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第279話 筆頭補佐官の思惑



View of ラヴェルナ=イオドナッテ スラージアン帝国公爵家長子 皇帝補佐官筆頭






 スラージアン帝国は先々代の皇帝陛下が足場を固め、先代の皇帝陛下が領土を拡大し、今代の皇帝陛下が安定させた超大国。


 しかし今代の皇帝、フィリア=フィンブル=スラージアンは他国での評価はあまり高くはない。


 というのも、先代の皇帝陛下が広げた国土を一部ではあるが失い、領土を縮小させた上にそれを取り戻そうともしない弱腰な皇帝と思われているからだ。


 逆に国内でフィリアの評価は高い。


 領土をある程度捨てはしたが、治めにくい土地を即座に斬り捨てたやり方は果断なものだし、内政に力を入れて国内を安定させると同時に反乱の目をいくつも潰している手腕を侮る方がどうかしている。


 勿論他国にはそう見えないように情報操作していたし、その結果フィリアの評価が下がったのは……本当に良かったのかどうか。


 まぁ、スラージアン帝国に喧嘩を売るような連中は……エルディオンと商協連盟くらいしかいなかったし、あまり関係ないわね。


 我が国にとって本当に目を配るべきは外よりも内だったし、外のことは最低限気にしておけば対応は難しくなかった。


 それに、今はもうエルディオンも商協連盟も存在しないし、それらを潰して超大国となったエインヘリアはフィリアを高く評価しているし、北方の小国連中が何を思おうと痛くも痒くもない。


 しかし、先々代、先代、今代と素晴らしい皇帝を戴いたスラージアン帝国も、次代に繋ぐことはできない……いや、繋ぐことを諦めた。


 諦めたというのは少し悲観的過ぎる言い方かもしれないけど、実際、私たちはスラージアン帝国を将来的には潰す決断をしている。


 国を、民を譲渡する相手としてはエインヘリアは最高の相手だ。


 というか、エインヘリア以外には任せられない。


 大陸を統一するには単に武力があればいいという訳ではない……というか、武力だけで大陸を統一できるならば、とっくの昔に我が国が行っている。


 難しいことは敵対勢力を潰すことではなく、その後の統治だ。


 現在の我が国の国土は、治められるギリギリのライン……いや、それを少々超えてしまっているが、それでもなんとか帝国を維持することに成功している。


 しかしエインヘリアは違う。


 あの国の凄いところは、武力や軍事力といった単純なものではない。


 寧ろその脅威の大半は、様々な技術によるものだ。


 国の根幹を支える様々な技術があるからこそ、エインヘリアは貴族制を廃しながらも広大な領地を治めることができているし、例え帝国領の全てを得たとしても統治を完璧に行うことができるだろう。


 距離と時間は統治をする上で絶対に無視はできないし、何よりも頭の痛い相手だ。中央から離れれば離れるだけその意思や意図は届かなくなっていくのだから。


 だからこそ、我が国では中央の直轄地以外は貴族たちに領有させ統治を任せているのだ。


 そして当然、彼らも貴族も領内を一人で統治することはできない。


 だからこそ大領を持つ貴族の下には、それなりの数の下級貴族が寄子としてつく。


 当然そうすることで地方に大貴族を中心とした派閥が出来るし、その派閥のトップである大貴族はそれぞれの地方で王であるかの如く振舞う。


 実際彼らの持つ戦力は小国のそれに匹敵するものではあるし、帝国中央としても侮れないものではある。


 まぁ、『至天』を派遣すれば制圧は簡単にできるし、地方の連中もそれは理解している。


 絶対的な武力を得ようと『至天』やそれ以外の英雄を裏で囲い込もうとしている貴族もいるが、今のところそれに成功した者はいない。


 勿論それは国への忠誠などという物ではなく……ただ単に、中央の出せる報酬を超えるものを用意できないだけのこと。


 金銭は勿論、あらゆる特権……そして何より強くなるための環境。


 『至天』や英雄を育てる為の教育機関……少なくともこの環境を地方貴族が用意することは絶対に不可能だ。


 とはいっても、地方領主の勢力は中央も無視できないものではあるし、地方領主が強気に出るのも自分たちが居なければ地方の政治が回らないことを理解しているから……大帝国とも呼ばれる我が国の弱点は、その国土が広すぎて中央の意向が国の隅々にまで行き渡らないこと。


 しかし、同じ超大国であるエインヘリアはそのような悩みとは無縁だ。


 転移という機能を使い、その意向を国の隅々まで一瞬で届け、王都からどれだけ離れた地であっても一切隙がない。


 その上全ての人材を中央から派遣し、何処で問題が起きようと一瞬で中央に情報が届き解決する。


 そこに地方で利権を得る貴族はいない。


 アレはずるい。


 本当にずるい。


 あと羨ましい。


 ……いや、魔力収集装置は帝国でも設置を進めて貰っているし、その機能だけならば使うことができる。


 しかし、帝国の地方にいる連中はこちらの指示を聞いたりはしない。


 勿論完全に無視するわけではないが、何かと文句をつけて中々首を縦に振らないのだ。


 本当に……面倒な連中だ。


 自らの利権と権威を重視し、尊重させようとする……わかりやすくはあるのだが、そういった彼らの歴史の積み重ねによる横のつながりは本当に厄介なもので、下手に武力で黙らせようとすれば帝国のあちこちで火が燃え上がるだろう。


 エインヘリアに国を譲るとしても、連中をそのままにはしておけない。


 なにより、連中の肥大化した自尊心と手にしている利権は、けしてエインヘリアに降ることを良しとはしない……十中八九内乱が起こる。


 それを鎮圧すること自体は不可能ではない……しかし、エインヘリアのように鮮やかに、殆ど犠牲を出さずに反乱を鎮圧するなどという離れ業はできない。


 つまり、相当数の死者を……民に大きな被害を出すことになる。


 地方貴族にも理解のあるものは少なくないが、同じくらいアホや権力馬鹿も多い。


 甘めに見ても各地方の被害は十万を下ることは無い……そんな国内をボロボロにした後でエインヘリアに国を譲渡する?


 嫌がらせ以外の何物でもないだろう。


 だからこそ、私たちは非道とも言える一計を案じた。


 それが現皇帝であるフィリアとエインヘリア王の婚儀。


 二人の間に出来る子供を使い、不穏分子を一掃する策だ。


 我が帝国とエインヘリアの間には隔絶した国力差が存在しているけど、そのことを本当の意味で理解している者はあまり多くはない。


 まぁ、エインヘリアや我々の防諜の賜物ではあるのだけど。


 スラージアン帝国とエインヘリアの力関係……それを理解した連中が、大人しく身を引いてくれるのであれば楽だけど、絶対にそうはならない。


 いや、エインヘリアを利用して自勢力を強化しよう程度ならまだマシ……エインヘリアの足を引っ張ろうとする輩も……まぁ、どちらにしてもエインヘリアに多大な迷惑をかけることに違いはない……というかそれを防ぐ為の情報統制だったし、それ自体はこの上なく上手くいった。


 しかし、時間が経てば経つ程両国の差は目に見えてはっきりとわかるようになる。


 その時に連中が何を考えるか……まぁ、帝国の為にもエインヘリアの為にもならないのは確かだ。


 そう言った連中に無軌道に動かれてしまっては、我々としても対応に非常に苦慮することになるの間違いない。


 だからこそ、その動きをコントロールする必要がある。


 鬱屈とした思い。


 今まで大陸で一番の国だった筈なのに、自分の知らぬ間に零落した大帝国。


 隣にはこの世の春を謳歌する超大国。


 そこにあらゆる意味で都合の良い神輿……帝国皇帝とエインヘリア王の間に出来た子が現れれば……担ぎたくなるのも無理はない。


 というかそうなるように誘導する。


 その動きが表に出れば、帝国臣民の中にもそれらの連中を支持するものが現れる筈……だからこそ、ことが大きくなる前に処理をしなければならないしタイミングはかなりシビアだ。


 その辺の舵取りは絶対に失敗できないけど、その手の工作は私たちにとっては日常茶飯事……決して失敗はしない。


 できれば今後五年でその状態を作り、八年程で掃除を終わらせ、十年を目途にエインヘリアへと国を譲渡したいところね。


 といっても、色々と問題はある。


 エインヘリアとの関係は勿論、今後の派閥の変動……さすがに国の譲渡ともなれば、中央に近い者の中にも反発するものは現れる。


 その辺の見極め……粛清対象をどこまで広げるのか……問題は山積みだけど、手抜かりがあっては最悪な事態になりかねない以上、一つたりとて手は抜けない。


 目下の最大の問題は……。


「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」


 この娘がちゃんとエインヘリア王陛下との話を進められるかどうかね。


 初夜を迎える姫でもここまで怯え、震えたりはしないだろうと思うけど……私はため息をつきながら震え続ける皇帝を見ていた。



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― 新着の感想 ―
なんか。フィリア陛下いきなり壊れてますね。婚儀には前向きで決意もしていた様でしたが、一体何があったのでしょうか。
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