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二人の姫

村を出て何時間か歩くと、風景は荒れ地からゴツゴツとした岩場に変わった。相変わらず水の気配なんて全くなかった。足場の悪い道に、たびたび躓きそうになるも、ジニにおいて行かれないようにしっかりついて行った。


「近くに川あるの?」

「ないよ。生き残っているのは、城下にほど近い川だけで、後は枯れたよ。」

「じゃあそこまで行くの?」


でも進んでるのは城下とは正反対。



「まさか。国が厳重に管理していて、利用制限がかかってるからいかないよ。」



残された川が一つ。その川でさえ、水量は衰えている。

残された川に人々が群がるのは必然的。

水が尽き果てないように、水量を調整するため川上でダムを作り厳重に管理されていた。


「長時間並んで1日かけて行っても、僅かな水しか手に入らない。時間の無駄だよ。」

「そうなんだ。」

「でも水が全く手に入らない土地に給付する為にしているから、仕方ないんじゃないかな?うちの村は微弱ながら水源があるからまだいいけれど、枯れた大地に城下からも遠い土地にとったら、国からの給付しか当てがないから。」

真面目に話すジニにベルは聞き入った。

 

「王家も頑張っているとは思うよ。でも、天の加護を失ったのは王家の性でもあるんだから」


天の加護を失ったのは王家の性?


「何それ!?その話もうちょっと詳しく知りたい!!」

「え?」


一人分、間を開けて隣を歩いていたベルが急接近していた。今にも掴みかかりそうな距離で、ジニを見つめる。

こんなに顔が間近に女の子の顔があるのもなれないジニは2・3歩後ずさりをした。


「王家が天女を失った原因ってどういうこと?」

思った以上のベルの食いつき具合に、ジニは驚いた。



「いや、その」

ベルの強い眼差しに戸惑いながらも、ジニは観念した。


「僕が生まれる前の話だから、どこまでが本当なのかというのははっきりしないけれど、みんなが口々に言うから、あながち嘘だけではないと思う。」

そう前置きをして話始めた。

 


――――


それはさきの国王の時代。さきの国王の名は『キリス』

彼がまだ、先王が王子だった頃の話。

この国の王位継承者は、生まれた時に天命を受ける。キリスもまた例外ではなく太陽に天命を定められた。

そう。キリスには運命で定められた姫がいた。


隣国『セレニアス』の姫『シルバー』。

「セレニアスの姫を正妃に娶らば、王子の未来は切り開くだろう。」

運命で二人の未来は決まっていた。信仰深い国民達は、誰もが王子は姫を妃に迎えると信じていた。



しかし、その運命が狂いだしたのは、一つの戦争から。


「北方戦争」その頃絶大な勢力を誇るイルフォードに黒い思いを秘めていたのが『アルシャラ』帝国。

このアルシャラ帝王がシルバーを捕らえた。シルバーを助ける為、イルフォードは戦さに乗り出した。

その時神の使いイルフォードで言われる、天女『天空の巫女』がキリスの元に舞い降りた。

天女の加護を受け、北方戦争はイルフォードの勝利に治まった。


「ただ一つ誤算だった事。」


それは戦いの間に、キリスと天女の間に仲間以上の感情が生まれてしまった。平和を取り戻したイルフォードでは、シルバーを王妃にとする『セレニアス派』と天女を王妃にとする『天空派』の2つの派閥に別れてしまった。



国が二つに分裂してはいけない。悩んだ末出た答えが第一王妃正室に『シルバー』第二王妃側室に『天女』となった。

キリスは正室シルバー様との間に、一人の王子。側室天女との間に、二人の姫が生まれた。

キリスも正妃も天女も幸せそうに過ごしていた。全てが丸く収まったかのように見えた。が、神はキリスからそして我々から、天女を取り上げた。

ある日突然、天女は姿を消した。理由はわからない。天命に逆らったから。側室なんて存外にあつかったから。神聖なる天女を天女を穢したから。いろんな意見が飛び交った。



「ちょっと待って、聞き覚えがある名前がさっきからちょこっと出てるんだけど………。」

生唾をごくっと飲む。ベルは難しい顔をしながら、話をいったん止めた。


「あぁ。キリス様は先帝。正妃シルバー様は皇太后。現国王、クロウド陛下の実親だよ。」


やっぱり!!伝承だ、神話だ。なんてみんな話し方をするから、うん百年うん千年昔の話だと思った。


「天女ってそんな最近の話だったの!!!?」

「言い伝え自体は古くからあったんだけど、実際、神遣いが地上に舞い降りたのはここ二十数年の真新しい話らしい。」

「て事は。アマギが、」


アマギはあの時、自分は側室の子って言ってた。そうなると必然的に。


「そうだよ。妹姫アマギ様とアキヒ様が天女の娘だよ。」



アマギが天女の子。天つ姫で天姫(アマギ)空の姫で空姫(アキヒ)と名付けた。

ーーーー天つ姫、アマギ。




「ベル、見えて来たよ!!」

ジニは突然走り出した。急いで、ベルもジニの後を追った。足場の悪い、岩場を飛び越え、狭い洞窟の様な穴に入り込むと、一気に視界が広がった。

洞窟の奥は広い空洞になっていて、その隅っこに湧き水が流れていた。湧き水は透き通っていて、神聖な空気が醸し出ていた。


「ここだよ。」


微弱ながら、わき出ている源に瓶をあてる。少しずつ水が瓶に入っていった。



「昔は、ここいら一帯、湧き水の泉だったらしいんだけど、今は残ってるのはこの数10センチの湧き水の源だけなんだ。ちょっと汲むのに時間はかかるけど、無いよりましだろ?」



ジニはベルの持っていた瓶も受け取り、水を組み出す。水を真剣に汲むジニの隣に、ちょこんとしゃがみ込む。今にも枯れてしまいそうな泉が、頑張って息をしていた。

静かに小さく湧き上がる水源にそっと手をあてた。


「ここの水は綺麗だね……。」

「あぁ。この泉は昔、天女が舞い降りたと言われている泉なんだ。」


今の姿では、想像も出来ないと思うけれど、二十と数年前までは、この洞窟の中は草木に溢れていて、泉も洞窟いっぱいに広がっていた。神に繋がる場所と言われたこの神聖なる泉。

古からこの泉には神と通じ、そして天女を舞い降りさせる地と伝えられていた。その守り役を遣わされていたのが、サニーシー村の人達だった。

二十と数年前に天女が本当に舞い降りた時は、歓喜に満ち溢れた。サニーシーの村人は、古来からの伝えを守り泉を守護していたから、誉れ高かっただろうに。



「まぁ、偉そうにさっきから説明してるけど、僕は生まれてないから……そんな姿見たことないんだけどね。昔は守り役なんて言われていたけど、今はただの。」


自虐的な事をいい、悔しいそうな顔をするジニ。いてもたっても居られず、思わず聞いた。


「アマ………天女の娘、姫君がいるなら、国は盛り返さなかったの?」


天女はこの国で絶対的存在だ。誰の話を聞いても、そう感じる。その娘ならば、国民の心理的に依存してもおかしくない。しかし、ベルの考えに反して、ジニは肩を震わせながら、眉間にシワをよせ険しい表情になっていった。

  

「天女の娘には、何も力が無かったんだ。」

最初は天女の娘として勿論崇められた。天女に変わって、二人の娘がこの国の大安を守ってくれると。誰もがそう信じていた。しかし姫君は何も天の加護は無かった。これが天が与えた罰だったのだろうか。天女に手を出した国の末路だった。

二の姫様は他国へ嫁いだ。しかし、一の姫は嫁がなかった。政略結婚を拒んだ。




「加護もなく、国の為にも生きられないなんて…。」

「でも、アマギは頑張ってるわ!!」

「え……?」

「あっ……アマギ姫は頑張ってるよ。孤児院とか行ったり、弱気ものを慈しんでいるって聞くよ!」

「そんなどうせ、目先の事しかしない、点数稼ぎだろう?」

「何よ!!その言い方!!」


あぁ。アマギはそう言われて育って来たのね。だから、あんなに自分を卑下するんだ。

力のない姫。役にたたない姫。姫の癖に結婚も出来ない。陰でずっと言われていたのを耐えていたのだろう。

嫁がないといけないなんて事はない。王家に生まれたって普通の人間。



「ベル……?」

「ごめん。今のは八つ当たり。でも、アマギ姫は頑張ってると私は思うわ。やらない善より、やる偽善の方が何倍もいいわ!目先の人しか助けてなくても、目先の人も救えない人が、国が救えるわけないわ!!」

「………。」


ベルはアマギを思いながら、自分を重ねていた。王家に生まれた為に与えられた重圧。決められた人生。ただ、それに流されず何を言われようと自分の人生を選んだアマギは、自分と違ってすごいと思う。

 

「ジニ……あなただって素敵な夢のある人でしょ。未来は一人一人の手で切り開いていかなきゃ。」


誰かに頼るだけじゃだめ。支え合わないと。



「………。」

「泉の声を聞いてあげて。この泉は必死に生きようとしてるわ。天女に願わなくても叶う事だってあるよ。」

「泉の声?」



ベルはそっと湧き水に手を浸した。


「うん。泉はまた昔の姿に戻ろうとしているわ。一人でもがきながら。だから手を差し伸べてあげなきゃ。」

「君が何を言ってるかわからないよ。」

「わからなくてもいいよ。大丈夫、伝えるから。願って!!泉の事を」

「願う………って――?」



ベルは大きく深呼吸をすると、泉を見つめて歌いだした。

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