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第23話 シルク族



「それじゃあ…ゆくぞ」


すぐに剣を構え、魔力を練り上げるリュデルさん。

その魔力に反応し、剣が光のオーラを纏う。

これは今までには無かった反応だ。


期待値が高まる中、リュデルさんは技を発動した。


「天流剣技 暁 アナラビ」


そして、光が要石を通過した。

一瞬だけ間が空き、前回傷ひとつ付かなかった石が半分からズレた。


「…!」


直後、禍々しい何かが石から漏れ出す。

瞬間的に全員で身構えたが、すぐにそれは白い焔に包まれた。


そしてまるで浄化されるかのように、石は跡形も無く消えてしまったのだった。


「消え…た?」


「わぁ、やったわ!」


「成功っす!!」


見事に要石を消失させる事に成功し、手を挙げて喜ぶ。

剣を鞘に仕舞うリュデルさんもとても満足そうだ。


やったぞ!

これで千年後に魔界と繋がる事もない!

聖剣キャトラフカの力は本物だー!!


聖剣の誕生と破壊ミッション達成にその場はとても盛り上がった。

これは結婚式の二次会とは別で宴を開催するべきかもしれない!


が、そんな風に思っている最中「あれ?」と言いながら急にクヴァルダさんがふらめいた。


「! クヴァルダ!?大丈夫!?」


驚いたミナスさんが慌てて駆け寄る。

シュルツさんも急いでクヴァルダさんを診た。


「…少し魔力を使いすぎただけだな。火にも当たり過ぎているし、涼しい所で休んだ方が良い」


「うぅー、そうするっす。じゃあ後の事は任せるっすねー…」


そう言いながら岩場の方に1人フラフラ歩いて行くクヴァルダさん。

大丈夫かな。


「リオル、水分補給もさせた方が良い。悪いが水を持っていってやってくれるか?」


「うん、わかった」


シュルツさんに頼まれ水筒を受け取りながら直ぐに頷く。

その間にリュデルさん達は要石の事を女王様へ報告、ミナスさんはシュルツさんと一緒にクヴァルダさんが食べれそうな物を調達しに行った。


俺は水場まで行き、水筒に多めに汲んで岩に座って休んでいるクヴァルダさんの所へ走る。


「クヴァルダさん、これお水。シュルツさんが水分補給しろって」


「お、助かるっす。ちょうど飲みたいと思ってたんすよ」


喜んで受け取り、直ぐに口を付けるクヴァルダさん。

そりゃ喉も渇くよね。


飲んだ後も遠くを見るような目をしたまま「ふー…」と息を吐くクヴァルダさんはかなりお疲れだ。

あんなに長い時間聖剣作りしてたのだから当然だろう。

それでも他の人が作るよりは早かったんだろうけど。


取り敢えず、いつもより大人しいクヴァルダさんの隣に俺も腰掛けた。

相当暑かったらしく、クヴァルダさんは作業着の上の方だけ脱いで袖を腰で結んでいる。

シャツも汗ばんでいるし、ずっと火のそばにいたからか顔も少し赤くてなんか色っぽい。


これはまたミナスさんが悶絶しそうだな。


「あ、そうだ」


そこでふと、ミナスさんが濁した話を思い出した。

クヴァルダさんだったらもしかしたら教えてくれるかもしれない。

みんな離れた所に居るし、今の内に聞いてみようかな?


「ねえクヴァルダさん聞いていい?」


「ん?なんすか?」


「ミナスさんとの馴れ初めってどんなの?」


俺の質問を受け、少しだけ眠そうな顔をしながらも思い返すクヴァルダさん。


お、これは教えてくれそう。


「ん、えーと…ミナスがオレから勇者情報を引き出そうと接触してきたんすけど、言うの渋ってたら色仕掛けを使ってきたんでそのまま美味しく…」

――ドゴォっ


シュルツさんに耳を塞がれ、その直ぐ後にミナスさんがクヴァルダさんの顔面に膝蹴りを入れた。


なになに!?

何事!?

『色』までしか聞こえなかった!


真っ赤になったミナスさんは涙目になりながら倒れたクヴァルダさんの胸倉を掴んだ。


「アンタは!なにを!普通に!言おうとしてるのよ!?」


「ご…ごめんっす。頭がぼーっとしてたっす」


クヴァルダさんは焦ったように一度は引いた汗をダラダラ流して謝る。

座り込んだまま今度は顔を覆うミナスさん。


「大体そういう女だと思われたらどうすんの…!言っとくけど逃げられなくて失敗したのなんてアンタの時だけなんだからね…!!」


「や、うん、ホント、色々ごめんっす」


よく分からないけどクヴァルダさんが強すぎて任務失敗しちゃったのかな?

相手が悪かったとしか言いようがない。


あとクヴァルダさん、酷い目に遭わせちゃってごめんね。




それからリュデルさん達が戻ってきた頃にはミナスさんも冷静さを取り戻し、ダウンさせたクヴァルダさんを自ら介抱し始めた。


「ごめん…痛かったよね」


「平気っすよ〜」


膝枕をされて額に冷たいタオルを乗せてるクヴァルダさんは寧ろとても気持ちよさそうだ。


…羨ましくなんてない!

ないよ!


なんだかんだでラブラブな2人を見ないようにフイッと視線を逸らす。

と、そうした事で海の中に満月が浮かんでいる事に気付いた。


「あれ、深海なのに月が見える」


そんな俺の呟きを聞いて、直ぐにミナスさんが教えてくれる。


「ああ、あれは月光クラゲよ。地上の月と変わらない光を発してくれるクラゲなの。毎日現れる訳じゃないし、結構レアなのよ」


へーそんなのもいるのか!

確かによく見るとユラユラ動いてる。

色んな生き物がいるんだなぁ。


なんて思ってたら、急にクヴァルダさんが声を上げた。


「あ!月で思い出したっす!ミナス、シルク族の居場所って把握してるっすか?」


「え?ええ、わかるけど…。あ、ベッドの材料ね?」


「そうっす!」


その内容に今度はジーゼさんが反応する。


「それって、通気性も肌触りも良くてお肌への刺激がゼロの奇跡のシルク生地のお話!?」


すごい、完璧に覚えてる。

ジーゼさんの睡眠欲に脱帽だ。

興奮し過ぎて口の端から血が漏れてるのは頂けないが。


「そう、それっすよー。普通のシルクと全然違う特殊な生地で、シルク族っていう種族の人しか作れないらしいんすよ」


ミナスさんを見て「だったっすよね?」と確認するクヴァルダさん。


シルク族か…初めて聞いたな。

ミナスさんとクヴァルダさん以外知らなそうな顔してるし、珍しい種族なのかもしれない。


ミナスさんは一度頷いてから、とても難しそうな顔をした。


「そうだけど…そのシルクを手に入れるのは難しいでしょうね」


「そんな、どうして!?」


その言葉を聞き、ジーゼさんが顔面蒼白でショックを受ける。

やはり意欲がすごい。


ミナスさんは少し暗い声で、ジーゼさんに言葉を返した。


「一般には知られてないんですけど…5年前まで、シルク族狩りが行われていたんです」


「「「!!」」」


シルク族狩り!?

え、人を狩ってたの!?


衝撃の内容に驚く俺達に、ミナスさんは「まずシルク族について話すわね」と説明を始めた。


「その昔、不思議な糸を紡ぎだす神秘の蚕が存在したの。実際のところはわからないけど、最接近した聖界の影響から生まれたんじゃないかと言われているわ。けれどその蚕は地上の瘴気に弱く、誕生こそしたものの直ぐに命を落としそうになってしまった。それを助けようと、1人の人間がその蚕と契約し自身の身体に融合させたの。それがシルク族の始まりと言われているわ」


蚕と融合!?

助ける為とはいえ、大胆なことしたんだなぁ。


「シルク族は蚕の力を宿している為、自身の身体から特殊な糸を召喚する事が出来るの。その糸を織って作るのがシルク族製の生地ね」


糸を召喚!

そうやって作るとは思わなかった!

そりゃあシルク族にしか作れない筈だよ。

真似したくても出来ないもんね。


「あまり表には出ずに過ごす種族だけど、昔は一部の村の人と交易もしてたそうよ。けれどあまりに上質なその生地は、悪質な商人の目にも留まってしまった。そしてそこからシルク族の事が一部の貴族の耳に入り、約15年前…その貴族達によるシルク族狩りが始まったの。稀少なそのシルクを沢山手に入れたいっていう、完全に私利私欲の為にね」


え、何それ酷過ぎる!

自分の欲の為にそんな事をするなんて…。


「捕まえられた人は強制的にシルクを作らさせられ、力の使い過ぎで命を落としていったそうよ。元々少数だったシルク族は、それによって更に数を減らしてしまったわ。その事実を10年経って漸く知った王が厳しく取り締まり、一応は事態も終息したの。けれど…その影響でシルク族は閉鎖的になり、誰にも見つからないよう隠れ住むようになってしまったわ」


それは当然だろうな。

俺だってそうなったら、周りの人間を信用なんか出来なくなると思う。


「だから、居場所はわかるけど…行ったところで交渉は難しいと思うのよ」


ミナスさんのその結論に、納得する事しか出来なかった。

交渉どころか会う事すら出来ない気がする。

クヴァルダさんも困った顔で質問した。


「んじゃあ、諦めて違う物にした方が良いんすか?」


「そうね…。でも、シルク族が作る生地より良い物なんて存在しないとも思うわ」


「そんなに凄い物なのね…」


肩を落としながら聞くジーゼさんに頷いて答えるミナスさん。


「はい、他の布では到底太刀打ちできません。特に凄いのが本家筋の人達です。シルク族狩りのせいで今はその血筋の子は女の子1人だけなんですけど…ただでさえ上質な生地を作れる上に、月の光に反応して輝く特殊な刺繍まで施せるそうですよ」


「「!」」


その言葉を聞いた瞬間、俺とシュルツさんは驚いて顔を見合わせた。

やはり同じ物が頭に浮かんだようだ。


「リオル」


「う、うん」


シュルツさんに促され、マントの下に隠している小袋を取り出す。

その小袋に施された刺繍は…月光クラゲに反応してキラキラと光を放っていた。


それを見てみんなが目を丸くする。


「え!?そ、それ、シルク族の作ったものじゃない!どうしてリオルくん持ってるの!?」


やはり間違いなかったようで、ミナスさんが声を張り上げた。

正直そんな稀少な物だと思わなかった俺も驚いている。


「その、今言った本家筋の女の子って…多分俺の幼馴染です」


「「ぇえ!?」」


今度はクヴァルダさんも驚いてミナスさんと一緒に声を上げた。


「ちょっと待って!何をどうやったらシルク族の子と幼馴染になるの!?」


「く、詳しく教えてくださいっす!!」


おぉ…グイグイくるな。

俺自身混乱してるからちょっと待ってほしい。


「えぇっと…その子がシルク族って事自体今知った感じで…。俺、孤児院育ちなんですけど、その子とは同じ孤児院で育ったんですよ」


取り敢えず、この袋を貰った4年前の時の事を思い起こして話す事にした。







みんなに慣れると共に敬語率が下がってきたリオルくんは、真っ先にクヴァルダさんへの敬語をやめましたw

挿絵(By みてみん)

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