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協定

 

―――

慌ただしく日々は過ぎ去って行った。大勢の嘆き悲しみの中マリーは送り出された。最後一目会いに来るものは多く、身分に関係なく弔いにやってきた。国の為を思って生きて来たマリーは、民衆からも慕われ愛されていた。

きっと、空の上でマリーも喜んでいるだろう。

そんなマリーの葬儀も終わり、皆の涙尽き果て、現実と向き合い始めた頃、一通の書簡が届いた。

 

 

『アメジスト国王 協議の件について イルフォード 』

 

 

忙しさとその後の連絡もなかった為か忘れされていたが、イルフォードとの『雨露の巫女』の話は続いていた。イルフォード側も王妃の訃報を聞き、アメジストが落ち着くまで控えていたのであろう。

 

「イルフォードと会を開かなくてはならない。フォルト返事を出しておいてくれ。」

雨露の力を貸す事は出来ないが、イルフォードを蔑ろにするわけにはいかない。大国に反抗した小国の末路なんて、一つしかないのだ。どうにか諦めて貰うしかない。

フォルト公は王に言われると、直ぐさま遣いを出しイルフォードに返事をした。



数日後、返事は返って来てすぐ様議会は開かれた。そしてアメジストの王宮に、イルフォードの使者が10数名やって来た。

 

「お悔やみ申し上げます。本日はこの様な機会を頂き有り難く思います。」

「サルド殿、イルフォード国王はいらっしゃらないのですかな?」


前回一人で来た、サルドが指揮をとっている様だ。使者と共に普通なら来るはずの国王がいない。

 

「失礼ながら、アメジストは国王が来るほど価値のある国ではないと御思いですか?」

一緒に参加していた、フォルト公が訝しげな表情で詰め寄った。サルドは慌てて訂正した。


「いえ!!ご内密事項なんですが、我が国王『キリス陛下』は今病に倒れまして。後継者の『クロウド様』に戴冠する所なんですが、まだ何分御歳10歳。色々手間取ってしまってその間、わたくしサルドが国交を任されております。ご理解下さい。」

 

 

ロベルトは不思議に思っていた事のつじつまがやっとあった。腐ってもイルフォード。小国などに頼りはしないだろうと思うが、王がいないとなると話は別だろう。

国が低迷しているのに王が不在。

「藁にもすがりたい」「猫の手も借りたい」そんな状態だ。手段を選んでいる場合もないのだろう。


 

「そちらの状況はあいわかった。重要機密をありがとう。しかし、前にも言った通り、皇太后をイルフォードに行かせられない。食料水の支援なら出来るが、雨露だけは」

「食料水は何とかなりたってます。国の地が滅び様としております!それを止められるのは、もう貴国しかありません。」

「民と共に新境地を探してみては?いくらでも手伝おう。」

「我々は、国を捨てるくらいなら、共に朽ち果てる覚悟です。民も同じ気持ちです!!」


 

イルフォードの愛国心がグサリと刺さる。国民と一丸となって国を思うからこそ、イルフォードは大国になったのだろう。

ロベルトは場所は違えど、国を愛する同士として力になってやりたかった。しかし、こればかりはどうにもならない。どちらも折れる訳にはいけない為、幾度も協議会は開かれ、平行線の話し合いが永遠と続いた。

 

 

そして、最初の協議会から半年くらいたったある日、イルフォードは動きをみせた。いつも通りの重々しい空気は変わらなかった。唯一違うのは、今回はサルド一人で来ていた。

 

 


「今日はそなた一人なのか?」

「はい。」

重々しい表情で答えるサルドに、つられてロベルトも重々しい表情になる。

 

「お互い、引く訳にはいかない為平行線で変わりません。一つ提案を持って参りました。」

「なんだ?」

「我が国王と、そちらの姫君は歳も丁度いい。姫を一人、雨露の後継者として我が国に来て頂きたい。」

「政略結婚か。」

 

 

皇太后を行かせない以上、流れ的にいつ出てもおかしくはない話だ。

「しかし、一の姫は後継ぎだ。二の姫は婚約が決まっている。」

 

「王、だめだだめだでは、話は変わりません。こちらも引いて話をしているのです。それでもだめだとおっしゃるのなら、こちらにもそれ相応の………。」

サルドの目が鋭く冷たくなる。突き刺さる様な威圧感に、ロベルトは固まった。

 

 

「脅しか」

「好きにとって頂いて結構です。それだけ我が国は追い詰められているということです。」

 


イルフォード側は本気であろう。最後の警告。この提案を断れば、アメジストと決裂し、イルフォードは軍を率いて攻め込んで来る。

 

 

「貴国の意思はわかった。前向きに検討はするから、少し時間をくれ。」

「わかりました。そのお言葉信用します。どうか、よきご検討を。」

 

 

それから一週間後、ロベルトは決断をした。第三王女ベルの婚約を。姉達にはもう縁談があるから、今からだと生まれたばかりのベルしか残されていなかった。

マリーが残してくれた我が子をこの様に使わなければならないとは。顔向けできんな。

 

「王女が15になったら、嫁がせよう。」

イルフォードとアメジストの協定が結ばれた。

 

――――――

 

「それが…その約束の日が今日だったの?」

ベルは落胆した。話の通りならば、この縁談を断れない事位わかる。姫の我が儘で許される訳もない。

 

「あぁ。すまない。国の為に娘を売ったと恨まれても仕方のない父親じゃ。」

悲しそうな顔をして答える。

 

 

「わかったりました。逃げませんので部屋に戻ります。」

父も苦しいのはわかる。しかし、自分一杯だった為、責めはしないが慰める言葉も出てこなかったので、その場を去るしかなかった。 

 

『結婚』『他国』

 


いつかはぶつかる問題なんだろうが、こんな唐突に訪れるとは。ベルの心はざわめくばかりであった。

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