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第19話 お姫様はマリッジブルー



「頼むミーヤ!出てきてくれ!」


「もう無理よ!あなたとは結婚できないわ!!」


扉を叩き訴えかける人魚の青年と拒否する女の人の声。

宮殿内のとある部屋の前で繰り広げられている修羅場に、思わず俺達は固まった。


「とまぁ、こんな状態でな!」


「いや『でな!』じゃないですよ!」


「ちゃんと説明して下さいっす!」


一言で片付ける女王様に思わず俺とクヴァルダさんでツッコミを入れてしまう。


あれが多分お姫様と婚約者なんだろうってのは予想つくけど!

結婚式前に何であんな事に!?


「ふむ、まぁそうなるか。だが!ワレは説明するのが苦手でな!」


ただ『着いてこい!』って言ってここまで連れて来られた時点で薄々気付いてました。


「という事で、本人達に説明させよう!」


ん?

本人達?

だって修羅場ってるけど…?


そう思っていたのだが、何の迷いも無く亀で部屋の前へ移動する女王様。

戸惑う青年の横で拳を握り締めた。


「ミーヤ!お客さんだ出てこい!!」


――バキャ!!


「きゃぁぁぁあ!?」


えええ!?

扉破壊するの!?

女王様アグレッシブ過ぎるでしょ!


空気を読む気など一欠片も無い女王様の行動に、正直こちらも呆然とするしかなかった。






「先程は、みっともない姿を見せてしまい申し訳ない…」


「ごめんなさい…」


目の前に並んで椅子に座りながら謝る2人に、こちらも慌てて「いえいえ!」と答える。

女王様によって強制的に連れてこられた男女は自己紹介を始めた。


「私はミーヤ。この国、アビシフィカの姫です」


そう言ったのは水色の長い髪にピンク色の着物を着たとても可愛い人魚さんだ。

20歳…いや、まだ10代後半かな?

あの女王様の娘さんとは思えないくらいシュンとしてる。


「俺はシビルといいます。彼女の婚約者です」


お姫様に続いて名乗ったのは、肩に付くか付かないかくらいの長さの青い髪で深緑の着物の青年。

恐らく20歳くらい。

身近な人がイケメンばかりでちょっと目が麻痺しているが、彼もそれなりに顔立ちが整っている。

てか今気付いたけど、人魚さん達って髪の色と下半身の色一緒なんだ。


と、名乗ったシビルさんの横で俯きながら姫様が呟くように口を開いた。


「…もう、婚約者じゃなくなるかもしれないわ」


うわ、急にまた不穏な空気に。


「また君はそんな事を!頼むから、悪い方に考えないでくれ!」


「無理よ…!私達は結ばれてはいけない運命なんだわ…!」


「そんな筈ないさ!」


「じゃあどうしてあんな事になるのよ!?」


「それは…っ」


待って待ってコレ俺達どうしたら良いの!?

また修羅場始まっちゃった!


が、怯みまくる俺と違って落ち着いた様子でシュルツさんが話しかける。


「何かあったんですか?」


「…っ、実は、数日前に事件があって…」


案外直ぐに答えてくれた姫様は、順を追うように話し始めた。


「最初は、結婚が決まってとても幸せでした。どうせなら特別な式にしたいと思って、準備も色々頑張ったんです」


その言葉に女王様も続く。


「一国の姫の結婚式だしな!通常の結婚式と同じにする訳にもいくまい!」


なるほど、それもそうだよね。


「それで、普通の教会とかじゃ味気ないと思って野外の特設会場を作ってもらいました」


待って会場から作ったの!?

思ったより大規模だった!


「司祭様も、彼が執り行えば必ず上手くいくというジンクスがある特別な方にお願いしました。1000組以上の夫婦が彼に頼み、離婚率0%という功績を叩き出している人です」


実際その人の力かは分からないけど、その確率は普通にすごい。

それは頼みたくなっちゃうな。


「ウエディングケーキも、今までに無いようなモノにしたくて…使者の方々が地上まで行き、お菓子が有名な国のパティシエの方に頼み込んで材料とレシピを入手してきてもらったんです」


わざわざ海底から地上まで頼みに行ったの!?

相当大変だっただろうな…。


「結婚指輪も、深淵樹っていう真珠貝を実らせる不思議な樹があるんですけど…その中でも10000枚から1つしか出てこないって言われる『ヴァーミリオンパール』を使った物にしたんです」


どういう物かわからないけど高そう。

思わずチラッとミナスさんを見る。

耳元で小さく「5億」と教えてくれ目が回った。

オウチカッテモオツリクルヨ。


「なのに…それなのに…」


また思い出したように、涙をいっぱい浮かべて震え出す姫様。

いや、ついに泣き出した。


「突然クラーケンがこの国を襲ってきたんですぅう!!」


「「え!?」」


クラーケンって、確かタコの化け物だったよね!?

それが襲来してきたの!?


泣き出してしまった姫様の代わりに、女王様が話を続けた。


「本来クラーケンはこの国より離れた所に住処を持っているのだがな!そのクラーケンは大きくなり過ぎて食う物に困り、この国の民達を食おうと襲ってきたのだ!」


「え、大変じゃないですか!みんな大丈夫だったんですか!?」


「うむ!この国の兵も優秀だからな!直ぐに追い返してやったわ!誰も餌食になどしなかったぞ!」


おぉ!

それなら良かった!

でも、ならどうして姫様はこんなに悲しんでるんだろう?


そう思っていると、女王様に続いてシビルさんが口を開いた。


「けれど…誰も死ななかった代わりにこちらはかなりの痛手を受けました」


どういう事かとシビルさんへ視線を向ける。

悲痛な面持ちで話し始めるシビルさん。


「クラーケンの襲撃により、何ヶ月もかけて作った特設会場が破壊されてしまったんです。明日までには到底直せない程に」


うわ、それは悲惨。

そりゃあ姫様ショック受けるよ。


「それだけでなく、進行をお願いしていた司祭様も怪我をしてしまい…とても式を執り行える状態ではありません」


え!?

司祭様も怪我しちゃったの!?

なんて事だ…。


「更に、何週間もかけて手に入れたケーキのレシピもクラーケンの墨で真っ黒になり…試作前でまだ誰も作り方を覚えておらず、材料は無事なのに作る事が出来なくなりました」


詳しくはないけど、お菓子ってグラム単位でちゃんと計って作らないといけないんだよね?

誰も作った事ない物をレシピ無しで作るなんて無理だよなぁ。

しかも地上から取り寄せたなら材料の在庫にも限りあるだろうし。

これは詰んでる…。


「極めつけは…折角用意して保管していた結婚指輪を、箱ごとクラーケンに飲み込まれてしまいました」


えぇえ結婚指輪まで!?

5億を!?いや2つで10億を!?

絶望のオンパレードに俺も泣きそうだよ!


なんて思っていると、姫様が泣きながらまた叫んだ。


「こんなの…どう考えても神様が私達の結婚を反対してるとしか思えないわ!私達は結ばれるべきじゃないのよ!!」


「ミーヤ…!」


叫びながら直ぐに亀に飛び乗って部屋を飛び出していく姫様。

どこかの部屋へと入ったのか、バタンッという扉の音だけが聞こえた。


あぁ…何事かと思ってたけど、姫様があんな風に思っちゃったのも分かる気がする。

長い時間を掛けて色々と準備をしたのに、それを一瞬で全部台無しにされちゃったんだもんな。

「あんまりっす…」と言いながらクヴァルダさんも作業着の袖を濡らしてる。


すると、シビルさんが立ち上がった。


「とにかく俺、またクラーケンを探してきます!せめて指輪だけでも取り返せれば…!」


そう言うや否やマンタに飛び乗って窓から出ていくシビルさん。

姫様は部屋に閉じ籠るしシビルさんは居なくなるし…どうしたら良いのコレ。


「とまぁ、こんな状態でな!明日どころか、式を執り行えるか怪しいところだ!」


場の雰囲気を戻すかのように声を上げる女王様。

今はこの勢いが有り難い。


「あの、延期とかはしないんですか?」


「それも考えてはいるが、そうなるとソナタらに鉱物を渡すのも遅くなるぞ?」


…それは困る!


「あの、あたしミーヤさんの説得に行ってきます!」


勇敢にもミナスさんが立ち上がった。


「ほう!出来そうか?」


「わかりませんけど…とにかく話してみます」


そう言って直ぐに姫様の居る部屋へと向かうミナスさん。

残された俺達は顔を見合わせる。


「気になるから、行ってみるっすかリオルくん?」


「ですね。行ってみましょう」


「おじいさん、ワタシ達も行きましょう」


「うむ、そうするか」


みんなの野次馬根性よ。

シュルツさんだけは呆れた様子だが、俺達がみんな動き出したので仕方なく付いてきた。


廊下に出ると、部屋の扉をノックするミナスさんが見える。


「ミーヤさん、ミナスです。入っても良いですか?」


「ぅ…ぐす…シビルは…?」


「居ません」


「じゃあ…どうぞ」


思ったより簡単に許可が下りたみたい。

女の人同士だとやっぱり話しやすいのかな?


こちらに気付いたミナスさんが部屋の前の床を指差して『ここで待ってて』という待機指示を出したので、指示に従い俺達もソソソっと部屋の前まで移動した。


部屋の中に入り、早速話しかけるミナスさん。


「ねぇミーヤさん、違ったらごめんなさい。結婚できないって思ったの…クラーケンだけが原因じゃないんじゃない?」


「…!どうして、わかったんですか?」


「何となく、ね」


聞こえてきたその会話に、ジーゼさんも「やっぱり」と呟く。


え!?何でわかったの!?

もしかして俺以外みんな気付いて…いや男性陣みんな首振ってる!

女の人の勘ってやつ!?

すご。


姫様は気付いたミナスさんに静かに語り出した。


「シビルは…元々私の護衛だったんです。でも、私がシビルに一目惚れしちゃって…」


お姫様と護衛!?

おぉ、まるで本にある物語みたい!


「私、感情を抑えられなくてシビルに猛アタックしたんです。最初はシビルも身分の違いもあるしって拒否してたんですけど、それでも何ヶ月もずっと押し続けてたらついに受け入れてくれて…」


姫様意外とアグレッシブ。

ちょっと女王様との血の繋がりを感じたよ。

ずっと諦めずに押し続けられるって普通にすごいと思う。


「でも、応えてもらえて嬉しい反面、ずっと不安もあったんです。私が姫だから…シビルは拒否しきれなかったんじゃないかって。私と結婚するのも、義務感みたいなモノで決めたんじゃないかって…」


うぅーん、そうは見えなかったけどなぁ。

いやさっき会ったばっかりだからもちろん断言なんて出来ないけど。


と、再び姫様が泣き出したのが聞こえた。


「それで、そんな風に思ってたらこんな事件が起きて…。きっと、きっとシビルを権力で無理やり自分のモノにしようとした私へ神が下した天罰なんですぅぅう!!」


うわぁ、なるほどそうなっちゃったかぁー…。

これはなかなかにややこしいぞ。

少なくとも俺の手には負えない。

ミナスさんどう説得するんだろう?


すると、割と明るい感じでミナスさんは話しかけた。


「いえ!ミーヤさん、寧ろ逆だと思うわ!」


「逆…?」


逆?

おっと、姫様と同じ反応しちゃった。


「もし、あたし達が明日までに全部どうにか出来るって言ったらどう思う?」


「え、そんな事…」


「不可能だと思うわよね?でももしそんな奇跡を起こせたなら、それってミーヤさんを助ける為に神様があたし達をミーヤさんの下に寄越したって事にならないかな?」


「それは…そう、かもしれないです」


おぉ!

なんか流れが良い方向に!


「あたし達に任せて!明日の式までに絶対何とかしてみせるわ!そしたら、寧ろシビルさんと結ばれる運命だったんだって信じてくれないかな?」


そのミナスさんの言葉に、少しの無言が続く。

戸惑ってるのかな?

それから、間を空けて姫様は返事を返した。


「もし…もし本当に、それが出来たなら…私!信じられるかもしれないです!」


「そうこなくっちゃ!絶対、最高の式にしちゃうからね!」


「はい!」


おぉおっ、姫様が前向きになってくれた良かったー!

でもそんな断言しちゃって大丈夫かな?


そう思いながらみんなを見て、考えを改めた。

うん、このメンツなら何とかなりそう。



こうして、俺達は結婚式を成功させるべく動き出したのだった。






男性の人魚が想像できない…!

って方はこんな感じでイメージして下さいませ↓

挿絵(By みてみん)

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