ベルとアマギ
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「ベル、草木は大好きかい?」
「うん。大好き!!」
祖母と二人で深い森の中に来ていた。雨露の力を濃く受け継いでいた祖母は、とても植物を慈しみ慈愛に満ちた人だった。
「雨露の力は大地を慈しみ、草木と心を通わせることが大切なんだよ。」
優しく頭を撫でながら話す。
「御祖母様どおしたの?」
「貴方には才があるからその心を無くしてはいけないよ。」
まだベルには何の事だかよくわからなかったけれど、祖母や植物が大好きだから「はい。」と答えた。
その返事を聞くと、嬉しそうに微笑んだ。ベルはそんな祖母の笑顔が大好きだった。祖母が植物に語りかけると、草木が返事を返してるかの様にユラユラとその体が動きだす。いつか私も祖母の様に、植物達とも心を通わせたい。
そう思っていた。
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「ファァァ」
朝陽が差し込んで来た。まだ夜が明けたばかりなのに、日差しが厳しい。ベルはベッドから起き上がると、辺りを見渡した。いつもと違う部屋。違う朝。
あぁ。そうだ。イルフォードに嫁いだんだった!
「懐かしい夢見た気がする。…………んだけどなんだっけ?」
馴れない地にいるせいか、凄く懐かしい夢を見た気がしたが、夢の内容までは覚えてなかった。
太陽の照り付けから具合から見て、お昼近くまで寝てしまったと思ったが、時計を見るとまだ早朝5時。
「うわーっありえない!!私がこんな早起きなんて。」
『朝は天敵』と自信満々に豪語出来る位に、朝が苦手だったから、時計が狂っているんじゃないかとも思った。
チクタクチクタクと狂いなく動いてる時計は、間違ってなかった。
「やれば出来る子なのね!私。」
いつもフェルト公に『眠りの森のねぼすけ姫』だのと皮肉まじりに言われていたが、この日ばかりは少し勝ち誇った気分になった。
ニヤッと微笑みながら、ベルは支度を始めた。
今日の予定は、国王がいないので皇太后様と妹姫様に挨拶しに行くとして。折角早く起きたので、王宮の探検を始めた。
「本当!広いな」
庭にもでてみると、そこはカラカラに渇いていた。
色とりどりと、植物が昔はあったんだろうと思える形跡はあるが、今はヤシが少し生えているだけ。
「けど、大地は生きている。耕せばいけるかも。問題は水か。街もこんな感じなのかな?」
土を弄りながら、なき植物の姿に思いを馳せた。
後ろから足音が聞こえて来たから、振り向くとキラがいた。
うぎゃッ―朝から会っちゃったし。(最悪
「なんかよく会うわね!ストーカー!!?」
「護衛を任されてるんだ。近くにいて当たり前です。」
「わかってるわ!冗談よ。こんな早くから何してんのよ。」
早朝兵訓練をしてたらしい。毎朝こんな早くからやってるなんて真面目だなと思う。
「朝っぱらから土まみれで。朝弱そうな感じなのに意外ですね。」
この男は一言余計だなと思いつつも図星をつかれたから、それ以上は言い返さず話しを変えた。
「昨日も言ったけど敬語じゃなくていいわ。」
「一応ベル様は王妃候補ですから。」
「あたし友達とかいないから誰か普通に話せる人ほしいのに、メイドさんに頼んでもよいの?」
キラははぁとため息をつくとわかったと答えた。
「そうだ!土を見てたの。街の土も見てみたいわ。」
「だめだ。許可は出来ない。」
イキナリ、頭ごなしに反対するから反発してしまった。
「私が『雨露の巫女』として呼ばれてたなら、邪魔はさせないわ!雨露は大地を慈しむのが大切なの。国を知る為には街を人々を知らなきゃだめでしょう」
キラは眉間にシワを寄せ黙っていた。反撃されると構えていたら、思いも寄らない事を口にした。
「まぁ、一理あるな。ただのわがまま姫だと思ってたんだけど、ちゃんと考えはあるんだな。」
わがままってだから、一言余計なんだけど。
あたしが普通のか弱いお姫様なら一発で不敬罪なんだけど。まああたし的にはちょっと感に触るが、かしこまらなくて良さそうだしこのくらいのが楽でいいね。
「なんだよ!」
「別に。まぁいいわ。今日は挨拶した後にでも街に行って見ようかな!」
ウキウキしながら、ベルはいじっていた土を元に戻し始めた。
「だから街は許可出来ないと言っただろう。」
ん!!今なんて言った?ちょっと待って!!
「あんた!!さっき良いって言ったでしょ」
「一理あるって言っただけだろう。仮にも、皇妃候補。何かあってからでは遅いんだ。」
少しでもウキウキしてしまった自分が悔しい。
上げて落とすのは貴方の必殺技ですか?心底恨めしい顔で見てやった。しつこく睨み続けるので、キラは仕方なく折れた。
「午前中は兵訓練指導があるから無理だ。午後なら護衛に付き添えるから、大人しく待っていろ。勝手に動き回るなよ!」
強めな口調で言い放つ。話しが終わるか終わらないか位で、キラは他の武官に呼ばれ去って行った。
「もぅ!言い逃げされた。」
頬をプーっと膨らませ、ふて腐れながら王宮に戻って行った。
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ベルは朝食を取り終わると、部屋に戻り手紙を書きはじめた。
『拝啓。お父様、お姉様、アメジストの皆方お元気でお過しのことと思います。』
無事にイルフォードに着いた事を伝えて。シュークリームがなかったのは文句言うとして!国王陛下がいないのは書かない方がいいよね。ムカつくけど面倒臭さくなりそうだし。なかなか決まらない文章に、ペンを片手に紙と睨めっこを繰り広げる。
『シュークリームをもう丸一日食べてなくてもぅ死んじゃう!』
すると後ろからクスクスと笑い声が聞こえて来た。
「ごめんなさい。勝手に入って。ノックしたんだけれど…」
黒髪で少しウェーブのかかった艶やかな髪。腰まで伸びた髪が魅力的に感じる。ベルとは対称的に大人っぽく、おっとりとした空気の女性だ。
「えっとどちら様ですか?」
突然の訪問に驚きながらも、女性の元に行く。近くで見ると、より綺麗な人で思わず見とれてしまいそうになる。
「初めまして。イルフォード第一王女『アマギ』です。」
「アマ……ギ…?」
はっとし、かしこまる。
「国王陛下の妹姫様でしたか!ご挨拶遅れました。ブルーベルです。」
国王が年上だから、アマギが年上でもおかしくはないが、『妹姫』と言う響きの性か、勝手に年下だと思っていた。
「可愛らしいお方ですね。ブルーベル様お呼びしてもよろしいですか?」
「そんな!『ベル』でいいです!!」
慌てて、訂正する。そんな姿をアマギは微笑ましく見ていた。
「そぅ?じゃあ、お言葉に甘えて、ベルよろしくね。私の事もアマギって読んで下さい。」
アマギは見た目とは裏腹に、気さくな感じの人でベルは安心した。
「なにか途中かしら?」
「父と姉に到着した文を書いてただけだから、大丈夫ですよ。」
書きかけの手紙の方を見ながら、アマギが申し訳なさそうな顔をしている。ベルは適当に机の上を片すと、またアマギの元にパタパタと戻る。
よし!このチャンスにアマギと仲良くなっておけば、イルフォードの生活も安心かも。リルア姉様から『嫁姑小姑バトル』を里帰りの度に聞かされてたから、ベルは何が何でもアマギと仲良くなろうと思った。
「アマギがよければ何だけど、お茶でもいかがですか?アメジストの紅茶葉持って来たの。」
「まぁ。嬉しいわ!私も仲良く出来たらいいなと思っていたの。でもごめんなさい……今日はこの後、出掛ける予定が。」
思い掛けづ断られ、ベルはシュンとした。ベルの落胆が激しかったので、アマギは少し迷いながら声をかけた。
「よかったら、一緒に行く?孤児院なんだけれど。でも姫様の行かれる様な場所じゃないから気分悪くさせたらごめんなさい。」
王宮暮らしの姫君の普通の反応なら、嫌がるだろうと思った。しかし、アマギの予想を超えて、ベルの反応は好感だった。
「いいんですか――!?やったぁ」
ピョンっと飛び上がり喜ぶ。暗かった表情が一瞬にして明るさを取り戻した。
――あ、でもキラに外に出るなって言われてたっけ。
まぁ!!アマギも一緒だし。いっか