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第277話 虚と百足と無貌



View of アシェラート とにかくデカいムカデ





 

「形状の変化の魔法は……成功だな」


「えぇ、思いの外順調に開発できたわねぇ」


 魔法によって姿を変えた木像を見ながら私が言うと、カミラが満足気に息を吐きながら言う。


 普段とは系統の違う魔法の行使に、さしものカミラも少し疲労が見えるが……その表情は非常に明るい。


 私自身……この姿なので表情という物はないが、やはり満足気な雰囲気を醸し出しているかもしれないな。


 私とカミラは変身の魔法について研究している。


 色々と思考と実験を重ね、まずは形状変化の魔法を完成させることができた。


「形を変えることはできるけどぉ、質量は変化しないのよねぇ……」


 木像へと姿を変えた元丸太をつつきながらカミラが言う。


「さすがに無から有は生み出せないしな……」


 今回の魔法ではあくまで形を変化させるだけで、重さや大きさ自体は変化しない。


 カミラが望む変身の魔法には程遠い……いや、そもそも今回の魔法では、本当に形を変化させるだけなので、これを生物に使えばとんでもないことになってしまう。


「魔力を使うことで質量を増やすことはできないかしらぁ」


「魔力の物質化ということか?それは少々難易度が上がり過ぎではないか?」


 すぐに次の段階へと進もうとしているカミラだが、申し訳なく思いながらも私は待ったをかける。


 魔力を浸透させて弄る形状変化から、魔力そのものを物質化するというのはあまりにも系統が違い過ぎる……一足飛びに技術は発展させるべきではない。


「そ、そうだけどぉ」


「ここは予定通り順を追う形で進めた方がいいと思うが……そうだな、木の像を石の像に変えるというのはどうだ?」


 カミラは早く変身の魔法を研究したいのだろうが、基礎というか前段階の研究を疎かにしては、万が一が起こりかねない。


 特に我々が求めているのは変身の魔法……生物に使用する魔法で失敗があれば、命に関わってくるだろう。


「物質の変化よねぇ……」


 私の言葉に、カミラが少し考えるようなそぶりを見せる。


「私たちの使う魔法にぃ、石化の魔法があるのよぉ。それを元に研究を進めるのはどうかしらぁ?」


「ほう?そんな魔法があるのか」


「こちらの魔法とは経路が異なるけどぉ、参考にはなるんじゃないかしらぁ?」


 カミラはそう言いながら、木像に向かって手を振る。


 すると、木像は音もなくその色を変え……石像へと変わった。


「凄いな」


「幻属性の『ストーン』って魔法よぉ。効果は見ての通り石化。そしてぇ……」


 説明を続けながらカミラが石像に手を伸ばし……指で摘まむように石像を砕く。


「見ての通りぃ、表面だけを石にするんじゃなくってぇ、その中身も含めて石化することができるわぁ」


「恐ろしい魔法だが……確かにこれを解析するのは面白そうだ。石だけではなく、他の物質にも変化させられるようになるのが目標だな」


 私は縮めた体で砕かれた石像に足を這わせながら感触を確かめる。


 まごうこと無き石……木材であった名残は何処にも残っていない。


「どういった魔法なのだ?」


「これはねぇ……」


 カミラが楽しそうに『ストーン』の魔法の説明を始める。


 幻属性と言っていたので幻影の魔法か何かなのかと思ったが、そういう訳ではないらしい。


 ……何故土属性に分類されないのだろうか?


 エインヘリアの魔法分類は大雑把というか、妙に偏りがある。


 火水土風雷氷光闇聖幻の十属性に分類されるが、聖と幻以外は各属性に五種類しか魔法が存在せず、効果も似たようなものばかり。


 それらがシンプルな代わりに、それ以外の全てを幻と聖の二属性に詰め込んだようなエインヘリアの魔法分類だが……基本的に戦闘向きの魔法しか存在しないのではないかというくらい攻撃魔法に偏っている。


 今回の『ストーン』も基本的に敵対相手に掛けるようなものらしいが……一応聖属性の魔法で解除することはできるとのこと。


 まぁ、解除する前に先程のように砕いてしまったらもう元には戻せないそうだが。


 物騒な魔法だ。


 カミラの説明を聞きながらそんな感想を抱いていると、一人の人物が私たちの所へと近づいてきた。


「カミラ、来たよ」


「あらぁ、ノーフェイス。早かったわねぇ」


「あれ?時間通りだと思ったけど……」


 フードを目深にかぶり、口元だけ穏やかな笑みを浮かべている人物……確か外交官のノーフェイスだったな。


 フェルズの部下の一人で、他国との交渉等の仕事に従事しており、殆ど城に居ない為一度挨拶の時に会ったことがあるくらいだ。


「アシェラート殿も御無沙汰しております」


「久しぶりだな。以前は挨拶くらいしか出来なかったが、こうして話ができることを嬉しく思う」


 私がそう返すと、口元に穏やかな笑みをたたえたままノーフェイスが軽く頭を下げてから椅子に座る。


「それで、カミラ。僕に頼みがあるってことだったけど、何かな?」


「頼み?ノーフェイス殿は魔法が得意なのか?」


 ここに呼んだということは、魔法開発を手伝って貰うということだろうが……。


「ノーフェイスの魔法はぁ、私が使えるものしかないわよぉ」


「僕は外交官だからね。それで、そんな僕が何を手伝えるのかな?」


「アシェラート……ノーフェイスはねぇ、変装が得意なのよぉ」


 ノーフェイスには答えず、カミラは私の方を向いてそんなことを言う。


「変装?服を変えたり化粧をしたりするやつか?」


「他にも色々するけど、概ねそんな感じだね」


 カミラの言葉に私は首……がないので体を傾けると、穏やかな雰囲気でノーフェイスが頷く。


「ノーフェイスの変装はねぇ、誰にも見破ることができないレベルなのよぉ。フェルズ様ですら見破れないって言ってたわぁ」


「そ、それは凄まじいな」


 あのフェルズが見破ることができない……それは本当に変装といっていいのか?


 そんなことを思うと同時に、カミラが何故ノーフェイスを呼んだのか理解する。


「見た目だけじゃなくって中身まで完璧に化けるのよぉ」


「あはは、さすがにフェルズ様にはバレるよ」


 そう言って首を横に振るノーフェイス。


 謙遜ではなく、心の底からそう思っているように感じられるが……フェルズもあまり自分を大きく見せようとしたりはしないからな。


 恐らく、フェルズでも見破ることができないというのは本当なのだろう。


「アレはもう魔法と言っていいと思うの」


 カミラが目をギラギラさせながらそう口にすた。


「いや、魔法じゃないよ?」


 苦笑を口元に称えつつ、首を横に振るノーフェイス。


「でも貴方はぁ、身長も体格も性別も年齢も自由自在でしょぉ?全身が変化しているとしか思えないのよねぇ」


「それはまぁ……頑張ってるからね」


「どうやって変化させてるのよぉ」


「企業秘密だよ」


 詰め寄るカミラと、朗らかに拒絶するノーフェイス。


 その様子を見てなんとなくわかったが、このやりとりは初めてではないのだろう。


 ノーフェイスの持つ変装能力を解明したいカミラと、その種を明かす気のないノーフェイス。


 それでいて険悪な雰囲気がないのは……ノーフェイスの朗らかさ故だろう。


 そして、カミラがこの場にノーフェイスを呼んだのは私が居るからか。


 二人がかりで詰めよう……カミラはそう言っているのだろう。


 しかし……。


「貴方の変装は幻じゃなくて、ちゃんと実体があるでしょぅ?しかも老若男女問わず化けられるしぃ……本当に魔法じゃないのかしらぁ?」


「ほんとに魔法じゃないよ」


 取り付く島もないといった様子で否定するノーフェイスに、カミラは食い下がる。


「じゃぁ、その技術を研究させてくれないかしらぁ?魔法でそれを再現したいのよぉ」


「うーん、僕の技術はあくまで変装だよ?例えば、人であれば変装で誰にでもなれる自信はあるけど、例えばハーピーみたいに腕を羽にして飛んだりはできないし、アシェラート殿の姿にも当然なれない。でもカミラがやりたいのはそういったレベルでしょ?」


「それはそうだけどぉ……」


「勿論、手伝ってあげられるものなら手伝ってあげたいけど、僕もフェルズ様に命じられて向こうの大陸で結構やることがあってね。あまり時間はとれないんだよ」


 これは、もう無理だな。


 フェルズの名を出された以上、カミラは引き下がるしかない……というか食い下がることすら思いつかないだろう。


「フェルズ様にぃ?じゃぁ仕方ないわねぇ、今回は諦めるとするわぁ。でもぉ、向こうの大陸ってぇ、切羽詰まってたかしらぁ?」


「ふふっ……向こうの大陸は大丈夫だよ。でも、フェルズ様の目はもう次に向いている……そうでしょう?」


 首を傾げるカミラに、ノーフェイスは楽しそうな雰囲気を見せながら言う。


 その言葉に納得したのか、カミラも目を細めながら頷く。


「あぁ、そういうことねぇ。外交官見習いの子たちに向こうの大陸は任せるってところかしらぁ?」


「うん。クーガーとシャイナもその方向で進めてるよ。まぁ、元オロ神聖国の併合があるから、誰かしらは向こうに残ることになると思うけど……」


 すっかり変身の魔法のことは忘れてしまった様子のカミラと、そうなるように誘導したノーフェイス。


 まぁ、フェルズの名前が出た時点でこうなることはわかっていたが……カミラは少し騙されやすいのかもしれないな。


 私は、砕けた石像の破片を一か所に集めながら、二人の語る今後のエインヘリアの展望に耳を傾けた。



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