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第26話 壊滅



「よし、完治だな」


「おぉっ」


朝稽古の後の診察で、腕の火傷が完全に治った事を告げるシュルツさん。

こんな短期間で痕もなく綺麗に治ったよ!

すごい!


「シュルツさんの治療って本当にすごいね。火傷ってずっと残るもんだと思ってた」


「リオルはちゃんと言う事を聞くからな。戦闘時も気を付けていただろう?痛みが無いからと注意も聞かずに悪化させる患者も珍しくないんだ」


「あぁ…」


確かにシュルツさんの治療って痛みがすぐに引くし傷もくっ付けるから治った気になっちゃうんだよね。

逆らわなくて良かった。


「おーいお前ら、メシの時間じゃぞ〜」


と、宿からリュデルさんが声を掛けてくる。

因みに今日はリュデルさんの料理ではなく宿の一階にある食堂での朝ご飯だ。


「うみゅ…。おじいさんのご飯じゃないと…なんだか味気ないわぁ」


「ばあさんは嬉しい事を言ってくれるのぅ」


まだ眠そうなジーゼさんの言葉に喜ぶリュデルさん。

そんな2人も含め和やかに団欒しながら食事を済ませる。


このメンバーでのご飯って久しぶりだなぁ。

最近は6人で過ごしていたからちょっと物足りないような感じもするけど。

前までは1人ご飯も平気だったのに不思議なものだ。


あれ?

そういやクヴァルダさんとミナスさんっていつ頃戻ってくるんだろう?


「シュルツさん、クヴァルダさん達いつ来るとか聞いてる?」


「いや…まぁ、気長に待ってやろう」


食後のコーヒーを口に含みつつ僅かに視線を逸らして答えるシュルツさん。

まぁ新婚さんだし、急かすのも可哀想だもんね。


にしてもコーヒー似合うなぁ。

絶対ブラックだ。


「それ美味しい?」


「飲んでみるか?」


ブラックだ!

この顔は確定だ!


しかし好奇心で一口貰い「苦っ」と顔を顰める俺を笑うシュルツさん。

そんなどうでもいいやり取りをしていたら、当の本人が顔を出した。


「おはよーっす!お待たせしたっす〜」


ニコニコ顔で登場したのは予想通りクヴァルダさんだ。

朝からご機嫌だなぁ。

さすが新婚さん。


…あれ?


「クヴァルダさん1人?ミナスさんは?」


てっきり2人でラブラブやって来ると思っていたのに、なぜか新妻の姿が見当たらない。

質問を受け、クヴァルダさんは後頭部に手を当て若干棒読みで答えた。


「えーと今日は動け…動きたくないから1人でゆっくり過ごすそうっす」


「え!?新婚さんなのに!?」


まさかもう倦怠期!?

大丈夫なの!?


いや、でも、シュルツさんは額に手を当てるだけで何も言わないし、リュデルさん達も「仲ええの〜」なんてのほほんと言ってるから大丈夫…なのかな?


「まぁまぁ!それより、次の目的地の場所も聞いてきたから早速出発しようっす!ミナスも直ぐ追い付けるから先行っててって言ってたっすよ!」


確かにミナスさんならどこに居ても追いついてきそうだけど、置いてっちゃって良いの?

まぁ本人が言ってるなら良いか。


そんな流れで、ミナスさん離脱状態のまま俺達はシルク族の隠れ住む村へ向かう事になった。






「シルク族の村、王都から意外と近かったんだね」


俺達が来たのは王都の北側にあった広大な森だ。

この森の中に、シルク族の村があるらしい。


「そうっすね。ミナス曰く、また何かあった時に王家が手を貸す約束をしてるからじゃないかって話っす」


そっか。

またシルク族を狙う貴族とかが現れた時に、遠すぎると助けを求め難いもんね。


「ここから北西に真っ直ぐ進めば着きそうだな」


クヴァルダさんが広げている地図を横から覗き込みながらシュルツさんが言う。


北西か。

じゃあこっちだな。


が、そう思って歩き出した途端にシュルツさんに手を掴まれた。


「待てリオル。そっちは北東だ」


「え?あれ!?」


言われてみればそうだ!

うわ恥ずかしい!

俺別に方向音痴とかじゃないのに何でそっち行こうとしたの!?


「なるほどのぅ。この糸にはそういう効果があるんじゃな」


「触らないようにしないとねぇ」


顔から火を噴きそうな俺の足元で、リュデルさんとジーゼさんが何かを確認している。

よくよく見ると、リュデルさんの言った通りクモの糸のような細い細い糸が張ってあった。


「え、これは?」


しゃがんで観察する俺の頭上で「あーこれか!」とクヴァルダさんも見ながら言う。


「ミナスから、村に辿り着けないようにする仕掛け糸が張り巡らされてるから気を付けろって言われてたんすよ!」


同じようにシュルツさんも確認して呟く。


「成る程…恐らく触れると無意識に村とは違う方向へ向かってしまう作用があるんだな」


へぇーそんなモノが!

こんな誰でも入れるような森にどうやって隠れてるんだろうと思ってたけど納得した!


てかクヴァルダさん、聞いてたなら言ってよ。

ミナスさんなら絶対先に教えてくれてたよ。


――ピロリロピロリロリン♪


と、そう思っていたところで魔導フォンの着信音が鳴り響いた。

残念ながら俺のではなくクヴァルダさんの物のようだ。

表示を確認してすぐに出るクヴァルダさん。


「ミナス?どうしたんすか?うん。うん、わかったっす」


ミナスさんに指示されたようで、クヴァルダさんは魔導フォンを耳から離してスピーカーに切り替え「OKっすよ〜」と合図を送る。


[皆んな、聞こえる?]


「聞こえるよ〜。ミナスさん今からでも来ません?クヴァルダさん任せだと心配」


「リオルくんなんて事言うんすか!?」


[あ、はは。えと…い、行けたら行くね〜]


それ絶対来ないやつだ。


[それより、ちょっと気掛かりな事があってね」


ミナスさんの声のトーンから、真剣な話だと察した。

何かあったのだと分かり、俺の首に腕を回して仕返ししてきてたクヴァルダさんと共に口を噤む。


「さっきギルドのメンバーから連絡があったんだけど…昨日の夜に新人の子が魔物に襲われて亡くなったらしいの。もちろん、それ自体は珍しい話じゃないんだけどね]


確かに魔物と遭遇して死亡する人は多くいる。

それでも、同じギルドの人が亡くなったとなればミナスさんも悲しいんじゃないだろうか。

少し心配しつつも話の続きに耳を傾ける。


[気になるのが、その子がギルドのタブレットで最後に調べたのがシルク族の村の場所なのよ]


「「「!」」」


え?シルク族の村?

俺達も今向かってる?


[その子の死とそれが関係あるかは分からないし偶然かもしれないけど…どうにも引っ掛かるのよね。だから皆んな、一応気を付けて]


そっか。

心配して連絡くれたんだ。

ありがたいなぁ。


「了解っす。ミナスも気を付けるっすよ?」


[ええ、ありがとう。じゃあまた後でね]


そう言って切られる電話。

内容が内容だけに不穏な空気が流れる。


「ふむ…嫌な予感がするのぅ。お前ら、少し急ぐぞ」


リュデルさんの言葉に、全員でコクリと頷いた。

仕掛け糸に触れないよう気を付けつつ、走ってシルク族の村へと向かう。


暫く走ると、突然森が途切れて開けた空間が広がった。

そして目に飛び込んできた光景に青褪める。


「…!!」


「っ、酷いな…」


そこにあったのは村だった。

いや、かつて村だった場所…と言った方が正しいかもしれない。

それくらい壊滅的な状況だった。


家々は壊され、殆どが瓦礫と化している。

村の人々も引き裂かれたり瓦礫に押し潰されたりで一目で生きてはいないと分かってしまった。

中には無数の氷柱で串刺しになっている人もいる。


「う…っ」


あまりに惨い状況に、吐き気が込み上げた。


みんな…みんな殺されてる。

なんで、こんな事に…。


そして脳裏に過ぎるのは、この場所で最も会いたかった相手。


「…ノヴァっ!」


弾かれたように、俺は駆け出した。

亡くなった人の中にノヴァが居ない事を願い、必死に生きている人を探す。


「ノヴァ!いたら返事してくれ!ノヴァ!!」


叫びながら駆け回るが、目に映るのは悲惨な現状ばかりで返事どころか生存者も見つけられない。


「そっちはどうじゃ!?」


「ダメっす!こっちも皆んなやられてる…!」


他のみんなもあちこち見ているけれど、希望に繋がるような言葉が出てくる事は無かった。

自分よりも小さな子どもの姿まであり、心が折れそうになる。


既に全員殺されていて…ノヴァも生きてはいないんだろうか。

もう二度と、会う事は叶わないんだろうか。


「…っ、ノヴァ…っ」


絶望的な状況に、立ち止まり膝を付いてしまった。

あの頃、俺にずっとくっ付いてきてたノヴァの姿が頭に浮かんでは消え浮かんでは消えていく。

じわりと涙が込み上げてきた。

この遺体の中にノヴァもいるのではと考えてしまい、怖くて怖くて仕方ない。


と、そんな俺の耳に小さくしゃがれたうめき声が届いた。


「ぅ……ノ…ヴァ…」


「!」


聞こえた声に、すぐに目を向け走る。

そこにあった血塗れで瓦礫に半分埋まりながらも、微かに呼吸している老人の姿。

そしてその人には見覚えがあった。

4年前、ノヴァを迎えに来てくれた人の内の1人だ。


「しっかりしてください…!シュルツさん!!」


俺の呼び声に、急いでこちらへ向かってくるシュルツさん。

その間に、掠れ掠れに老人は言葉を紡ぐ。


「頼…む…。ノヴァを…助けて、くれ…っ」


思わず目を見開いた。

ノヴァは、まだ生きてる…!?


「どういう事ですか!?」


「ヴェクサシオンに…追われ、て…1人森…に…」


「ヴェクサシオン…!?」


それは、ドラゴンにも匹敵する強さだと言われている虎に似た銀色の毛皮の魔物だ。

体も大きく上顎から伸びた長く鋭い2本の牙が特徴で、氷属性の攻撃魔法も使えるという。


そんな魔物が現れたとなると、この村の惨状も理解できた。

きっと瞬く間に壊滅まで追い込まれたんだろう。


「どう…か…ノヴァ…を……」


言い切る事なく、老人は事切れてしまった。

駆けつけて診ていたシュルツさんに目を向けるが、どうにも出来ないようで静かに首を横に振る。


心苦しいが、目の前のこの人の死を悲しんでいる時間は無い。

寧ろこの人の為にも行かなければ。


「…ノヴァを…ノヴァを助けないと!」


「あぁ、直ぐに向かおう」


頷くシュルツさんと同時に立ち上がった。


老人は森へ逃げたと言っていた。

この広い森のどこにいるのか分からないけれど、必ず見つけ出さなければならない。

何か…何かヒントは…


すると、少し離れた所から様子を見ていたクヴァルダさんが声を上げた。


「こっち!地面を蹴った爪痕があるっすよ!多分向こうへ行ったと思うっす!」


その言葉を聞き、直ぐにそちらへ走った。

急がなければノヴァまで殺されてしまうかもしれない。


「ジーゼさん!強化お願いします!!」


「ええ!」


自らジーゼさんに頼み一気にスピードを上げた。

地面に残る爪痕を辿って全員で森へと駆ける。




どうか…どうか無事でいてくれ!


ノヴァ…!!






クヴァルダさんは加減を知らない。

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