第177話 プレアの望み
プレアに向こうの大陸でこれ以上ないくらいに世話になったので、今日はその礼をすることにした。
本当はこっちに戻って来てからすぐにやるべきだったんだけど、俺以上にプレアが忙しそうで中々時間が合わなかったのだ。
なんとか時間を作ってもらい漸く今日、その話ができるようになったのである。
呼び出した場所は玉座の間。
プレアが何を望むか分からないけど、ここであれば能力的な要望であればすぐ応えられるし、他の要望での場合でもこの場所は褒章を渡すという意味では適切だろう。
本当は皆を集めて褒章授与的にやっても良かったのだけど、お礼……いや、褒美か。それを考えておいて欲しいと伝えた時に褒章式をやるか打診してみたが、プレアが辞退したのでこうして誰もいない玉座の間で個人的にお礼をする事になった。
まぁ、式だと俺も緊張するからある意味助かったけど……褒章とかを渡す時には皆の前でしっかりと褒めるというのも大事だからね。
今回は本人が辞退したけど、基本的には俺も頑張って式典とかをやるべきなのだ。
「こうしてプレアと二人になるのは随分と久しぶりな気がするな」
「恐縮です」
玉座から少し離れた位置にいるプレアに声をかけると、普段通りの生真面目な様子でプレアが頭を下げる。
そんな前の話ではないのに、妙に懐かしい感じがするプレアの生真面目な顔。
半年以上ずっと傍にいてくれたからな……っと、プレアも忙しいし、とっとと本題に入るとしよう。
「さて、プレア。お前には向こうの大陸で随分と世話になった。俺はその献身に報いたいと思っている。望みを言ってくれ……俺はそれに応えよう」
「はっ……叶いますれば、私は戦う為の力を欲します」
おや、プレアは武官志望だったのか。
「戦う為の?メイドをやめて戦闘要員になりたいということか?」
「いえ、私はメイドのまま戦力と数えられるだけの力を得たく存じます」
「ふむ」
メイドのまま戦力……戦うメイドさんか。
ナイフとかマシンガンとかミニガンとか使いそうだよね……いや、銃器はないけどね?
「私達メイドは訓練所を使い最低限体を鍛えておりますが、フェルズ様の剣や盾になれるほどの力はございません。此度のような事は二度とないと思いますが……万が一に備え、力を手にしておきたいのです」
「そうか……」
確かに、今回プレアが戦闘部隊の子達みたいに戦闘能力を持っていたら、ちょっと楽な場面もあっただろう。
主に手分けして事に当たりたいときとかにね。
まぁ、俺の心配性な所がダメなんだろうけど……フィリアのところの準英雄よりは、プレアの方が強いのは間違いない。
それでも俺かウルル、もしくはアシェラートと一緒じゃないと……単独で動いて貰うのは色々とためらいがあった。
人員が限られている状況ではあまり良い判断だったとは言い難いし、手札は多ければ多い方が良い。
まぁ勿論、プレア一人を強くしても手札が増えるってほどではない。
でも今大事なのはそんなことではなく、プレアの望みを叶えることだ。
「プレアが一番得意なのは弓だったな。それを伸ばす方向でよいのか?」
「……可能であれば、リーンフェリア様のような動きが出来るようになりたいのですが」
「リーンフェリアか……」
リーンフェリアは剣兵……なのに盾で戦う特殊な戦闘スタイル。
プレアが……盾で?
メイドさんが盾で……殴ったり斬ったり?
……シュールな絵だな。
いや、リーンフェリアみたいな美人さんが盾を鈍器として戦う姿も中々シュールなんだけどね?
「彼女の戦い方は少々特殊だが……」
「はい。難しいでしょうか?」
「リーンフェリアと同じアビリティを与えることは可能だ。能力値は……」
あ、プレア達は能力を数値で言ってもわからないんだったな。
「少し待て」
俺はプレアに一言告げてから強化画面を開く。
プレアの能力値は……思った以上に高い……っていうかたっか!?
知略と指揮が75だけど統率は84で武力は88もある。
メイドの子たちって元々全能力は初期値の50だったんだけど、訓練所でそんなに強くなったの?
ゲーム時代の訓練所はここまで能力値上がらなかったんだけどな……。
ってこのプレアの能力値、ちゃんとアビリティ覚えたら英雄にも勝てるんじゃないだろうか?
相当高いよな?
能力値50の時点で、準英雄と五分かちょい上くらいには戦えなかったっけ?
さすがにメイドの子たちが『至天』の連中と手合わせをしたことは無いからな……もしかしたらアビリティ無しでもいい勝負するかもしれん。
……一度、エリアス君あたりに手合わせしてもらおうかな?
リカルドはちょっと特殊な戦い方だからものさしとしては微妙だけど、特殊な能力ではなく高い身体能力と技術で戦うエリアス君はものさしとしてとても優秀だし、うちに来ることが非常に多いのでこういうことを頼みやすい。
それに……手合わせ大好きだしな、エリアス君。
とりあえず、能力値を上げるのは……エリアス君との手合わせを見てから判断した方がいいかな。
さすがにリーンフェリアたち並みの能力値にプレアを鍛えるのは……相当魔石が必要になる。
100までなら、現在の収入からすればなんとかなる。でもそこから先は……かなり修羅の道だ。
ゲーム時代ならともかく、今はコスト十倍だからな……武力、統率、指揮の三つに絞ったとしても、リーンフェリアと同じ数値まで上げるには何年かかかりそうだ。
流石にプレアにお願いされても厳しいものがある。
それと、可能であれば訓練所でどのくらいまで能力値を上げられるのか見てみたい気もする。
訓練は継続してもらおう。
能力値はさて置き、リーンフェリアの所持しているアビリティを覚えるだけなら何も問題ない。
しかし、武器適正は……剣を上げた方がいいのだろうか?
……リーンフェリアと相談した方がいい気がするな。
「すまん、待たせたな」
考えを纏めた俺は強化画面を閉じてプレアに声をかける。
「いえ、面倒なことを言って申し訳ありません」
プレアはいつも通り生真面目な表情に見えるけど……少し申し訳なさそうな雰囲気が滲み出ているな。
「いや、プレアが悪いわけではない。だが、リーンフェリアにいくつか相談する必要があるかもしれんな。それと、指導も必要だろう」
「……」
「くくっ……心配するな。望みを聞いてやると言ったのは俺だ。リーンフェリアには少し手間をかけさせてしまうが……プレアの為であればリーンフェリアも協力してくれるだろう」
リーンフェリアは、向こうの大陸に召喚された時に俺についていけなかったことを悔やみまくっていたんだけど、その分というか……召喚時について来たウルルとプレアに物凄い感謝している。
だから、そのプレアからの頼みであれば絶対に嫌な顔はしないだろう。
「ひとまずアビリティは付与しておこう。基本的に防御関係のものになるが……」
再び強化画面を開き、今度はアビリティの一覧を見る。
『盾防御』とか『受け流し』とか『防御戦術』……レギオンズでは防御系の能力は不遇だからか、習得に必要な魔石の数も少ないんだよね。
プレアに覚えさせるアビリティを全部足しても、魔石の消費は二億行くかどうかくらいだろう。
実験や強化分に確保してある魔石から少々使うだけで十分賄える。
ってか、俺が半年以上向こうの大陸にいたから確保分もかなり増えている……新規雇用契約書も使った方がいいかもな。
この前のフィオとの話じゃないけど……毎年二、三人くらいはある程度の能力を持った子を新規雇用しておいた方がいい気がする。
キリク達クラスの優秀な子は数年に一人……って今はプレアに集中しないと。
さすがに一気にアビリティを付けるのは本人も困るだろう……習熟期間は必要だと思う。
「まずは『盾防御』と『受け流し』のアビリティを付与した。いきなり全てのアビリティを与えても混乱するだろうし、まずはその二つを使いこなせるようになってくれ」
「ありがとうございます、フェルズ様。急ぎ、使いこなせるように精進いたします」
「あぁ。リーンフェリアには伝えておくから、指導してもらうと良い」
「はっ!」
プレアの気合いの入った返事を聞きながら強化画面を閉じる。
……そういえば、なんでも言う事聞くよってのを褒美にして、アビリティを求めたのはシュヴァルツとプレアだけだな。
シュヴァルツは魔眼に憧れただけだろうけど、プレアは純粋に力を求めて……うちで一番生真面目というか……遊びが少ない子かもしれない。
もう少し肩の力を抜いてくれてもいいんだけど……俺がそれを直接言ったらまたややこしい事になるだろうし、どうしたもんかねぇ。




