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第257話 覇王のお休み



「つかれた……」


 自室のソファにぐったりとしながら身を沈ませると、ルミナが膝の上にぴょんと飛び乗り体をこすりつけてくる。


 そんなルミナをわしゃわしゃとやや強めに撫でていると、珍しくフィオが俺の対面ではなく隣に座ってきた。


「お疲れ様じゃな」


「あぁ」


「……災厄とは、それほど強敵だったのかの?」


「……災厄?あぁ、そっちは特に問題なかった。いや、かなり強かったか。少なくともこの世界で見た誰よりも強かった」


 うん。


 それは間違いない。


 しかし、災厄との戦闘が疲れる程のものだったかと言われると……そうでもなかった。


 まぁ訓練と違って命のかかった実戦だったから多少気疲れはしたけど、体力的な疲労という意味で言えばジョウセンたちとの訓練の方がよっぽど疲れる。


「だが、俺が疲れたのはその後でな」


「……魔王国でなんぞあったのかの?」


「凱旋パレードだ会食だとな……あぁいうのはホントに慣れん」


「あぁ、そういう……」


 そういってフィオは苦笑するが、長時間の覇王ムーブは非常に精神力を消耗するのだ。


 特に今回はそのイベントの前から数日に渡って魔王と差しで話をしたり、その前は出陣式だかなんだかに参加させられたりと精神力をごりごり削られた状態でのそれだ。


 俺がいつも以上にぐったりするのも無理はないだろう。


「まぁ、うちであまりそういうことはやっとらんし、慣れるも何もなかろう?」


「そうなんだがな……」


「慣れたいのであれば、主催するなりなんなりすればよいのではないかの?」


 ……そこまでして慣れたいわけじゃないしなぁ。


 しかし、そんな内心を見透かしたようにフィオがニヤニヤしながら言葉を続ける。


「今後も間違いなくそういった式典や付き合いは避けられんじゃろう?お主が公式に属国や他国に行けば、確実にそういった式典が行われるじゃろうしな」


「むぅ」


 確かにその通りなんだけど……。


「……今は……」


「仕方のない奴じゃ」


 ぐったりしている俺に微笑みかけながら、隣に座るフィオがグイッと自分の方に俺を引き寄せる。


 その動きに抗うことはせず俺は体を捻りながら倒し……フィオの膝の上に頭を乗せる。


 膝の上に居たルミナは俺の胸の上に移動して俺の顎を舐め始め、俺はそんなルミナの頭をゆっくり撫でた。


 いつもなら気持ちよさそうに目を細めるんだけど、今のルミナはぺろぺろを始めたばかり……既に俺の顎に夢中で撫でられてもあまり気にしていない様子だ。


 そんな俺たちを見ながらフィオがゆっくりと俺の頭を撫でる。


 フィオの太ももと手に挟まれて大変気持ち良いですが……あぁ、ルミナが顎を凄い勢いで舐めて無かったら寝てたかもな。


「災厄は……なんかスライムみたいだったな」


 この状況に相応しい話じゃない気もするけど……フィオは結構災厄を気にしていたからな。


 報告って訳じゃないけど、軽くこんな感じだったくらいの話をするくらいはいいだろう。


「スライムか……お主の記憶の中でしか知らんが、色々と吸収したり形を変えたりしておったのかの?」


「あぁ、最初は銀色の枯れ木の姿で現れてな……まぁ、滅茶苦茶デカかったが」


「ほう」


 うちの城よりは小さかったけど、下手な城より高さはあったと思う。


「その次になったのは、盾を持ったマネキンみたいな人型だな。サイズも一気に俺たちと同じくらいまで縮んだ」


「ふむ……それは中々興味深いのう」


「更にリーンフェリアの盾捌きを模倣していたな。完璧とは言えなかったが、悪くない動きをしていたように見えた」


「リーンフェリアの模倣か……それはまた厄介な話じゃのう」


 厄介と口では言っているけど、目が……輝いてるな。


「手加減したものだが、シュヴァルツの撃った矢を弾いたり、カミラの魔法を吸収したりしていたぞ」


「シュヴァルツの矢はともかく、カミラの魔法を吸収したというのは……こちらの予想していた通りの生態ということじゃな」


「魔法を……魔力を吸収ということだな。そういえば、リーンフェリアが革袋と魔道具の箱に災厄の一部を回収していたが、革袋の中身は消えていたようだぞ?」


「ふむ……その可能性は考えておったが、やはり面白い生態じゃな」


 俺の頭を撫でていた手が止まり、フィオが上を見上げ……俺の位置からは素敵な胸部装甲に阻まれ顔が見えなくなる。


 素晴らしい……ずっと見ていられる……ゆっさゆっさ……。


 そんな目の保養をしていたところ、顎を舐めていたルミナがどんどん上に登り、身を乗り出し俺の鼻……いや、おでこを舐め始めた。


 当然俺の視界はルミナのお腹に塞がれて真っ暗に……桃源郷はもう見えない。


「他の姿にもなったのかの?」


 俺の頭を撫でる手が再び動き出したけど、俺にはルミナのお腹しか見えないし、おでこを舐められる感覚が強すぎて先程までのようにフィオの手や太ももの感触に集中できない。


「……」


 っていうか喋れない。


「ん?おぉ、ルミナ。そんなところに居ったのかの?」


 俺の顔にへばりついているルミナに気付いたらしいフィオの声が聞こえる。


 そしてルミナの体が持ち上げられ……いや、ルミナがしがみつくように俺の顔を前足で挟み込み抵抗しているな。


 若干爪を立てられて痛い。


「む……まぁ、数日留守にしていたし、ルミナも寂しかったということじゃな。観念してそのまま舐められておるのじゃな」


「……」


 完全に口が塞がれてて話もできないんじゃが?


 そう口にしようにも、ルミナが顔にへばりついていて何も言えない。


 しかし、フィオの言う通り俺が数日こちらに居なかったことも事実……ルミナが全力で俺にくっつきたがるのも仕方がないことだろう。


 そのことに不満はない……というか嬉しい限りだけど、フィオと話が出来ないのはちょっと困る。


「ふふっ……まぁ、話は今度でも良いのじゃ。お主が疲れていることには変わりないのじゃからな」


 これって疲れとれるかな?


 そんな風に思ったけど、フィオの膝枕とルミナのもふもふに挟まれていると、微妙に眠くなってきた。


 相変わらずおでこを舐められているけど、あまり気にならなくなってきて……。


「……いつもすまんのぅ」


 そんなフィオの声が聞こえたような気がしたけど、体も瞼も重く……そのまま俺はまどろみに沈んでいった。



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― 新着の感想 ―
ルミナちゃん本当に生き物としては何なんでしょうね?可愛いですが
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