サニーシー
城を抜け出すのはいたって簡単だった。国王が戻ったばかりだからか、使用人達はバタバタと忙しいそうに働いていた。だからか、目の前の事にいっぱいでベルがいてもあまり目にとまらない。城の警備がそんなんで大丈夫だろかとも思ったが、ベルとしてはありがたいのでありがたく抜け出した。
そして森を求めがむしゃらに歩いた。どの位歩いただろうかわからないくらい歩いた。日が傾きかけていたから、もう夜なんだろうと思う。
町を越え、隣の小さな村まで来ていた。町外れの協会まで行った時も思ったが、そんなの比じゃないくらいに褐色の大地が続く。
国の外れはどうなっているのだろうか?考えただけでぞっとする。サンサンと照り続ける太陽が憎らしく思える。
「あんた、何してんだい?こんな所で。」
「……」
ベルは振り返ると、女性が小さな幼子を連れてたっていた。呆然と太陽を見上げ立ち尽くす、ベルに見かねて声をかけてきたのだろう。
ねえ様達と同じくらいの年代の女性だ。
健康的な焼けた肌とは裏腹に、苦労しているのか顔に出ていた。ただ、そんな苦労も吹き飛ばすくらいの威勢のある人だった。
「迷子かい?」
「迷子じゃないよ!」
「じゃあ、家出かい?」
「家出じゃないと思う。ただ、森を探しに来ただけ。」
森を探しに来た。ただそれだけ。城をこっそり抜け出して来たけれど、家出ではない。
「何言ってんだい?」
女性ははぁっとため息をつく。この国でそんな場所ある訳ないだろう、そう諦めきった瞳で見詰めた。
「あたしは、ダイアナだよ。この子は…」
「くぅなぁ!!」
クナはダイアナを遮るように名をなのる。小さな女の子は指を三本立てている。
「私はベル。」
「ベル、家は近いんかい?」
「………。」
「直に日が沈むからうちにおいで。この辺は夜になると危ないからね。」
ダイアナはクナを抱き上げると村を指差し、歩き出した。ベルは黙って付いていった。
ダイアナとクナを追い掛けて数十分小さな村についた。
「サニーシー村だよ。」
聞くと、イルフォード城下からは、北東に数十キロメートル離れた村らしい。城下から休まず歩いて来たと話をしたら、女の子の足じゃ無理だろうと笑いって信じてもらえなかった。
「……ほんとなのに。」
野育ちだから、体力にだけは自信があった。たださすがに足が棒になるくらいは疲れが出ていた。
「あたし、どんだけ歩いたんだ?」
村は本当に小さな村だ。人口50も満たないと思う。
小さな村だからか、村中が家族みたいな関係にみえた。
ダイアナの後をついて、歩いているとよく感じる。
「ダイアナ!!お帰りなさい。クナも。」
「ただいま!!」
すれ違う人みんな親しげに話かけるその光景は、悪くない。
「そっちの女の子は?初めてまして?」
「ベルだよ。迷子だったから拾って来た。」
「………迷子じゃないよ!!」
「そうだっけ?家出だったか?」
カランカラン笑いながらダイアナはかるく受け流す。
村人は、ベルにも笑顔を向けてくれた。
「初めてまして。ベルです。」
「小さな何もない村だけど、ゆっくりしてお行き。」
ダイアナの言った通り、村についた後すぐ日が落ちきった。
「夜は狼が出るから。」
「ありがとう。」
「ゆっくりして行きな。狭い家だけど。」
辺りが暗くなると、獣の遠吠えが聞こえた。
言葉通り、小さな家だ。ダイアナとクナが寝たら、部屋はぎゅうぎゅうだ。そこにベルもはいると大混雑になる。
それなのに泊めてくれるなんて、優しいというか人が良いというか。ダイアナの人柄のよさがわかった。
クナがスヤスヤと寝息を立てている横で、後片付けの手伝いをした。
「旦那さんは……帰って来ないの?」
お皿を洗いながら、素朴に思った事を口にした。
「あぁ、来ないよ。この辺の男衆はみんな出稼ぎに行くんだよ。こんな所じゃまともに仕事なんか見つかりゃしないよ!」
「そうなんだ?」
一瞬間が空いた。不思議そうな顔でダイアナは訪ねた。
「そんな事も知らないなんて、あんた本当に世間知らずだね。金持ちの嬢ちゃんかい?」
う――――っ「王族です」って言ったら面倒な事になりそうだよね?かと言って嘘をつくのは、私の倫理に反するし……。もしかして、バカ正直に言っても信じて貰えないかもしれないし……。
「最近、イルフォードに来…たばかりだから、よく分かんないだけだよ。」
うん。嘘は言ってない。
「だから、『森』だなんて意味分からない事言ってたんかい。異国の娘だったんだね。それに薄紫の瞳なんて珍しいしね。納得だ。」
ダイアナはベルの瞳を覗き込みながら、微笑んだ。
客観的に聞くと、苦しい言い訳に聞こえそうとおもったけれど、どうやら納得してくれたみたいで安心した。
ダイアナの家で一夜を過ごし、朝を迎えた。狭い所で寝たから、体がポキポキする。
「んー」体を伸ばしながら起き上がった。ダイアナの姿が見あたらなかったので、まだ夢の中のクナを起こさない様布団を抜け出した。
カラリと扉を開けると、ザワザワっと騒ぎ声が聞こえた。
「出て来た!!」
庭にはもの珍しそうに、一目ベルを見ようと村人達が集まっていた。
「―――!!」
ベルは驚く隙もなく、村人達に囲まれてしまった。逃げたいけれど、身動き取れない。しかもいろいろ質問責めされているけれど、一斉に言われて聞き取りきれない。
「こら、お前達!!客人に失礼だろう。」
ベルに救いの手を差し伸べたのは、しがれた声で杖をついた老人だった。
「村長!!」
村人達は道を開け、その間をゆっくりと歩いてくる。
「初めまして。わしはこの村の村長ですぞ。村人達が騒がしてすまんね。気を悪くせんでくだされ。」
「村長?」
「ダイアナから、話は聞いてるよ。何もない小さな村だけど自分の故郷だと思って、ゆっくりしていきなさい。お前さんさえよければ、居着いてくれてもかまわんよ。」
「ありがとう……ございます。」
「ここにいるのは、流れ者が多いから気にせんでいいよ。」
村長の温かい言葉に涙が出そうだった。




