第223話 開戦
『鷹の目』を使って広がる俯瞰視点。
その中で先に動きを見せたのは、俺の予想通りアランドール率いる紅組だ。
「ロッズの部隊を先頭に、レンゲの部隊が後ろにつく感じか。俺なら突破力のあるレンゲを前に出すが、敢えて後ろに下げたか……」
「ふむ。白組の方は……リオを前にだしつつ、防御よりの陣形……なのかの?」
フィオが少々自信が無さそうというか、俺に尋ねるような雰囲気で言う。
俺も素人だけど、フィオは軍事に関して俺以上に知識が無い……というか興味の無い分野なんだろう。
まぁ、俺の知識もゲーム的なものしかないけど。
「そうだな。魔法兵であるカミラの前を塞ぐように、剣兵であるリオとジョウセンを並べている。最後列にパオラを置いて……機動力はなくなるが、堅牢な陣形だな」
俺はジョウセンを遊撃に使うと思っていたんだけど、サリアは防御固めに使うみたいだね。
ゲーム時代、部隊の移動力は各々の兵種によって基本値が決まり、そこに将の指揮力と統率、保持しているアビリティによって増減するようになっていた。
うちの子達はゲーム時代のアレコレ以上に色々なことが出来るようになっているし、アビリティ外の能力を保持していたりもするけど、召喚兵はそうではない。
こうして俯瞰視点で見れば良く分かる……というか、ゲーム画面を見ているような気分になるのは、召喚兵の動きがゲーム時代のそれと類似しているからだろうね。
かつて慣れ親しんだゲームの戦場。
それと似て非なる現実の戦場で……ゲームのような速度で軍が駆け抜けていく。
やっぱ現実感ないわ。
「現実感がないのう」
「これがエインヘリアの現実だ」
呆れた様なフィオに、俺は内心を殺し現実を突きつける……いや、突き付けてはないが……。
そんな事を考えていると、凄まじい勢いで敵陣に突っ込んでいくロッズの部隊にパオラによる矢の雨が降り注いでいく……いや、着弾と同時に爆発する矢の形をしたグレネードだが。
しかしその攻撃を読んでいたようで、ロッズの部隊は即座に防御態勢を取り爆撃を防ぐ。
防御態勢をとったことで足が止まったロッズの部隊の横をレンゲが追い越し、それまで以上に行軍速度を加速していく。
パオラの弓を引き付ける為に、アランドールはロッズを先行させたってことか。
しかし、そのままレンゲが突っ込めば、ジョウセンとリオの二部隊を相手にしなければいけなくなる。
いくらレンゲの突破力が優れていても、同等の力を持つジョウセンとリオを蹴散らすことは出来ない。
となると紅組は、その後に続くシュヴァルツとディオーネの働きにかかっている。
サリア側は既にパオラというカードを切っているが、ロッズの足止め……牽制程度の攻撃で全力は出していない。
パオラの本命は間違いなく魔法兵であるディオーネだろう。
そしてシュヴァルツの狙いはカミラ。
まぁ、今回の模擬戦は訓練所ではなく普通の平原で行っているので、弓兵による将の長距離狙撃は禁止しているから、狙いは魔法兵特攻の遠距離攻撃だろう。
レギオンズの戦争パートでは、基本的に弓兵が一番射程が長く、その次が魔法兵、最後が近接物理兵となっている。
魔法兵は防御に難があるので射程が長い弓兵を苦手としており、近接物理兵は弓はあまり効かないけど魔法には弱い。
所謂三すくみが出来ているのだけど……そこに能力値や装備、アビリティ等が絡んで逆転現象も起こる。
ついでに言えば、近接物理は剣、槍、斧とそれぞれが三すくみがあるし、魔法なんて十属性で強弱がある。
ゲーム的に考えるなら……ディオーネとカミラ、この二人の魔法兵をどう使うか……そしてどう抑えるか。
そこが今回の演習戦のカギとなっていると考えられる。
「小細工無しの正面からのぶつかり合いじゃのう」
「一戦目はそういうオーダーだ。正面衝突……分かりやすい力と力のぶつかり合いだ」
「二戦目は違うのかの?」
「二戦目はキリクたちのような軍師タイプと回復役を両軍にいれて、計略あり、回復魔法ありのルールだ」
「何故分けたのじゃ?」
「計略ありルールだと……多分傍から見ていても、何が起こったかよくわからないだろうしな」
魔法でもあり得ない距離で火計が起きたり、川もないのに水攻めが起こったり、何もない場所から伏兵が現れたり、突然部隊が混乱して動けなくなったり……現実に起こったら一番ダメな現象だと思う。
でも軍師系の子たちはそれをいともたやすくえげつなく行うので、まずはエインヘリアの軍がどんなスペックを持っているか見て貰う為の第一戦だ。
「ふむ?そうなのかの?」
「計略は……はなんというか、理不尽だからな」
キリクたち、計略持ちの子たち曰く、時と場所が揃えばいくらでもそういった事が起こせるらしいけど……一応計略には準備時間が設定されていたから、何でもかんでもホイホイとはいかない……とはいえ、準備時間さえあればホイホイ撃てるのは、効果を考えれば凶悪過ぎる。
「理不尽の権化のようなお主に言われるとはのう……」
「誰が理不尽の権化だ」
「少なくとも、他国の者たちはお主に対してそう思っておる筈じゃ」
「……」
ちょっと覇王力が迸り過ぎているのかもしれないな。
でもまぁ、エインヘリアのトップとしては恐れられている方がいいだろうね。
個人的には舐められているくらいがやりやすいんだけど……まぁ、エインヘリアを知った上で舐めてくるやつが居れば……それはもうよっぽどアレな人物だ。
初対面で舐めてくるヤツは過去何人もいたけど、付き合いが長くなればそんな奴は周りが潰しにかかる……絶滅危惧種だね。
そんな事を考えているうちに、後方から前衛二人を追いかけていたシュヴァルツとディオーネがそれぞれ白組前衛を射程内に捕える。
俺ならジョウセンにディオーネの魔法をぶつけるけど……でもそうするとディオーネはパオラの射程内に入るわけで……効果は薄くてもシュヴァルツに前衛を攻撃させるか?
いや、シュヴァルツはもう少し踏み込ませて、奥にいるパオラを狙った方がいいか……そうすればロッズが自由になる。
パオラを抑えればディオーネが自由になるし、そうなれば戦局は一気に動くだろう。
しかし、それはサリア側も同じことが言えるわけで……。
手札が少ないからな……難しい局面に入った。
どちらの本陣もまだ動いていないけど、本陣はどちらも前衛……しかも白組は攻め込まれているから本陣を動かしてすぐに接敵できるけど、アランドールは後方に控えているからな……今から動かしてもすぐに状況は変わらない。
となると、紅組四部隊と白組五部隊のぶつかり合いになるわけで……やはり白組の方が有利か?
俺がそう考えた瞬間、シュヴァルツの足が止まり前方に向けて矢衾を放つ。
狙いは……やはりパオラか。
すごい勢いで放たれた矢が飛んで行き……しかし、その矢を阻むように氷山が突如として姿を現した。
カミラの魔法だな。
攻撃ではなく防御に使ったか……それに紅組の前衛は巻き込んではいないけど、レンゲの進路は阻んでいる。
土と氷はこういう使い方ができるから便利だよね……。
俺はどちらも適正を上げてないから使えないけど……ちょっと覚えてみたい気もするな。
「透明度の高い氷とはいえ、アレでは視界が遮られるのう」
「そうだな。今までであれば俺が俯瞰視点から指示を出していたが、今回は戦場にいる総大将からの指示を出さねばならん。最初から予定していたであろうサリアはともかく、アランドールはどう出るかな?」
両軍前衛の真ん前にバカでかい氷山。
勿論迂回することは可能だけど、射線を阻まれているのでシュヴァルツとパオラは直接魔法兵を狙うことが出来ない。
前衛が氷山を迂回すれば……反対側に顔を出した瞬間カミラやディオーネが狙い撃ちしてくる筈。
こうなると、攻め寄せた側である紅組は一度氷山から離れ体勢を立て直したいだろう。
しかし、白組がそれを許すとは思えない……岩山ではなく氷山を作ったのは、おぼろげにでも相手の動きを見る為。
下がるそぶりを見せたら間違いなく追撃に出るだろう。
サリアは徹底して防御戦術を選択しているね。
このままだと紅組は動きが止まってしまう……そうなれば白組は先んじて次の手を打って来るだろう。
さて、アランドールはどうする?
明日は8月1日……更新あります!




