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第11話 王の願い



《落ち着け。そなたらに危害を加えるつもりは無い》


怯えてシュルツさんの背中に必死に隠れる俺達に悠然とした態度のまま言う王様。


見た感じ歳は70代くらいかな?

座っているだけなのになんかこう迫力がある。

あと幽霊こわい。


「そんじゃお邪魔しようかのぅ」


なんて平然と言いながら、リュデルさん達はさっさと迷い無く王様の元へ移動している。

すご。


シュルツさんもリュデルさん達に続くように歩き出し、俺とクヴァルダさんはそれに必死で付いていった。

全員が壇上近くまで来たところで王様が口を開く。


《まずは名乗らせていただこう。私は第129代国王ペシュメルガ=レソ。約千年前、この国を治めていた王だ》


千年前とかガチで亡くなってる人じゃん。


「ワシはリュデルじゃ。よろしくのぅ」


「ワタシはジーゼよ。よろしくねぇ」


何で2人はヘッチャラなの?

勇者なの?

勇者だったわ。


「私はシュルツです。よろしくお願いします」


と、シュルツさんまで続いたので「リ、リオルです…」「ク、クヴァルダっす…」と小声で俺達もなんとか挨拶した。

すると、ユラリと立ち上がる国王様。


や、やっぱり失礼過ぎた!?

怒ったの!?


壇上からゆっくり降りてくる国王様に俺とクヴァルダさんはガクブルだ。

だが、国王様の次の行動は俺達の想像を裏切るものだった。


《先に謝ろう…。本っっ当に申し訳ない!!》


えぇえ!?

いきなり国王様が土下座した!!

いや偉い人が俺達みたいな平民に頭下げちゃ駄目でしょ!?


慌てふためく俺達に国王様は続ける。


《初対面の方々にする事ではないというのは重々承知しているのだが!どうしても!!頼みたい事があるのだ!!》


土下座しながらブンブンと頭を下げまくる国王様。

俺もうこの人怖くない。


「なんじゃなんじゃ。取り敢えず話してみぃ」


《心優しきお言葉!感謝する!》


そう言うと、フワァと移動し椅子に座り直した。

戻るんだ。


《実は…そなたらにどうしても倒してもらいたいヤツがいるのだ》


「ん?魔物かの?」


《いや、魔物でも人間でもない》


え?

魔物でも人間でもないって…他に何か居ただろうか?


首を傾げる俺達に、国王様は息を吸い真剣な表情で告げた。


《本来この地に存在する筈のない異界の者…『アークデーモン』だ》


「!」


アークデーモン!?

遥か昔にたった1日で国を消し去ったって伝承がある…あの?


「ちょ、ちょっと待ってくださいっす!アークデーモンって実在するんすか!?」


クヴァルダさんがそう聞くのも納得だ。

俺も物語としてでしかその名前を聞いたことがない。

そもそもデーモンというのは魔界にいて、この世界には存在しないのだ。

なんなら魔界だって本当にあるか分からなかったし、デーモンも空想上の生き物かと思っていた。


《ヤツは実在する。千年前…この目で見たからな》


「え!?」


実際に目にしたとなれば、信じない訳にもいかない。

息を飲む俺達に国王様は説明を続けた。


《地上に残っている伝承は、恐らく二千年前のものだろう。実はな…このメルフローラには千年に一度だけ魔界と繋がる、闇のゲートが存在するのだよ。だがそうとは知らず、我々の先祖は1800年前にこの地に移り住んだ。800年後にまた魔界と繋がるなどと思いもせずな》


どこかから現れたデーモンによる悲惨な事件は歴史として残っていたけれど、天空の大地にその入り口があるとは誰も思わなかったって事かな。

そりゃあこんな綺麗な所にそんな禍々しいモノがあるなんて誰も思わないよね。


《当時私はまだ王太子でな。王になるべく日々邁進していた。幼い頃からの婚約者も王妃教育を頑張ってくれていて、お互いに励まし合って過ごしていたのだ》


おぉ、こういうのはまさに王族って感じだ。

俺達とは縁遠い話だなぁ。


《この婚約者というのが、なかなか口うるさくてな》


ん?

なんか始まった?


《王になる自覚を持てだの、話し方や態度もちゃんとしろだの、そりゃあもう毎日のように怒られて…。向こうは王妃教育も完璧にこなしているから、私は何も言えなくてな》


「うぅむ分かるぞぉ。頭が上がらんのじゃよな」


「リュデルさん?」


「ななな何でもないぞ」


すごいジーゼさん。

あのリュデルさんがメチャクチャ目を泳がせてるよ。


《彼女は本当に出来た令嬢だった。才色兼備、秀外恵中…いや尽善尽美、十善十美。どう表現するのが正解なのかわからない》


あ、愚痴かと思ったらノロケだこれ。

すごい好きだったんじゃん。


《親が決めた婚約だったが…私と彼女は本当に愛し合っていた。一緒にこの国を支えていくのだと、信じて疑わなかったのだ。だがそんな中…再び開いたゲートからヤツが現れた》


話の雲行きが怪しくなり、皆んな静かに続きを聞く。


《ヤツはこのメルフローラを見て驚いていたよ。こんな所に王国が築かれてるとな。そして自分の通行の邪魔だからと…本当にそれだけの理由でこの国を滅ぼそうとしたのだ》


通行の邪魔だから滅ぼすって…確かにメチャクチャな話だ。


《アークデーモンの出現と国の危機に、勿論国民達はパニックになった。王太子である私は、恐怖を押さえつけてなんとか民を助けて欲しいと願ったよ。必死に地面に頭を擦り付けながらな。しかし、そんな私の頭を踏み付けてヤツは私を殺そうとした》


デーモンへのヘイト値がどんどん上がっていく。

多分人間の事なんて虫ケラくらいに見てるんだろう。


《その時、私を助けたのは彼女だった。敵うはずもないのに、攻撃魔法を放ったのだ。もちろんヤツには全く効きもしなかったがな…。腹を立て、ヤツは今度は彼女を殺そうとした。それを今度は私が庇った。そんな我々を見て、ヤツは良いことを思いついたと言って笑い余興を始めたのだ》


「余興…?」


《私にある選択を迫ったのだよ。『この国の国民』と『愛する婚約者』…どちらを救うか選べとね》


「「「!!」」」


なんて惨い選択肢だろう。

いくらなんでも酷すぎる。


《そして私は苦悩の末…国民を選んだ。民を守る王族として、自分の欲の為だけに彼女を選ぶわけにはいかなかったのだ》


「王様は大変なんじゃな…。ワシだったら迷わずジーゼを選んどるぞ」


そりゃリュデルさんならそうだろうけど、勇者としてどうなのその発言は。

いや、リュデルさんなら結局両方助けそうだけど。


《そうだな、私も王族でなければ同じ事をしたかもしれない。それくらい彼女を愛していたつもりだ。だがその彼女を…ヤツは目の前で生きたまま焼き殺した。デーモンの放つ炎だ…骨すら残らなかったよ》


悲惨すぎて話を聞いているだけで辛い。

「国王様可哀想すぎるっす…!!」とクヴァルダさんも大泣きしてる。


《私は絶望して泣き叫んだ。そんな私を見て、ヤツは愉快そうに笑っていたよ。そして今回は充分楽しめたから、また千年後に遊びに来ると言い残して消えていったのだ。私は国を守ったとして国民達から讃えられたよ。彼女の犠牲で…救われたというのに》


辛そうに笑う国王様。

一体どれほど苦しんだのだろう。


《結果的に、私が即位してから国は黄金期という程に栄えた。たくさんの家族や信頼できる家臣たちに囲まれ、順風満帆の人生だったと言えるだろう。だが…私はどうしても千年後の奴の再来が気掛かりだったのだ。今度は私の子孫が同じ思いをするかもしれないと思うと、気が気ではなかった》


国王様は自分の青白く光る手に目を向けた。


《私は考えたのだ。何とか悲劇を防ぐ手立てはないかと。そこで、数十年という永い年月をかけて自らの魂に魔力を纏わせた。千年後、魂を実体化させて民に危機を知らせる為にな》


成る程、国王様の亡霊は自ら作り出したものだったのか。


あれ…でも民って。


《まぁ、今から100年前に少子化の影響による人口減少で国が回らなくなり、地上への民族大移動でメルフローラは滅んだがな…》


世知辛い。


《私は悩んだよ。子孫達もみんな地上行ったしもう良くね?とも思ったが、ヤツが再び現れる事に変わりはない。止めなければ結局地上へと降り立ってしまうだろう。しかし、私はここから動けないし、ここに誰も来ることもない。刻一刻とヤツが出現する日が近付き、マジでヤバいどうしよう?と頭を抱えていたら…そなたらが現れたのだ》


ちょいちょい国王様と思えない言葉遣いが聞こえたぞ。

そっちが素なの?


「なるほど…それで我々にアークデーモンを倒してほしいと頼んだのですね?」


《そうなのだ。初対面の人間に頼んで良いような内容では無いと分かってはいるが…もう他に手が無くてな》


質問の答えを受け、コクリと頷くシュルツさん。

そしてリュデルさんへと目を向けた。


「どうです?リュデルさん」


「うむ、断る理由は無いのぅ」


《ほ、本当か!?いや真か!?》


言い直す必要あったかな。


《あ、相手はあのアークデーモンだ。頼んだのは私だが…命の保証はできぬぞ?》


「ワシに掛かればチョロいもんじゃ!」


《待ってくれ。そなたも戦うのか?若者達だけじゃなく?》


あ、そっか。

国王様はリュデルさんが勇者だって知らないんだった。


「ワシは地上で勇者と呼ばれた男じゃ。この中で一番強いんじゃぞ?」


《…このご老人が言ってるのは戯言か?》


「いえ、事実です」


《えぇ…》


シュルツさんの答えを聞き《頼む相手間違えたかな…》と呟く国王様。

そりゃ客観的に見たら、90歳のお爺さんが一番強いパーティーなんて不安でしかないよね。


《と、とにかく、引き受けてくれた事非常に感謝する。こんな状態でなければ、礼も弾ませたのだがな…》


その言葉を聞き、ジーゼさんが手をポンと叩いた。


「あ、それならアークデーモンを倒したら屋上の庭園へ入らせてもらえるかしら?欲しい植物があるのだけれど」


ハッ、そうだった!

ていうかそれが目的だった!

国王様の話が重すぎて忘れてたよ。


《その程度なら構わない。倒してくれた暁には、必ず庭園の鍵を渡すと約束しよう。好きなだけ持っていくと良い》


と、ここで未だに大泣きしているクヴァルダさんが質問した。


「あ…ありがどうっすぅう…っ。ち、ちなびに、そのアーグデーボンはいつ現れるんすか…?」


なんか弱そうな名前になってる。


《今日だ》


「「今日!?」」


思わず俺も声を張り上げた。


《しかも詳しい出現場所は私も分からない》


「やばいじゃないすか!」


一気に涙が引っ込んだクヴァルダさんと共に俺達も慌てる。

まさか千年に一度の日が今日で、しかも現れる場所もハッキリしていないとは思わなかった。


この国、案外広大だったよね?

アークデーモンが地上へと向かう前に、場所特定って結構難しいんじゃ?

でも行かなきゃ!



こうして俺達は、目的の為、そして国王様の願いを叶える為に慌てて城を後にしたのだった。





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