表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
900/902

第262話 帝都にて



View of フィリア=フィンブル=スラージアン スラージアン帝国皇帝






「……」


「フィリア?」


「……」


「フィリア!」


「な、なに!?」


 突然耳元で大声を出された私は、椅子から転がり落ちんばかりに驚く。


「ラヴェルナ!何するのよ!」


「貴女がいつまで経ってもぼーっとして動かないからでしょ?」


「……そんなにぼーっとしてたかしら?」


 時計に目を向けるけど……そもそもいつ頃からこうしていたのかわからない。


 というか、すっかり時計を見て時間を確認する癖がついたわね。


 これもエインヘリアの影響だけど……。


「……はぁ」


「……また溜め息ついてるわよ」


「う……」


 駄目だ……ため息が癖になっているというか、意識せずについちゃってる。


 原因はわかっているけど、それを取り除くのは……。


「貴方がそんなに仕事が手につかなくなるなんてね」


「……いつの間にこんなに書類が?」


「今日一日かけてかしら?」


 い、一日呆けたってこと!?


 思わず窓の外に目を向けて……ま、まだ日が暮れる前みたいね。


 少しだけほっとしながらラヴェルナの方に視線を戻すと、呆れたような表情で私のことを見ていた。


「今日は特にひどいわね。いつもはぎりぎり手は動いていたんだけど、今日はそれも無かったし」


「うぅ、サインした書類の内容を全然覚えてないわ……」


「ちゃんと私もチェックしているし、変なのにサインしようとしていたら止めているわよ」


「だとしても、はぁ……」


 また大きくため息をついた私は、山積みになっている書類を手に取り内容を確認する。


「……この数年で書類の内容も随分変わったわね」


 一番上にあった書類。


 アプルソン子爵領で作られているエインヘリア産の果物増産の嘆願……これは本当に何回却下したか覚えてないわね。


「いい加減、無理だって理解してくれないかしら?」


「まぁ、少しでも望みがあるならってことよね。提案者として土地を貸して、最終的には種や栽培方法を盗んで……まぁ、誰でも考えることでしょうけど」


「流石にエインヘリアが絡んでいることは理解しているでしょうに……」


 エインヘリアのことを探るということ自体、国の方針に逆らうということ。


 まぁ、この提案自体はここ数年ずっと続いているものだし、今更目くじら立てる程の内容ではないのだけど……。


「とりあえず、この子爵はリスト入りね」


 私はこの提案を上げて来た子爵を監視リストに入れるようにラヴェルナに伝える。


 ラヴェルナは肩を竦めながら頷き、手元の紙に子爵の名前を書き込む。


 さすがに陳情して来た貴族を監視リストに入れるのもどうかと思うけど、エインヘリア関係は慎重に動いておかないと一手間違えただけでとんでもないことになりかねない。


「反エインヘリア感情は中々治まらないわね」


 私がぼやくように言うと、ラヴェルナがため息をつきながら肩を竦めて……私だけがため息ばかりって訳でもなさそうね。


「寧ろ強くなっているわね。まぁ、エインヘリアの繁栄ぶりを見ていればそういう気持ちになるのも無理はないのでしょうけど」


「隣の国がどんどん裕福になっているのに自分達は現状維持。鬱屈とする気持ちはわかるけど、それ以上に危機感を覚えて欲しいところね」


「危機感を覚えて暴走するよりはマシよ」


 それは確かにそうね。


 まぁ、そうさせないために怪しい連中は監視しているのだけど。


「上層部は基本的に親エインヘリア派だけど、やっぱり地方の連中は中々ね……」


「魔力収集装置のお陰で地方も随分風通しが良くなったけど、それでもまだ彼らの権力を削れてはいないし……」


「かといって、理由もなしに取り潰しにするわけにもいかないわよ?」


 そうよねぇ……でも、今後のことを考えても、地方の力はもっと削っておいた方がいいのだけど。


 大陸統一……エインヘリアに併合されるということは、最終的に貴族を廃する必要がある訳だし……。


「……やっぱりこうやって会話をしておけば、エインヘリアの話をしても大丈夫そうね」


「何か言った?」


 私が少し考え込んでいると、ラヴェルナが何か言った気がしたのだけど、ラヴェルナは首を横に振る。


「いえ、それよりも……他の書類を処理してしまいましょう?」


「そうね……さぼってしまった分を取り返さないと」


 苦笑するラヴェルナに若干申し訳なさを覚えつつ、私は書類の山を片付けにかかった。


 書類を手に取り、目を通す。


 問題が無ければサインを入れて、ダメなら否決書類の箱に……暫くそんな風に作業を続けていると、隣の部屋に続く扉がノックされる。


「陛下、宜しいでしょうか?」


「どうした?」


 部屋に入ってきたのは秘書官の一人……書類を手にしていないってことは、何か伝達事項があるって事ね。


 扉の近くでラヴェルナが対応してくれているから、私はその間に一つでも書類の処理を進めておく。


 暫くして、扉の締まる音が聞こえたので私が顔を上げると、思案するような顔のラヴェルナが机の前に立っていた。


「何か厄介事?」


「……いえ、そういうわけじゃないわ」


 ラヴェルナはそう口にしながらも、若干表情が硬い気がする。


「ちょっと怖いんだけど?」


 眉を顰めながら私が言うと、ラヴェルナが首を横に振る。


「いえ、ごめんなさい。急ぎの要件ってわけじゃないわ。先に書類を片付けましょう?」


「……了解」


 正直、物凄く気になるんだけど……ラヴェルナが先にこっちを処理した方がいいって判断ならそれに従った方が良いだろう。


 私はこの話を頭から消し、再び書類仕事に没頭する。


 暫くそうやって書類仕事に集中していたのだけど……妙にラヴェルナがそわそわしていることに気付いた。


「ラヴェルナ?」


「えっと……ごめんなさい。今度はちょっと私の方が集中できなくなったみたい」


「……さっきの件よね?大丈夫なの?」


「えぇ、大丈夫よ。書類は……あと少しね。がんばりましょう」


 どう見ても、気もそぞろって感じだけど……ラヴェルナが大丈夫って言っているし、信じるしかない。


 今は少しでも早く書類を処理することに専念しよう。


 私は素早く手を動かし、ラヴェルナも少し苦戦しながらも書類に向き合う。


 書類の山は順調に姿を消していき……途中で追加された書類も含め、全ての書類の処理が終わった。


 窓の外に目を向けるとすっかり日は暮れてしまっている……時計は……日付がそろそろ変わりそうね。


「ふぅ……なんとか終わったわね」


「え、えぇ」


「それで……そろそろ聞かせて貰えるかしら?」


「えぇ、勿論よ。エインヘリアから……いえ、エインヘリア王陛下から、貴女に会いたいと要請があったわ」


「え゛……」


 ラヴェルナの言葉を聞いた瞬間、心臓がキュッとなった気がした。


「きっとこれを聞いたら仕事が手につかなくと思ったから後に回したんだけど……あぁ、もう聞こえてないわね」


「ど、ど、ど、どどどど……」


「とりあえず……可能な限り早くあった方が良さそうね。今日……はさすがにもう遅いから、明日の夜に時間を取りましょう。エインヘリア王陛下からはいつでも構わないと聞いているし、向こうも可能な限り早い方がいいでしょうしね」


「あばばばばばばばば……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ