第15話 情報屋ミナス
《到着〜!》
行きもそうだったが、流石ドラゴンだけあって地上に戻ってくるのもとても速かった。
あんなに広大なメルフローラも、肉眼ではもう全く捉えられない。
なんかあっという間の出来事だったなぁ。
「ローザさん乗せてくれてありがとうございました!」
「おかげで目的の物も無事入手できたっす!」
取り敢えず、ローザさんにお礼を言いながら背から降りる。
ローザさんはニコニコしながら頷いた。
《良いのよぉ!私も前世の婚約者に会えて良かったわ〜!》
「ローザはまた山に帰るんか?」
《そうね〜。彼が生まれ変わるのを寝て待つ事にするわ》
「楽しみが出来て良かったわねぇ。また捕まらないように気を付けてね」
《ええ、ありがとう!それじゃあね〜!》
再び翼を広げたローザさんは、自分の住処の方へと飛び去っていく。
それを見えなくなるまで見送り、俺達は顔を見合わせた。
「…さて。ローザさんも帰った事だし、コレどうするか考えるっすか?」
「そうだな」
言いながらクヴァルダさんが取り出した石を全員で囲む。
丸い水晶のような石の中に、黒や紫の禍々しい色合いが漂っている。
実はこれ、アークデーモンを倒した後の焼け野原に残っていた物だ。
ドラゴンの炎でも傷一つ付いておらず、どう考えても魔界と繋がるゲートを開いたのはコレじゃね?となり回収してきたのである。
「じいちゃん」
「うむ」
――ポイッ ガキャン!
クヴァルダさんが放り投げ、リュデルさんが剣で斬りつけてみる。
しかし、リュデルさんの剣撃ですら石が壊れる事は無かった。
「やっぱり…壊れないっすね」
「壊す為の、何か特殊な方法があるのかもしれないな」
「コレ…放っておいたらまた500年後に魔界と繋がるんですよね?」
「そうねぇ。どうしましょう?」
俺達が生きている内にはもう何も無いだろうが、だからといって放置も出来ない。
皆んなで「うーん」と頭を悩ませていると、クヴァルダさんが顔を上げた。
「うん、やっぱりミナスに頼るしかないっすね」
「ミナス?」
誰だろう。
初めて聞く名前だ。
「何でも知ってる情報屋なんすよ。ベッドの材料についての情報も、全部ミナスから聞いたんす!」
情報屋!
うわぁなんか格好良い!
てか、クヴァルダさん知ってる情報と知らない情報で変に偏りあるなと思ってたら、そういう事だったのか。
「取り敢えず連絡してみるっすねー」
は!
クヴァルダさん魔導フォンまで持ってる!
良いなぁ羨ましい流石お金持ち。
――ピロリロピロリロリン♪
…ん?
何で背後から着信音が…?
そう不思議に思った時、怒気を孕んだ女の人の声が突然聞こえた。
「ク〜ヴァ〜ル〜ダ〜?」
――ギクッ
えっ何何!?
クヴァルダさんが機械みたいな動きで振り返ってる!
驚きながら俺も声のした方を見ると、赤毛の綺麗なお姉さんが立っていた。
ただし、怒りの形相でクヴァルダさんを睨んでいる。
「ミっ、ミナス!?何でここに居るんすか!?」
「何でじゃないわよ!!アンっタねぇ…旅とか出るなら書き置きの1つでもしていくもんじゃないの!?急に居なくなるから何事かと思ったじゃない!!」
「そ、それはゴメンっす…」
なんかすごい怒られてる。
ミナスって…さっき言ってた情報屋の人だよね?
どういう状況??
「なんじゃクヴァルダ。随分親しそうじゃのう」
「そちらの子はどなたなの?」
見兼ねたリュデルさんとジーゼさんが声を掛けた。
それを受け、「あ、失礼しました!」と謝るミナスさんとクヴァルダさんが振り返る。
「紹介するっすね!さっき話した情報屋のミナスっす」
「初めまして!クヴァルダの嫁です♪」
「いやまだ嫁じゃないっすよ!?」
ん!?
今まだって言った!?
て、事は…
「ク、クヴァルダさん彼女いたんですか!?」
「え?そりゃいるっすよ」
さも当たり前のようなテンションで言われた!
なんか悔しい!
因みに驚いた俺と違ってリュデルさん達は「ほぉ、別嬪さんじゃのう」「本当ねぇお似合いよ」と普通の反応だ。
うぐぅ…。
「ねぇクヴァルダ、そちらのお二人ってもしかして…」
「そ。オレのじいちゃんとばあちゃんっす」
「キャーやっぱり!勇者達が現れたって情報は本当だったのね!お会いできて光栄です」
そう言って2人と握手をしながらチラリとリュデルさんの頭を見る。
「…情報は本当だったのね…」ともう一度呟いた。
続け様に、クヴァルダさんはシュルツさんを紹介する。
「でもって!こっちがオレの義兄さんっす!」
テンション高々に言ったクヴァルダさんに指し示され、目を向けるミナスさん。
途端に頬を染め、「初めまして、シュルツです」「あ、ミナスです。よろしくお願いします」といったやり取りをした直後にクヴァルダさんをバシバシ叩いた。
「やだ、お義兄さん滅茶苦茶イケメンじゃない!流石プリコン優勝者!」
情報が早い。
「そうっすよね!格好いいっすよね!」
「…アンタ、そこは少しは嫉妬しなさいよ」
「イダダダダダ!?」
耳を引っ張られて悲鳴を上げるクヴァルダさん。
うん、なんか2人の上下関係は大体わかった。
「…それで、そっちの子は?クヴァルダ、弟とか居なかったよね?」
ミナスさんが俺の方を向いて首を傾げる。
家族紹介の中に紛れ込んですみません。
「リオルくんっすよ!じいちゃん達が知り合って、一緒に旅してるんす!」
「そうなのね。よろしくねリオルくん。仲良くしてね」
ニコリと笑顔を作るミナスさんはまさに綺麗なお姉さんって感じだ。
20代半ばくらいかな?
わぁー、なんかこういうお姉さん相手だと照れるというか変な気分。
「よ…よろしくお願いします…」
「やだ!赤くなってる可愛い!」
やめて。
恥ずかしい。
「リオルくん、変な目で見ちゃダメっすからね?」
何で俺相手だと嫉妬すんの。
と、そんなクヴァルダさんが思い出したように言った。
「あ!そうだ!リオルくんのあの家紋、ミナスに見てもらったらどうすか?ミナス、外国の家紋とかも把握してるっすよね?」
「家紋?全部とは言わないけど、大体把握してるわね」
「ほら!これで確実にわかるっすよ!」
そう喜んで言いながら、ミナスさんに経緯を説明するクヴァルダさん。
確かに情報屋さんに見てもらったなら一発で判明しそうだ。
でも…
俺は、今朝の『俺を養子に』という言葉に喜んでくれたシュルツさんの顔を思い出してしまった。
折角笑ってもらえたのに、今ここで親の事とかわかるのは…なんか…
「んじゃあリオルくん。宝石見せてもらっても…」
「あの!取り敢えず、今は家紋の事は良いかなって…」
「ん?どうしたんすかリオルくん?」
昨日までノリノリだったのに急に断ったのだからそうなるだろう。
でもやっぱり今は知りたくない。
「その、もし親がどこにいるか分かったりしたら…自分でもどう思うか分からないというか…。会いに行きたくなるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。もしかしたら、何かの理由でみんなと一緒に旅するのも終わりになっちゃうかも…。こ、こうしてみんなで旅するの楽しいから、せめて、旅が終わるまではやめとこうかな、って…」
しどろもどろでどうにか説明する。
うぅん…伝わったかな…。
すると、聞いていたクヴァルダさんとミナスさんが急にプルプルし始め両手を広げた。
「なんすかなんすか!リオルくんメッチャ可愛いこと言うじゃないすか!」
「ちょ、クヴァルダずるい!ごめんねリオルくん!初対面だけどお姉さんにも抱き締めさせて!!」
「ひやあ!?」
いきなりクヴァルダさんとミナスさんに揉みくちゃにされて悲鳴を上げる。
ギュウギュウしないで!
あと他の皆んなも微笑ましげに見てないで助けて!!
散々好き放題され、自力でなんとか脱出した俺はシュルツさんの背後に飛び込んだ。
ジリ…と尚も迫ろうとするが近付けない2人。
ココハ安全地帯。
「それよりクヴァルダ、いい加減見つけた石の事を聞いたらどうだ?」
頼もしきシュルツさんが話題を石の方に戻してくれる。
すっかり忘れていたらしいクヴァルダさんは慌てて石を取り出した。
「あ!そうだったっす!ミナス、これって何だか分かるっすか?」
「え?何よこの禍々しい石は…初めて見るけど」
「よく分かんないんすけど、500年に一度魔界と繋がるゲートを開く石っぽいんすよ」
その言葉を聞いた瞬間、ミナスさんは目を見開いた。
「まさか…要石!?」
「「要石?」」
初めて聞いた名前にクヴァルダさんと復唱する。
こくりと頷きながら真剣な表情で続けるミナスさん。
「千年前…偶然生まれた悲劇の産物よ。まさか、未だに残っていたなんて…。えと、順番に説明するわね?」
頭の中で話す内容をまとめているミナスさんに皆んなで頷き返す。
ミナスさんは出来るだけ分かりやすいようにと説明してくれた。
「まず前提として、最近究明された学説を聞いてくれる?」
いややっぱり付いて行けないかもしれない。
「この世界とは別で、魔界が存在するっていうのは皆んな聞いた事あるわよね?その辺りについて最近わかったんだけど、この世界も魔界も、一定の速さで公転…えと、円を描く様に動き続けてるみたいなの」
世界が動き続けてる?
うーん、想像付かない。
首を傾げているとミナスさんは板状の魔道具を取り出した。
「図で説明するとこんな感じね」
うわ!?
空中になんか映し出された!!
何その魔道具!?
カッコイイ!!
「この真ん中の線から左のがこの世界。右側のが魔界。どちらもこんな風にそれぞれ周回し続けてるの」
おお、図で見るとすごいわかりやすい。
半分に仕切った画面の左右で、小さい丸がそれぞれ違うスピードで時計回りにグルグル動いてる。
「でね、普段は影響無いんだけど、一定の周期でこの世界と魔界が最接近してるのよ。その周期っていうのが…500年に一度」
あ!
話が繋がってきた!
「まぁ近付くってだけで異次元にあるから安心して。て言っても影響を受けてこの世界に瘴気は生まれちゃうけどね」
「瘴気?」
「えぇ。瘴気によって変化したものが魔物って言われてるの。因みに500年に一度の再接近で影響を受け過ぎた魔物が特殊個体になりやすいんじゃないかともね」
はえ〜、全然知らなかった。
でもなんかそう聞くと納得しちゃう。
「ま、難しい話はこれくらいにして要石の話をするわね」
クヴァルダさんの眉間の皺を指先でグリグリしながら言うミナスさん。
俺でも付いていけたのにね。
「千年前…とある男が瘴気の研究をしていたの。その研究で瘴気を凝縮する事に成功し、1つの石が出来上がった。それが後に要石と呼ばれた…この石ね」
石を片手で持ち、見つめるミナスさん。
「この要石は、魔界と最接近した際に世界を繋げてしまう力があったの。そうとは知らず、彼は凄い物が完成したと喜んだわ。そして、悲劇が起こった。石が完成した数日後に最接近の日を迎え…アークデーモンが石から出現したの」
昨日のアークデーモンの姿を思い出す。
まさかあんなのが石から出てくるなんて思わなかっただろうな。
「アークデーモンは初めて来た世界に喜び…1日でそこにあった小国を滅ぼしたそうよ。研究者の男も国民達も為す術が無かった。沢山の人が死に、大災害として歴史に刻まれたわ」
それが、今も言い伝えとして残っている話だろう。
「研究者の男は私のせいだと自分を責めたわ。そして責任を取ろうと…要石を抱えて自分の魔力全てを使い果たして自爆した」
「! 自爆?」
「ええ。自分諸共石を壊そうとしたのね。その後、隣国が総力を上げて要石の捜索を行ったけれど見つかる事はなかった。だから、石は無事に消滅したのだろうと言われていたんだけど…まさか、残っていたなんて。これ、一体どこにあったの?」
それを聞いて、思わず俺達は顔を見合わせた。
「実はそれ、メルフローラにあったんすよ」
「メルフローラに!?天空の!?はぁー、通りで見つからない筈よ。まさか天空の大地に落下してたなんて…。てか待って、もう行ってきてたの!?これ拾った経緯も気になるし…何があったのか教えて!」
クヴァルダさんにグイグイ迫るミナスさん。
情報屋の血が騒ぐのかな。
一通りの出来事を説明すると、流石のミナスさんも頭を抱えた。
「嘘でしょ…500年前にもアークデーモンが出現してたなんてあたし達も知らない情報よ…。そんでそれを昨日倒した?何がどうなってるの…」
自分の把握していない新情報が次々と出てきて混乱している。
なんか申し訳ない。
それでも脳内整理が終わるまでは早かった。
「とにかく、話は分かったわ。それでこの要石を破壊したいのね?」
「そうなんす。出来そうっすか?」
「…断言は出来ないけど、恐らく壊せるだろうって方法はあるわ」
「おぉ!さすがミナスっす!」
すごい!
直ぐに方法を考え出せるとか情報屋さん頼りになるカッコイイ!
が、ミナスさんはニッと笑って言った。
「ただし、教えてあげるには条件があるわ」
「え、なんすか怖いっす」
クヴァルダさんがタジタジになってる。
「あたしもこの旅に同行させなさい!このメンバーの旅は絶対ヤバい情報源になるわ!」
それは否定できない。
無理難題とかでなくてホッとしたクヴァルダさんがこちらに聞く。
「それくらいなら…良いっすよね?」
「もちろんじゃ」
「人が多い方が楽しいでしょうしねぇ」
「ありがとうございます!」
皆んなが了承してくれた事に頭を下げてお礼を言うミナスさん。
それから「よかった…」と呟いてクヴァルダさんの服をキュッと掴んだ。
「? どうしたんすか?」
「だって…」
と言いながら、とても小さい声で呟く。
「…すごく、寂しかったんだからね…」
「…悪かったっす」
服を掴んでいた手をクヴァルダさんがそっと握ってあげる。
え、待って。
俺達は何を見せられてるの?
見てるこっちが照れるから急にラブラブしないで!!
こうして、情報屋のミナスさんも俺達に同行する事になったのだった。




