第18話 海底の王国アビシフィカ
「見ろ!勇者様だ!」
「昨日の戦闘、本当に凄かったよなぁ!」
そんな言葉が聞こえて来たのは、転移装置のある部屋へ向かうまでの広々とした庭園沿いの廊下。
国王様、先王様を先頭に俺達は後に続いて歩いているのだが、どうにもギャラリーが多い。
もしかして一晩の内に城内中に噂が広がったのかな?
「魔物の群れを一撃で倒したんだろ?」
「そうなんだよ!凄過ぎて腰抜かすところだったぜ!」
「良いなー。俺も見たかった。じゃあジーゼさんの方もやっぱ凄いのかな」
「そりゃそうだろ!」
昨日の戦闘に参加していた騎士達が目を輝かせ、話を聞いた他の騎士達も憧憬の眼差しで見ている。
すごい…また新たな勇者伝説が生まれてる気がする。
因みに観に来ているのは騎士だけではない。
様々な使用人の人達も覗いていた。
「なぁ、あの緑髪の作業着の人ってさ…翠髪のクヴァルダじゃないか?」
「やっぱりそうだよな!?あの凄腕職人の!この城にもクヴァルダ製の家具とか結構置いてるんだろ?」
「あぁ。最近ベッド全部入れ替えしただろ?あれもクヴァルダ製だってさ」
て事は昨日のふかふかベッドもクヴァルダさん作ったやつか!
通りで寝心地良いと思った。
もちろん使用人の方々が綺麗に整えてくれてたからってのもあるけど。
それにしても城に置かれるような物まで作っちゃうとかクヴァルダさん本当に凄いんだな。
「ねぇほら、あそこの白衣の人見て!」
と、別の所では女性の使用人の方々も騒いでる。
「うわぁ、想像以上にイケメン…!40歳手前でアレは反則じゃない?」
「あの人でしょ?天才医師シュルツって」
「そうそう!宮廷医師にならないかって何度も誘われるくらい腕が良いんですって!」
「素敵…!私も治療されたい…!!」
あれ!?
シュルツさんももしかして結構有名人!?
いや、確かに腕が良いってのはすごい納得。
俺もメッチャお世話になってるし。
でもまさか宮廷医師に誘われるレベルだったとは…。
「なぁ…もしかしてなんだけど、あの赤髪の美人って苺姫ミナスじゃないか?」
「え!?有名情報ギルド『黒兎』の!?」
「そうそう。隠密活動で正体隠してる人も沢山いる中、敢えて看板娘として姿も晒してるギルドの顔!」
「美人な上に知識量も一番多いって話だよな!」
待って!
ミナスさんも有名人なの!?
俺急に肩身が狭くなってきた!
「じゃあ…あの子供は?」
お願い!
俺には注目しないで!
この廊下長いよどうなってるの!
「んー…金髪碧眼だし、実は勇者の子孫とか?」
そう名乗っていた時期もありましたが!
「俺わかるぜ!」
と、1人の騎士が言い出した。
え!?
わかるの!?
俺も知らないのに!?
「昨日の戦闘で、あの少年は天流剣を使ってたんだ。つまり…彼は勇者の後継者だ!」
「勇者の…後継者!?」
…。
なんか格好良い肩書き付いた!
勇者の子孫を自称すべく習得した(エセ)天流剣がここに来て俺を救うとは!
肩身の狭さが取れた俺は足取り軽くみんなと歩く。
この廊下どこまでも続けば良いのにな。
「ぷ…」
ん?
急にシュルツさんが横向いてプルプルし出した。
なんで?
「ぶふっ!やっぱリオルくんメッチャ可愛いっす!」
「ごめんクヴァルダあたしも混ぜて」
うわぁなんかすごい撫で回される!
何ならジーゼさんまで振り返ってナデナデしてきてるし!
みんな見てるからやめて!!
結局、転移装置のある部屋に辿り着くまでずっと揉みくちゃにされた。
ひどい。
「さあ、これがアビシフィカへの転移装置だ」
「「おぉーっ」」
国王様が指し示した装置を見て、思わず俺とクヴァルダさんで声を上げる。
それがあったのは王城の地下にあった一室だ。
途中まではギャラリーも多かったものの、段々と警備が厳重になりこの部屋に至ってはネズミ1匹入れなそうな感じだった。
そして目の前にある装置のカッコ良さと言ったら!
直径3mくらいの台座が円形になっていて、白い鉤爪みたいな形の装置が囲うように四箇所に配置されている。
その横には恐らくこの装置を操作するのであろう四角い機械のような物が置いてあった。
操作盤らしき物が淡く光っている。
「すごい!カッコイイ!」
「これはテンション上がるっすね!」
そんな風にクヴァルダさんとキャッキャと喜んでいる間に先王様がリュデルさんに巻紙を手渡す。
「向こうに着いたら、恐らく女王のキーランが出迎えてくれる筈じゃ。話は通っているが、一応証明としてこの書状を見せてやってくれ」
「うむ。すまんな」
「それはこちらじゃよ。要石の破壊、よろしく頼むぞ」
そのやり取りを見届けて、今度は国王様が俺達を促した。
「では、早速転移を始めよう。その台座の上へ乗ってもらえるか?」
そう言われ、ドキドキしながら全員で台座の上に乗る。
ここから海底の国に行けるとか全然想像できないよ。
ワクワク!
「全員乗ったな?それでは始めよう。…覚悟は良いな?」
ん?覚悟?
「あ、ジゼちゃんは一応コレを着けてな」
言いながら先王様がジーゼさんの手首に紐を結んだ。
そして直ぐに台座から離れ、先王様が降りたのを見て国王様が操作盤に触れる。
すると、台座と鉤爪装置の先端が光り始め俺達は光る球体に囲まれた。
そんな状況の中、ジーゼさんの手首を見たミナスさんが青褪める。
「え?それって…保護紐?」
「保護紐?」
「ある程度の衝撃や負荷から守ってくれる王家の宝の1つよ」
へーすごい!
あれ?
けど何でそれを…
「では、行って参れ」
そう国王様が言った直後、立っていた台座が消えた。
…消えた?
「「わぁぁあ!?」」
当然のように落下する俺達。
その落下スピードはどんどんと上がっていく。
なんならちょっとウネってない!?
何コレ何コレ!?
と、かなり加速した所で急に光に包まれた。
そして光が途絶えたかと思った直後、広い部屋にポーンと投げ出される。
俺達が入っている球体は急激にスピードを落とし、今度はユルユルと城で見た装置と似た物の上に着地した。
「うぇぇ…」
光の球体が消えた瞬間に床に倒れ伏す俺達。
お…思ってた転移と違う…。
せめて先に言っておいて欲しかった…。
シュルツさんすら片膝ついて額押さえてるじゃん。
因みに保護紐を付けてもらったジーゼさんは勿論だけどリュデルさんも平気そうに立っていた。
バケモノか。
「おぉ、よく参ったな!」
と、若干グロッキーな俺達に唐突に声が掛かった。
顔を上げるとそこに居たのはとても綺麗な女の人。
ピンク色の長い髪に着物のような服を着ていて、脚は魚のようになっていて亀の上に座っていた。
って足が魚!?
「ワレはこの国の女王キーランだ!ソナタらがジークマイヤーが言っていた勇者一行であるな?歓迎するぞ!」
人魚の女王様だ!!
うわすごい!
両サイドに付き従ってる女性2人もよく見たら人魚だ!
グロッキーになっている場合ではないと慌てて立ち上がり挨拶する。
そんな中でリュデルさんは「これが預かった書状じゃ」と慌てる事なく先王様から預かった巻紙を女王様に渡した。
直ぐに目を通す女王様。
「うむ、間違いないな。では早速、宮殿へ案内しよう!」
そう言って部屋の出口に向かって颯爽と歩き出す。
いや、正確には乗っている亀が宙を泳ぎだした。
「え、亀が浮いてる!?」
「わ、凄いわね。あれが『アクアバディ』…。実物は初めて見たわ」
驚く俺の横でミナスさんが呟く。
アクアバディ?
「お、ソナタは詳しいのだな!コイツらは水中でなくとも泳ぐ事が可能な特殊な生き物。陸での移動が難しい我々の大事なパートナーだ!」
その説明を聞いて、ミナスさんは小さく「パートナー…」と呟いた。
クヴァルダさんそっとミナスさんの隣に移動したけどどうしたんだろう?
因みに女王様は亀に乗っているが、両脇の護衛らしき人魚さん達はエイに乗っている。
アクアバディって色んな種類いるんだな。
なんて観察している内に出口の前まで辿り着く。
「さぁ、とくと見よ!これが我が国だ!」
そう言いながら、女王様は大きな扉を開け放った。
そこに広がっていた光景に「わぁっ」と声を漏らす。
海に囲まれているだろうこの国は、とてもとても巨大な泡の中にあった。
あちこちにお店などが建ち並び、アクアバディに乗った沢山の男女の人魚が行き交っている。
地面には幾つもの水路があって、そちらを使って移動している人魚も多くいた。
よく見たら透明な膜の外側にも家が並んでいる。
膜の内外への出入りは水路を使ってるのか!
成る程それなら破れなそう!
因みに建物は珊瑚などを使用しているのか、カラフルでとても綺麗だ。
これが海底の王国…!
すごい!
「空気のある中に国を作っているのは、人間を配慮してですか?」
「その通りだ!地上の王族が来る事もあれば、ソナタらのような客人も来るからな!」
シュルツさんの質問に頷いて答えてくれる女王様。
なるほど有難い限りだ。
俺達は活気ある街の様子を楽しみながら、女王様に付いて歩いた。
少し歩くと、大きな宮殿が見え始める。
「あれがワレの住む宮殿だ!立派だろう!」
「すごい大きい!色も綺麗!」
「そうだろうそうだろう!」
ヤバ、興奮のあまり思いっきりタメ口で言っちゃった!
女王様怒らなくて良かった!
沢山の珊瑚が使われている宮殿は、色も綺麗でキラキラしていてそれでも下品にならないような見た目の大きな建物だった。
女王様に続いて中へと入り、貴賓室へと案内される。
中も珊瑚キラキラだ!
そして女王様に促されるまま、俺達は大きい貝の椅子に腰掛けた。
「さて、早速本題に入ろうか!聖なる鉱物ニャルハルコンが必要との話だったな!」
何度聞いても可愛い名前だな。
「うむ、その通りじゃ」
「こちらの国にあるかしら?」
「あぁ、勿論あるぞ!」
ジーゼさんの質問に直ぐ肯定する女王様。
この国にあるんだ!
採りに行く必要も無いなら話が早い!
「それじゃあ、譲ってくれるんすか?」
「無論だ!要石が在ってはこの国だって危機に陥るかもしれないからな!」
クヴァルダさんの質問にも迷わず頷いてくれる女王様。
まさかこんなにすんなり貰えるなんて!
と思っていたら、女王様は肯定したのと同じテンションで言い放った。
「だが今は無理だ!」
「「「え!?」」」
突然の裏切りに頭が混乱する。
何何どういう事!?
「今は…という事は、直ぐに渡せない事情があるという事ですか?」
「そうだ!察しが良くて助かるぞ!」
シュルツさんの質問にまたしても勢いよく肯定する女王様。
直ぐに状況を理解するシュルツさんすごい。
と、そこにミナスさんも続いた。
「もしかして…結婚式があるんですか?」
「ほう!そこまで知っているとは驚いたぞ!実は我が娘の結婚式が明日に控えているのだ!」
娘さん…て事はこの国のお姫様の結婚式!?
それはおめでたい!
でも聖なる鉱物と何の関係があるんだろう?
よく分からずミナスさんを見ると、直ぐに説明してくれた。
「この国では、結婚式の時に聖なる鉱物の前で誓いを立てるっていう風習があるのよ。鉱物自体が珍しい物だから直ぐには採ってこれないでしょうし、今渡してしまったら式に影響が出ちゃうって事だと思うわ」
なるほど、そういう事か。
せっかくの結婚式を台無しになんてしたくないし、それは仕方ない。
「じゃあ明日の式が終わるまで待ってれば良いんすね!」
「あぁ、そういう事なのだが…」
クヴァルダさんの言葉に答える女王様が少し考え込む。
どうしたんだろうと思って見ていると、額に汗を浮かべながら女王様は口を開いた。
「明日式を挙げられるかちょっと怪しいかもしれない!!」
「「「はい!?」」」
まさかの言葉に再び俺達は耳を疑った。
式挙げれないかもって…何が一体どうなってるの!?
状況が分からず、室内は混乱の空気に包まれたのだった。
リオルくんの愛され度が加速中。




