達も止まるわけにはいかない。
「あと一息じゃ!次で仕留めるぞ!!」
リュデルさんが最後の攻撃の合図を出した。
確実に倒すべく、全員が魔力を練り上げる。
《ガァァアアァア!!》
向こうも倒されまいと、作り上げた大量の氷柱を撃ち込んできた。
その嵐のような氷柱の中へ全員で飛び込んでいく。
体に突き刺さろうとも構わず、残りの持てる力で技を繰り出した。
「絶息術式 インフリクト サーナトス!!」
「変質加工 金槌 イレカバブル!!」
「「天流剣技 暁 アナラビ!!」」
シュルツさんが複数の急所にメスを突き刺し、クヴァルダさんが頭を叩き潰して、俺とリュデルさんは横一線に切り裂く。
その総攻撃に、ついにヴェクサシオンは力尽きた。
《ガ…ァ……》
巨体が完全に地面に倒れ、土埃が舞う。
そして空を覆う程の氷塊が一気に霧散した。
キラキラとした氷の粒子が舞い、青空が広がる。
終わったのだと報せるには充分な光景だった。
最悪の事態を、どうにか避ける事が出来たのだ。
――ドサッ
「はぁ…はぁ…」
力が抜け、俺達は地面に座り込む。
みんな傷だらけで、満身創痍といった状態だ。
それでもその中で、シュルツさんが立ち上がった。
体をふらつかせながらも、ヴェクサシオンの顔の前まで歩いていく。
目的は…ただひとつだ。
「…返してもらうぞ」
そう一言呟いて、決して魔道具を傷付けないようにしながら牙を切断した。
三角錐の形をした金色の魔道具が転がり落ち、すぐに宙で受け止める。
アリアさんが最期に遺したモノだ。
取り返さない訳にはいかない。
シュルツさんはそれを大事そうに握り締めると、自らの額を押し当てた。
「アリア…。お前と…私たちの子の、仇は取ったぞ…」
髪で表情は見えないけれど、雫が頬を伝って落ちたのがわかる。
その姿を、俺達はただ黙って見守る事しかできなかった。
「取り敢えず応急処置だけだが、問題は無い筈だ。魔力が回復したらちゃんと治療するから、それまで我慢してくれ」
「うん。ありがとうシュルツさん」
あの後、ジーゼさんとノヴァのいる所まで戻った俺達はシュルツさんに医療品で手当てしてもらった。
戦闘でかなりの魔力を消費したので、流石に魔力治療までは施せなかったのだ。
いやまぁ、でもこれが普通だよね?
毎回魔力治療してもらってた事の方が贅沢だったと思う。
それにしても、街で新しい装備にしといて良かったなぁ。
思ったより傷も浅く済んだよ。
前のままだったら危なかった…。
因みに、ノヴァはまだ目を覚ましてはいなかった。
酷い目に遭ったし、自然に目が覚めるまで寝かせておく事にする。
「それにしても、皆んなかなりボロボロねぇ。大丈夫?そもそもおじいさんが怪我するの自体久しぶりに見たわ」
「まぁ今回は防御してる場合じゃなかったからのぅ。じゃがこの通り元気だから安心せぇ!」
心配するジーゼさんに、元気アピールをするリュデルさん。
実際、この中で一番軽傷なのもリュデルさんだ。
さすが勇者。
「あの大きな氷塊が現れた時は、流石に驚いたのよ。ヴェクサシオンを倒して、皆んな無事に戻ってきてくれて…本当に良かったわ」
心からホッとしている様子のジーゼさんにありがたい気持ちになる。
あれだけ巨大な氷塊はどこからでも見えた訳で、ミナスさんからもクヴァルダさんへ無事か確認する電話がかかってきていた。
クヴァルダさん曰く、相当ホッとしていたようだ。
ありがたいなぁ。
だがそんな報告をしたクヴァルダさんが、電話が終わった後も…いや、正確にはその前からずっとソワソワしてるのが気になった。
「どうしたの?クヴァルダさん」
「いや、その…さっき義兄さんが取り返した姉ちゃんの魔道具が気になって仕方ないんすよね」
俺に質問され、後頭部に手を当てながら答えるクヴァルダさん。
あぁなるほど。
そりゃあ気になるよね。
でも一応空気は読んで、治療の間は言わなかったんだな。
「確かに気になるのぅ」
「あの子がただの目印ってだけで魔道具を残すなんて思えないものねぇ」
リュデルさんとジーゼさんも同意して言う。
言われてみれば、目印の為ならわざわざ魔道具じゃなくても良いもんね。
俺もだんだんと気になってきた。
「ねぇシュルツさん、起動してみたら?」
「そう…だな」
みんなからの言葉を受け、一旦マジックバッグに仕舞っていた金色の魔道具を取り出すシュルツさん。
上部がウサギの頭の形になっているが、その下は細長い逆三角形だ。
これならそれなりに深く突き刺す事もできるだろう。
しかもよく見ると、下の尖った部分には矢尻のような返しまで付いていた。
長い期間抜けずに残っていた事にも納得がいく。
早速、その魔道具に魔力を流してみるシュルツさん。
消費したとはいえ、魔道具を使う程度の魔力使用なら問題ない。
「…反応が無いな。何か別の起動方法があるのか…?」
大抵の魔道具は魔力さえ流せば動いてくれる。
それなのに反応が無いってどういう事だろう。
うーん…見た事のない物だし、壊れてるのかどうかも全くわからない…。
…ん?
「シュルツさん、手の下の所…なんか窪みみたいなのない?」
「窪み?」
俺の言葉を受けてシュルツさんが手をずらすと、一見模様にも見える八角形の窪みが出てきた。
それをクヴァルダさんも覗き込む。
「あ、本当っすね!これに何か嵌め込むんじゃないすか?」
つられるように、他のみんなもその窪みを覗く。
「ほら、いかにも嵌め込んでくださいって感じじゃないすか?なんか花と翼の模様も付いてるし。…あれ?この模様どこかで…」
――バッ
次の瞬間、全員が一斉に驚愕の表情で俺の方を向いた。
俺自身も、驚きすぎて立ち尽くす。
「え…?」
あまりにも見覚えのある模様。
それは、俺の宝物である宝石に描かれている模様と…全く同じモノだった。
次回、過去編!
『あの日の真実』
リオルくんは、実は…?




