第251話 銀と黒
放たれたビームは一瞬で闇の壁に突き刺さり……その場で消滅する。
同時に宙に浮いていた俺の足が地面につき、俺は思いっきり横に飛ぶ。
念の為の回避行動だったけど、ビームは完全に『ダークネスウォール』に阻まれたようだ。
糸の網は闇の壁を貫けず、放たれたビームも同じく闇にかき消された。
あっぶねぇ……。
一瞬ひやりとはしたけど、俺の身体はしっかりと動いていた。
横っ飛びの着地と同時に次の動きへの準備が完了している。
放つはスキル。
液体金属っぽい雰囲気の災厄に、剣がどの程度効くかわからないけど……そんな迷いを振り払うように、俺は横薙ぎの一撃を放つ。
『ワイドスラッシュ』。
遠距離攻撃スキルではなく範囲攻撃スキルだけど、災厄の巨体を斬るのであれば遠距離攻撃スキルよりもこちらの方がいい。
範囲を攻撃する遠距離攻撃みたいなもんだしね。
魔法と違ってスキルを使えば体力が減るけど、覇王剣ヴェルディアは攻撃をすれば体力が回復する……実質無料でスキル使いたい放題だ。
そんな事を考えながら俺は覇王剣を振り抜き、手ごたえを全く感じずに巨大な銀玉を真っ二つにする。
まぁ、覇王剣で攻撃して豆腐以上の手ごたえを感じたことなんて、今まで一度もないけどね……。
それでもコイツの手ごたえの無さは、覇王剣の性能が凄まじいからというだけではないのだろう。
巨大な銀玉は真っ二つになったものの、一秒と掛からずに互いに触手のようなものを伸ばし合いくっついてしまった。
斬れるけど倒せなさそうだな……。
ジョウセンなら再生させずに斬れるかもしれないけど、俺はジョウセンみたいな剣の極み……みたいな存在じゃないからね。
俺はいつも圧倒的な身体スペックで圧殺して来ただけ。
言うなればフルアーマー・ゴリラ・ゴリラ・ゴリラだ
技術的だけでやり合えば、多分エリアス君にも勝てないだろう。
ただどうしても筋力……体幹や敏捷力、そして何より目の良さといったスペックが努力の結晶をあっさりと凌駕してしまうのだ。
まぁ、同程度の身体能力を持つジョウセンたち相手だと、もろに技術差が出ちゃうんだけどね。
しかし、ジョウセンならともかく俺が剣でコイツを倒すのは無理そうだ。
でもまぁ、さっきのを見る限り闇系の魔法ならワンチャン行けそうな気がする。
威力的にはカミラの雷の矢の方が上だと思うけど、闇が効きやすいとか?
まぁ、闇で攻撃ってなんやねんって感じではあるけどね。
光は熱線とかで何となく分かるけど、闇って……いや、まぁ火の塊とかも意味分からんけど……っていかん、滅茶苦茶どうでもいいこと考えてるな。
集中しろ……とりあえず、闇のエリア系か属性専用魔法でもぶっぱなすか?
うん、エリアは少し貯めがいるからとりあえず属性専用だな。
先程まで糸やら網やらビームやらで攻撃を仕掛けて来ていた銀玉だけど、俺に真っ二つにされて以降、不気味な沈黙を保っている。
今のうちに魔法を叩き込んでやろう。
そう判断した俺は災厄に向けて手を伸ばす。
闇の属性専用魔法……そういえば、よくゲームとかで闇属性魔法上位のほうにブラックホールとかって魔法がよくあるよね。
あれ見るといつも思うんだけど……ヤバすぎひん?
ブラックホールを魔法の一発で発生させるって……しかも地上で。
アレは別に穴じゃなくって、とんでもなくデカい星が爆発した後とかに出来るヤツとかでしょ?
そんな魔法撃ったら絶対その世界とんでもないことになるよね?
にも拘らずぽんぽんぽんぽん気軽に撃ちおってからに……。
とか、しょうもないことを考えつつ俺は闇の属性専用魔法『崩界』を放つ。
……ブラックホールについてあれこれ言ったけどさ、この魔法の名前も大概だよね。
シュヴァルツとか絶対この魔法好きだと思う……いや、属性専用魔法は全部漢字の名前だし、シュヴァルツは全部好きか。
それはさておき……魔法を発動させた瞬間、バキっと何かが砕けるような辺りに音が鳴り響き、次いで螺旋を描きながら闇が銀玉の中心に収束していく。
エリア系魔法に比べれば小さなそれは、確実に銀玉の巨大な体を削り取っていく。
……えぐい魔法だ。
効果を受けているのが無機物っぽい銀玉だから気にならないけど、これが人体だったら……いや、人体に限らず生物相手だったら、それはもう物凄いグロい事になるに違いない。
ゴア耐性ないのでそういうのはほんと勘弁。
って感じでここまで出番がなかった闇の属性専用魔法だけど、無機物系相手ならいける!
しかも、思った通り効果は絶大だね。
俺の視線の先で、闇の螺旋に削り取られるように縮んでいく銀玉。
だが、ただでは消えぬとばかりに先程上げた言葉にしづらい雄叫びを上げる。
「俺の相対している災厄が先程と同様に爆発する予兆を見せた!注意しろ!」
俺は『鷹の声』を使い三人に注意を促す。
いつの間にか三人のいる位置からかなり離れているし、これだけ距離があれば防御手段に乏しいシュヴァルツでも大丈夫だとは思うけど、一声かけておかなければ万が一があり得る。
俺が注意の言葉を終えると同時に銀玉から激しい光が……広がることはなく、闇の螺旋にどんどん飲みこまれていく。
一瞬、爆発的に広がる圧のようなものを感じたのだけど……爆発そのものを『崩界』が飲みこんだということだろうか?
皆に爆発しちゃうって連絡しちゃったんだけど……しなかったな。
いや、爆発しないに越したことはないんだけどさ。
そんな風に何とも言えない気分になっていると、魔法の効果が終わる頃合いになったようだ。
螺旋を描きながら収束していった闇が球体となり、次の瞬間急激に広がり闇が爆発する。
当然、銀玉を飲みこんで。
大爆発ってほどではないけど、確実に中心となった銀玉には致命的な一撃となっただろう。
というか、この魔法は並みの相手なら最初のひび割れるような音の時点でお終いだ。
『崩界』の最終段階まで耐えるどころか、攻撃しようとしていたからね。
やっぱり災厄は一筋縄ではいかない相手って感じだ。
何より……最後の爆発を喰らって、まだ生きてるもんね。
俺は一回りどころか十分の一以下のサイズになった銀玉を見上げる。
属性専用魔法は確かに効いていたのに、倒しきることが出来なかった。
手加減していたとはいえ、カミラの魔法を喰らっても生き残っていたのは伊達じゃないって事か。
しかし、手のひらサイズとはいわないけどまだ普通の人くらいのサイズはある……バンガゴンガよりは二回りくらい小さそうだ。
頭ではそんな感想を考えつつも、俺の体は即座にエリアスラッシュを二連発……銀玉を四分割に切り裂く。
そして続けざまにもう一度『崩界』を放つ。
エリア系魔法と違って、RPGモード用の魔法は殆どノータイムで連射できる。
まぁ、殆どであって完全にノータイムではない。
だから間にスキルを挟んだわけだ。
スキルの方が連射が効くしね。
今まで魔法やスキルを連射するような戦闘はうちの子たちとの模擬戦くらいしかなかったけど……このコンボは予習済みだ。
四分割された状態での『崩界』。
その一撃は、さすがの災厄も耐えきれるものではなかったらしい。
最初に鳴り響く、世界が割れたような音。
この時点で災厄は粉々に砕け散り、闇の螺旋に呑まれて消えていった。
これで四分の一は倒したか……。
そう思いながら周囲を見渡すと……既に、どこにも銀玉は浮いていなかった。




