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「おいっガキが一匹逃げたぞ!」


「構うな。女さえいればいい。」

リュイまでに興味を示さなかったのが唯一の救いだ。ベルは薪割り用の斧を拾い上げると、男達に向かって威嚇した。小さい斧だけれど、女の力で振り回すにはずっしりと重い。



「ねぇちゃん足がヨタヨタしてるよ!!そんなんじゃ」

「うるさい!!」


ケタケタ笑う男達に、ベルは悔しくて悔しくて仕方なかった。ベルは斧を振りかざすも、大男にとって赤子の手を捻るより簡単で、軽々と斧を奪い取られてしまった。

「痛っ―――」がっしり腕を掴まれ、完全に捕らわれてしまった。


「離せ!!離しなさいよ!!」

ジタバタするも、ピクリとも動かない。ギュッと掴まれた部分が、赤くなり感覚が薄れていくのがわかったけれど、それでも抵抗した。



もぅ駄目だと思ったその時―――大男が宙に舞いながら吹っ飛んだ。鮮やかに円を描き5メートル以上は飛んだだろうか?何が起きたか理解出来ず、ベルはあんぐりと口を開けていた。



「だから言っただろう。」

静かに怒りに満ちた声が聞こえてきた。低い声が余計に低くなっていて、ベルはびくっ取りした。


「キキキ―――キラ!!?」

「全く手をかけさせるな。早く戻るぞ。」


キラは大男達を気にする素振りもせず、ツカツカとベルの元に歩いてきた。鬼の様な形相で近付いてくるから、つい反抗してしまう。


「別に助けてくれなくても、なんとかなったよ。」

「………お前は反省がないな!!」


今のは自分でも素直じゃないなぁと思ったけれどそう。キラが突っかかって来るからだよ。うん。


「お前らぁ馬鹿にしてんのか!」

伸びている大男の横で、小男が顔を真っ赤にして大声を張り上げた。小男は大男の手から斧を取りキラ目掛けて踏み込んできた。



「キラ!!危ない!!!!」

「馬鹿!!前に出るな!!」


突然前に出て来たベルに、キラは目を見開き驚いた。すぐさま後ろ手に庇った。


刃が交わる鈍い音と共に、斧が弾き飛んだ。小男は大男同様、地面に伸びていた。

一瞬の間にキラが何かをしたのだろうけれど、全然わからなかった。



「怪我ないか?」


「……うん。」

キラは剣を鞘に戻すと、安堵の表情を浮かべた。


「キラ…傷」

キラの左肩に斧がかすったみたいで、服の上から血が滲み出ていた。


「お前が、突然前に出るからだ。」

だって体が勝手に動いたんだもん。と言い返したいのは山々だが、また言い争いになるから止めておいた。

「ごめんなさい。」



「ちょっと!!傷そのままにしておくの!?ちゃんと消毒しないと!」

「別に対した傷じゃない。」



「そぅいう問題じゃないでしょ!!アメジストには、いろんな植物があるのよ!切り傷に効く薬草液塗ってあげるから、脱ぎなさいよ!!」


確かに傷自体はそんなに深くなかったが、浅い傷とて後々何か響くかもしれない。

服が左肩から脇腹にかけてざっくりと破けていた。キラの体にはアチコチに生傷があった。古い物から新しい物まで。いかに、軍事総指揮官という役割が大変なのか物語っていた。


ふと、ベルの目にとまった。キラの左腕から背中にかけてついているアザ。黒いそのアザは、吸い込まれそうなくらいに禍々しい。

アザと言うより刺青タトゥーのように見えるくらいくっきり入っている。

ハッと気付き、アザを隠す。キラは、眉間にシワをよせ近寄らせないオーラを発っした。元々、表情豊かな人ではなかったけれど冷淡で感情を全て消したそんな感じ。いつもの仏頂面とは違っていた。


ベルは完全に拒絶された気がした。

―――触れちゃいけない所だったのかな?まるで、別の人を見ているみたいで、ベルはなんて言っていいのかわからなかった。



その沈黙を破ったのは男だった。

「ひっ―――」


目を覚ました、男達がキラを見てガタガタと震えだした。

「そそそ……そのアザはまさか黒影の将軍―――!!なんでこんな場所に!?」


今にも死ぬんじゃないかと言うような青ざめた顔をしている。投げ飛ばされ思うように力が入らない男達は、必死に後退りした。再び剣を手に握り、ジリジリと間合いを詰めていく。その姿は獲物を狙う狼の様で。

キラが怖いんじゃない。何となく、キラがキラでは無くなるみたいで。不安だった。



「キラ。」

ベルはキラの腕を掴んだ。振り返り、ベルと目が合う。ベルの存在を思い出したのか、冷淡な表情がいつもの仏頂面に戻っていた。ベルは殺しちゃだめだよの気持ちを込めて、キラを見つめ首を横に振った。



「ふん。コイツの前で殺生するつもりはない。お前ら、俺の気が変わらぬ内に去れ!!二度と面見せるな!!」


抜いた剣を鞘に戻し、睨みつける。

「あと、今日の事触れ回ったらどうなるか馬鹿じゃない事を」

「ひぃぃ」と怯えながらもその言葉に、男達は助かったと身包み放り投げ、逃げていった。



「ちっ」面倒臭そうに舌打ちをすると、キラは暴れた時にめちゃめちゃになった裏庭を元に戻し、斧を拾い何事も無かったかの様にした。


「さっさと帰るぞ。」

「うん。」


ベルは服の埃を払うと、チョコチョコ後をついて協会の中へ戻った。 協会の中に戻ると、アマギ達が青ざめた顔で迎えて来た。

「ベル、怪我はない?ごめんなさい……何も出来なくて。」


男ともみ合った時、腕を掴まれた場所がまだ赤くなってたけれど、それ以外は特に何ともなかった。

アマギはベルを抱きしめ、そして怪我がないか確かめる。

ふんわりと、アマギの甘い香りが伝わって来た。


「キラが来てくれたから大丈夫だったよ。有り難う。」

「私が助けてに行ければよかったのに。」


アマギが複雑そうな顔を浮かべるから、ベルは反対に陽気な態度になる。心配をかけまいと笑いながら答えたベルに、アマギもやっと笑った。


「アマギは来ちゃだめでしょ!!女の子なんだから。」

「ふふ。ベルったら。」


そういえばキラにちゃんとお礼を言ってないと思い振り返ると、キラはいなくなっていた。

あれ?いつの間に―――?辺りを見回しても姿がなかった。



「ベル、大丈夫?」

「リュイが呼んで来たから助かったんだよ。リュイ、有り難うね。」

リュイが心配そうな顔で覗き込んできた。「おぅ」とコクンと頷きながらリュイは赤く照れながら喜んだ。

 

「どうかした?」

「いや、キラにさっきのお礼言ってないやって思って。」


神父さん達のいる奥の部屋も覗いたけれど、キラの姿はなかった。外を探しに行こうとするベルに、あまりに軽々しく言う物だから、アマギの顔色が変わった。



「まだ、外にさっきの人いるかもしれないわ。」


アマギが心配気な顔をするから、うーんと考え込む。

けれど、ベルが出した答えはまぁ大丈夫だろうと脳天気な答えだった。


「さっき、キラがコテンパンにしてたから大丈夫だよ!!」

「ベルも女の子なのよ?危ないわ。」



よく、フェルト公に日々『女の子らしくしなさい』と言われてイライラしたけど、こういうニュアンスで言われるのは嫌じゃないな。



「裏窓から覗いて外にいなさそうだったらすぐ戻って来るから!!」


そう言うと、ベルはダカダカ走りだした。

裏口にまわり、窓からそっと覗く。さっきの男達がいないかを確認すると、ベルは一歩外に出た。キラは裏庭にある井戸にいた。



「キラ、こんな所にいたの?」

井戸は八割形枯れていて、水は殆どなかった。

血はもう止まっていて止血する必要はなかったから、傷口を消毒するのだろう。


「また勝手に外に出るな。」

「ちゃんと言って来たわ!!あんたに礼を言いに来たのよ。あ・り・が・と・う」


本当に礼を言ってるのだろうか微妙な態度に、キラは苦笑いをした。




「ほっといてもいいんだが、対した傷じゃなくてもアマギ様がみたら、騒ぎ出すだろう。」




確かにさっきの様子を思い返すと、キラの判断は正しかった様に思える。『やっぱりキラはアマギ中心でまわってるのね!!』そう思うと顔がニタニタしてしまった。



「何笑ってんだ?」

ため息まじり睨みつけるキラを見て、また笑ってしまった。



「薬草液塗ってあげるわ。後ろ向きなさい。」


布を水で濡らし、傷口を拭く。

左腕から、背中にかけてついているキラの黒いアザは、嫌というほど目に付いた。


「その痣って…「お前には関係ない。」

ベルの言葉が終わる前に遮られた。



「関係ないって、そんな言い方しなくたって!!!!」


知られたくない事なら、それはそれで仕方ないけど、そんな言葉で拒絶しなくても。何故だかすごく悲しかった。

しかし、ベルに対して、キラは冷ややかだった。


「関わるな。」


キラの瞳が再び、冷酷に染まった。これ以上踏み込まれないように、線を張られた。

言い返したくても返せない。いや、返させないといった方が正しいだろう。威圧的な目。


「ねぇ!?」

「―――――――。」


背を向け、ベルの方を全く見ない。少しは仲良くなったと思ったのに、すぐまた開く距離。

私は結局イルフォードにとってよそ者なのだろうか?



その日、キラはもうベルと目を合わせる事はなかった。


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