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第191話 ずるい



「失礼します!お兄ちゃん、今大丈夫ですか!?」


 元気いっぱいに執務室の扉を開けて入ってきたのは、外交官であるシャイナ。


 現在執務室に居るのは俺とリーンフェリアとプレアの三人だが、二人とも元気よく部屋に入ってきたシャイナに対し驚いた様子はない。


 まぁ、勢いよく扉を開ける前にちゃんとノックして入室の許可を求めて来ていたからね。


「どうした?シャイナ」


「向こうの大陸のことで報告があります!」


「そうか、聞かせてくれ」


 シャイナは会議や外交の場ではキリっとした感じで対応するのに、俺と会う時はいつもこんな感じだ。


 まぁ、別に不満がある訳でもないし、本人のやりたいようにして貰うのが一番だ。


 ニコニコとしながら執務机の前に立つシャイナに俺は頷いて見せる。


「ランティクス帝国に魔王国から使者が来たよ!」


「ほう?」


 む……来年の雪解けの季節まで動きが無いと思ってたのに、このタイミングで?


 ノーフェイスたちの動きがバレた?


 使者が来るタイミングからして、例の予知夢でノーフェイスたちの潜入することを見抜かれた……とかかな?


 くそ、やっぱり予知夢とか反則だろ!


 うちの子たちがどれだけ優秀だろうと、訳のわからん夢であっさりとバレるのは納得いかん!


「使者の代表はコールリン伯爵……エルフだよ。後は補佐にベルルト子爵って人族が付いてる」


「ランティクス帝国にはエルフがいない。ランティクス帝は種族の違い程度気にしないだろうが……どうなるかな?」


「帝国側は相手の狙いを探ろうとしているみたいだけど、言葉が分からないからねー」


 そういって肩を竦めるシャイナだが……若干呆れの色が見える。


 まぁ、それも無理はない……外交官であるシャイナにとって帝国……というか向こうの大陸の在り方は唾棄すべきものだろうしね。


「おかしな話だな。帝国に限らず神聖国もヒエーレッソ王国も敵対している国の情報を殆ど集めていない。戦争ともなれば敵国の兵や将校を捕虜にすることもあっただろうに……」


 ランティクス帝はともかく、元教皇は個人的に密偵を雇ったりして情報を重視している様だったけど、不思議と魔王国に関してはまともに情報を仕入れていない。


 いや、相手のことを調べようともしていなかった。


 言語学習を最初から諦めていた……?


 って……そういえば、使節団の言葉は?


「その使節団の連中は、帝国の言葉が使えるのか?」


「うん!使えるみたいだよ!」


「そうか……」


 ってことは、魔王国側はしっかり言葉を解読して学習したってことだろう。


 それとも……レヴィアナの所にあった指輪みたいな反則アイテムがあるとか?


「伯爵も子爵も諜報関係の出みたい。伯爵の方は後方で取りまとめを、子爵の方は現場の諜報員だね。腕は悪くなさそうかなー」


「ほう?使者として密偵を送り込んで来たか。帝国は気付いているのか?」


「気付いてないねー。向こうの帝国はその辺かなり手ぬるいし……情報を軽視し過ぎだよ!」


 不満気にそういうシャイナだが……クーガーだったら喜びそうだよな。


 しかし、確かに向こうの大陸の連中は諜報関係を軽視しがちだ。


 オロ神聖国の連中は各地の教会を使って情報を集めたり、元教皇は密偵集団を個人的に雇ったりしていたから全く意識していないって訳じゃないと思う。


 しかし、中途半端なんだよね。


 折角各地に教会があるんだからもっと横のつながりを強くして、情報をどんどん動かすべきだと思うんだけど……各地の教会は独立採算というか、神教の上層部に命令されれば動くけど、横のつながりは希薄で、運営は各教会で一番上の地位の人物に一任されている感じだった。


 そして教皇も子飼いの密偵をもっていたけど、正直傭兵の密偵って信用できなくない?


 情報ってのは厄介なもので、手に入れるには手間がかかり、手に入れても活用できなければ意味が無く、探っている事自体がバレてもダメージがあるし、何を探っているかが漏れるだけでも致命傷になりかねない。


 逆に、敢えて探っていることを流して相手を操ったりも出来るけど……それ一つで全てをひっくり返しかねないのが情報という武器だ。


 それを外部委託する……俺には絶対無理だな。


 外交官見習いにしろ情報部にしろ、ウルルたち外交官やキリク、イルミットがしっかりと教育して手綱を握っているから安心して使えている。


 利害関係だけの間柄であれば、それが変わればあっさりと向きを変えるだろう。


 実際、長年教皇に雇われていた『スルラの影』はさくっと裏切ったしね。


 いや、さくっとではないのか?


 まぁ、こちらに付いたのは確かだ。

 

 一応元教皇も、大国にして最大宗教のトップという立場をフル活用した報酬を『スルラの影』には与えていたみたいだけど……うちが出せる見返りとは比べ物にならないだろう。


 俺が彼らに与えたのは、仮宿ではなく永住権。


 保障ではなく保護……エインヘリアの民となることだ。


 なんか年寄り連中とそうでない連中で考え方の違いってのがあったみたいだけど……結局エインヘリアの民となることで合意して、こっちの大陸に一族揃って移住してきた。


 まだ実戦配備はされていないけど、外交官見習いとして……いや、見習いの見習いとして頑張っているようだ。


 族長だかの英雄は、それはもう物凄い訓練を課せられているらしいけど……今後の活躍に期待したいね。


「その点、魔王国は情報をしっかりと集めようと、諜報員をどんどん山の向こうから送り込んでいたみたいだね!ヒエーレッソ王国の上層部とランティクス帝国の上層部。その周囲にはかなり人が潜り込んでいるよ!流石に貴族連中を取り込むところまではいってないみたいだけど……」


「ほう?」


「あ、ヒエーレッソ王国に潜り込んでいた方は全部排除しておいたよ!話を聞ける相手が増えて助かっちゃった!」


「そうか」


 情報を盗むはずの諜報員が情報を吸い上げられているわけだ……怖いなぁ。


「三日後にはノーフェイスが報告に戻ってくるし、これで魔王国の事は一通り把握出来そうだね!」


 シャイナがにこにこしながら言うけど……ノーフェイスが向こうに潜入して、まだ十日くらいじゃない?


 それでもう把握出来ちゃうの?


「ふむ」


「あ、そうそう。魔王国の使節団の目的だけど、オロ神聖国が潰れた件を調べるってのもあるみたい!」


「ほう?魔王国の密偵は悪くない働きぶりのようだな」


 この世界はまだ情報の伝達速度が遅い……いや、向こうの大陸は、か。


 俺が向こうの大陸で大きく動き出したのは魔王国軍がいつもの侵攻から引き揚げてからだ。


 ヒエーレッソ王国やオロ神聖国といった大陸南側はともかく、北側に位置するランティクス帝国まで情報が到達するにはそれなりに時間がかかる。


 南側は既に情報封鎖が始まっているから情報が漏れることはない……つまり北側から情報が伝わったと見るべき。


 情報が山を越えて魔王国へ。


 そしてそこから使節団を編成して派遣……それがランティクス帝国に到着している。


 移動距離を考えれば、かなり早い段階でオロ神聖国の件を本国に伝えた筈だ。


 ……いや、待てよ?


 もしかしてこれも予知夢パワー?


 くそ、やっぱ汚ねぇ……ズルだろ、マジで。



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