第22話 聖剣
「わあっ、ミーヤさん凄く綺麗…!」
「えへへ、ありがとうございます。皆んなが集めてくれた真珠をいっぱい追加してもらいました!」
真っ白いウエディングドレスを身に纏ったミーヤさんにミナスさんが歓声を上げる。
ドレスにはたくさんの白い真珠が縫い付けられていて、動くたびに七色に光を発してとても綺麗だ。
後ろで魂が抜けてるお針子さん達、お疲れ様です!
そして、盛大に結婚式が執り行われた。
クヴァルダさんが造った会場…いつの間にか更に豪勢になってない?
あ、シュルツさんが治療した人魚さん達もみんな参列してる!
よかったぁ。
もちろん、司祭様も壇上でしっかり執り仕切っている。
ミナスさんがレシピを提供したウエディングケーキも、白とピンクと黄色で可愛くなってるし凝っててすごい!
卵を孵化させた時はヤバいかと思ったけど、やっぱりプロは違うな。
姫様、初めての共同作業の夢が叶ってよかったね!
2人ともすごく幸せそうだ!
もちろん、2人の指には青と水色のパールが光っている。
因みに、俺とリュデルさんとジーゼさんで倒したクラーケンはメインディッシュとして出されていたよ。
案外たくましいな人魚達。
そんな感じで、今朝方までのドタバタ劇が嘘だったかのように結婚式は大成功だった。
式が終わった今現在も、みんな楽しそうに宴を続けている。
「いやぁ、ソナタらのお陰で素晴らしい式になったぞ!改めて礼を言おう!」
娘であるミーヤさんの結婚式が無事に終わり、女王様も上機嫌だ。
その手には、祭壇に飾られてあったゴツゴツして光り輝く石が乗っている。
実は式の間もずっと気になってました!
例の…例のアレですね!?
「さぁ、これが聖なる鉱物ニャルハルコンだ!受け取ってくれ!」
うわぁスゲー!
なんかメッチャ神々しい!
まさに聖なる鉱物って感じがする!
あ、でも、本当に貰って大丈夫なのかな?
「あの、次の結婚式に影響したりはしないんですか?」
「問題無い!王族が結婚式を挙げたらその後1年間は式を挙げてはならないという決まりがあるからな!それだけの期間があれば新たな鉱物も見つかる筈だ!」
はえ〜、その国々で色んな決まり事があるんだな。
因みに王族の婚姻が決まると、その式の直前が結婚ラッシュになるらしい。
焚き付け役にもなってるのか。
「よぉし、それじゃあ早速聖剣作りをするっすよー!」
聖なる鉱物が手に入り、クヴァルダさんもノリノリだ。
取り敢えず、他の人の邪魔にならないようあまり人の居ない岩場の方へと俺達は場所を移した。
「この辺なら大丈夫そうじゃない?」
「確かに良い感じっすね!んじゃあまず準備から始めるっす!」
そう言って地面に手を置くクヴァルダさん。
「変質加工 ファーニス」
次の瞬間、地面が集まりだして砕かれたり混ざったりしながら変形し始めた。
どうなってるのかよく分からない内に、あっという間に炉が出来上がる。
やば、見てても何が起きたか分かんなかった。
「あとは大体揃ってたっすかねー」
と言いながら、マジックバッグからどんどん道具を取り出して並べていく。
おぉ、なんかただの岩場が鍛冶屋さんぽくなってきた。
「クヴァルダさん、何か手伝う?」
「あ、じゃあこの水路海水で使えないから水汲んできてもらえるっすか?」
「うん、了解」
バケツを受け取り、水場に向かう。
「私も行こう」とさり気なくシュルツさんも手伝ってくれ、戻ってきた時には大体の準備が終わっていた。
炉の中も赤々と燃え盛っている。
「まぁ、いい具合っすね。じいちゃん、剣預かって良いっすか?」
「うむ、頼んだぞ」
おぉ、リュデルさんの剣を聖剣にするのか!
うわぁワクワクする!
剣を受け取り、軽く準備運動をするクヴァルダさん。
「っし、じゃあ完成するまでは他の事何も出来ないからよろしくっす!時間掛かるだろうから、適当に休んでて良いっすよ」
そう言いながら手袋をはめ替えた。
炉の前まで移動し、目を閉じてフゥと息を吐く。
するとその瞬間、クヴァルダさんの纏う空気が変わった。
一気に集中力を高めたのが見ているだけでも伝わってくる。
炉で熱せられる鉱物を見つめる瞳も、真剣そのものだ。
うわ、こんな顔するクヴァルダさん初めて見た…。
まるで別人みたい。
鉱物の状態を見極め、叩いて打ち伸ばす姿も職人さんって感じがしてメチャクチャ格好良い。
と、額に汗を浮かべながら叩くクヴァルダさんの身体から魔力が鉱物へ伸びているのがわかった。
「あれって…何してるんですか?」
「恐らくだが、ああやって魔力で干渉して質を落とさないようにしつつ変化を促しているんだろう。手作業と同時進行だから、かなり高度な技術の筈だ」
「へぇ…」
シュルツさんの言葉を聞いてまた更に感心する。
あれ?
ていうかこういう解説ってミナスさんがするんじゃ?
そう思ってミナスさんに目を向けると、ミナスさんは顔を覆って悶えていた。
「無理…あんな姿見たら惚れ直しちゃう…」
うん。
その気持ちはすごい分かる。
普段の姿からは考えられないくらい格好良いもんね。
ミナスさんが限界突破する前に、俺達はクヴァルダさんから少し離れた所へ移動した。
テーブルに飲み物を置きつつ、椅子に座って休憩タイムに入る。
「ふふ。ミナスさんってばうちの孫を相当気に入ってくれてるみたいで嬉しいわ」
「いや、その…取り乱してすみません…」
ジーゼさんに話を振られ、赤面するミナスさん。
楽しそうにジーゼさんは質問を重ねた。
「クヴァルダとはいつからお付き合いしてるの?」
ん?
なんか女子トーク始まった?
「えっと、5年前からです」
5年!
思ったより長かった!
「まぁそうなのね!馴れ初めとか聞いても良いかしら?」
そうジーゼさんが聞くと、ミナスさんはものすごく目を泳がせ始めた。
「え…と…、その…。こ、ここでは…ちょっと」
それを聞いて「まぁ〜」と言いながら口の横に手を添えて頬を綻ばせるジーゼさん。
え、何でそんな分かった風なの!?
なんならリュデルさんとシュルツさんも察した顔してる!
俺だけ分かんないのすごい気になる!
「そっ、それよりも、あたしはジーゼさんのお話が聞きたいです!是非!」
必死に話題を自分から反らすミナスさん。
くっ、気になるけど聞けそうな感じじゃないな。
ジーゼさんは「そうねぇ」と言いながら話し始めた。
「おじいさんに誘われてふたり旅をしてたんだけど、ワタシはあまり異性として意識したりはしてなくてねぇ。あ、もちろんイイ男だとは思ってたのよ?でもあくまで仲間っていう認識だったの」
「え、そうなんですか?」
それは意外!
2人はラブラブってイメージが定着してるからかな?
あ、リュデルさんがちょっと沈んでる。
ふたり旅の時点でリュデルさんの方はベタ惚れだったもんね。
「それが変わったのは…魔物との戦闘で足を怪我しちゃった日の事ね」
そうして、その日の事をジーゼさんは思い返しながら話した。
********
「はい、取り敢えず応急処置はこれで良いかな。一応街に着いたら診てもらうんだよ」
魔物を倒してから、直ぐにジーゼの挫いた足を手当てしたリュデル。
「ごめんなさい、ご迷惑お掛けして」
「いや、寧ろ俺が付いていながら怪我をさせてごめん」
「そんな!私が油断しちゃってただけですから!」
そんなやり取りをしてから、リュデルは困ったように空を見上げた。
現在は森の中に居るのだが、日も傾き空はオレンジ色に染まってしまっている。
「うーん…街まで距離もあるし、日が落ちる前に着くのは無理そうだな…。仕方ない、今日はここで野宿しよう」
そうリュデルが口にした途端、ジーゼはカッと目を見開いた。
「嫌です!絶対に野宿なんてしません!!」
「え、けど暗くなってから動くのは危険だ。テントも張るし、俺が見張りをするから今日は…」
「いいえ、私はベッドの上でしか寝ないと決めてるんです!危険だろうが何だろうが絶対宿まで行きます!!」
「睡眠に関してだけ頑なだな!?」
頑固としてそう言うジーゼは、例え足を引きずってでも宿へ向かおうとするだろう。
リュデルはどうしたものかと頭を悩ませる。
そして、覚悟を決めてジーゼに背を向け膝を付いた。
「乗って」
「え?」
「その足で歩いたら夜が明けるよ。俺が必ず宿まで連れてくから…任せてくれないか」
ジーゼは戸惑った。
自分の我儘でリュデルに大変な思いをさせるのは流石に申し訳ない。
けれど、野宿したところで絶対に眠れない自信もある。
葛藤の末、そっとリュデルの背に身を預けた。
「それじゃあ…お願いします」
「あぁ。しっかり掴まってて」
笑みを作り、直ぐに街へと向かいだすリュデル。
ジーゼを気遣ってか、あまり振動を与えないようにしながらも急ぎ足で歩を進める。
そのおかげで、背負われているとは思えないほど心地が良かった。
広い背中は安心感があり、一定のリズムで刻まれる揺れに瞼も重くなってくる。
ほんの僅かな時間で、ジーゼは意識を手放した。
「…ゼ。ジーゼ、着いたよ?」
呼び起こされ、ジーゼはハッとして目を開けた。
いつの間にか街へ到着し、宿の前に立っている。
周辺の民家も明かりが点いていない事から、相当遅い時間なのだと気付いた。
「あれ?わ、私…」
「はは。ジーゼ、ベッドでしか寝ないって言ってた割にぐっすりと眠ってたよ?」
その言葉を聞き、ジーゼは本当に驚いた。
今まで自分がベッド以外で眠ってしまった事など一度も無かったからだ。
そして、同時に気付いてしまった。
自分が一体…どれだけリュデルに心を許しているのかを。
「…!!」
唐突に自分の気持ちを自覚し、赤面するジーゼ。
それを誤魔化すように急いで背中から降り、足が痛いのも忘れて宿に飛び込んだ。
「え、ジーゼ!?」
「すみません!2部屋!空いてますか!?」
急いで受付を済ませ部屋へと逃げ込む。
眠る事が大好きなジーゼでも、この夜はなかなか寝付く事ができなかった。
********
「そんな事があったの。今でもね、ワタシが眠れるのはベッドかおじいさんの背中でだけなのよ」
そのジーゼさんの話に、ミナスさんは頬を染め「素敵…」と呟きながら溜め息を吐く。
確かに、ジーゼさんが地べたとか寝袋で寝てるの見た事無いな。
野宿の時も簡易ベッドで寝てるし。
エーテルコットンの上で寝た事はあるけど…あれは簡易ベッドよりベッドだった。
あ、リュデルさんメッチャ口元が緩んでる!
すっごい嬉しそうだ!
勇者がそんなだらしない顔したらマズイですよ!
なんて感じで勇者達の昔話を聞いたりしつつ時間を過ごし、辺りはすっかり夜になった。
因みに深海は本来昼でも真っ暗なので、この明るさは時間に合わせてライトフィッシュという魚で調整しているそうだ。
面白いなぁ。
そう思いながら空みたいな海を見ていると、ついにその時が来た。
「完成したっすよー!!」
クヴァルダさんのその声に、一気にテンションが上がる。
振り返ってそちらを見ると、クヴァルダさんが光り輝く剣を掲げていた。
聖剣だ!
ついに聖剣が完成した!
「うわぁ、カッコいい!」
「へっへー、力作っすよ!」
クヴァルダさんが自慢気に言うだけあって、リュデルさんの両手剣は大変身していた。
刀身は全体的に眩くなってるし、金の装飾まで入っている。
鍔も獅子っぽい形に変わっていてすごく格好良い!
よく見えるように持ちながら言葉を続けるクヴァルダさん。
「その名も、聖剣『キャトラフカ』っす!」
…いやクヴァルダさん悪ノリしてない!?
絶対ニャルハルコンに掛けたでしょ!
まぁそこまで変じゃないから良いけど!
「取り敢えず、早速試してみてくださいっす!要石壊せるかも気になるし」
「そうよね。リュデルさんお願いします」
クヴァルダさんの言葉に賛同して、ミナスさんが早速要石を取り出した。
近くの岩の上に置き、それを確認してからクヴァルダさんがリュデルさんに剣を手渡す。
勇者が!
勇者が聖剣持ってる!
すごい物語みたい!!
あと70歳若ければ完璧だった!!
「うむ、良い出来じゃな。手にもしっかり馴染むぞ」
「それは良かったっす!」
見た目は完全に聖剣。
クヴァルダさん印だから品質も間違いない。
あとは本当に瘴気を消す事が出来るのか試すだけだ!
そうして、要石を破壊するべくリュデルさんは石の前へと立った。




