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第211話 ここまでが挨拶



View of モルド=コールリン 魔王国伯爵 使節団団長






 エインヘリアが我々の情報を想定以上に把握していることは理解していたつもりだ。


 それが捕虜から得た情報であることも。


 だが、捕虜となった者たちが知り得ない情報を、さも共通認識かのように話すキリク殿の姿は、恐怖を通り越してなんかもう気持ち悪い。


 捕虜から吸い上げた情報だけであればそうは思わない。


 予知夢という、それを知らぬ者たちからすれば胡散臭いと思えるようなものを頼りに動いていること、我が国が抱えている問題からこの国に来た理由を推測すること。


 それを結び付け、こちらの事情を言い当てるだけなら……不可能ではないだろう。


 勿論、キリク殿のように寸分の狂いもなく、完璧に読み切るのはあり得ないと思うが……それでもまだ理解できる範囲内といえる。


 しかし、エンネア様のことは別だ。


 魔王国の民はおろか、貴族ですらその一部しか知らないエンネア様の御名……尋問では確実に得られない情報だし、仮に我が国に密偵を忍ばせたところでそう簡単に辿り着ける情報ではない。


 エンネア様の情報は、エルモーフィン候が直々に管理されている。


 エインヘリアが我が国に諜報員を送り込んでいるとしてもここ数か月の話……とてもではないが、最重要機密であるエンネア様の情報を得られるような位置に潜り込めるとは思えない。


 だが……目の前に突き付けられる現実は、そんな私の考えを否定する。


「ランティクス皇帝陛下の提案は、正に渡りに船といったところでしたね。まぁ、もし皇帝陛下の提案が無かったとしても、しばらく様子を見てからシャイナに接触してもらうつもりではありましたが」


「……貴国が我が国の内情を深く把握していることは理解しました。まぁ、正直知られ過ぎていて少し困っていますが」


 私の言葉に、三度眼鏡を指で押さえながらキリク殿がゆっくりと口を開く……眼鏡のサイズ調整をした方がよいのでは?


 そんなどうでもいいことを考える程度には、まだ私にも余裕があるらしい。


「貴国も情報の重要性はよくご存じのようですしね、その気持ちはわかります。特に当代のエルモーフィン侯爵は非常に優秀な方のようだ。貴国の重臣でなければ是非スカウトしたいところでしたね」


「ははっ……それは、止めて頂きたく存じます」


「勿論、そのような不義理はいたしません。ですが、優秀な人材を抱えている貴国を羨ましく思ってはいますがね」


 優秀な人材か……。


 まだエインヘリアに仕える方は十人も見ていないが……その誰もが並々ならぬ才気を感じさせるものだった。


 そんな人材の筆頭ともいえるキリク殿がそれを口にすると、皮肉にしか聞こえないな。


「エルモーフィン侯爵は、まごうこと無き我が国の主柱の一つ。ですが、評価されたと知ったら顔を顰めるかもしれませんね」


 情報を司るエルモーフィン侯は、表向きは若くして侯爵位についた世間知らずの小娘……という風に上層部以外には思わせている。


 国内では知らぬ者の方が多いのに、エインヘリアでは当然のごとく諜報機関の長として知られているのは……エルモーフィン候からすれば屈辱以外の何物でもないだろう。


「お伝えするのは止めておきましょう。さて、ここまでこちらの予想をお話しさせて頂きましたが、我々と致しましては貴国への対応を決めかねている部分がございます」


「……」


 ここまでは世間話だったとでも言いたげな様子のキリク殿の姿に、思わず身を硬くしてしまった。


「しかし、勘違いして頂きたくないのですが、我々は貴国と国交を結ぶ、あるいは同盟を結ぶことに否定的という訳ではありません。いえ、どちらかといえば健全な国交を樹立したいと考えております」


 物凄くマウントとられ、一方的にぼっこぼこに殴られた気がしているのだが……健全な関係とは……。


「その為にも、少し確認させて頂きたい事があります」


「……なんでしょうか?」


「貴国の……魔王陛下に対してのことでないことはご理解いただきたいのですが……」


 ……?


 初めてキリク殿が言い難そうにそんなことを言うが……陛下の話?


 一体何を……?


「エインヘリアのあるこの大陸では、魔王の魔力と呼ばれるものが色々な問題を引き起こしていました」


「魔王の……魔力……?」


「はい。勿論、貴国の魔王陛下のことではございません。この大陸にも魔王と呼ばれる存在が居り、その身より溢れる魔力が大陸中に広がり、狂化と呼ばれる現象を引き起こしていました」


 !?


「魔王の持つ強大な魔力が大陸に蔓延し、その魔力を魔物や人がその身に蓄積して一定量を超えることでその精神を狂化……自我を消失させ、理性なく暴れまわる存在へと堕としてしまう」


 キリク殿の言葉に衝撃を受けながらも、私は渇いた口を必死に動かした。


「……それは、もしや瞳が赤くなる?」


「おや、そちらの大陸でも?」


 少し驚いた様な表情を見せるキリク殿に私は頷く。


「我が国では祝福と呼ばれております」


「祝福……ですか」


 そう、祝福……あるいは試練。


 我々の間ではそう呼ばれている現象だ。


「祝福と呼ぶには些か凄惨な現象ではありませんか?」


「おっしゃる通り、五十年程前までは発生件数こそ少ないものの、災厄と並ぶくらい畏れられた現象ではありました。しかし、ある時賢者と呼ばれた方の手によって、対処方法が編み出されたのです」


「対処方法ですか?どのようなものかお聞きしても?」


「詳細は省きますが、強制的に眠りにつかせ投薬等の処置を施します」


「それで治るのですか?」


 真剣な表情で問いかけてくるキリク殿。


 これは……チャンスだ。


 キリク殿の様子からこちらの大陸では祝福……いや、狂化への対処法がまだ確立していないのかもしれない。


 これを交渉材料……いや、技術の提供を土産にすることも可能だ。


 しかし、これは我が国にとって非常に大きなリスクが伴う。


「人によって差はありますが、数か月から数年程で目を覚まします」


「なるほど……」


「そして、目覚めた者は……超越者として覚醒します」


 そう。


 これこそが、リスク……そしてこの現象が祝福と呼ばれる所以だ。


 この地にてどの程度祝福を受ける者が現れるのかわからないが、多ければ多い程国力がアップしていくということ。


 現時点で、我が国よりも多くの超越者を抱えているという情報の有るエインヘリアに、これ以上の戦力アップとなる情報を与えるのは危険だ。


 しかし、それらを飲みこんだ上でこの話をしたという事実は、確実に誠意として伝わる筈。


「……それは妖精族……失礼、エルフ族やゴブリン族の方々もでしょうか?」


「はい。我が国で祝福を受けた事例としましては、大半が魔族、エルフ族、ドワーフ族、スプリガン族、ゴブリン族の方たちとなっております」


「人族に……祝福は?」


「そういった事例は確認されていません」


「やはりそうですか。こちらの大陸で起こっていた現象と同じと見てよさそうですね。因みに、どの程度の頻度で祝福は起こっていたのでしょうか?」


 この反応……どう見ても超越者が自国に増えることを喜んでいる様子はない。


 一瞬で私の目論見が崩れた気がするのだが……それでもエインヘリアがこの情報を欲しているのは間違いない。


 ひとまず、誤魔化すことなく話を進めるべきだろう。


 祝福という現象自体は国内では秘密でも何でもない情報だし、エインヘリアであればすぐに調べがつく筈。


 いや……捕虜から聞き出した情報の裏を取っているだけという可能性もあるか。


「十年に一度あるかないかといったところでしょうか?」


「ふむ……頻度は想定内ですが、その理由が気になりますね」


 しかし私の予想に反し、キリク殿は考えるようなそぶりを見せる。


「理由……ですか?」


「狂化……そちらでは祝福ですが、原因は把握しておりますし、その対処もこちらの大陸では完了しております。しかし、我々が調べたところ……あぁ、山の東側の話ではありますが、そちらの大陸は、想定よりも原因となっている魔王の魔力の濃度が低かったのですよ」


「それは……どういうことでしょうか?」


「単純に、原因となっている魔王のいるこの大陸との距離が……という話ではなく、何らかの要因で魔王国のある大陸は魔王の魔力が少ないようなのです」


 ……意味がよくわからない。


 いや、祝福の要因がこの大陸にあるということと、その魔力が我が大陸にはあまり存在していない……そう言っているのはわかる。


 しかし、それがどうしたというのだろうか?


「その原因が、例の災厄にあると我々は睨んでいます」





本日情報解禁デー!


暫く音沙汰なかったコミカライズ情報ですよ!


今月……25/07/25の金曜日


覇王になってから異世界に来てしまった!のコミカライズ第一話が配信されます!


配信されるのはマッグガーデンさんの運営されているマグコミです


応援やコメントも出来るみたいなので、羊が出ていない時でも色々入れてくれるととても嬉しいです!





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― 新着の感想 ―
おお!ついにコミカライズご!!
コミカライズ配信開始決定おめでとうございます。当日楽しみにしています。フェルズ以下の面々がどの様な描かれ方をするのか楽しみです。
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