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第260話 日日是好日



「輸出入、特にランティクス帝国との取引は慎重にな」


「ふふふ~お任せください~」


 改めて念押しするまでもないと思うけど、一応イルミットに向けて言っておく。


 小煩いと思われないといいなぁ。


「では、向こうの大陸および魔王国との経済的な折衝は引き続きイルミットに一任するとして、ヒエーレッソ王国への援軍についてサリア、お願いします」


「ヒエーレッソ王国西側の森における魔物の討伐はほぼ完了しているであります!森沿いの砦や集落に魔力収集装置を設置したおかげか、魔物の出現回数も激減。最激戦区と呼ばれた砦付近の森でも、二日に一度魔物を見かけるかどうかといった感じであります!」


「順調ですね。ですが、ヒエーレッソ王国への援軍派遣は一年の約束ですし、暇を持て余すかもしれませんが引き続きよろしくお願いします」


「了解であります!」


 元々は魔物への対応と毎年侵攻してくる魔王国へ対抗するための援軍だったけど、魔王国が今年攻めてくることはもうないしな……。


 魔王国はランティクス帝国にかなりの賠償をするつもりらしく、ヒエーレッソ王国にも近い内に使節団を送るらしい。


 まぁ、あそこの王様とかなら穏やかに交渉できるだろうし、問題になる事は無いだろうね。


「次に、旧オロ神聖国について……ウルル、お願いします」


「……現在……オロ神教の信徒が……暴動を起こしてる……」


 ぼ、暴動?


「狙いは……教会関係者……」


 あぁ、そっちに対してか……エインヘリアに対してかと思った。


「予定通りですね。彼らにはそのまま教会関係を焼き尽くして貰いましょう。我々は今まで通り食糧支援と怪我や病気の治療を続けます。エイシャ、そちらで問題はありますか?」


「特にありません。オロ神教に対する不信は信徒や民の間でかなり表に出ていましたし、逆に我々への感謝や依存は相当高まっています。このまま教会関係が排除されてしまえば、我々の統治をすんなりと受け入れるかと」


 エイシャが小さく笑みを浮かべながら淡々と言う。


 草の根活動という程地味なものではないけど、エインヘリアの支持率は順調に上がっていってるようだ。


「彼らにとって心の拠り所に裏切られた訳ですからね……気の毒ではありますが、我々が真の救いというものを見せて差し上げましょう」


 とても可愛らしい姿でエイシャは言うけど……俺は若干背筋がぞくっとしましたぞ?


 ま、まぁ、何にしてもエインヘリアの宣伝活動はばっちりみたいだね。


 オロ神教の匂いを完全に消してからの併呑……キリクたちが最初から狙っていた通りだね。


 ことが起こる時期までばっちりなのは恐ろし……頼もしい限りだけど、これで扇動していないというのだから、ほんとどんな風に計画したらここまで思い通りにことが進むのか。


 覇王にもその手法、教えて欲しい限りだ。


「そちらは引き続きエイシャに任せます。取り逃しが無いようにだけ注意しておいてください」


「お任せください」


 エイシャがキリクの言葉ににっこりと微笑みながら頷く。


 見た目は糸目幼女だけど……凄味が半端ないな。


「他国に関しては以上になります。次に国内についてですが……」


 そう言いながら眼鏡をクイっとしたキリクが国内の報告を纏めて行う。


 といっても国内では特に問題は起きていない。


 我がエインヘリアはとっても順調なようだね。


 食料も水も国の隅々まで行き渡っているし、各種公共事業による仕事の斡旋も順調。


 道路の敷設や治水、橋の建設等の大規模工事から街の清掃等の軽作業まで、幅広い仕事を揃えていたのは以前からだけど、最近は林業や石切りの職人見習いなんかも募集したりしている。


 林業は木を切って加工するだけじゃなく植林や間伐なんかも行い、森や山の保全、そして土砂災害への予防とかにも力を入れ始めた。


 そして第一次産業だけではなく、色々な職人の育成にも力を入れている。


 因みに今人気なのは魔道具技師と家具職人、ガラス職人……後は大工だろうか?

 

 それらは今非常に需要が高くて需要に供給が追い付いていないからね……必然的にこれらの職人はめっちゃ儲かっている。


 まぁ、同時に凄まじい仕事量に押しつぶされそうにもなっているけどね。


 だからこそ、職人育成に国主導で力を入れた訳だ。


 勿論育成に力を入れているのは職人だけじゃない。


 学者や研究者は以前からスティンプラーフ地方に作った学研都市で育てているし、医療従事者も各治療院に派遣する為に育てている。


 未来への投資は大事だからね。


「国内については以上となりますが、フェルズ様。一つ民より請願が上がっております」


「ほう?珍しいな」


 陳情じゃなくって請願か……どちらもうちの国では認めていることだけど、今までそういったものが上がってきたことは無かったし、珍しいというか初めてのことだ。


 何か至らぬことがあったかと、ちょっとドキドキする。


「請願者はエルディオン地方の民。紹介者は元エルディオンの貴族で現在はエルディオン地方で代官の職に就いているものです」


 紹介者も請願者もエルディオン地方出身ってことは、十中八九魔法関係の話だな。


「内容は、エルディオン地方に魔法専門の研究施設、および育成機関を作って欲しいとのことです」


「ふむ……」


 研究施設と専門の育成機関か……それ自体は問題ないけど、エルディオン地方にか……。


「従来、魔法の研究や行使においてエルディオン地方に一日の長があり、この地にはそのノウハウがある。故に公的な機関をこの地に置けば、必ずやエインヘリアの未来に寄与するものと考えられる……とのことです」


「以前であれば一日の長があるという言は間違いなかったが、今となってはわざわざエルディオンに研究機関を作る必要性はないな。育成機関というか、専門性のある学校は各地方に作ってもいいと思うがな」


 学校自体は各地方に作っているけど、教師が足りないんだよな。


 学者さんは……自分の研究に没頭する人が多くて後進を育てたいって人が少ないんだよね。


 今後、学校で勉強している子たちが成長すれば、学校の先生を目指す人も増えそうだけど、現時点ではあまり人気のある職とは言い難い。


 勉強をする事でもっと稼げる職があるからなぁ……。


 特に公務員というか……文官系の仕事は、先程上げた職人よりも遥かに人気の職だ。


 高給取りで福利厚生もばっちり。


 休暇もしっかりあるし、残業も基本的にはない……まぁ、残業に関しては他の職業でも滅多にないけどね。


 夜の明かりが今までそれなりに貴重だったから、日が暮れる前に仕事が終わるのが普通だ。まぁ、明かりに関しては今ではそこまで貴重ではないけど、まだ仕事を夜遅くまでって感覚自体が民の間にはない。


「ではそのように取り計らいます」


「それと、紹介者と請願者の二人と話がしたいが……俺が出ると咎めているように思われるかもしれないな」


 正直、そういった要望を出してくれる存在はありがたい。


 感謝を告げると共に要望を受け入れられない理由を説明したいのだけど……それを俺がやっちゃうと一般人はおろか、代官であっても畏縮しちゃうよなぁ。


 下手をすると二度と陳情や請願を行わないって事にもなりかねない。


 しかし、絶対王政とも言える我が国でそういう意見を言えるというのは非常に貴重な人材だ。


 是非登用したい。


「よろしければ私が対応いたしますが?」


 キリクがそういうけど……正直キリクが出ても俺と同じくらい相手は委縮してしまうだろう。


 うちの子でそういうのが上手いのはシャイナだけど……彼女は向こうの大陸関係で忙しいしな。


 となると……。


「キリクは既に色々任せているしな……ルートリンデに任せてみたいのだが、どうだ?」


 リーンフェリアの姉であるルートリンデは元学芸員という経歴で内政関係に特化させた能力にしてある。その反面、戦闘方面はさっぱりだけどね。


 しかし戦闘力を削ったお陰か設定のお陰かわからないけど、穏やかで人当たりがいいのでこういった時に前に出るには非常に適した人材といえる。


「彼女ですか……」


「ずっとキリクやイルミットの補佐をしてくれているが、そろそろ単独で仕事を任せてもいいのではないか?」


「確かに彼女は優秀ですし、今回の件には適任ですね。わかりました、彼女に任せるとしましょう」


 キリクの言葉に、イルミットも穏やかに頷いている。


 リーンフェリアと同じで物凄く真面目な彼女であれば問題なく対応してくれるだろう……でも一応俺の意向は直接伝えておいた方がいいよね。


「では、後でルートリンデに執務室に来るように伝えておいてくれ。打ち合わせをしておきたい」


「畏まりました」


 それと、ルートリンデは戦闘能力がないから護衛が必要だな。


 そちらも手配しておこう……プレアなんて丁度いいかもしれないな。


 あとでリーンフェリアに相談してみよう。


 今日の会議はこんなところか……自国、周辺国共に順調って感じだね。


 こちらの大陸も向こうの大陸も、そして魔王国も一息ついた。


 となると……すっかり後回しにしていた話をそろそろ進めないとな。



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― 新着の感想 ―
大陸を跨いで侵略して来た国のことをすっかり忘れてました
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