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第193話 side : 外交官見習い



View of リーナス エインヘリア外交官見習い 元ルモリア王国斥候部隊隊長






 ノーフェイス様の指揮で魔王国に潜入してから半月ほどが過ぎた。


 先日ノーフェイス様は一度目の報告のために国に戻ったが、予定では明日にはまたこちらに戻ってくることになっている。


 ノーフェイス様の方は問題ないだろう。


 確実に予定通り戻ってくる筈だ。


 それよりも問題はこちらの方だろう。


 魔王国レシュトオルグ。


 想像していたよりも遥かに豊かな国だ……山の向こうの国々に比べたら相当な差がある。


 厄介な問題を抱えているとは思えない程繁栄しているし、国民の表情も明るい。


 そう……この国は相当厄介な問題を抱えている。


 災厄と呼ばれる魔物……その正体こそわからないが、二匹存在することと一匹で街を壊滅させるほどの力を持つこと、そして破壊活動を終えた後忽然と姿を消すこと等の情報を得ることが出来た。


 他にも、軍によるいかなる攻撃も通じないことや襲われた街が瓦礫すら残さずに壊滅したこと等、相当凶悪かつ手の付けられない魔物であることがわかっている。


 しかし、これらは全て一般に知られていることだけだ。


 もう少し深い情報を得られるところに潜り込みたいが、この国の諜報機関は相当手強い。


「予知夢とやらに頼るだけの、頭が花畑の国では無かったな」


「山に隔てられているとはいえ、大陸統一国家といっても過言ではない国です。上層部の頭に花が咲いていたらとても持ちませんよ」


 俺の言葉に、ルモリア王国時代の元副官である同僚が肩を竦める。


 俺たちが今居るのは魔王国の王都から少し離れた場所に位置する交易都市、各地から物と情報が一度この街に集まり、再び各地へと散っていく……そんな主要都市の一つだ。


 情報を集めやすく、人ごみに紛れやすい……諜報をする上で非常に都合の良い場所であると同時に、相手もそれが分かっているからこそ目を光らせている場所でもある。


 俺達の大陸で実力のある諜報機関といえば、スラージアン帝国の資源調査部だろう。


 帝国の英雄育成機関で鍛えられ、準英雄とまで呼ばれるようになった人材も多く抱えている資源調査部は、その実力も規模も……そして資金力も大陸最高峰の諜報機関だ。


 そんな資源調査部と比較しても、この国の諜報員は明らかにレベルが高い。


 とても二百年近く、統一国家として敵対する勢力が居ない状態だったとは思えないくらいに腕利きが揃えられている。


 いや、敵が外にいない分、内向きに強い諜報組織ができたのかもしれない。


 外交官見習いとして、筆舌に尽くしがたい訓練を受けた我々であっても、けして気を抜くことが出来ない相手……それがこの国の諜報組織だ。


 各地に散った他の班も苦戦していると連絡があった。


「商会を入れるのは難しそうだ」


「そうですね。今後どういう関係になるかにもよりますが……」


 商会……つまり、エインヘリアにおけるもう一つの諜報機関、情報部。


 どちらかというと内向きの諜報機関というか、商人として動きながら情報収集を行うのが主な活動なので、山によって隔てられた単一国家という相手には少々動きが取り辛いといえる。


 だが、商人、そして犯罪組織の元締めという立場は、手広く様々な情報を集めるという点で我々外交官見習いを上回る力を持っているだろう。


 俺たち外交官見習いは狙った情報を奪うことに特化し、情報部は無作為に情報をかき集めることが仕事といった棲み分けだ。


 未知の国相手の調査なら、俺たちの潜入と情報部による情報収集は並行して行いたい所だが……立地が悪すぎる。


 最低でも魔王国が山の向こうと国交を結び、外勢力が魔王国と関係を持たなければ情報部も動くのは難しいだろう。


 既にレグリア地方には情報部による出店が始まっているし、この大陸にも広く根を張ることになるだろうが、山のこちら側は……。


「……」


 俺がそんなことを考えていると、元副官が俺の背後に一瞬視線を向け、指を小さく動かす。


 ハンドサインだ。


 私服の衛兵二人が入店、うち一人は密偵の心得あり……。


 俺たちが今居るのは大衆食堂。


 食事時には少し早い時間帯だが、これから段々と人が増え……酒を飲み口が軽くなっていく。


 勿論、情報収集に欠かせない場所ではあるが、俺達の狙いは今入店して来た連中だ。


 恐らくあとから二人……街西側の衛兵を取りまとめる中隊長とその下で働く小隊長が合流するはず。


 今日の俺達の仕事は、その連中から色々と情報を掠め取ることだが……最低でも一人は密偵か。


 この国の厄介な所はこれだ。


 色々な場所に密偵が潜り込んでいる。


 密偵としての力量はピンキリといった感じだが、一般の兵や商人だけでなく民の中にも密偵が紛れ込んでいるのだ。


 正直二百年近く他国と戦争を行っていない国の警戒レベルではないと思う。


 特に厄介なのが、民の中に紛れ込んでいる手合いだ。


 浮浪者や孤児を使って情報を集めるというだけでなく、本職の諜報員もその中に紛れ込んでいるのが確認出来ている。


 今のところ潜入がバレた様子はないが……。


 そんな事を考えつつ、俺は元副官と他愛のない会話を続ける。


 相手側にも密偵がいる以上あからさまな盗み聞きは出来ないが、それでも連中の座った位置であれば周囲の雑音に紛れても聞き分けに問題はない。


 後は有益な情報を漏らしてくれるかどうかといったところだが……。


「隊長たちは?」


「なんか南側で事件が起きたとかで応援に駆り出されたらしい」


「そうなのか?じゃぁ今日は中止か?」


「いやいや、だったらここまで来てねぇよ。報告書を作るから先に始めとけってよ」


「なるほど、非番で良かったってところか」


「全くだ」


 全く関係ない会話を続けながら、俺たちは二人の会話に聞き耳を立てる。


 南の事件……確か大きめの商会に強盗が押し入ったとかだったな。


 魔王国は随分と治安が良い……大きな事件もかなり珍しいようだ。


 事件自体は班のメンバーが調べていたが、規模こそ大きいが特に裏の無い金目当ての強盗とのことだった。


 まぁ、そちらはどうでも良い。


 出来ればこの街の上役辺りの情報を得たいところだが……。


「別地区からの応援が必要な事件なんて珍しいな」


「大通りの……一番でかい商会があったろ?あそこに強盗とか言ってたな」


「無謀すぎるだろ……」


「だよな。まぁ、最近警備が手薄だからいけると思ったんじゃないか?」


「あー、なるほど。王都の方に人手を持っていかれたからな」


「なんかあったんかね?」


「隊長に聞けば何か知ってるんじゃないか?」


「それもそうか……あ、隊長たちの分のつまみ頼んどくか。どうせ隊長のおごりだし」


「んだな」


 王都の方で衛兵の人手が不足しているか……王都方面に向かった班が何か掴んでいるとは思うが、可能であればこちらでも情報を集めておいた方が良いだろう。


 明日ノーフェイス様に報告できる情報は多い方がいいからな。


「あ、隊長!こっちです!」


 中隊長が合流したか……ここからが本番だな。


 俺たちはけして表には出さないように、細心の注意を払いつつ……衛兵たちの会話に耳を傾けた。





明日も投稿あります!



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