絶望と希望
「天女様……………」
眺める事しか出来ない、村人達のやるせない顔が目に焼き付く。みんなごめんなさい。
大量の蹄の音が聞こえてきた。
「また、夜盗の仲間が来た!?」と増える夜盗の影に絶望しかなかった。が、夜盗達もその蹄の音にざわついた。異様な夜盗達のざわつきに違和感がある。
「夜盗達の援軍じゃない?」
蹄の音は、ベル達を囲む様に止まった。
揺れる炎に真っ黒な軍旗が照らされた。
「漆黒一色の軍旗!!黒影の将軍が来た!!」
「くそっこんな田舎になんでアイツがついてないぜ!!」
ベルは蹄の音の中心を目を凝らしてみた。
キラ―――!!?
軍の中央には、黒毛の軍馬に跨った、キラの姿があった。
「命がおしかったらずらかるぜ!!」
さっきまで強気だった夜盗達の姿は無く、散り散りに逃げ出していた。しかしキラの鋭い眼差しが凍てつく。
「逃すか!!一軍賊を捕縛せよ!!二軍は補助にまわれ!!三軍は鎮火にまわれ!!一匹たりとも逃すな!!」
キラの合図と共に、威勢の良い兵士たちの雄叫びが聞こえた。次々と捕縛されていく。瞬く間に、ベルを囲んでいた男達が反対に兵士達に囲まれた。
最後の抵抗をするかの如く、男はベルの縄をギリギリと強く絞めた。
「痛っ――」
絞め付けられた腕が真っ赤になっている。そして男は剣を抜くと、ベルの首筋に押し当てた。
「寄るなよ!!こいつがどうなってもいいのか!」
キラは舌打ちをすると、一度剣を収めた。
「将軍様も、手も足も出ないと見た。」
男はキラのその姿を見ると、ガハガハ笑った。
「ごめんなさい!!私の事はかまわず捕まえて!!」
ベルは、みんなの為を思って叫んだが、キラの眉間には余計にシワが出来た。
「馬鹿かお前は。おい男、それが誰だかわかっての狼藉か!!」
「―――天女様だろ?」
「お前はイルフォード国外へ出れば、なんとかなるとでも思っているだろうが……。」
キラは深いため息をつくと、目が余計につり上がった。
「その娘はアメジスト第三王女ブルーベル・メイ・アメジスト。イルフォードだけでなく、全世界が追って来るぞ!!覚悟があるか!!」
「――――王女!!?」
その場にいる誰もが、目を丸くした。
その一瞬の隙を見逃さず、キラがベルを捕らえていた男のわき腹に入った。
男を一撃で倒すと共にベルはキラの腕の中に引き寄せられた。
ベルが解放されるとすぐ様決着がついた。バランスを崩して倒れた男の首元にキラの剣が当てられた。
キラとの実力の差は歴然で、男達は抵抗すら許されない速さでなぎ倒されて行った。
「すごい、これが黒影の将軍。」
獅子の様に戦うその姿を見て、みんなが一目置く気持ちがわかる。キラは剣を腰に収めると、ベルの縄をほどいた。
また、キラに助けられた。
「ありがと」
「お前は何をしている!!」
遮る様に、バチンっとキラの平手がベルの頬に思いっきり入った。衝撃と共に激痛が走る。色白い肌のベルの頬は真っ赤になった。
赤くなった頬を抑えながら、ベルはキラを見た。
「お前は、自分がしでかした事が分かるか!!城はどうなってると思う!!この村の姿は!」
「………」
「お前は、王族であり、アメジストでは普通かもしれぬが、この国にとっては神と讃えられてもおかしくはない能力を持っているんだ。自分の身の危うさくらい理解しろ!!」
「ごめんなさい……。」
正論を怒鳴られ、ただ謝るしか出来なかった。
「ご無礼失礼します。どうかお手を収め下さい。」
キラとベルの異変に気付き、キラの部下が二人の間に入った。キラは抵抗せず、それどころか何故か腰に差していた剣を全て地面に置いた。
「手をあげたのは事実だ。お前の好きにするがいい。」
「え!?私が勝手に脱走して、勝手に夜盗に襲われてキラが助けてくれたんでしょ!?私が説教される理由はあるけど、あんたを裁く理由が1㎜足りともないんだけど。」
「…………。どんな理由があろうと女に手をあげるのは恥ずべき行為だ。まして王族に手を挙げるなんて処刑に値する」
まるで、裁いて欲しいかの如くの言い方。何を考えてるんだ。
「そういうの、嫌いなんだけど!あたしが全部悪いんだからそれでいいでしょ!!、、、なんか言いたそうな顔してない?」
「いや、まぁいい。お前は怒られたいみたいだし。なんでこんな事をした!」
キラは地面に置いた剣を脇に指し直した。
やばい!?墓穴掘った
「戦争になっても構わないって頭をかすめたけど、本心じゃないし。戦争したくない!心を落ち着けようと森を探して。でも森が見つからなくてここまでさまよい歩いちゃったんだけど……。」
「森がみたければ、国に帰ればよかろう。」
はぁとため息をつく。
「訳もわからず、帰れるはずないでしょ!?みんなして隠し事をして、なんかすっきりしないの。」
夜盗達は全員いなくなった。火もキラの率いる軍によって消し止められた。幸い怪我人はいるけれども、村人の命は助かった。ただ、業火に焼かれた村は家も畑も何もかも失った。
私がここに来たから。
ただ突っ走るのも罪なのだろう。
キラの右手が振りあがった。もう一発ぶたれると思って臨戦態勢に入ったが、右手はベルの赤くなった頬を撫でた。
「悪かったな。頬、赤くなった。少し強くやりすぎた。冷やす物を」
「あ、いや、、大丈夫だよ?」
まさか詫びられるとは思わなく、警戒した手が行き場を無くす。
「無事でよかった。二度とするな。」
「はい。」
キラの心底安堵の声に胸がギュッとなった。
キラにとって国を心配しているだけなんだろうけれど、自分の事も心配してくれたみたいで不謹慎ながら少しうれしかった。
「見てみろ。村人を。お前がやった事は誉めるべき事ではないが、全てが間違っていた訳ではない。善か悪かは紙一重だ。」
村が燃えて無くなったて言うのに、村人達は笑顔がかいま見れた。
「絶望の中にいるが、お前が希望を与えたからだ。」
希望――。「よくわからない。」
「希望の代償が大きすぎて決して許される事ではない。けれど真っ直ぐな馬鹿は嫌いじゃない。」
貶されているのだろうか?慰められているのだろうか?
「兎に角、王宮に戻るぞ。」
「王宮――!?そうだ私、アマギに話があるんだった!!」
「姫に――?」
キラの目がまた、つり上がった。
「そうよ!知ってしまったから、謝らなきゃ。」
アマギが苦しんでいたのに、私は何も知らなかったから傷付けた。――知らないは罪。
「何を知った?」
「何よ!すごんだってアマギと話をするよ!!」
眉間にシワがより、キラのつり上がった目がよりつり上がった。
「わかった。覚悟があるなら、城に帰ったら全て話してやる。まず俺の所に来い。ただ知ってしまったらもう母国に帰れないと思え。」
キラの突き刺すような瞳に負けじと睨みかえした。




