第250話 第三形態
爆ぜた地面から凄い勢いで銀色のごん太触手が飛び出してくる。
無数の触手を飛び退いて躱し……いや、地面が爆発した時点で避けていたんだけど、とにかく俺たちは思い思いの方向に飛び退き、全員が無事だ。
しかし、お互いの無事を確認し合う暇もなく、次々と凄い勢いで銀色の巨大な触手が飛び出して来て、俺たちは回避を余儀なくされる。
「ちっ!」
俺は舌打ちをしながら次々と飛び出してくる触手を後ろに下がって躱し、更に振り下ろされる触手を横っ飛びで躱す。
まずいな……リーンフェリアたちとどんどん離れていく。
いや、強引に合流することは不可能じゃない……突き上げ、振り下ろし、袈裟懸け、横薙ぎ……前後左右に上下を加え、立体的に仕掛けてくる攻撃を、全て覇王剣で切り払ってしまえばどうということもないんだけど……。
そんな事を考えていると地面から飛び出してくる触手が無くなり、突き出た触手が寄り集まってなんかうねうねうごうごと集合体を成していく。
ちょっとどころではなく、めちゃくちゃ気持ち悪い。
まぁ、そんな気持ちの悪い姿も一瞬で姿を消し、寄り集まった触手は一つの球体となって空に浮かんだ。
いや、一つじゃないか、少し離れた位置にも三個……バカでかい球体が浮かんでいる。
恐らく、リーンフェリアたちのところにも一個ずつ球体が浮かんでいるということだろうね。
マネキンの時は俺のこと無視してた感じなのに、今度はしっかり俺もターゲットになっているようだ。
しかし……銀色の巨大な球。
……どうやって宙に浮いとんの?
って一瞬思ったけど、よく考えたらドラゴンはあの巨体で普通に飛ぶし、アシェラートも翅すらないのに飛ぶし……なんだったらバンガゴンガだってちょっと浮いた。
うん、よく考えたら空を飛ぶくらい珍しくないな。
そんな風に納得出来たものの……どうしたもんかね。
災厄は二匹って話だったけど、既に二匹どころじゃないくらいに分裂してるんだけど……これって一匹ってカウントしていいのか?
ってか、こっちとジョウセンのところの災厄を倒したとして、本当に災厄を全部倒せたか微妙じゃない?
そんな気もするけど……まぁ、その辺は魔王国の問題だし、魔王と『夢見の識者殿』に任せていいだろう。
とりあえず……この銀玉を処理するか。
そう結論付けた俺は覇王剣ヴェルディアを抜きながら『鷹の声』を起動する。
「全員問題ないか?」
『はっ!問題ありません』
『大丈夫よぉ』
『我が深淵に斯様な獣が触れることはできんよ』
シュヴァルツはよくわからんけど、リーンフェリア達は問題無さそうだね。
シュヴァルツも……まぁ、間違いなく余裕だろう。
最初に災厄の再出現に気付いたのはシュヴァルツだったしね。
「ならば、各々の……」
目の前にいる災厄は任せる。
そう口にしようとした瞬間、銀玉がチカっと明転……咄嗟に俺が横に飛び退くと、凄まじい光の奔流が先程まで俺の立っていた場所を削り取り、さらに遥か先まで地面を抉る。
……これは、さすがに直撃したら俺たちでもヤバいんじゃない?
これ程の高火力の攻撃を受けたこと無いから分からないけど、地面が抉れ、溶ける程の攻撃を受けてぴんぴんしていられるとは……いくら何でもないだろう。
「全員、目の前の敵に注力しろ。敵はかなりの高火力の攻撃手段を持っている。油断するな」
『『はっ!』』
俺の言葉に全員が短く返事をする。
あのシュヴァルツでさえも端的に返事をするあたり、皆も災厄が油断ならない相手だと認識したということだろう。
当然、戦闘経験の少ない俺が油断できる筈もない。
俺は覇王剣ヴェルディアを抜き、腰を落とす。
放つべきは遠距離攻撃か範囲攻撃か……俺の逡巡……刹那とも言えるその隙間に災厄の攻撃が先手を打ってきた。
一瞬その攻撃は先程のようなビーム系かと思い、横っ飛びで避けようとしたんだけど光り方が違う。
それにいつの間にか始まっていた耳鳴り。
更に細かい光があちこちに……その正体に気付いた俺は全力で後ろに飛び退く!
次の瞬間、災厄の攻撃が俺が先程まで立っていた辺りの地面を粉砕……いや、細切れに切り裂いた。
やっば!?
一瞬見えた光の反射、あれは糸みたいに細くなった災厄の触手だろう。
それを振動させ、切れ味を上げた状態でこちらに向けて放ってきたのだ。
しかも数えきれないくらい。
あれの切れ味はリーンフェリアの盾を切り裂きかねないレベルのもの。
リーンフェリアに言わせれば技量が足りないということだったが、俺にとっては全力で脅威だ。
弾いたり受け流したりはできないし、覇王剣でも正面から受け止めればどうなるかわからない。
先程までの木やマネキン状態に比べたら相当強い……最初のビームも糸みたいな細さの攻撃も、俺たちであっても油断ならない攻撃といえる。
「ここにきて本気ってわけか」
やはり様子見をしていたのはお互い様だったらしい。
正直、この糸みたいな攻撃はかなり厳しい……。
覇王剣で切り払って、逆にこちらの剣が折れたりしたら最悪だ。
となると魔法……といきたいところだけど、先程のカミラの雷の矢……あれはカミラにとっては様子見程度の威力だったけど、俺が全力で魔法を撃つのと大差ない火力だった。
というか、カミラの魔法の方が強かったまである。
ビームも糸による攻撃も視認してから躱すことが出来るレベルだが、相手の引き出しがこれだけとは考えにくい。
もうこちらも様子見は必要ない。
相手が俺の対応出来る攻撃をしている内に仕留めないと……。
だけど、魔法はダメそう……いや、属性専用魔法ならワンチャンいけるか?
学習されたら最悪だけど、あの糸を掻い潜って攻撃する程の技量なんて俺にはない。
俺が使えるの属性専用魔法は『白炎』か『神雷』……もしくは闇か幻だけど、雷は吸収されていたし、幻は攻撃魔法じゃないから避けるとして……火か闇か。
さっき光属性はダメージを与えていたっぽいし、闇だな。
そう結論付けた俺は闇の属性専用魔法を放とうとして……網目状に広がりながらこちらに迫ってくる敵の攻撃に目を剥く。
いやいやいや、それはマズいでしょ!?
絶対の危機を感じた瞬間、周囲の動きが極端に遅くなる。
横に逃げるのは……無理。
網目状に広がった糸の攻撃は左右に広い。
そして後ろは……。
災厄の姿が先程のように明滅している。
ビームが来る!
となると取れる手は……!
「『ダークネスウォール』!」
後ろに飛び退きながら咄嗟に出した闇の壁……以前、オロ神聖国の聖騎士の腕を消し飛ばした魔法だ。
位置的に、網による攻撃も『ダークネスウォール』に当たってしまうけど、たとえ貫かれたとしても俺はもうその場には居ない。
網は問題ない……でもビームの攻撃範囲からはまだ逃れられていない!
そして……飛び退いた俺の足が地面につくよりも一瞬早く、銀玉からビームが放たれた。




