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第214話 会談後の空虚感



View of モルド=コールリン 魔王国伯爵 使節団団長






 エインヘリアに宛がわれた私の部屋に使節団が全員集まる。


 面々の様子は……国が滅亡に瀕しているかのように沈痛なものだ。


 ……いや、今の例えは洒落にならんな。


「……しかし、あれですな。エインヘリアが飛行船を出してくれるということは、ランティクス帝国から送り出した者よりも、我々の方が先に国に戻ることになりそうですな」


 肩を竦めながらベルルト卿が言うと、少しだけ室内の空気が軽くなったような感じがした。


「そうだな。彼には悪いことをした気もするが、今は一刻も早く国元へ情報を持ち帰る必要がある」


 今頃森を少人数で進んでいる頃合いだろう。


 森の移動も危険だが、魔物避けの魔道具があるので滅多なことでは襲われることはない……問題は雪山の方だ。


 既に我々が山を越えてから半月以上が経過……山道は完全に雪に埋もれてしまっており、行軍は命がけのものに成る筈。


 無事、国へと辿り着いてくれることを願うばかりだ。


 しかし、こちらは想像すらしていなかった事態になっている……彼らの心配ばかりしてはいられない。


「おっしゃる通りかと。しかし……中々情報を整理できないというか飲み込めないというか……」


 私が苦笑しながらベルルト卿に同調すると、他の者が悩ましげな表情をしながら愚痴をこぼす。


「その気持ちはわかるが、今回の会談で得た情報は、国の根幹を揺るがしかねないものだ。真実かどうか……いや、エインヘリアの見立てが正しいかどうか、それはここでいくら考えようとわからない。そしてそれは国元に情報を持ち帰ったところで答えは出ないだろう」


 私の言葉に再び部屋の中の空気が重くなる。


 神妙な顔をしている面々の顔を見回した後、私は肩を竦めながら苦笑してみせる。


「だが、気にすることはない。我々の持ち帰った情報を基に決断を下すのは、エルモーフィン侯を始めとした魔王国上層部および魔王陛下だからな」


 冗談めかした私の言葉に、皆から小さな笑いが起こる。


「確かにコールリン卿のおっしゃる通り、ここで深刻になっても仕方がないですね。我々の役目は情報をかき集められるだけかき集め、国元へと持ち帰る。真贋を見極められればベストですが、それには時間を必要としましょう」


「そうだな。だが、エインヘリアは意図的に誤情報を渡してこない気がする」


「……随分と信用されておられますね?」


 口元に笑みを湛えつつ、目は真剣な色を湛えながらベルルト卿が言う。


「信用……とも少し違う気がするな。なんというか……エインヘリアには余裕と絶対の自信があるように思う。策略、謀略を使わなくても正面からどうとでも出来る……エインヘリアの王をはじめ、臣下の誰もがそう思っているように感じた」


「それは……確かに私も同じ印象を覚えました」


 ベルルト卿だけではなく、他の面々も私の言葉に同意するように頷く。


「虚勢や慢心に見えたか?」


「残念ながら……飛行船や転移という技術、エインヘリア王を筆頭に、強力な超越者を我が国以上に有しているという軍事力。それにまだ言葉でしか聞いていませんが、侵略国家でありながら統治も安定しているようですし……事実の裏付けがしっかりとある自信かと」


「そうだな。それにエインヘリアの王が我々の住む大陸で成したこと……尋常ならざる成果だ。結果は既に出ているにも拘らず信じられないというか……どうやればそんなことになるのか想像すらできない成果を見て、虚勢だなんだというものが居たら逆に正気を疑うな」


 若干呆れ交じりにそういうと、部屋にいた全員が力強く頷く。


「エインヘリアが確証はまだないと言いながらも情報を開示してくれたのは、こちらとしっかりと友好関係を結びたいというアピールもあるだろう」


 何故そこまでそれを求めるのかはわからないが……我が国の混乱を望んでいないのは本心に見える。


「……分かりました。確かにコールリン卿のおっしゃる通りですね」


 降参というように両手を上げながらいうベルルト卿。


「……ところで、どうかな?ベルルト卿。動けるかな?」


 私が含みを持たせて尋ねると、真剣な表情のままベルルト卿は首を横に振る。


「無理です。正直……すれ違う全員が超越者と思ってもらっても問題ないレベルです」


「……いや、それは言い過ぎだろう」


「それが、言い過ぎではないのです」


「……メイドや子供ともすれ違ったが?」


「言い過ぎではありません」


「冗談……」


「ではないのです」


 ……。


 いや、そんな。


「エインヘリアには超越者しか住んでいないとか?」


「超越者という言葉の意味を考えたくなりますね」


 先程までとは違い、疲れたような笑みを見せるベルルト卿の姿に背筋が凍り付く様な戦慄を覚える。


「まぁ、流石にそれは言い過ぎだと思いますが、少なくともこの城にいる者たちは尋常ならざる者たちかと。下手に動けばあっという間に捕まりますね」


「……分かってはいたが、現地を見た上でやはり無理だと言われると……心に来るものがあるな」


「ですが、シャイナ殿が言っていたように、正面から尋ねれば丁寧に答えてくれるようですね。視察でも、こちらが望むものは全て見せてくれるとのことでしたし」


 国内の視察ならともかく、他国の視察でこちらが好きに見て回っていいと言われるとは思わなかった。


 隠すことなどない。


 何を見られても構わない。


 これも絶対の自信の表れ……明日からの視察でそれがどの程度現実に則したものなのか……十分理解できるはずだ。


「現段階での情報を纏めておきますか?」


 末席に座っている男爵が片手を上げながら尋ねてくる。


 彼には書記官を任せているのでそれ自体はおかしな提案ではないが……。


「悩ましいな……公式な資料として残すにはかなり危険な内容だ。勿論報告をしないという訳ではないが……」


「二通り作成しましょう。全てを書き記した物と公文書として提出するもの。全てを書き記した物は魔王陛下や宰相、そしてエルモーフィン候に直接渡してから判断を委ねる。その方が良いかと」


「まぁ、それもそうだな。私たちだけで判断するにはことが大きすぎる」


 魔王陛下が全てを皆に知らせるというのであれば、全て書き記した物を公文書として提出すれば良い。


 手間はかけるが、事前に用意しておいた方が良いだろう。


「承知いたしました。それでは、明日はここに残り文章を纏めようと思います」


「明日以降の視察に関しては?」


「最終日の演習も含め、こちらは見たものを隠す必要はないだろう?資料は個々人で箇条書きにして残し、後で男爵に提出して纏めて貰おう。わからない部分があればそれぞれに詳しく聞いてくれれば良い」


 ベルルト卿の質問に答えつつ、書記官である男爵に言うと力強く頷く。


 確か彼は諜報員として現場で働くのではなく、内政官になり後方に回りたいと希望していたな。


 今回の使節団としての役割をしっかりとこなすことが出来れば、内々に昇進も決まっているとか……気合が入るのも当然だな。


「では、明日からの視察について、何処を重点的に見るべきか、エインヘリアに伝える要望はどうするかを決めよう」


 男爵への視線を切り、私は明日以降についての話し合いを進める。


 どんなものが見られるのか。


 まずは大都市に向かい経済状況や民の様子をみてから地方……産業云々は二日目以降に回して、まずはエインヘリアという国の空気感を確認することに注力するのが良いと思うが……。



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