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第24話 幼馴染

ほぼリオルくんの回想話になります



「うわっ、幽霊女だ!」


「退治だ退治ー!」


「いや、やめて…っ」


孤児院から少し離れた所にある野原。

そこで近所の悪ガキ共が寄ってたかって1人の女の子を虐めていた。

そんな状況に、俺は直ぐさま突撃する。


「おいお前ら何してんだ!」


「げっ、リオルだ!」


「逃げろ!」


前に一度コテンパンにした事もあって、悪ガキ共は直ぐに逃げだす。

フンと鼻息を吐きながら、女の子の方へ振り返った。


「大丈夫か?ノヴァ」


「う…ふえ…リオルくぅん」


そう泣きながら抱き着いてきた気弱な少女こそ、幼馴染のノヴァだ。


ノヴァは他人とはちょっと違う見た目をしていた。

肌の色も透けるかのように白く、髪も透明感のある白銀に薄っすら紫がグラデーションされている。

藤色の瞳もまるで宝石のようだった。

なんというかとても儚げで、幻想的な感じなのだ。

その為、周りの人間からは気味悪がられたり虐められてしまう事が多々あった。


そんなノヴァのお守り役となってるのが俺だ。

物心ついた頃から一緒に育ち、同い年が俺だけで他の子はまだ幼かった為自然とそうなった。


「まったく、泣いてばっかりだとまたいじめられるぞ?たまにはやり返してやれよ」


「む、無理だよぉ。勝てないもん…。それに…」


涙を拭いながら、懇願するように俺を見るノヴァ。


「わたしがピンチの時は、リオルくんが助けてくれるん…でしょ?」


うぐ。

確かにそう約束したけど…。

なんかこう頼られると守んなきゃって思っちゃうんだよなぁ。


「しょうがないなノヴァは。じゃあ俺から離れるなよ!」


「うん!」


さっきまで泣いていたのに、直ぐに嬉しそうに笑って付いてくるノヴァ。

これが大体の日常で、ずっとこんな関係が続くかと思っていた。

そう、あの日までは。




「院長先生、話って?」


急に、俺とノヴァは孤児院の院長先生に呼ばれた。

何事かと2人で首を傾げる。


「そうね、まずリオルくんから。リオルくん、今日で10歳になったでしょう?実はね、その日を迎えたらあなたに渡そうと思ってた物があるの」


そう言って先生が取り出したのはピンク色の宝石だ。

よく見ると、中に『リオル』と俺の名前が刻まれている。


「え?先生、これって?」


「前に、リオルくんは森にいたのを先生が見つけたってお話はしたわよね?」


「うん」


「その時ね…実はリオルくんのお腹の上にこの宝石も置いてあったのよ」


初めて聞く話に俺はとても驚いた。

まさかそんな物が残されていたなんて。


「今まで黙っててごめんね?無くしちゃったらいけないと思って、先生がずっと預かってたの。こんな風に手掛かりを残したって事は、何か事情があったんじゃないかなって先生思うの。だからこの石も、大事に持ってた方が良いと思うわ」


そうして渡された宝石を、嬉しいような何とも言えない気持ちで眺める。

そしてギュッと握り締めた。


「うん…わかった。俺、大事にする」


「良い子ね」


俺の頭を撫で、今度はノヴァの方を向く院長先生。


「それと、ノヴァちゃん」


「はっ、はい!」


自分の番が来て、緊張した様子でノヴァは返事をする。

ノヴァにも何か渡す物とかあるのかな?


そう思っていたけれど、院長先生が告げたのは思いもよらない内容だった。


「ノヴァちゃんは、いずれお迎えが来るってお話はしてたでしょう?実はね、今朝あなたの親族の方から連絡があって…明日ノヴァちゃんを迎えに来るそうよ」


「「え…?」」


その内容に、思わず俺もノヴァと一緒に声を溢してしまった。




「待って!リオルくん待って!」


必死に涙目で追いかけて来るノヴァを背に、俺は速足で林を歩く。

川に掛かる橋の上まで来た辺りで、ついにノヴァは追いつき俺を掴んだ。


「リオルくん…!」


足は止めたけれど、ノヴァの方は見れなかった。


「…よかったなノヴァ。お迎え、来てくれて」


その時の俺は、気持ちがグチャグチャで整理できていなかった。

ノヴァと一緒に、いつか誰かが迎えに来てくれるのを夢見た日もある。

でもいざ本当にそうなると、ノヴァが居なくなる寂しさだったり、俺だけ取り残される事の悔しさだったり、色んな嫌な感情が湧いてきて喜んであげる事が出来ずにいたのだ。


「う…ん。でも…リオルくんと、お別れするの…やだよ…」


その言葉に、俺はつい大声をあげてしまった。


「…っ、贅沢言うなよ!ちゃんとお迎えきたんだから良いだろ!?俺なんか、こんな石1つで…。何が、事情だよ…。こんな、物…!」


「! リオルくん、だめ…!」


感情任せに、俺は院長先生が渡してくれた宝石を振り上げる。

そしてそのまま川に投げ込んでしまった。


「っ」


すぐに自分でもやってしまったとは思ったが、どうしても気持ちのコントロールが出来なくてその場から走り出す。

「リオルくん…!」と後ろからノヴァの声は聴こえたが、もうノヴァが追いついて来ることはなかった。


それから、どのくらいの時間走っただろう。

日も暮れてきた頃、俺は激しい後悔でメチャクチャ落ち込んでいた。


大事にするって言ったのにいきなり捨てるとかなんて事しちゃったんだ俺!

院長先生になんて言おう…!

しかもノヴァは明日でいなくなるのに、あんなひどい態度とっちゃったし…。

うぅ…どうしようどうしよう。


項垂れながら、トボトボと孤児院へ帰る。

そんな気まずい思いで孤児院の近くまで行くと、外に出ていた院長先生がすぐに走ってきた。


怒られる…!?


「あれ、リオルくん!ノヴァちゃん一緒じゃないの?」


「え?ノヴァ、帰ってきてないの?」


「ええ。てっきり2人は一緒に居ると思ってたんだけど…」


共に過ごせる最後の日だから、多少帰りが遅くなるのも大目に見てくれていたらしい。

気まずかった事など忘れて、俺は慌てて林の方へ駆け出した。


「先生!俺ノヴァ捜してくる!」


「あ、待ちなさい!リオルくん!」


院長先生が止めるのも聞かず、ノヴァを捜しに走る。


どうしよう。

俺が1人にしたから。

もしかしたら、また誰かに虐められてるかもしれない。

魔物とかに襲われてるかもしれない。

どこかで怪我をして泣いているかもしれない。


不安で不安で、必死に走り回って捜した。

ただでさえ暮れ始めていた日は更に落ち、辺りはどんどんと暗くなる。

それに伴って募っていく焦り。


「ノヴァっ、どこだ…!」


そこで、不意に一箇所思い当たった。

すぐに方向転換してその場所へ向かう。


息を切らせて走り、見えてきたのは俺が宝石を投げ捨てた小さな橋。

その橋から少し下流の川の中に、ノヴァの姿はあった。


「ノヴァ!!」


膝くらいまでの深さの川に座り込むようにしていたノヴァは驚いたように顔を上げた。

無事な事にホッとしつつ、俺もそのまま川の中へ駆け込む。


「何やってるんだよノヴァ!風邪ひくぞ!?」


暗くて見え辛かったけれど、近づくとただでさえ色の白いノヴァが唇まで青くしてるのがわかった。

手や足は逆に赤くなっていて、長時間水の中にいたんだと分かる。

暖かい季節ではあるけれど、こんなに冷えるのはどう見ても体に良くない。


「ほら、早く出て!」


「だめ!まだ見付けられてないもん!」


「えっ」


必死に抵抗するノヴァに声が溢れた。

何を…なんて聞かなくてもわかる。


「俺の、宝石…ずっと探してたの?」


涙目で、コクリと頷くノヴァ。


「だって…あれは、リオルくんの大事な物でしょ?わたし…いつもリオルくんに助けてもらってばっかりで、何も返せてないから…。せめて、あの石だけでも見付けてあげられたらって…」


俺が身勝手に怒って、自ら捨てたのに。

なのに、こんなに冷たくなってまで必死に探してくれてたなんて。


自分の事ばっかり考えてた俺と違って、俺の為に動いてくれていたノヴァを前に…急に涙が込み上げてきた。


「…ばか、ノヴァ。いいよ石なんて…。心配、したんだからな…」


「リオルくん…」


俺と一緒に、ノヴァも涙を溢す。


「う…ひっく…リオルくん、離れるの…寂しいよ」


「うん…俺も…」


冷たくなったノヴァの両手をギュッと握る。

ノヴァも悴んだ手で握り返してきて、2人で涙を流した。


長い時間一緒に過ごしたノヴァと離れるのは辛い。

でも、ノヴァを迎えてくれる家族が来てくれるのが良い事だっていうのもわかっている。


俺は涙を拭って、ノヴァの背中を押そうと決めた。


「…ノヴァ、きっと迎えに来てくれる家族とも楽しく過ごせるよ。だから大丈夫だ。もし上手くいかなかったら逃げてきても良いよ!その時は俺が助けてやるから」


「リオルくん…」


出来るだけ安心させられるように笑って言った俺を見て、ノヴァも泣きながら笑みを作る。


「うん…ありがとう。リオルくんが助けてくれるなら、大丈夫そう」


ノヴァの笑顔を見て、俺もなんだか安心した。

それから、すっかり夜になってしまってる事に気付いて慌てる。


「やば、院長先生心配してたし早く帰ろう!」


「う、うん!…あ!」


と、ノヴァが何かに気付き声を上げた。

その視線を辿り、俺も「あっ」と零す。


そこには石に引っ掛かり、月明かりに反射してキラリと光るピンク色の宝石があった。

流れていかないように、慌てて拾い上げる。


「…あった」


「うん、あった…!」


顔を見合わせ、俺達はもう一度笑い合った。

今度こそ大事にしようとしっかり握りしめる。

そして、反対の手でノヴァと手を繋ぎ孤児院へと並んで帰ったのだった。


因みに遅い時間に2人ともびしょ濡れで帰った事で院長先生からはメチャメチャ怒られたよ。




翌日、院長先生が言っていた通りノヴァにお迎えの人達が来た。

みんなとても優しそうな感じで、ノヴァの姿を見てすごく嬉しそうな顔をしている。


「本当に…今までノヴァを預かってくださって、ありがとうございました…!」


何度も何度もお礼を言う姿に嘘は無く、みんなノヴァを大事にしてくれそうだった。

よかった。


「…リオルくん」


別れの時を迎え、また寂しそうな顔をしつつノヴァが俺のそばに来る。


「これ、リオルくんにあげようと思って夜に作ったの」


「え?」


そう言って渡されたのは、長い紐のついた小さな袋だ。

繊細な刺繍まで施されていて、ノヴァは裁縫が得意だと知っていた俺も驚いた。


「これ、ノヴァが作ったの?」


「うん。どうしてもリオルくんに何かあげたくて、宝石入れを作ったの。夜でもすぐに見つけられるように、月の光で光るように細工もしてみたよ!」


「え、すご!ありがとう!」


素直に嬉しくて、俺は喜んでそれを受け取った。

ノヴァも嬉しそうに微笑む。


「リオルくん…また、会えるよね?」


そう聞くノヴァに、俺は力強く頷く。


「うん、会えるよ。絶対!」


「約束ね?」


「あぁ、約束する!」


指切りして再会を誓い合う。


そして新しい家族と去っていくノヴァと、手を振りながら別れたのだった――。





ーーーーーーーーーー





「それが、4年前の話です。また会おうって約束はしたけど、結局あれからまだ会えてないんですよね」


俺のその話を聞いて、みんなは微笑ましいような顔をしつつ何とも言えない息を吐いた。

真っ先に口を開くクヴァルダさん。


「おぉ…リオルくんも案外青春してるんすね」


彼女に膝枕してもらってる奴にだけは言われたくない。


それから、ミナスさんが考察を始める。


「あくまで推測だけど…恐らくそのノヴァちゃんをシルク族狩りから守る為に、孤児院に預けて種族全体で囮となって貴族の目から隠したんでしょうね。そして、安全を確保できたと判断してから迎えに行った…。時期から考えてもそれなら辻褄が合うわ」


そっか。

ノヴァはずっと守ってもらってたんだ。

なんかそれ聞いて余計に安心した。

元気にしてるかなぁ。


「まぁ何にしても、シルク族の子と知り合いなのは大収穫よ!その話の感じなら向こうもリオルくんに会いたがってるでしょうし、シルク生地を貰える可能性も高いわ!」


その言葉を聞き、ジーゼさんがパァーっと顔を輝かせた。

割と近くに座っていた俺に飛びついてくる。


「お手柄よリオルくん!あなたが居てくれて本当に良かっダガハッ!」


「うわぁあ!ジーゼさん落ち着いて色んな意味で!!」


シュルツさんも焦ってるしリュデルさんも嫉妬に狂った目で見てるから!!



取り敢えずシルクGETの為の活路を見出せたという事で、俺達は地上へ戻ったらシルク族の元へ向かおうと決めたのだった。






10歳のリオルくんのかわいい思い出。

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