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蘇り

 

「泉が昔の姿に戻ってほしい!」

ジニは目を瞑り、ベルと同じ様に湧き水に手を浸す。

半信半疑ながらではあったが、言われた通り願ってみた。



――

我が大地またあの頃に帰りたや

故郷の麗しい姿や嬉し走り回ったあの大地

懐かしい思い出や

――


ベルの歌声に、湧き水が答える様にブクブクと音を立て始めた。

「ななな!ベル何をした!何が起きているんだいッッ!?」

「これが、ジニと泉の願い。私は何もしていないよ。ジニの願いを泉に届けただけ。ジニ、思いを集中させて!!」



――

空に大地にと

届け想い民の想い

麗しき大地

―――



泉は音を立てながら水位は増していく。見る見る間に辺り一面に泉は広がった。洞窟の四分の一くらいの広さに泉は広がった。水位も膝下まで上がった。



「うーん。想ったより戻らなかったわ。」


腰を抜かし、座り込むジニの横でベルはそんな事を呟いた。泉の心をとても濃く感じたから、もう少し広く深く昔の姿になるかな?と思った。

これなら、時間の問題か。でも上出来かな。

今にも息絶えそうな水源は元気にブクブク息を吹き返した。今すぐとまではいかないが、何年後かはわからないけれどこのまま元気ならば水量も戻り植物も生えるだろう。



「………ッッ―――ッッ」

あまりの驚き様に言葉にならない。


「ほら、ジニいつまでも座ってるとビショビショじゃない!!」


ベルは右手を出し、ジニを引っ張り起こした。ようやく、立ち上がってもジニは放心状態だった。



「君は……」

「え?」

「もしかして天女なの?」

真剣な眼で見られた。


「ななななわけ無いでしょ!!何いってんのよ!」

 


天女って!!私が。―――そんな訳ない。天女は民に恵を与える。

ベルには天露の力はある。しかし天露の力は人と自然を繋ぐ力。ベル自身には恵の力はない。

天露が恵みに繋がっていると言うならば、恵の力があるとすればそれは人の心。木々や大地の生命の中にあるのだろう。泉が少し元気を取り戻したのだって、泉の生命力とジニの願いのおかげ。



「そういっても僕には天女に見えるよ。」

「私の事を天女と言うなら、ジニは天使だよ。ジニの願いがなかったら駄目なんだから。」

「君は、、、」

「さぁ。早く、戻りましょう。」


並々と水を入れて、洞窟を後にした。村に戻るとすぐさまベルの噂が広がった。ベルはジニの元に向かうと、襟っ首を掴んで問い詰めた。


「僕に言われても。猫じゃないんだから掴まないでよ!!」

「だって貴方しかいないでしょ!!余計な事しゃべった!?」



村に着いたばかりの時は普通だったのに、少したつと、村人達のベルを見る目の輝きが驚くほど変わっていた。変わってないのは、クナくらい。相変わらずの愛らしい笑顔でいる。


「大量の水を短時間に持って帰れば、みんな不思議がるだろう。それに、泉が復活したなら、村長に報告する義務がある。」

「うぅ…。確かに。」

「ベル、村長が話があるから来て貰えるない?」

「わかったわ!」

 

村長の家は村一番の大きい家だ。庭に村人達が集まっていた。人で埋め尽くされている。村人達は好奇の目で見ていた。ソワソワと落ち着かないベルを見かねて、扉をジニが全部締めた。分厚い家の壁ではないので、まだ村人達の声は聞こえてくるけれど、視線が無くなった分気は楽になった。


ベルが村長の前に座ると、ジニもベルの隣に腰を下ろした。

「ジニに聞きました。あなたは天女様ですな。」



単刀直入に切り出した村長にベルは慌てて否定する。


「あれは、天女の力じゃなくて、雨露と言う我が国に伝わる力なんです!!」

「確かに私は雨露の力が受け継がれているけれど、ジニには言いましたが、残念ながら雨露は『恵の力』ではないの。」

「うーん?」


村長は首を傾げながらも、ベルの話を食い入るように聞き入った。

「この国の天女は恵みの力をもたらす。でも雨露は大地と心を通わし人と大地の心を繋ぐ力。だから、私一人では何も出来ない力なの。泉だって、ジニの心と泉の生命力が合わさったおかげなの。」

「よくわからんが……。その繋ぐ?で泉を蘇えらせてくれた事実は儂らにとって、天女としか見えないのだよ。」

「でも……違うのに……。」



村長は困った顔をしながらも嬉しそうに微笑んだ。



「では可愛らしいお嬢さん。泉を蘇させてくれた感謝の言葉は受け入れてくれるかい?」

「それなら。」


村長とジニは安堵の表情を浮かた。「では、本題だが。」と村長は改まってベルとジニの方を見た。

湧いた泉をこれからどうするか。隣に座っているジニの顔つきが変わった。


「儂は、隠した方がよいと思っているのだが。」

「なんで!?」

村長の考えがベルには理解出来なかった。折角水が甦ったのに。泉を開放すれば、助かる命が増えるのに。



「今のこの世の中では、あまりに危険過ぎるんだ。」



元々村人達が泉を守衛してはいたのは、泉の手入れしていたのが始まり。泉が枯れぬ様に毎日供えを泉の畔に奉納し畔の手入れをしていた。

だから、泉を隠すのは筋が通ってない。それはわかっているが。


「世の中には強欲な人間もたくさんいる。水のない国に、泉が突如現れたら、それを巡って争いが起きるだろう。それを止める力は村人達にはないよ。独り占めするわけじゃない。ただ、今の僕達にはどうにも出来ない。」

ジニが付け足す様に語った。


 

でも、泉はそんな事望んでない。ただ、泉はまたみんなに昔の様に水を与えたいとそう願っていただけだろう。

争いを避ける為なら、仕方ないかも知れない。けれど、1日水が遅れただけで助けられる命をどれくらい失うのだろうか。


「争いを防ぐ為には、王家の管轄に泉も入れて貰うのが一番だけど。」

「王家の管轄に入れて貰うのが一番だろう。しかも王家を頼るのはサニーシーの誇りを投げ捨てなければならない。」


――誇り。誇りって何なの!?

「助けられる命を見捨てるのが誇りなの!?」


ベルは震える拳を握りしめた。緊迫する空気の中、村長の高らかな笑い声が家の中に響き渡った。

 

「じいちゃん突然どうしたの?」

「いや、ベルさんの言う通りだと思ってな。」



泉を守衛できなくなるのは、ご先祖様の誇りを投げ捨てる事だ。他人を見捨ててまで守る仕事ではない。

昔と今。形は違えど、守衛しなくても我々に出来る事もあるだろう。気持ちさえ投げ捨てなければ、生きてさえいればまた誇れる。

村長は締め切っていたドアを全開にあけた。庭に集まっていた村人達の視線が、一カ所に集中した。


「すまないねベルさん。嫌がっていたけれど、これがみなを奮い立たせる一番効率的なんだ。少し辛抱しておくれ。」


ベルにそっと耳打ちをすると、村長は村中に聞こえるのではないかと思われるくらい大きな声を張り上げた。

村長の張った声に、村人達は一瞬で静まり返った。

 

「皆の者!!泉が甦った!!」

「我が村に天女様が再び舞い降りた。」



村長がチラリとベルの方を向くと、村人達の視線はベルに集中した。あっけをとられ口をパクパクさせてるベルを余所に、話はドンドン進んでいく。

これがどう言う意味がわかるかい?と村長が村人達に語りかけると、村人達から歓声が沸き上がった。



「うぉー天女様のご加護だ!!」

この国のイルフォードの未来に光が見え始めた。叫びながら走り回る者もいれば、両手を握りしめ天を仰ぐ者もいた。本当に村人達にとって泉はかけがえの無い物なのだと思い知らされる。


「天女のお言葉は【欲をはるな!この泉を皆で分かち合え】と。今から、近隣の村にも水を配りに行こうと思うが、異議があるものはいるか?」

「分かりました!!配りに行きましょう!!」


村人はさっそく準備に取りかかった。これで、誰もが幸せになれると思ったが。




その日の夜、村は燃えた。

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