生命の根源
教会の裏まで廻ると、リュイとライラはすぐに見付かった。日差しを避けるように建物の影に入り、チョコンと座り込んでいた。
ベルはそろっと近付いたが、足音に気付きリュイが警戒態勢に入った。
「来るな!!」
「うっさいわね!!私はあんたに言ってやりたい事があるのよ!」
ばれてしまったが最後。お構いなしに、ズンズンと近寄った。
「なんだよ。」
「全部聞いたよ!それを踏まえつつあんたには二つ言ってやりたい事がある!」
チラリとライラの方を見ると、目まぐるしい状況の変化についていけてなかった。リュイは中に戻るよう促した。リュイは幼いライラにはまだ伝えたくないのだろう。
「ライラ、あっちいってろ。」
「やだぁ」
リュイを気にして、中々行こうとしない。
「シュークリームいっぱいあるよ!食べてきたら?」
「いいよ。食べて来な!!」
諦めた様にはぁっとため息をつきながら言う。ライラは許可が降りると、嬉しそうにパタパタと教会の中に戻って行った。
「何だよ、早く言え。」
「あんたって本当に!偉そうでムカつく。アマギの事も気になるんだから、さっさとすますわよ!!」
人差し指を高らかに突き上げる。
「一つ目!!シュークリーム"なんて"って馬鹿にしないで!!」
「はぁ?そんなくだらない事わざわざ言いにきたのか!?」
「くだらないってシュークリームを馬鹿にするとシュークリームに泣くわよ!!シュークリームの神様から天罰くだるよ!!」
「天罰」
リュイはフッと笑った。子供らしくない笑い方で。
「だから、それがムカつくの!!」
「何なんだよお前は!!」
只でさえ気が立ってるのに、ベルの言っている事が、何がなんだかさっぱり分からないリュイは、イライラが募る。
「悲しいなら、子供らしく泣けばいいでしょ!!そぅ!!それが二つ目。私だったら泣いてやるわ!」
エッヘンと偉そうに言う。
「私だって母親はいない。しかも、この国に来て一人になってしまった。」
「………。」
「けれど、周りにはよくしてくれる人がいて、私は幸せ者だと思う。」
リュイは黙って聞いていた。
「リュイにもそういう人っているでしょ。」
誰にも母親の穴は埋められないけれど、前に進む為に手を差し伸べてくれる人はいる。
悲しみは消えはしない。それから逃げてもどうにもならないし、かと言って忘れろとも思わない。それをどう乗り越えて幸せになるかだ。リュイにはライラがいる。神父様たちもいる。
「月並みな言葉かもしれないけれど、母様は私達が幸せになって欲しいと思ってるよ。私はそう信じてる。私母親の顔も見た事ないの。本当にそう思ってるかなんてわからない。でも未来は自分で変えるしかないんだから。プラスに思った方がいいでしょ?」
リュイは涙目になっていた。
「ふふふ。」ベルは嬉しそうな顔を浮かべ、ガシガシリュイの頭を撫でた。
「なんだよ!泣いてねぇよ!」
リュイはベルの手を払った。さっきまでの拒否の表情は無く、照れて隠しに反抗しているのが伺えた。
「戻ろっか。」
神父達が待っている。建物の方を指を指し、二人は協会に向かい歩き出した。
「ねえ、リュイ。」
ベルは途中で足を止めた。
地面に、弱々しく雑草が生えているその光景が目に止まる。日陰にひっそりとして。
「何?」リュイは不思議そうに訪ねた。
「町には、植物が全然なかったのにここには、あるんだね。」
ベルは座り込み、そっと指でなぞる。褐色の地面に、今にも枯れてしまいそうな姿だけれど、必死に土に根を張ろうとしていた。
「それは、アマギ様と一緒に植えたんだ。」
「へぇ」
「いろんな所に植えたんだけれど駄目だった。それももうすぐ枯れちゃうよ。」
神に見捨てられた国と呟く者もいたが、僕らは必死に、抵抗した。でも太陽は、そんな人々をあざ笑うかの如く日増しに強くなっていった。
「まだ、生きているよ。この子!!」
「こんな、日照りばっか続いてるんだから、持つわけないだろう!!」
リュイは自分に言い聞かせる様に叫ぶが、ベルは黙って草を見つめていた。
「リュイは、この子に頑張って欲しい?」
「当たり前だよ。出来るなら緑になっている所を見てみたいよ。」
アマギが切々と語っていた、緑に恵まれていた頃のイルフォード。夢のまた夢の様な事だけれど、希望を捨てず、アマギは植樹し続けていた。そんな姿に心打たれ、協会にいるみんなは手伝い、共に植え続けていた。
ベルはリュイの両手をギュッと握ると、目を閉じた。
「手!?」
「いいから信じなくてもいいから、この子が元気になって欲しいと思ってるなら、それを願って。」
ベルのいつになく真剣な言葉に、「うん。」と頷いていた。天を見上げ、ベル歌いだした。
『この大地よ憂いに満ちよ悲しければ我も悲し
我が雫で潤うなら涙枯れるまでこの身を捧げよう天露の導きあれ。愛し愛しき慈しい我が大地』
悲しげなのに暖かく、なんとも不思議な歌。格別上手いと言う訳ではないが、澄んだ心地よい歌声。リュイは手だけでなく、胸の内までギュッと掴まれた気分になった。その瞬間空を見上げていたリュイの顔に、ヒヤッとした感覚が走った。
「え―――――?」
気のせいかとも思ったけれど、また同じ感覚が走る。
「え―――雨――!?」
リュイは蒼白しながら叫んだ。
ポツリポツリと降ってくる。それは、微量でしかないけれど確実に降っていた。空は照りかえっているのに、どこから途もなく降ってくる雫は幻想的だった。
ベルは歌い終えると、力を抜き、リュイの手も離した。
「もぅちょっと雨雲がきてくれれば降ったのにな。」
「ベルッッお前がやったのか!?」
喚起に満ちた声をあげて驚く。リュイは初めて『雨』を見た。「秘密だよ?」と言うとベルは話し出した。
「私は、手伝っただけ。この雨はリュイの思いだよ。願えば叶う気持ちもあるの。」
「僕の………」
「微量だけど、自分でも何か出来てるでしょ?」
心なしか潤った気がする植物を見て、ベルは嬉しそうに笑った。
「すげぇもん見ちまったな!!」
ジャリッとした足音と共に、ニタニタしながら薄気味悪い男達が近づいて来た。
一人はベルの3倍はあるんじゃないかと思わせる大男で、もう一人はひょろっとした男だった。いかにも狼藉人みたいな二人組で、ベルはリュイを背中に庇うと警戒した。
「こんな珍しい女高く売れるんじゃないか!!」
「だな。」
間合いをあけようとするが、男達はジュワリジュワリと近づいて来る。
「雨が降らせるなんて、もの好きな成金が囲いそうだぜ。」
「王族も、金を惜しまないんじゃないかッッ!!必死だからな。グフフ」
ベルは男達が目を逸らした隙に、リュイに耳打ちをした。
「あんた、先に逃げなさい。」
「お前はどうすんだよ。」
リュイは不安に見る。今にも「僕が残る」と言い出しかねない目で見詰めてくるから、ベルは先手を打った。
「馬鹿ね。狙ってるのは私なんだから、私が呼びにいったらアイツらも付いて来るでしょ。協会の中には、小さい子もいるんだから。今はリュイにしか出来ないんだから誰か助け呼んできてよ!!」
「僕にしか出来ない、、、」
リュイはわかったと首を縦に振ると、男達の隙を見て走り出した。




