第10話 天空の王国メルフローラ
「無事に街を出られて良かったわねぇ」
《本当ね、どうしようかと思ったわぁ〜》
と、ジーゼさんとドラゴンが和やかに話す。
ドラゴンは人型に変身して美少女に…なんて事は無く、俺達はこの巨体でどう騒ぎを起こさず街を出ようかと頭を悩ませた訳だ。
結果的にドラゴンを運び込んだ際に使ったであろう秘密の通路を発見し、無事に人目に付かないよう街を脱出できたのだった。
《じゃあ、改めて自己紹介するわね。ドラゴンのローザよ。71年前に寝起きで機嫌が悪くて暴れてた所をリュデルとジーゼにこってり絞られてねぇ。それで友達になったの》
暴れるドラゴンをこってり絞ったのか。
19歳で?
すご。
「そういえばそんな出会いじゃったのぅ。それから寝るのが好きなジーゼと意気投合したんじゃったな」
「そうでしたねぇ。でも、結婚祝いで駆けつけてくれた時以来会えてなかったから寂しかったわ」
《ごめんね〜。私ってば人間と違って寿命が長いから、こないだ会ったばっかりの感覚なのよぉ》
ドラゴンの寿命って4000年くらいあるんだっけ?
まぁ確かにそうなるか。
「ところでローザさん、メルフローラの場所って把握してるっすか?オレも凄い高い所にあるって事しか知らないんすけど」
クヴァルダさんがローザさんを見上げながら質問する。
てっきりクヴァルダさんは詳しい場所も知ってるかと思ってたけど、そうでもないらしい。
《ええ、バッチリしっかり知ってるわよ!何度か見かけた事もあるしね〜》
「それは良かったっす!どんな国かも知ってるんすか?」
《そうねぇ。メルフローラは天空にありながら緑豊かな国でね、上空でしか育たない不思議な植物がたっくさん育てられてるのよ。お陰で動物達も沢山いて…本当に素敵な国だったわぁ》
「へぇ〜行った事もあるんすね!」
その言葉を聞き、なぜか首を傾げるローザさん。
《あら?どうだったかしら?行った事ある気がするんだけど、いつ行ったのか思い出せないわ?》
頭に疑問符をたくさん浮かべている。
リュデルさん達と会った事を細かく覚えていた事を考えるとおかしな話だ。
すると、それを聞いたシュルツさんが真剣な表情で言った。
「もしかしたら…薬の影響で記憶が混濁しているのかもしれません。かなりの量を使用されてましたから」
うわ、記憶にまで影響与えるとかえげつない。
けれどローザさんはショックを受ける事も無かった。
《あらぁ〜薬って怖いのねぇ。まぁでも、その内思い出すでしょ。忘れたままでも別に良いしね〜》
随分とあっけらかんとしている。
やっぱりドラゴンくらい長生きで大きな存在だとこうなるのかな。
と、急にクヴァルダさんが声を上げた。
「は!オレ凄いことに気付いちゃったかもしれないっす!」
何事かと全員でクヴァルダさんを見る。
クヴァルダさんはなぜか俺に注視した。
「リオルくんの持ってた宝石の家紋っすよ!あれ、メルフローラのものじゃないっすか!?」
「え?メルフローラの?」
「だってあの模様、花と翼っすよ?緑豊かな国で、しかも天空にある…まさにメルフローラを象徴してるみたいじゃないっすか!」
…確かに!
「もしかしたら、リオルくんはメルフローラの王族の血筋かもしれないっすよ〜」
「え!?王族の!?」
「だって、金髪碧眼って王子っぽいじゃないすか!」
…確かに!!
「いや、リュデルさんもそうだったろう…」ってシュルツさんが呟いてるけど俺には聞こえない。
「それにばあちゃん達が見た事無かったのも、滅んだ国の家紋だったからと考えたら説明つくじゃないっすか」
「確かに!!」
あれ!?
これは本当にあるかもしれない!
「よぅし、じゃあメルフローラに着いたら同じ模様の家紋がないか探してみようっす!」
「そうですね!そうしましょう!!」
クヴァルダさんと肩を組んで盛り上がる。
1番怪しいのは城だな!
本当に王族の血筋だったらどうしよう?
よぅし、俺の故郷(仮)への凱旋だぁ!
「うわぁすげぇー!高い!速い!!」
《ふふ、そんなに喜んでくれると乗せ甲斐があるわ〜♪》
早速、俺達はローザさんの背に乗ってメルフローラへと向かっていた。
高額で売っている魔導車というかなりのスピードが出る乗り物も存在するが、そんなの目じゃない速さだ。
あと空飛んでる分気持ちいい!
《あ、ほら。見えてきたわよ!》
そう言いながらローザさんが顔を向けた方を見ると、今より更に上空の遠方に浮いている大地が見え始めた。
あれだけ高い所にあれば地上から見たら砂粒サイズだろう。
通りで今まで見た事無かった筈だ。
どんどんと上昇してメルフローラへ近付くローザさん。
《もう少しだから降りる準備してね〜》
う…空気が薄いから、流石に息が苦しくなってきた。
勇者一族はみんな平然としているが。
「ゼ…カヒュー…」
いやジーゼさんだけ平気じゃない!
大丈夫!?
これ天国への直行便じゃないからね!?
そんな俺の心配を他所に、ローザさんはメルフローラへと無事到達した。
シュルツさん曰く徐々に身体が慣れていくから大丈夫との事だ。
「ゼ…ヒ…カヒュ…」
本当に大丈夫だよね?
《到着よ〜!みんな見て!素敵じゃない!?》
と、テンション高々なローザさんの言葉を受けてジーゼさんからメルフローラへと視線を移す。
「うわ…!」
そこは、本当に綺麗な所だった。
国というだけあって、想像よりも広大な大地が広がっている。
とても自然が豊かであちこちには見た事もない植物が生え小川も流れていた。
雲の上なので完全に晴れ渡っていて、青と緑のコントラストと色とりどりの花々が目を飽きさせない。
ローザさんが言っていた通り生き物も多くいるようだ。
そしてそんな大地に悠然と聳え立つ白と金のお城。
周りの景観を崩さない、とても綺麗な城だった。
「すごい!これがメルフローラ…!!」
もしかしたら俺の故郷かもしれない場所!
めっちゃ良いとこじゃん!!
「マローナの花とエーテルコットンは城の庭園にある筈っすからね。まずは城に向かうっす!」
そうクヴァルダさんが指揮し、俺達は景色を楽しみながら歩いて城へと向かった。
城がある場所は街になっているようで、近付くと白い建物が沢山建ち並んでいるのが分かる。
「全て、真っ白にしてるんですね」
《その方が綺麗でしょ?この王都は雲の街とも呼ばれてたのよ〜》
「お、もしかして思い出したんすか?」
《んーーーー…ダメね!絶対知ってる筈なんだけど、ハッキリ思い出せないわ!》
思い出せなくてもこんなに明るくいられるってすごい。
「あ、見てくださいっす!城の周りが庭園になってるっすよ!」
クヴァルダさんに言われて見ると、確かに城の庭には様々な樹木や花々が植えられていた。
この中にマローナの花とエーテルコットンがあるのかな。
だが、先に駆け寄り辺りを見回していたクヴァルダさんは首を傾げる。
「ん?あれ?見当たんないっすね…。天空庭園にあるって話だったんすけど…」
え!?無いの!?
ここまで来たのに!?
焦るクヴァルダさんと共にこちらまで焦る。
と、シュルツさんが何かに気付き指差した。
「クヴァルダ、あそこじゃないか?」
シュルツさんが指し示したのは庭ではなく城の天辺。
よく見ると、城の屋上にガラスのような透明な壁で囲われた樹々が見えた。
あれは…温室かな?
「あ、アレっぽいっすね!ばあちゃん強化…」
「ヒュー…ヒュー…」
「は、まだ早かったっすね!ローザさん乗せてくださいっす!」
ジーゼさんの支援魔法でジャンプしようとしたけれど作戦変更するクヴァルダさん。
確かにもうちょっと待ってあげた方が良さそう。
折角なので、全員でローザさんの背に乗り城の屋上まで移動してもらった。
「ん〜〜〜……あ!あったっす!」
壁に張り付いて中を覗き込んだクヴァルダさんがついに目的の花を見つける。
多分あの虹色の花だろう。
すごい、幻想的!
「マローナの花があれで、あの奥の方にチラ見えしてる白いのがエーテルコットンだと思うっす!」
「良かったぁ、あって」
「ホントっすね!けど、どうやって入るんすかねコレ?」
円形状に透明な壁に囲われ、同じく透明な屋根まであるこの大きな温室には何故か入り口が見当たらない。
折角目的のモノが目の前にあるというのに。
「こりゃあ壁を壊すしかないかのぅ」
「そうっすねー」
《ちょ、ちょっと駄目よぉ!》
と、壁を破壊して侵入を試みようとした俺達を慌ててローザさんが止めた。
《この囲いは凄い特殊なモノで、中の植物達を守ってるんだから!壊したら死んじゃう繊細な植物だってあるのよ!》
それは確かによろしくない。
皆んなでそっと拳を下ろした。
「ローザさん、中に入る方法はわかりますか?」
そうシュルツさんが質問すると、ローザさんはこめかみ辺りを爪の先でグリグリしながら唸る。
《ちょっと待ってね、思い出せそう…。んーと、確か城の中からしか入れない構造なのよ。でも、入るにも特殊な鍵が必要だったような…》
頑張って!
もうちょっと!
《あーダメ!思い出せそうで思い出せないわ!その辺飛んでれば思い出せるかもしれないから、行ってくるわね!》
そう叫び、翼を広げるローザさん。
あっという間に遠くまで飛んでいってしまい、取り残された俺達は顔を見合わせた。
「取り敢えず…城内に入ってみるっすか?」
「そうだな。何かヒントがあるかもしれない」
「それじゃあ入り口まで戻るかの。先に行っとるぞ?」
と、なんの迷いもなくジーゼさんを背負ったまま屋上から飛び降りるリュデルさん。
クヴァルダさんも当たり前のように続いている。
よぉし俺も続いて飛…いやコレ死んじゃうと思うな!?
「着地できなそうなら無理せずおいで」
「ご迷惑お掛けします…」
情けなくも、シュルツさんの背を借りて降りたよ。
あ、目から汗が。
――カツーン カツーン
「おぉ…めっちゃ足音響くっすね」
「人が誰も居ないですもんね。ちょっと不気味…」
なんなら少し薄暗い。
外はあんなにメルヘンチックだったのに。
「なんか幽霊が出そうじゃの〜」
「それは素敵ねぇ」
ジーゼさん何が素敵なの!?
怖いからやめてよ!
あ、呼吸が落ち着いたのは良かった。
「り、リオルくん怖がりっすねー?」
「ぜ、全然平気ですよ?クヴァルダさんこそ顔がヒクついてますけど?」
「いやいや、そんな事ないっすよ?」
2人でそっとシュルツさんの背後に隠れたのは致し方無いと思う。
100年前に滅んだという城は割と保存状態も良く、綺麗な調度品などが品良く置かれている。
そんな廊下を歩き続けると、とても大きな扉の前に辿り着いた。
「これは恐らく…玉座の間じゃな」
玉座の間!?
なんて格好良い響き!
「入ってみましょうっす義兄さん!」
「そうしましょうシュルツさん!」
頑なに自分では開けようとしない俺達に呆れつつも「はいはい…」と手を伸ばすシュルツさん。
ところが、シュルツさんが扉に触れる前に突然扉が開いた。
――キィ… バターン!!
「「うわぁぁあ!?」」
思わず俺とクヴァルダさんは悲鳴をあげる。
せめてもうちょっと静かに開いて!!
シュルツさんですらビクッとしてたよ!!
いや、ていうかちょっと待って。
何で勝手に開いたの?
誰も居ない筈なのに…。
《よくぞ参った。客人よ》
無人の筈の玉座の間から、突如響いた威厳のある声。
恐る恐る、広間の奥を見る。
少し高い所にある、豪華で大きな椅子。
そこに、王が座っていた。
王冠を被り上品な服装をしているというのもあるが、その雰囲気で間違いなく王様だとわかる。
そしてその王様は…
青白い仄かな光で形作られ透けていた。
そう。
透けていた。
「「ほ、本当に出たぁぁあー!!!」」
冗談ではなく本当に現れた王様の亡霊。
俺とクヴァルダさんの悲鳴が、城内中に響き渡ったのだった。




