第171話 夢の精査
View of リキュ=エンネア 魔王国 夢見の識者 最弱の超越者
私は宰相と軍務大臣の二人と共に夢の内容を精査していきます。
陛下?
それは知りません。
しかし、今回の夢は非常に付随する情報が少ないです。
「銀月が消滅する前、彼方が青く光っていました」
「青となると……今までの傾向から海沿い、ですかね?」
「光っているというのは太陽……でしょうか?」
宰相と軍務大臣が私の言葉から過去の夢を思い出しながらいう。
「海の近くだと私も思います。それと青く光っていたのは……恐らく朝日じゃないかと」
「あぁ、なるほど。ということは海を東側に望む場所。少しは絞れますが……世界の壁は見えていましたか?」
世界の壁……絶壁ともよばれる天を貫く峻険な山脈のことだ。
「視界内には有りませんでした」
「となると大陸東側と北の半島……細かい海岸もと考えるとまだまだ絞り切れませんね」
「リキュ様、他にはなにかありましたか?」
「……場所に関することではないですが、青い光が朝日だとすれば私は東側を向いていた筈です。そして最初に広がった闇は銀月の向こう側……つまり東側から広がってきました」
場所の特定には役に立たない情報だけど、夢でみたことは可能な限り共有しておかないと誰かが突如ひらめく可能性があるし、その気付きが今は何よりも欲しい。
「街並み等はどうでしたか?」
宰相の言葉に私は夢でみた光景をゆっくりと思い出す……。
「……いえ、近くに街や村……人工物は見当たりませんでした。木々もなく……岩場といった感じでした」
「岩場……木々がないというのは重要な情報ですね。海のすぐ傍では無く海の見える岩場……鉱山のような感じですか?」
「岩場ではありましたが、山といった感じではありませんでした」
私の言葉に、宰相と軍務大臣は持って来ていた地図を広げ相談を続ける。
地理については全く自信のない私は一息つこうとお茶に手を伸ばし……面白くなさそうに自分の膝に肘を置いて頬杖をついている陛下に気付く。
「暇なんですか?」
「暇じゃないが?」
「何してるんですか?」
「……場所の特定は二人に任せておけばよい。それより俺は闇が気になる」
「……なるほど」
思っていたよりも真面目なことを考えていたようなので、私は居住まいを正す。
中身はどうしようもないクズよりのゴミですが一応この国のトップ。
しっかりと頭を回す時は回せるようですね。
「物凄い無礼なこと考えてないか?」
「気のせいです。ですが……少々お待ちを。思い出します……広がった闇によって消失した銀月は、私の左手側……東を向いていたとして北側で消失しました。もう一体の切り裂かれた方は南側」
「なるほど。夢では同じ場面だったかもしれないが、離れた二カ所という可能性も高いか。災厄の魔物が二匹纏めて同じ場所にいるのは珍しいしな」
「む……確かにそうですね。軍務大臣どうですか……?」
「となると……ここはどうでしょうか?」
私達の話を聞いていた宰相たちが地図に何やら書き込んでいく。
「闇に関する情報は何か拾えないのか?」
「そう、ですね……これは夢ではっきりと見たという訳ではないのですが……あの闇は、山の向こうから訪れる気がします」
「夢は関係ないのか?」
「……いえ、全く関係ないとは言い難いのですが……」
予知夢は非常に理不尽で、音も色もない時もあれば、音どころか匂いまで感じられる時もある。
今回の夢では音も匂いも感じられなかったけど、色は分かった。
それらの五感……と言ってよいのか分からないけど、これらの感覚も非常に大事な要素となる。
その中でも最も理不尽な感覚が……視界の外が見える時だ。
あの時、闇が広がった一瞬、それまで見えていなかった影が……遥か彼方が一瞬見えた気がするのだ。
「感覚的なことなので表現しづらいのですが……闇が広がる一瞬見えた気がするんです。それまで視界内にはなかった絶壁の影が」
「絶壁か……」
「どこ見てやがります?」
「それは被害妄想だ!顎に手を当てて考え込んだだけだろう!?」
いえ、間違いなくこのゴミカスは私の胸を見ながら絶壁と呟きました。
万死!
「待て!俺が悪かったことにしてやるから話しを進めてくれ、かなり大事な所だ」
「……まぁ、仕方ありませんね。絶壁といえば……間違いなくあの山でしょう」
「世界の壁か。向こうから闇がやってくると?」
「ディーロは……まぁ、超越者としては対人戦は得意なほうでしょうが、魔物相手だとそこまで力を発揮できるタイプではありませんし、ましてや災厄の魔物と戦えなんて言われたら絶対に逃げるタイプですよね?」
「まぁ、そうだな……」
最初に三人がディーロの名前が出た時に苦々しい顔をしたのは、超越者云々よりもディーロの性格を考えてのことだろう。
あれは女好きの軽薄なタイプで、状況が悪くなると逃げることを優先する。
「……山の向こうの連中が攻勢を仕掛けてくるって可能性もあるか?」
「ゼロではないでしょうが……その辺は陛下の方がお詳しいのでは?」
夢でそれを見たのであればともかく、軍事や政治に関して私はそこまで詳しくはない。
陛下は私の言葉に少し考える素振りを見せながら答える。
「……十年以上かけて向こうの情報は探ってきた。向こうはまだあの山にさえ軍を送り込めていない様子だった。俺達だって山越えが出来るようになるまで十数年要したんだ。俺達の通ったルートを調べたとしても、いきなり軍を送り込むようなことは出来ない筈」
「では、超越者単体で山を越えてくるとか?」
「超越者がいるのは間違いないが……まだ戦場では見ていない。だが、こちらの超越者と似た様な奴だとしたら……単騎で山越えをしてくるやつがいてもおかしくは無いだろう」
超越者は頭おかしかったり自己顕示欲が強かったりと変な奴ばかりですからね。
私は至ってまともですが……暴力馬鹿共の話です。
「どうしますか?」
「……東の監視を強める。マスカレロを呼びたいが……」
「彼は向こうを離れないでしょうな。山越えに全てを捧げていますから」
陛下の言葉に、軍務大臣が地図から顔を上げて言う。
マスカレロ……山の向こうに毎年遠征している東征軍の総大将……東征将軍だ。
災厄の現れない新天地を目指すという名目で結成された魔王国東征軍は、十数年をかけて山の向こうを攻める計画を立てた。
いや、山越えを始めた当初はすぐに入植地を作る予定だったが、こちらの想定よりも山の向こうの国家の抵抗が大きかった為計画を修正することになったらしい。
「災厄が消滅するというのは最高の話だが、山の向こうか……頭の痛い問題だ。俺達は侵略者だからな。必要がなくなったから侵略を止める……そんな都合の良いこと向こうの連中が許すはずがないしなぁ」
「今はまだ向こうから攻め込まれていませんが……こちらが攻撃を止めたとしても、いずれ向こうから攻めてくるでしょう。どちらに非があるかは言うまでもないですが……」
「身勝手な理由かもしれんが、俺は魔王としてこの地に住む者達を守らねばならん。山の向こうの連中にどれだけ非難されようと、俺は間違ったことはしていないと胸を張るぞ?」
「……申し訳ありません。愚かなことを口にしました」
私は頭を下げる。
陛下の立場からすれば当然の……すべきことをしただけ。
少なくとも山の向こうの者達以外に非難されるいわれはないだろう。
「ふっ……お前がしおらしいと調子が狂うな。控えめなのはそのむ……まぁ、それはさておき、お前が見たという闇だな……他に見たものが無いのか精査していくぞ」
「畏まりました死ね」
「……そんな語尾ある?」
View of フェルズ 剣も鎧も髪も今日の服も真っ黒な覇王
「やっべ、醤油が跳ねた」
シャツが黒で良かったわ……覇王的に醬油の跳ねたシャツとかヤバいが過ぎる。
「……跳ねたことには変わりないからの?」




