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第247話 矜持



「スライムかしらぁ」


 ここまで静かに災厄を観察していたカミラがそう口にする。


「ふむ、カミラもそう思うか?」


「えぇ。擬態というよりも木の形をしているだけって感じだしぃ。安っぽい銀色の単色で無機質な感じでぇ……弾け飛んだ枝部分がもう戻っているしねぇ」


 カミラの言葉通り、四階部分まで丸禿になっていた銀色の巨木ににょきにょきと枝が生えている。


 でも、敵さんの体積が減った感じはしない。


 まぁ、滅茶苦茶デカいからな……枝の数十本や百本くらい誤差くらいなのだろう。


 しかし、再生した枝をこちらに向かって振り下ろしてくることはなく……警戒しつつこちらを見下ろしているような気がする。


 いや、目も感情も存在するのかわからんけど。


「しかし、攻撃力は大したものだが……災厄と呼ばれるには物足りない感じだな」


「はい。この程度であればスラージアン帝国の『至天』が数名居れば対処できる程度でしょう」


 相変わらず強さの物差しにされる『至天』……まぁ、それはともかく、リーンフェリアの所感は俺の考えとほぼ同じみたいだね。


「このまま押してしまっても?」


「もう少し様子を見たいところだが……」


 シュヴァルツの問いに俺が答えた瞬間、再び災厄が大きく震えながら形容しがたい叫び声をあげる。


「私の後ろに!」


 次の瞬間リーンフェリアが緊迫感を孕んだ雰囲気で指示を出し、俺たちは即座にそれに従う。


 その直後、災厄の銀色の身体が光り……膨張した様な錯覚と共に大爆発を起こした!


「くっ!?」


 初めてかもしれない。


 リーンフェリアの口から苦悶するようなうめき声があがる。


「リーンフェリア!」


「問題……ありません!」


 驚いた俺が声を上げるが、リーンフェリアの力の籠った返事と共に押し寄せて来た爆風を押し返すように盾を振る!


 ……すげぇ。


 爆発の衝撃どころか砂埃すら俺たちの所まで届かない。


 ってか周囲では風が吹き荒れている感じなのにそれも一切感じない……リーンフェリアのもつアビリティの効果か、それともリーンフェリア個人の技量によるものかはわからないけど……凄まじい守りの力だ。


 災厄が爆発したことよりもリーンフェリアの防御能力に驚いていると、周囲の暴風が収まり、辺りは巻き上げられた砂埃で視界が悪くなった。


「今のはかなり凄かったわねぇ」


「リーンフェリアがいたから問題は無かったが……ジョウセンたちの方は大丈夫だろうか?」


「ジョウセンとレンゲにディオーネもいるものぉ、大丈夫よぉ。それよりフェルズ様ぁ、木がなくなったわよぉ?」


「あぁ」


 そう。


 先程の大爆発と共に、十階建てのビルくらいはあった災厄の姿がなくなったのだ。


「弾け飛んだようには見えなかったが……」


 災厄が爆発した瞬間、内側から膨張したようには見えなかったし、シュヴァルツの攻撃やリーンフェリアの受け流しによって弾け飛んだ時みたいに体が飛び散った様子もなかった。


 しかしあの一瞬であの巨体が消える筈もないし……攻撃の速度から考えて、俺たちの目に映らない程の速度で動けるとは思えない。


 となると……俺は砂埃が立ち込めて悪くなっている視界の奥を見るように目を凝らす。


「埃っぽいわねぇ」


 カミラがそう口にした瞬間、風が巻き起こり砂埃を吹き散らした。


 目を凝らす必要なかったな……そんなことを考えつつ、俺は視線の先にいる銀色の物体を見る。


 あの姿はどう見ても……。


「銀を纏いしリーンフェリアか」


「あのような不細工を私の名で呼ぶな」


 どこか面白そうな声音でシュヴァルツが言うと、リーンフェリアが剣呑な様子で言い返す。


 うん、まぁリーンフェリアの気持ちはわかるけど、確かにシュヴァルツの言う通り銀色のリーンフェリア……の出来損ないみたいな姿をしている。


 というか銀色のマネキンが、腕と一体化した銀色の盾を構えているって感じ?


 髪とか鎧とかも中途半端に再現されているけど、全体的にのっぺりしているので気持ち悪さが半端ない。


 しかし、十階建てのビルの如く聳え立っていた巨体は、俺たちと同じくらいのサイズまで縮んでいる。


 ……体積とか密度とかどうなっとんの?


 そんなどうでもいいことを考えていると、銀色のマネキンが手にくっついている盾をぐっと構えるようなポーズになり動きを止める。


「……リーンフェリアの構えを模倣しているようだな」


「不快ですね」


 目を細めながら、リーンフェリアがそう口にしているけど……油断なく身構えているようだ。


 いや、リーンフェリアだけじゃなく、カミラもシュヴァルツも油断なく銀のマネキンを警戒している。


 油断ならない相手。


 そういうことだろう。


「シュヴァルツ」


「心得た」


 俺が名前を呼ぶと即座に応えたシュヴァルツが続けざまに矢を三本放つ。


 マネキンの顔、胸、太もも辺りを目掛けて矢は飛んで行き……。


「伊達で盾を構えているわけではないようだな」


 シュヴァルツの放った矢は、マネキンが手にした盾に弾かれた。


 受け止めるのではなく、先程までリーンフェリアがやっていたように弾いたのは……見た目だけではなく、その動きも模倣したということだろう。


「ふっ……牽制程度に放った矢を防いだくらいで、随分といい気になっているようだな」


 シュヴァルツがそんなことを言うけど……いや、のっぺりマネキンは最初から全く感情を感じさせないよ?


 俺はそう思ったし、カミラも何か言いたそうにしていたけど、それよりも早くのっぺりマネキンが動き……銀色の矢を放ってきた。


 当然それらはすべてリーンフェリアが防いだけど……これは間違いなくシュヴァルツの模倣だろうね、先程の牽制三点撃ちだったし。


「リーンフェリアとシュヴァルツの真似よねぇ。もしかして、昔戦った超越者の模倣とかもできるのかしらぁ?」


「最初の姿は木だったが……攻撃方法が特殊だったからな。アレが昔の超越者の技である可能性は高いな」


「あの切れ味はかなりのものでした。もう少し剣の技術があれば脅威だったかもしれません。例えばジョウセンと同等の技術であれば……」


 ジョウセンってうちの最高峰やで?


 あの切れ味にジョウセンの腕が無いとリーンフェリアって突破出来ないの?


 ……四武聖とカミラは強弱の関係がはっきりとしているけど、そこにリーンフェリアを絡めて考えたことってなかったな。


 もしかして、リーンフェリアの守りってジョウセンでも正面突破するのキツイ?


「次は私の魔法を試してもいいかしらぁ?」


「あぁ。やってくれ」


 その提案に俺が頷くと、カミラがマネキンに向かって手を振り払うように動かす。


 雷の矢が五本……マネキンに向かって飛んで行く。


 俺だと一本しかアロー系の魔法で矢は飛んで行かないけど、カミラは五本……しかもこれでもちょっと抑えめなんだよね。


 カミラにとっては、単体攻撃魔法のアロー系でさえも複数の相手を同時に攻撃する魔法になる。


 まぁ、今回みたいに一つの標的にその全てを向かわせることもできるけど。


 そんな事を考えていると、マネキンに雷の矢が突き刺さり……。


「吸収したようだな」


「むぅ……」


 俺の感想に、カミラが頬を膨らませながら唸る。


 雷がマネキンに当たったと思ったんだけど、そのままとぷんって感じで雷を飲みこんだ。


 魔王の魔力を吸収しているって話だったけど、魔法その物を吸収するって感じなのか?


「もう一度いいかしらぁ?」


 先程の結果がお気に召さなかったようで……珍しく、むきになっている様子の見えるカミラに俺は頷いて見せる。


 でも様子見だからね?


 全力出したら駄目だよ?


 まだ消し飛ばすには早いからね?


「……手加減は忘れるなよ?」


「もちろんよぉ!!」


 ほんとわかってる?



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― 新着の感想 ―
これ悪戯に相手を強化してませんかね?限界はあるだろうけど下手に逃げられたら手に負えなさそう
リーンフェリアって特に守備に秀でたジョブでもないしスキルも特に持ってなかった気がするんだけど……まさか努力と技量のみでここまで??
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