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第150話 グッドモーニングエインヘリア



 朝風呂でさっぱりした俺が部屋に戻ってくると、フィオは起きていたがルミナはまだ夢の中だった。


 興奮しまくって中々寝付けなかったし、多分暫くはぐっすり寝ている事だろう。


 ルミナの世話はメイドの子に任せて、俺とフィオは食堂に向かう。


「……風呂に行っておったのかの?」


「あぁ。体中べとべとになったからな」


「ほほほ、愛されておるのう」


 穏やかにフィオは笑うが……夜の間ひたすらぺろぺろされ続けるのは、中々斬新な苦行だったと思う。


 とはいえ……。


「まぁ、忘れられているよりは遥かにマシだな」


 俺が肩を竦めると、フィオはにやにやとした笑みを見せる。


「半年以上も放っておいたんじゃ、拗ねられていなくて良かったのう」


「……フィオは拗ねてないよな」


「ほほほ、私は事情を知っておるからの。拗ねたりはせんが……まぁ、寂しくなかったとはいえんのう」


 明後日の方向を見ながらいうフィオは、耳まで真っ赤になっている。


 寂しかったというフィオに申し訳なさも覚えるが、それ以上に嬉しさが胸に広がり……同時に照れるフィオの姿に色々なものがこみ上げて来た。


 しかし同時に……気の利いた事もいえず、俺は言葉に詰まってしまう。


「……すまなかったな」


「ほほほ、お主のせいでは無かろう。まぁ、昨日の夜はルミナに取られてしまったが……今夜は……の?」


 頬を赤らめながら上目遣い、更に俺の二の腕当たりの服を摘まみながら……そんなことを言うフィオ。


 うちの奥さんあざとすぎるんじゃが……?


 んでも可愛すぎるんじゃが!?


「お、おう」


 さ、流石にルミナも二日目ともなれば落ち着くよね?


 いや、落ち着いて下さい!


 そんな風に、色々と悶々としつつ俺は食堂に辿り着いた。


 まだ少し早い時間なので食堂もまだ人が少ない。


 朝食は……朝からかつ丼でもいいけど、今日は魚にするか……。

 

 メニューを見ながらそんなことを考えていると、見慣れた……そして懐かしい巨漢が食堂を覗き込んでいた。


「バンガゴンガ」


「っ!フェルズ……久しぶりだな」


 俺が声をかけると、一瞬顔をこわばらせたバンガゴンガが安堵するような様子を見せながら……凶悪な表情を見せる。


 ……本当に懐かしいな。


「あぁ。皆のお陰で何とか帰還することが出来た。お前にも苦労掛けたな」


「……ふっ、苦労という程のことはなかったさ。俺にはいつも通りの仕事以上のことはできないからな」


「馬鹿を言うな。普段通りの仕事を当たり前にこなしてくれることが、どれほど素晴らしい事か。バンガゴンガが妖精族周りを取り仕切ってくれているからこそ、俺も安心してふらふらできたというものだ」


「……」


 バンガゴンガの謙遜に俺がそう返すと、普段から凶悪な顔をより一層凶悪な感じに歪ませる。


 これはアレだ……照れている……はず。


 うちの奥さんと違い、照れ隠しが凶悪過ぎるぜ……。


「……そういう言葉を聞くと、本当にお前が帰ってきたんだと実感出来るな」


 それは俺の言葉がワンパターンって意味ですかね?


「くくっ……ところで、バンガゴンガもこれから朝食か?良ければ一緒にどうだ?」


 こういう時は話題を変えるのが一番だ……そう考えた俺はバンガゴンガをご飯に誘う。


 しかしバンガゴンガは一瞬フィオの方にちらりと視線を向けた後、首を横に振った。


「いや、今朝の分の報告書を出さないといけないからな。食堂を覗いたのは、もしかしたフェルズがいるかもしれないと思って見てみただけだ。昨日帰ってくると聞いていたからな」


「そうだったのか」


 朝一で報告書って……バンガゴンガ何時から働いてんの?


 ……あぁ、漁業村とか任せてるから、その辺りが原因か。


「……バンガゴンガ、ちゃんと寝ているか?」


「……?あぁ」


 俺の質問に首を傾げるバンガゴンガ。


 この様子を見るに睡眠は十分取れているのだろう……となると、夜がめっちゃ早い?


 夫婦の時間とかちゃんと取れているのだろうかと不安になった俺は、続けざまにバンガゴンガに尋ねる。


「リュカーラサは元気にしているか?」


「あぁ。おかげさまでな」


「偶には二人でゆっくりと過ごせよ?」


「あ、あぁ……そうだな」


 若干気まずげな表情を見せるバンガゴンガ……忙し過ぎてほったらかして、それが元で喧嘩……とかしてないよね?


 もし喧嘩してたとして……それは俺が仕事を振りまくったから……え?やばない?


 ちょっと早急にリュカーラサに聞き取りをした方が良さそうだが……流石に俺が聞くのもな……リュカーラサと仲の良い奴は……うん、フィオに確認しておこう。


「そうそう、フェルズ。オスカーもお前に会いたがっていたぞ?」


「面倒事か?」


 出てきたオスカーの名前に思わず顔を顰めながら問い返すと、苦笑するように顔を歪めたバンガゴンガが首を振る。


「いや。お前が帰ってきたら三人で呑みに行きたいそうだ」


「……あいつと出かけると十中八九厄介事に巻き込まれるだろ」


 あいつは間違いなくギャルゲの主人公だからな。


 出かけるたびに死体の山を築く頭脳は大人な小学生とか、有名探偵の孫的な高校生探偵並みに事件と遭遇する。


 基本的に人死には出ないけど……小さいものから大きいものまで、事件と女性がセットで押し寄せてくるのだ。


 当然一緒に出掛ける俺達も巻き込まれる……面倒なことこの上なし。


 それで何かいいことがあるわけでもなく……基本的に女絡みだし、オスカーにしか懐かないし、そもそも面倒な事情抱えてる奴ばっかりだし……。


 後で話を聞く分には面白いけど、リアルタイムで巻き込まれるのは面倒以外の何物でもない。


「ははっ……まぁ、否定はできねぇが、お前を慕っているのも事実だろう?」


 そういわれると……無下にもしにくいよなぁ。


「……分かった。今度三人で呑むか」


「よし、オスカーに伝えておく。日程はお前のいいタイミングで頼む」


「あぁ、暫くは手が空かないと思うが、なるべく近い内に時間を作ろう」


「楽しみにしておくぜ」


 片手を上げてそういったバンガゴンガが食堂から出ていくのを見送ってから、俺は適当に朝食を頼み、フィオとテーブルに着く。


「……気を使わせてしまったのう」


「ん?」


「いや、バンガゴンガは私に気を使ってくれたんじゃよ」


「……どういうことだ?」


「お主は帰ってきたばかりじゃからな……もう少し夫婦水入らずで過ごせということじゃろう」


「……あぁ」


 それでさっき一瞬フィオに視線を……。


「……バンガゴンガに仕事を振り過ぎて、私生活を蔑ろにしてないか心配なんだが……」


「リュカーラサとの仲を心配しているのであれば、問題ないと思うのじゃ。先日もリュカーラサが随分惚気ておったからのう」


「そうか……」


「バンガゴンガはマメな男の様じゃな。アレだけ忙しい中、ちゃんとリュカーラサの事も大事にしておる様じゃ」


「……流石バンガゴンガだな」


 体と同様に心も広く器もデカいが気配りは細かい。


「うむ。アレはモテるじゃろうな」


「……へぇ」


 流石バンガゴンガ……仕事も私事も完璧だな。


 エインヘリア一如才ないゴブリンだ。


「ところでフィオ、今日の予定はどうなってる?」


「私はいつも通り開発部に行って魔法関係の研究じゃな」


「俺は……暫く会議だが……書類も溜まってそうだな」


 執務机の上に山積みにされた書類を想像してげんなりしたが、フィオが首を横に振る。


「フェルズの代わりに私が決裁しておったからの、そんなには溜まっていない筈じゃ」


「あぁ、そういえばやってくれているって聞いていたな」


「お主から全権委任されておったし、エインヘリアの政治を止める訳にはいかんからの。まぁ、キリクやイルミットが出して来るものじゃからな。基本的に内容をチェックして裁可を下す……お主が普段やっていることとほぼ同じことしかしておらんよ」


「なるほど……なら殆ど書類は残ってないって感じか」


 あの二人が決裁を求めてくる提案なら、内容を確認せずにハンコを押しても問題はない……いや、勿論ちゃんと内容は確認するけどね?


「そうじゃな。じゃが、お主が居らん間に処理した書類の一覧と内容を軽くまとめたものがあるからの、それは確認しておいた方が良いじゃろうな」


「……助かる」


 そうか……確かにそれはチェックしておいた方が良さそうだ。


 会議とかでその辺の話が出た時にポカンとする訳にはいかないしね……。


「半年以上の決裁ともなるとそれなりの量があるだろうし、午前中でチェックは終わらんよなぁ」


 午後からは会議ラッシュになりそうだし、可能な限りチェックしとかないと……やっぱ忙しいな。


「ほほほ、それなりの量じゃからのう。お主も速読を覚えるかの?」


「……フィオの言うそれは、アビリティじゃなくって普通に速読出来るようにってことだよな?」


「アビリティにもあるのかの?」


「あぁ、一応あるぞ。覚えようかな?」


「試してみるのも良いじゃろうな」


 ……魔石はいっぱいあるし、書類処理系のアビリティ覚えようかな?


 まぁ覚えたからといって、そういう技術が身に付くかどうか分かんないけど……。


 そんな風にフィオと雑談しながら朝食を終えた俺は、執務室へと向かった。



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― 新着の感想 ―
そういえば魔石が潤沢な今なら能力値上げ放題ですね。
どうあっても夫婦水入らずにならないのは覇王ゆえですね。
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