国王陛下
その日は朝から騒がしかった。城の中も外も慌ただしく、ひっきりなしに走り回っている。いつも寝坊助なベルも、物音で目が覚めてしまった。
カーテンを開けると、まだ早朝だと言うのに今日もサンサンとお日様が照っていた。部屋から廊下に出ると、使用人達が、あっちへこっちへとバタバタ入り乱れている。
「どうしたの?」
ネグリジェの間々でウロウロしてるベルを見て、使用人が慌てて近付いて来る。
「おはようございます。クロウド様がお戻りになりました!ベル様その様な格好で。すぐにドレスの御準備致しますね。」
視察に出ていた、太陽の国王と呼ばれる『クロウド』様がイルフォードに帰還した。国王陛下の城へ帰還に、城中は大騒ぎになっている。
「クロウド様。」
ベルの夫となる人。ベルとは入れ違いで北部の国境に御公務にでられていた。イルフォードに来て結構たったが初めて会う。
まだ見ぬ相手にどう接していいか分からず、微妙な気分だった。
「どんな人だろう?」
「さささ。もう皆様集まられておりますから、行きましょう。」
半ば強引に引きずられるように連れて行かれた。
王座の間には、ほぼ全員集まっていた。王座はまだ空いていて、後は国王待ちとなっている。王座のすぐ隣の上座には、銀色の髪の美しい女性が座っていた。その隣にはアマギ。そしてベルの席順になる。
下座にはキラもいた。
「ふふ。ベルかわいいわ。」
アマギはベルと目が合うと、小声で呟いた。
「アマギ、あちらの女性は?」
「アチラは『シルバー様』。隣国『セレニア』から嫁がれた先の国王妃、皇太后様です。クロウド様の母上様ですよ。」
「――――!?」お母上様!!?
なんか、ひっかかる。
「アマギの母様でもあるんだよね?」
アマギは国王陛下の妹姫。そうすると、必然的にシルバー様はアマギのお母様なのに、他人の様に壁があるように感じた。
「ええ、そうね。私の母上様でもあるけれど私は側室の子だから、正確には継母ね。」
アマギが側室の子。一夫多妻が認められているイルフォード。別に普通の事なんだろうが、心臓を鷲掴みされた気がした。側室の子と言う劣等感。たまに見せる、アマギの悲しそうな姿はそれが理由なのかなと思った。
ただ、それでそんなに暗くなる様な事なのだろうかと、ベルにとって理解しがたい理由だった。
「ん?どうしたの?ベル」
「うぅん。何でもない。」
直接聞くなんて出来るわけもなく、誤魔化した。
「陛下がいらっしゃいますわ。」
間の入り口の扉の向こう側がざわっとした。
アマギは人差し指を口元に当てると、話をやめた。
そして、空気が変わる。一瞬にして静まり返った部屋。重々しい空気になる。
皆の視線が一点に集中すると、そこから国王はあらわれた。イルフォード国王『クロウド』風貌は母親ゆずりなのだろう。銀色の髪に、切れ長の瞳。
「皆、城を空けてすまなかった。」
キラと同じで、表情はあまり豊かそうではないけれど、その口調から穏やかそうな人柄なのが伺えた。
「陛下。ご無事で何よりです。」
皇后に続き、アマギも労いの言葉をかけた。
「あぁ、有り難う。キラ」
クロウドは振り返り、キラに声をかける。
「はい。これと言って特に変わりはありません。……」
キラは、クロウドが不在だった間の報告を事細かにいれた。難しい言葉ばかりが並ぶ物だから、途中でベルは飽きてしまった。
数十分そんな話が続き、やっとクロウドはベルの方を向いた。
クロウドは上座から降り、ツカツカとベルの前まで歩いて来た。
――――!!ベルは慌てて立ち上がり、ドレスの裾を持ち、両膝をつくと、しなやかに挨拶をした。
「お初にお目にかかります。アメジスト第三王女ブルーベル=メイ=アメジストです。宜しくお願い致します。」
にっこりと微笑み、深々と頭をさげる。
よし―――!!完璧!!
フォルト公にしごかれながら、体に染み込まされた挨拶がこんな所で役にたつとは思わなかった。あんだけ嫌々やってたけど、役にたって良かったと思う。
アマギもベルの挨拶の出来に満面の笑みを浮かべる。
キラの方もチラッと見ると、「猫被り」って言い足そうな顔で笑っていた。
うぬーアイツめ!!
顔が引きつりそうだったけれど、同盟の為だ。我慢我慢。
「姫巫女、遠い地までいらして頂いたのに、主である私が留守にしていて、申し訳なく思う。」
「いえ。アマギ様やキラ殿に良くして頂いたので大丈夫ですわ。」
クロウドは小さく微笑むと、ベルの事を再度見直した。
「姫巫女、貴方には話さなければならぬ事があります。」
「はい。」
厳かな表情に切り替わる。周りも、一瞬ピリッとする。
ベルは恐る恐る返事を返すと、クロウドはベル以外の人払いをかけた。広い部屋に二人残され、部屋は一気に静まり返った。元々重苦しい空気ではあったが、二人きりになると時計のカチコチという音しか聞こえて来なく、より空気が悪くなっている。息苦しさを覚えた。
「巫女姫」
「ベルでいいです。アマギにもそう呼んで貰っております。」
先にクロウドから口を開いてくれて、ベルはほっとした。
「では、ベル。私は回りくどいのは相容れぬから、単刀直入に言う。」
「はい。」
「遠い地から来てくれて申し訳ないが、私は貴方を愛してはやれぬ。」
「へ――――?」
思いもよらない言葉に、間の抜けた声を出してしまった。
単刀直入って言ったって、いきなりやすぎやしませんか?
「それは、結婚しないって事ですか?」
「いや。国と国の繋がりだから、結婚を望むならする。しかし愛のない婚姻。そなたは幸せにはなれぬだろう。」
淡々と話すクロウドの言葉は本心なんだろう。だが、腑に落ちない。
「イルフォード側が婚姻を持ちかけてきたのでは?」
この婚姻を率先して進めていたのは、イルフォードだ。
父様から聞いたかぎり、アメジストはイルフォードの軍力を敵に回したくないが為了承したと思っていた。
「あぁ。国が婚姻を欲しているのならば、私は主としてそれに準じる。あなたを不自由な暮らしは、絶対にさせない。しかし、あなたを女として幸せにする事は出来ぬだろう。」
「では、失礼ながら陛下には他に奥方がいらっしゃるのですか?一夫多妻とお伺いしておりますので。」
ベルにとって、もってもない話だけれど。釈然としない。
イルフォードが一方的に婚約を持ちかけたのではないのか?それなのに、愛せないとか幸せに出来ないとか。
何なんだ!!?政略なんだから最初から好意なんてないだろう。
私に魅力がないなら、はっきり言えばいいし!!
お互い結婚したくないから、意見は合っているのだから。
理由を言われれば、それですむ話なのに。はっきりしないのが、一番イライラする。
「それとも、好いた女性がいらっしゃるのですか?」
「いない。」
―――――――――√ ぷちん――ッッ
「じゃあ、何なの!!はっきりしなさいよ!!」
付け焼き刃の完全に猫っかぶりがはげた。別にいいわ。もう煮るなり焼くなり好きにして。全面戦争なるかも!?ごめんね。父様、アメジストのみんな。ベルは我慢が出来なかったよ。
ベルは鼻息荒く、殺気立つとクロウドはポツリと一言だけ言った。
「よい。下がれ。」
クロウドは目をそらし、口を頑く閉ざした。




