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第201話 空の上の皇帝



View of ライスワルド=スティニア=ランティクス ランティクス帝国第一皇子






 あっという間にエインヘリアに訪問する日がやって来てしまった。


 いや、本当にあっという間だった。


 なんせ、私がエインヘリアに行くと話を聞いた二日後にはこうしてエインヘリアの飛行船に乗ってしまっているのだ。


 エインヘリアはとにかく早い。


 モノの動き、兵の動き、情報の動き、政治的判断も……何もかもがとにかく早い。


 我が国では考えられない早さだ。


 しかし……あり得ないと言えば、陛下も同じくらいにあり得ないといえるが。


 普通他国の使者を巻き込んで、自分の好奇心を優先させるか?


 城でどれだけ抗議しても聞く耳を持たず、へらへらと笑うだけだったが……。


 いや、落ち着け。


 既に我々は帝都を発ってしまっているわけだし……何より陛下が本当に自身の好奇心を満たす為だけに他国の使節団を巻き込み、別の国に向かう筈がない。


 ……と思う。


 そもそも同道している帝国の者達は私と陛下を除き、全てが前回エインヘリアの戦争の観覧に行かなかった者たちだ。


 彼らが揃って二日後に他国へ訪問するといって予定を空けられるわけがない。


 だというのに、全員が予定を少し調整するだけで訪問が可能となっていた……偶然であるとは思えない……確実に陛下が裏で動いていた筈だ。


 しかし、何故魔王国にエインヘリアを?


 魔王国を上手く利用してエインヘリアに対抗するという意見を危惧した?


 それとも他の何かが?


 この数日、色々な調整で忙し過ぎて話を聞く暇もなかったが……このタイミングで話を聞くしかない。


 そう考えた私は、飛行船が飛び立つと同時に陛下の部屋に向かったのだが……陛下は部屋に居なかった。


 まぁ、そうだろうな。


 空を飛ぶ船という特異性、それに何より空を飛ぶという人には成し得ないと考えられていた体験……陛下がこの状況で大人しく部屋にいる訳が無い。


 恐らく……甲板だろうな。


 離陸する時は船内にいるように注意があったが、高度が上がった後は甲板に出ても良いとのことだったし……。


 そう考えた私は甲板に向かう。


 念の為途中でサロンに寄ってみたが、案の定陛下はおらず……そこに居たのは少し興奮した様子の大臣達だけだった。


 いや、少しではないか。


 かなり興奮した様子で窓の外を見ている。


 甲板に出るのは怖いがこの場所なら、ということだろう。


 そして陛下はそういった恐怖心とは無縁……やはり甲板だな。


 そんな風に考えつつ甲板へと繋がる扉を開き……そこには飛行船の縁、手すりの上に仁王立ちをする陛下が居た。


「へ、陛下!あ、あぶ、危ないです!」


「お?おぅ、お前も来たのか。見ろよ、すげぇ景色だ」


「と、とりあえずそこから降りて下さい!」


「お?ここから飛び降りるのは流石に厳しくないか?」


「なんで船から飛び降りる方向に受け取るのですか!こちらに!甲板に降りて下さい!」


「大袈裟だな」


 そういいながら、軽い様子でこちら側に飛び降りてくる陛下。


「飛ばないで下さい!」


「降りろと言ったり降りるなと言ったり、どうしろってんだよ」


「普通に!ゆっくり!降りてくれば良いでしょう!?」


 心臓が……動悸が凄まじい……。


 こんなにも心臓を傷め、当たり前のことを言っているのに……その心配の一欠けらすらこの人には伝わっていない。


 心底何を言っているのか理解できないといった表情を見せて……これ以上ないくらいに憎たらしい表情だ。


「心配性だな。流石に向こう側に飛び降りたりしないぞ?」


「それはそうでしょうが……」


 私の言葉に陛下は肩を竦めながらニヤニヤとこちらを見てくる。


「景色を見に来たってわけじゃないんだろう?」


「えぇ。今回の件で話をしたくて」


「魔王国レシュトオルグ。残念だが、うちでは相手にならんな」


「っ!?」


 前置きも何もなく、陛下の口からとんでもない台詞が飛び出し、私は思わず他に誰も聞いていなかったかと辺りを見渡してしまう。


「陛下、あまり迂闊なことは……」


「事実だ。国としての成熟度が違う。賠償は向こうが提示してきた条件だが……どう思った?」


 賠償……?


 あれは……確かに、うすら寒いものを感じた……。


「長期の支払いではありますが、金額も物資も凄まじいものがあります。魔王国との戦いで費やした十数年分の戦費……それを明らかに上回っている。どうやってかは知りませんが、こちらの懐具合や経済状況をほぼ完璧に把握されているのでしょう」


 間違いなく、魔王国は我が国の倍ではきかないくらいに国力がある。


 いや、それも当然か。


 相手は我が国とオロ神聖国……二大大国と十年以上戦い続けた強国。


 しかも圧倒的に不利な山を越えての遠征という形でだ。


 生半可な国力では、あっという間に自国が潰れるだろう。


「俺たちは魔王国のことを何も知らんが、向こうはこちらのことを正確に、完璧にわかっている。今まで気付かなかったのは間抜けの限りだが、向こうの密偵が国に相当入り込んでやがるな」


「でしたら!」


「うちの連中じゃ相手にならんってこったな。恐らく城にも密偵が入り込んでいるだろうし、大臣達の近辺にも入り込んでいるだろうよ」


 まさかそこまで……いや、だとすれば……。


「……帝城で話をしなかったのは、どこに耳があるかわからないからですか?」


「あぁ。ミザリーには調査するように言っておいたが、うちはあまり密偵は鍛えてねぇからなぁ」


「排除は難しいと?」


「あぁ。だからここに来た。エインヘリアの情報は殆ど得ていない様だったし、密偵を入れる時間もなかった。それになにより、あいつの防諜は偏執的だからな」


 確かにエインヘリアの防諜は……水の一滴すら漏らさぬ程のものだ。


「情報を軽視しているつもりはなかったんだが……エインヘリアや魔王国を見ていると甘すぎたって身に染みるな」


「……」


「交渉するにしても現時点では不利すぎる。せめてもう少し相手の情報を集めるまで時間を稼ぐべきだ」


 そういいながら、船の縁にもたれかかる陛下。


「その時間を稼ぐためにも、魔王国はアイツに押し付けるのがいいだろう」


「エインヘリア王ですか?」


「あぁ。幸い、魔王国の連中はエインヘリアを気にしているみたいだしな。俺もエインヘリアを見てみたかったし丁度いい」


「……エインヘリアに恨まれませんかね?」


「魔王国がどう出るかわからん。だが、アイツは元々来年の侵攻で戦うつもりだったからな。相手の情報を持って来てやったと言えば、邪険にはせんだろ」


「……そうでしょうか?」


 現状……厄介事を押し付けているようにしか見えないと思うのだが……。



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